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47 今の間は何だ?

──街道の北側

 俺たちは、街を迂回しつつ河岸を目指す。

 と、街から続く、獣道のような細い道が現れた。これはどうやらかつての街道跡であるらしい。アルタワール方面への道が整備された結果、遠回りなこちらは廃れたとか。

 そして気がつけば、周囲に草地や藪が増えつつある。もしかして、乾燥地帯を抜けつつあるのか?


『ええ、おそらくは。アルタワールから少し北は森などが多くなりますし』


 と、リゼットの言。

 なるほど。と、なると寝床となる樹を探すのは楽になるだろうけど……問題は雨、だよな。

 蜘蛛の巣で雨を凌ぐのは難しいだろう。昨日みたいに丁度いい地下道なんてその辺に転がっている訳もないしな。

 いや──その時は、その時か。


『しろー。クモの糸は──雨に強いぞ』

「おう──そうだね。でもさ、それだけじゃ雨滴は防げないだろう?」

『ぐぬぬ──ッ!』


 まぁ、それはさておき──

 まだこの辺りはギリギリ乾燥地帯だ。なので上空を見る限り、現時点では雨の心配はしなくても良さそうなのは救いだな。とりあえず、それなりの高さの樹がある程度まとまって生えていれば良いんだが──生憎周囲に生えているのは腰から胸ほどの高さの灌木だけの様だ。

 ……おっ、あれは?

 廃道の先。そこにある丘のふもとにちょっとした藪が見えた。まぁ良さげだが……ン?

 目を凝らすと、その中にポツンと立つ一軒家が見えた。

 う〜む、もし人が住んでいるのならば回避したいところだが……

 飛んで超えるにしても、もうすぐ夜だ。丘を迂回するのも少々面倒くさい。

 他に道は……なさそうだな。ふむ。


「どうする?」


 そう彼女らに問う。


『う……ん? 誰か住んでいるんですかねぇ?』

『もし 誰も住んでいなければ 少し借りるのも よさそうだな』


 ──そうだな。


「とりあえず、近づいてみよう。どうするかはそれから決めればいい」


 とりあえず、複腕を服の下に隠し、頭にターバンっぽく布を巻く。ついでに足先にも。

 万一人が住んでいそうであった場合、俺が行って交渉するつもりだ。

 巻き終え、立ち上がろうとしたその時、


『あの……お困りでしょうか?』


 突然そう──声をかけられた。


「えっと……」


 どこから? そう思い、視線を巡らす。

 と、すぐそばの藪の傍に、一人の少女が佇んでいた。

 えっ──いつの間に⁉︎ さっきまではそんな気配はなかったはず。

 そう思い、アンダーソン君やリゼットの顔を伺う。

 ……が、彼女らにとっても意外な出来事だった様である。


「困っているのは確かだけれど……。それよりも、俺たちの姿を見て驚かないのですか?」


 ザファル少年の反応を見るに、な。


『いえ? あっ……そういえば、少し変わったお姿ですね』

「お──おう」


 む、う? そう──なるのか? 案外こういう姿の人も多いのか? この辺では……。

 いや、そもそもザファル少年が住むリシュートとはそれほど離れていない場所だ。この子が奇特なだけだろう。

 とはいえどう返答すべきか……。


『ところで、お連れさまがお疲れの様ですが……』

「えっ……」


 背後を振り返り……


『あ……あはは……膝が笑ってますね』


 リゼットがへたり込んでいた。

 そういえば、彼女はこんな長距離を歩いたことなんてなかっただろうな。しかも、二日連続で。


「とりあえず、私の家に一晩お泊まりになってはいかがでしょうか? 何もないところですが……」

「えっと……」


 良いのか? こんな怪しげな面子を泊めて。

 ……そうだ、


「ありがたい話ですが、一度おうちの方に許可をもらった方が良いのでは?」


 流石にこんな場所で若い娘の一人暮らしはなさそうだ。とはいえここは異世界。もしかして少女はとてつもない魔女だったりするのかもしれないが……。


「え? ……あっ、そうですね。では、こちらへ……」

「う……ん?」


 今の間は何だ? というか、彼女は気にした風もなく俺たちに背を向け、ズンズンと歩いていく。


「行く、か?」

『そうするしか ないな……』

『疲れました〜。一休みしたい……』


 うん。やはりそうするしかないか。



 そうして歩くこと暫し。

 俺たちは一軒家の前にたどり着いていた。

 家は、腰ほどまではレンガの壁で造られていた。その上は淡いベージュの漆喰壁。そこからは木造なのだろう。平屋造りだが、一部に屋根裏部屋でもあるかもしれない。

 家の周囲には、ちょっとした畑──というかほぼ家庭菜園だな、これ──と、鶏小屋がある。そして、裏には納屋らしき建物。

 と、家の前に薪割りをしている老人──いやもしかして、俺と近い年代の可能性もあるか。昭和の俳優とか貫禄すごいもんな──が、顔を上げた。


「あ、父さん」

「おお、トゥレか。おお、旅の方ですな? どうされた……?」


 人懐っこい笑みを浮かべる老j──男。歳を聞くのはやめておこう。


「一晩の宿を求めています。お宅の近くにある藪で一晩を過ごさせていただきたいのですが──」


 とりあえず、そう頼んでみる。

 ……正直、この風体だ。「ダメだ」と言われるだろうと思っていたが……


「おお……それは、それは。大変だったでしょう。藪などではなく家の中で休んでいきなされ」

「えっ、良いんですか?」


 そもそもこんな怪しげな連中を家の中で泊めるとかマズくないか? 年頃の娘もいるんだしさ。

 ……もしかしてそういう文化があるのか? いや分からないが。


「では……お世話になります」


 あと、そうだな。


「一応、手持ちに幾らか食糧がありますので、宿泊の対価としてそれを提供させていただきます」


 まぁ、これはしておくべきだろう。リゼットによれば、それなりの高級食材らしいしね。それに、早いうちに消費してしまわないとダメになってしまう。


「アンダーソン君、スノリゴスターの肉を」

『おう』

「……これを」

『おおっ……これは! こんな肉を提供していただけるとは……本当にありがたい』


 喜んでくれるのは何よりだな。

 少々──引っかかるところはあるけれども。

 ところで、家族はこの二人なのだろうか?


『母様も喜ぶでしょう』


 ふむ。三人家族か。最後の最後で拒絶されても困るが……


『では、こちらに』


 少女(トゥレ)が誘う。

 うむ。なるようになるか。そして俺たちは父親と共に、家へと向かった。



『母様、帰りました』


 トゥレが玄関らしき扉を開けると、その向こうは厨房らしき場所であった。

 石組みのかまどらしきもの。そして調理台とおぼしきもの。その上に載せられた、丸太を輪切りにしたと思しきまな板(?)──。


 そしてそこに、一人の女がいた。

 何やら野菜を刻むなど、食事の仕込みをしているようだ。


 年は……一見、三十代半ばほどか? いや、何ともいえないな。

 一見、十代半ばのような若さ。しかし一方、こんな山の中には似つかわしくない妖艶さ……。それどころか、何やら囲炉裏を囲む老婆のような雰囲気すら醸し出してもいる。

 と、トゥレが彼女に声をかける。


『母様、この方々が泊めて欲しいと』

『ああ、そうかい……』


 母親はそれを聞いてニヤリと笑う。そうして俺たちを見──


『……ッ⁉︎』


 いきなりフリーズしよった。

 ……いや、この反応が普通だよな。


「申し訳ありません、旅のものです。一晩の宿をお貸しいただけたら、と……」

『え? あ、ああ……大丈夫です。た、旅のお方、色々大変だったでしょう?』


 やはりかなり当惑している。あの二人が異常なだけなのだろうか?

 と、ともかく、だ。


「私は、シロウ。こちらはアンダーソン。そして彼女はリゼット。よろしくお願いします』

『え……ええ。よろしく、ね』


 当惑しつつ、答える母親。


『私はトゥレ。父様はイツァク。母様は……』


 そこでなぜか一瞬言葉が詰まるトゥレ。


『わ、私はヴェーラ。よろしく』


 と、慌ててフォローする母親(ヴェーラ)

 う──む? 何やら違和感が……

 どうしたものか。

 とはいえここまできたんだ。お世話になろう。

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