46 ──雑すぎない?
──昼食後
あのワニ肉は、シンプルに塩焼きにして食べた。
淡白で、鶏肉に近い食感と味だ。
悪くはない。が、そうなると唐揚げとかにしてみたくもなる。いつぞやの万博で食べたワニロールなどもいけるか?
いやその前に、パンや野菜がいるか……。
そういえば、ここしばらく肉や魚ばっかりで炭水化物と野菜が足りてないんだよな。その辺、どうにかしたいところだ。
まぁ──どのみち、それは後だ。
暫しの食休みののち、俺たちは再び歩き始める。
残ったワニ肉は、アンダーソン君に背負ってもらった。
正直言って、アンダーソン君に色々持たすのは心が引けるが……何かいい方法はないものか?
とはいえ馬とか牛とか、そう簡単に手に入る訳でもないしな。ムスタングみないな野生馬でもいればいいが。
いや──そもそも馬ってこの世界にいるのか?
「そういえばこの世界って、荷役とか乗用に使う動物っているのかい?」
『あー、馬とかですね。牛もいます。この辺りだとラクダも使いますね』
「なるほど……」
ふ〜む。もしかして生態系はあんまり地球と変わらないのかな? もしかして、あのスノリゴスターみたいに多少姿は違うかもしれないけれど……
ともあれ、そうして歩くこと暫し。
アサーヴの城壁が近づいてくる。
──そうだな。
「街を迂回しよう」
『そうだな』
『ええ』
特に異論はないようだ。
そして俺たちは河岸の段丘を登り、平原を歩く。
──ん?
その先に──街道らしきものが見える。
『あれはおそらくルニウス街道ですね。ここを西に向かうと南北に分岐しています。北側に行けばアルタワール、南側に行くとリシュートにたどり着きます』
「──なるほど」
アルタワール。レジューナの拠点の一つ、旧ベルガント邸のある街、か。
まぁ……予想していたことだが、あまり離れられなかったか。この先、どうすべきかは……後で考えよう。
──そうして歩くこと暫し
『何か、近づいてくる気配があります』
リゼットの言。
「えっ、どこだ?」
彼女の視線を追い──
「ン? あれか?」
『ええ。おそらくは』
アルタワール、あるいはリシュート側から何やら鎧をまとった馬らしき生物に乗る兵士……騎士か? ……が街道をアサーヴに向かい駆けていく姿が見えた。
俺たちは慌てて灌木の茂みの影に身を隠す。
そして……俺たちの目の前を彼らは通り過ぎていった。
幸運にして、俺たちに気づくことはなかったようだ。
──なるほど。馬はそれほど地球と変わらないか。細身の軽種ではあるが、サラブレッドよりも少々骨太な感じだ。地球の種であれば、アラブあるいはアングロアラブに近い感じか。
いや、それよりも、だ。
「騎士ってヤツかな? この世界でもそう言う階級はあるのかな?」
『ええ。王国や太守、領主たちに使える兵士たちの中でも指折りの実力者で、叙勲を受けて騎乗を許された者たちです』
「なるほど……」
その辺は、地球と同じか。
いや、それよりも……
「あれが君たちが言うところの“馬”かい?」
『ええ。えっと……“馬”は“チキュウ”にはいないんですか?』
「いや……いるんだ。けれど……あまりに似た姿だからね。少し驚いたんだ。スノリゴスターは地球にいる“ワニ”とは少し違った姿だったからね」
『へぇ……そうなんですね』
「ああ」
まぁ──ヒトがほぼ同じ姿の時点でありうる話ではあったんだけどさ。
……それはともかく。
馬とは色々関わったことがある。
大学時代、親戚のつてで兄貴と一緒に“相馬野馬追”とかに参加したことがあるんだよな。
とはいえ子供の頃に親父が飼っていた年寄りの農耕馬を乗ったりした程度なんで、“お行列”に参加しただけだがな。
正直、今乗ったとしても乗りこなせる自信はない。二十年近く経ってるしな……
おっと──それよりも、だ。
「あの人はどこの騎士団に所属しているのかな?」
少し派手な甲冑と、胸甲や馬鎧に刻まれた紋章。どこぞの有名な騎士団なのだろうか? それなりに実力者っぽい?
『う〜ん……なんでしたっけ? 確か、私が死んでから少し……いや、もっと後に見たことがあります。たしか、300年くらい前?』
なるほど。それなりに歴史ある騎士団なのか。
『あ〜、思い出しました! あれはアルセス聖堂騎士団。確か、異界人狩りをやってる人たちです。特にシロウさんたちは注意してください』
「なるほど、ね……」
身を隠しておいて正解だった……。あんな連中がいるとはね。
いや──待て。
「どうやって異界人を判別しているんだろう? 何か特別な“印”とかあるのかな?」
あの強盗連中やトゥラミシュ、ザファル少年あたりも、俺が見る分には地球にいても不思議じゃない風貌だしな。何か決定的な違いでもあるのだろうか?
『いえ? 聞いたことないですねぇ。それっぽい人を捕らえて尋問、とか』
「──雑すぎない?」
まるで魔女裁判だ。最低限、踏み絵レベルのことくらいはしてるのかと思ったよ。
『ええ、雑ですよ。怪しい人間を捕まえてきて、尋問……というより拷問にかけたとか』
「ヲイ……」
『彼らが言うには、「運命の女神の御加護があれば死ぬはずがない」とか何とか……。気に入らない人を異世界人だと訴えて、死に追いやったこともあったとか。まぁ、その件は無実だと後に証明されて、色々大問題になったそうです』
「──ふむ」
それこそ──魔女裁判だな。確かセイラム魔女裁判だっけ? 気に入らない人物を告発し、無実の罪で死に追いやった事件。
『しろーには 女神の加護があるから──問題ないな』
「お──おう」
アンダーソン君、そうだけど──そうじゃない。多分連中は、そんなの考慮しない。
おそらくは、世間に疎い人物──ちょうど、今の俺のように──が捕らえられたらマズいことにはなるだろうな。
「とりあえず、人がいない今のうちに街道を渡ろう。誰かに見つかってあの騎士に話が行ったらマズい」
『そうだな』
『ええ。急ぎましょう』
そして俺たちは、急いで街道を横断した。
……と、
「ン? これは……」
街道の先。ちょとした茂みに何やら糸が引っかかっていた。しかも、何か妙な気配を感じる。
「これは、俺たちのじゃないよな?」
確かに流した糸は風下へと飛んでいったけれど……
『ああ……違うな。魔力は感じるが、女神の“力”は感じない』
アンダーソン君の言。
なるほど──
「もしかして、他にも巨大な蜘蛛とかいるのかな?」
『ええ。地底に巣を作って住む大型の蜘蛛がいますね。あとは蜘蛛の魔物とかも』
なるほど──巨大なジグモの類か?
いや──分からん。とりあえずはこのまま北上するしかないか。




