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45/51

45 違う。そうじゃない

──しばし、のち

 太陽は次第に高く上り、日本ではおそらく真夏の正午に近い高さまで登ろうとしていた。

 ふむ……そろそろ限界、だな。しかし十分に距離は稼げただろう。

 それに、だ。少し向こうに街が見えるな。見た感じ、リシュートよりも二回りほど小さいか。


「リゼット、あの街は知ってる?」

『え〜っと……確か、あれはアサーヴだったと思います。行ったことはないですけれど』

「なるほど……」


 ザファル少年から聞いていた、リシュート周囲の街の一つ。

 中規模の街ではあるというが……正直言って、今の俺の持つ情報ではどれほどの街かは想像できん。日本ならば十万人規模以上ではあるだろうが……なにせ、異世界だ。地球……いや、日本の常識はあてになるまい。そもそもロクに街中を歩いたことないしな。

 まぁ……それに関しては今はいい。それよりも、目立つような真似は避けたいところだ。


「降りよう、アンダーソン君」

『おう』


 着地を前に、周囲を観察する。

 河岸に、ちょっとした茂みがあるな。とりあえず、あそこで一旦休憩だ。



 俺たちはゆっくり降下し、降り立った。

 河岸は……あっちか。

 リゼットの風魔法などで軌道修正など行なったため、ルートのブレは思ったより少ない。五分ほど歩くと河岸にたどりついた。

 と、例の茂みが見える。

 よしよし。

 俺たちは慎重に茂みへと近づいていく。

 先客がいないことを祈る。

 そして、茂みの目前までたどり着いた。俺たちは感覚を研ぎ澄まして中を伺い……


『しろー』

「ン? ああ」


 アンダーソン君の声。

 ふむ。灌木の中に──妙な気配がある。


「──いるな」


 足音を立てない様に慎重に茂みに分け入り……数歩進んだところで目を凝らす。

 と……茂みの向こうに、かなり危険な怪物が居た。

 牙が覗く巨大な口。鱗に覆われた身体。そして長く強靭な尾。ワニである。

 ……にしては、脚が長いな。鼻面も短いし、何かちょっとイヌっぽい?

 そうか。ヤツがスノリゴスター。

 大きさは4mを超えるぐらいか? ワニとしても、それなりの大きさだな。

 ──地球上なら、だがな。

 2m長のオオサソリもいる世界だし、それくらいいても不思議じゃない?

 そういえば古代には10m級のデカブツもいたって話だしな……

 とはいえ俺たちにとってみれば、かなりデカいバケモノである。

 それが、行手を阻む様に待ち構えている。

 寝ているのであろうか? ほとんど動きはない。


「どうする?」


 背後のアンダーソン君に問うてみる。


『流石に──あのタイプは──狩るのも 一苦労だな』

「──」


 違う──そうじゃない。


「多分、かなり強いヤツだと思うんだ。何とかアレを回避できないかな、と」

『あぁ、そうだな。とりあえず 網で 動けなくして その間に……』


 Oh──そうじゃなくてだな……


「襲われたらマズくない? って話なんだが……」

『ああ──そうか』


 そこでアンダーソン君は俺の背後を見る。


「?」

『もう 遅いぞ』

「……へ?


 いや、まさか。

 恐る恐る後ろを振り返ると、こちらを見つめる二つの瞳があった。さっきまでは寝ていたはずなのに。完全に覚醒している目つきだ。

 う……む。マズい、か?


『おい! 逃げるぞ!』

「え!? ……ちょっ!」

『待ってください〜』


 いきなりアンダーソン君が走り出した。俺たちも慌てて後を追う。

 当然、あのイヌワニ(バケモノ)も追ってくる。

 しかし、当然リゼットは遅れるわけで……


『助けて〜〜!』

「マズい!」


 とって返すと、彼女を抱えて大木に向けてジャンプ。

 ヤツもそれに反応し、上方へと顎を向ける。

 ガチン、という音が足元でした。

 ……危ない。

 すぐさま彼女を枝上に座らせると、糸を繰り出し網を作る。そしてそれを枝に結んで足場とした。


「とりあえず、ここにいて。できれば魔法で援護を頼む」

『ありがとうございます。分かりました!』

「よし。では……やるぞ、アンダーソン君」

『おう。まかしておけ!』


 少し先の、樹上からの返答。

 逃げ延びたか。一安心、ではある。

 で──まずは、だ。

 糸を繰り出し、隣の枝に結びつける。

 そして勢いをつけ、木から飛び降りた。


『えっ……ちょっ⁉︎』

「大丈夫だ!」


 戸惑うリゼットに返事をしつつ、糸を握ってブレーキ。

 そしてワニの顎の直前を、弧を描いて通り過ぎた。


「ガァアッ!」


 イラつくワニ。俺はそれを尻目に隣の樹の枝にぶら下がる。

 ヤツは俺を追おうとし──


「ガッ⁉︎」


 直後、背後の頭上から網を広げたアンダーソン君が襲い掛かった。


「モガッ⁉︎ ゴァオッ!」

『このっ! おとなしくしろ!』


 うまい具合に口を塞いだものの、思いの外力が強く押さえ込むのにも一苦労の様だ。


『それなら……“誘眠”!』


 リゼットの声。


 と、


「ゴ……ア? アァ……」


 次第にワニの動きが鈍くなり……


「ァ……ゥァ……」


 とうとう目を閉じ、崩れ落ちた。


「ありがとう、リゼット! 助かった」

『なかなか やるな』


 俺とアンダーソン君が声をかけ……


『くふふっ! そうでしょう、そうでしょう! もっと私を頼ってください!』


 鼻高々である。

 が……


『それはそうと……降ろしてもらえません?』

「Oh……」


 とりあえず俺が抱えて彼女を降ろした。

 いや、待てよ?


「たしか浮かべたはずじゃあ……」

『あっ……えっと……す、すいません。パニックになって忘れてました……』

「ヲイ」

『ふむ。パニックになるとは まだまだ未熟だな』

「ヲイ」

『あ……うん』


 アンダーソン君よ。腹部変形させた時に糸が出なくてパニクってたのは覚えているぞ。


『え? アンダーソン君も何かやらかしたんですか?』

『ななな、何でもない』


 ……あからさまに動揺しとるがな。

 まぁ、この話はここまでで。


「とりあえず、今のうちに血抜きをしよう。それが終わったら昼食で」

『はーい』

『分かった』


 さて、準備にかかろうか。

 まずはリゼットに“誘眠”を重ね掛けしてもらい、ちょっとのことでは目が覚さない様にした。そして汲んできた水でワニの身体を一通り洗浄。

 それが終わると、アンダーソン君に手伝ってもらい、樹から頭を下にして吊るす。

 そして、放血だ。

 砦から持ってきたナイフを取り出した。

 なかなか鋭い。これなら十分に肉を切れるだろう。


「あ──リゼットはあんまり見ない方が良いかも」

『いえ、見慣れてますし……大丈夫ですよ?』

「そう──なのか?」


 う……む? こう言う場面はあんまり見てなさそうと思ったが……


『はい。井戸のそばが厨房で……。鶏なんかをシメて捌いてたりしてるのを見てましたしね』

「あー、そうか。なるほど……」


 ふむ。精霊になってからの話か……


『まっ、まぁ……それこそあの井戸のある部屋で逢引したりする輩なんかもたくさんいましたしねェ、色々見慣れてしまっている訳ですYo……。そもそも、ですねぇ? 精霊の身体ではそんなことなんて出来ないんです! なのにあんなの色々見せつけられて、ですねェ? 何度呪ってやろうと思ったことか……』

「Oh……」


 ま、まぁ……色々逞しくなった……のか?

 と、ともかく──だ。

 まずはナイフを使い、頸動脈のあるあたりを一刺し。

 と、一気に血が溢れ出る。

 よしよし、当たりだ。

 さらに、これも砦から持ち出した包丁で、腹を裂いて内臓(モツ)を取り出す。

 デカいのでわりと大変だ。

 内臓も食べられない訳ではないだろうが……万一の事態(食中毒)は避けたいので廃棄。

 そして腹腔内の血も水で洗い流す。


『意外と手際良いですね。やったことあるんですか?』

「いや、ほとんど見様見真似さ。親父の友人が猟師もやってたんでね」


 親父と二人でイノシシやシカを捌いているのが幾度もあった。うち、何度かそこの息子さんや兄貴と洗浄などを手伝ったことがある。

 ああ、そうだ。


「冷却系の魔法は使えるかい」

『ええ。確か、肉を冷やす必要があるんですよね』

「そう。頼めるかい?」

『任してください!』


 本来は冷水で冷やすのだが……時短のために魔法で冷却してもらう。

 まぁ、ワニはイノシシやシカとは違ってそれほど体温が高くないので、ここまでする必要はないかもしれんけど……

 そして、首を落としたのち、必要な量、肉を切り分ける。

 まずはこれで昼食だ。

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