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42 どうしたのさ、それ

──地上

 俺たちは地下水路の坑道を脱し、ようやく空の下に出ることが出来た。

 気がつけばもう太陽は傾き、夕刻近くになっている。

 水路の先は、ちょっとしたダム──というか、頭首工の様になっていた。

 石積みの堰と、水門。そして魚道らしき水路。

 ここから今通ってきた暗渠を通じ、あの砦やリシュートに水を引き込んでいるらしい。

 川幅も広く、水量も豊かだ。

 そしてその両岸は、わずかな河原とこの川の浸食によると思われる切り立った崖で囲われていた。

 堤防か──とも思ったが、どうやら人の手が入ったものではなさそうだ。せいぜい、工事に使ったと思しき坂道がある周囲ぐらいか。

 ふむ──これなら人と遭遇する可能性も低そうだな。

 それに、外敵と遭遇する可能性も少ないだろう。

 ──水中にワニとかいなければ、だがね。



 とりあえず、水路を出て河岸に上がる。やれやれ──ようやく座って休めるか。


『ふあ〜〜、疲れましたー。こんなに歩いたのは初めてです〜』


 そう言うや否や、リゼットはへたり込んだ。

 生前は病弱で、水の精霊の時は砦からほとんど出ることが出来なかった様だしね。しかたなかろう。

 最後の方は俺とアンダーソン君で交互に負ぶってようやくたどり着いた。


『軟弱すぎる。そんなことでは 外では 生きて──いけないぞ』

『勘弁してください〜。ようやく肉体をまた得たばかりなんですー』

「まぁまぁ──それくらいで」


 まぁ、野生の蜘蛛として過ごしてきたアンダーソン君の見解ならばそうなるだろうがな。

 その辺はこれから何とかして行けばいい。

 もっとも、落ち着いて暮らせる場所があればそれに越したことはないんだけどさ。

 それにはレジューナの追跡を振り切る必要がある訳だからね。



 まずは──寝床だな。

 屋外で寝泊りする以上、安全な寝床は必要だ。

 時間が時間だしな。急いで探さねばなるまい。

 周囲を見回す。

 と、今来たのとは、別のトンネルが一つ。

 やや下流側にあり、穴径も大きい。ここから別の都市に水を供給しているのだろうか?


「これはどこへ繋がってるんだろう?」


 リゼットに問うてみる。

 が……


『あの〜、ここからの用水路はさっき通ってきた地下水路だけのはずです。私の知る限りでは』

「──えっ?」


 では、一体これは何なのだろう? 作業用トンネルにしては、本坑よりも径が大きいしね。


『そうですね……。ここから感じる精霊力から分かるのは、どうやらこの地下水路はこのすぐ先で途切れている様です』

「途切れている? 工事を中断でもしたのか?」

『はい。聞いたことがあります。工事の際にトラブルがあったと聞いたことがありますし、その時の名残なのかもしれません』

「──ふむ」


 リゼットの答え。

 トンネルに歩み寄り、覗き込む。

 先刻のもの同様に、長方形の石とセメントで組まれたトンネルだ。半径は3mほどか。天井までの高さは水面から3.5mほど。奥に微かな光が見える様な……?


「アンダーソン君、光を頼む」

『おう。……“幻光”!』


 そしてアンダーソン君が魔法の光で奥まで照らし出す。

 先刻まで通ってきたトンネルとほぼ同じ様な情景が映し出され……ン? 奥に何か……

 ああ、そうか。リゼットの言っていたのは、このことか。

 ……とはいえ確認せねばね。


「ちょっと見てくる」


 そう言い置くと俺はトンネルに入り、壁伝いに奥へと向かった。

 石のブロックの隙間に爪を差し込んで足がかりにし、その先の足がかりの無い場所へは岩壁に粘液と糸を貼り付けて先へと進む……。蜘蛛としての基本動作ではある。

 そして数十メートルほど進んだあたりで、トンネルが崩壊している箇所に行き当たった。

 天井部分にある長方形の石のブロックが崩れ落ち、トンネル内に土砂が流入している。

 上方の崩落箇所から穴が開き、空が見えた。これがあの光の正体か。

 なるほど。大断面で造ったせいで強度に問題があったのかもしれん。だから、作り直したトンネルはこれより断面は小さい、と。

 あとは、上部の地盤が軟弱すぎたか、だな。ほとんど砂みたいで強固な岩盤なんてなさそうだしね。これは崩れる。

 ──ふむ。入り口付近ならば大丈夫か。

 とりあえず──引き返そう。

 で、寝床の設営と食料の確保が必要か──。

 と、思いきや。


『メシが獲れたぞ、しろー』


 何やら大きな魚を手にドヤ顔(多分)をするアンダーソン君。


「どうしたのさ──それ」

『川に 突っ込んで 獲った。どうだ? 凄いだろう?』

「お──おう」


 いや川の中にワニとかいるかも知れないだろ。無茶するなよ……


『ン? 別に──脅威に なりそうな ヤツは いなかったぞ』

「そうか。……ワニとかはいない、と」


 なら一安心、か。


『ワニ、ですか? スノリゴスターならリシュートからこの辺りにかけて生息しているそうですよ。水中にいるかは分かりませんが……』

「スノリゴスター?」


 聞いたことがあるような、ないような……

 昔やったTRPGにいたっけか?


『陸棲のワニです。普通のワニより顎が短く、脚が長い体型のため、犬ワニとか呼ばれてます。獰猛な肉食獣だそうです。剥製しか見たことありませんが……』

「ああ──なるほど」


 確かにそんなモンスターがいたな。というか、この世界にもいるのか。

 そういえば、崖上から河原に降りてくる道があるな。そう考えるとあの掘りかけのトンネル内に寝床を作るのが最適か。

 とりあえず──作業にかかろうか。



──そして、しばしのち

「もう出来たかい?」


 工事中断したトンネルの奥に呼びかける。

 ある程度できたあたりで、最後の仕上げはアンダーソン君に任せていたのだ。


『おう──できたぞ』


 そしてアンダーソン君が顔を出した。


「どれどれ──おう、良いじゃないか」

『おれを──誰だと 思っている?』


 トンネル内、水面から1mほど上にシート状の網が貼られている。そこが今日の寝床だ。

 天井までは2.5mほどの空間があり、あまり圧迫感はないか。

 そして入り口付近には放射状の網。外敵の侵入を感知するためのものだ。

 うむ。これで安心して一晩を過ごすことができるな。


「よし。じゃあ、飯にしようか」

『おう。腹が──減ったぞ』

『良い感じに焼けてますよ〜』


 火の番をするリゼットが、串に刺した魚をひっくり返しながら声をかけてくる。

 魚はアンダーソン君が捕った一匹に加えて俺が数匹網で捕獲している。

 三人分の夕食には充分な量だ。残りは明日の朝食にすれば良いだろう。

 良い匂いだ。さて──いただきます。

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