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4 人外になってしまった様だな

「あ──その、ゴメン。ちょっと驚いただけでさ」


 隅でいじけるアンダーソン君に声をかける。

 が、ぷいと横を向いてしまった。

 う……む。クモはその身体に比して脳が大きく知能は高いというが──それも猫ほどの大きさとなると、な。あのリアクションの意味を理解していても不思議ではないのだろう。これは少々……いやかなりマズったか。

 ……。

 と、とりあえず……それは置いといて、だ。

 まずは俺自身の現状把握だ。

 まずは、腕だ。

 掛けられていた毛布の下から右腕を上げる。……と、そのすぐ下からもう一本の“腕”も姿を現した。

 ──ん?

 先端に爪が生えた、細く小さな“腕”。それは柔らかく黒褐色の毛で覆われていた。おそらくはその下は、甲殻。そしてその先端には、小さな二本の爪。そしてその周囲には毛束がある。

 コレはやはり蜘蛛の脚か。

 どうやら左側も同様の脚があるらしい。これが感覚がダブっていた原因か。

 確か蜘蛛の脚は四対。もしかしてもう一対もどこかにあるのか?

 ──と思ったが、確認できなかった。

 いや、後から生えてくるのかもしれんけど。

 そして、視界。

 通常の目の他に、眉間付近とこめかみあたりに別の目がある様だ。

 確か蜘蛛は四対八個の目を持っていたな。そこまで多くないとはいえ、俺にももう二対の目が出来たという訳か。

 ……どうやらこの新たな目はそこまで視力はない様だな。蜘蛛もそうだって話だったか。いや、ハエトリグモは例外的に目がいいんだっけか。

 そもそも俺本来の目も、眼鏡がなければ0.3ぐらいだしな。……おっとそういえば、現状裸眼でもほぼ問題ないんだよな。これはどういう訳なのか? “混ざった”影響でもなさそうだしな。

 それ以外の変化点となると……頬か。

 何やらその側面に指ほどの太さのものが生えているな。先端は爪状になっている。これは、蜘蛛の大顎か?

 どうやら俺は──人外になってしまった様だな。

 う……む。

 この世界の住人がどんな姿かは分からんが、受け入れてもらえるんだろうか?

 まぁ──何とかなる、と良いんだがな。

 それはそうと──だ。

 まずは服だ。どうやら現状素っ裸らしいからな。

 とりあえず上体を起こした。

 周りを見回す──までもなく、ベッドのサイドボード上に畳まれた布切れが幾つか置いてあるのが見える。

 ふ──む? 手をのばしてその一つを取る。

 おっと、これは──

 車に積んだ荷物の中に入れておいた俺のジーンズだ。そしてもう二つは──下着とシャツか。

 ありがたい。

 とりあえず──ベッドに腰掛けて……ン?

 いくらか緩んできていた腹回りがずいぶんとスッキリしてるな。

 ああ──そうか。あのサイズになったアンダーソン君の“材料”は多分ここからか。

 まぁ──悪いことばかりでもない……か。

 とりあえず、下着とジーンズ、シャツを身に着ける。

 余分な腕──副腕と言うべきか──は、シャツの中に入れるしかないか。

 ついでに身体の確認だ。

 まずは、脇腹。

 肋骨の下端あたりに、ちょっとしたイボっぽいものが両脇に一つずつ生えている。

 う……ん? 何だ、コレ?

 まぁ、いずれ分かるだろう。

 そういえば、蜘蛛の脚やこのイボ周囲の皮膚が硬質化している。節足動物の持つ外皮みたいだな。

 そして俺自身の脚は、胸に生えた蜘蛛の脚みたいにスネ下が柔らかい毛で覆われている。

 う〜む。剛毛すぎるスネ毛だ。

 で、足先はというと、爪先の部分が二本の鋭い爪になってしまっている。

 これも胸に生えた脚と同じだな。

 ──この有様じゃ靴は履けんか。

 まぁ、硬質な爪と柔らかい毛のおかげで履かなくてもすみそうだけどな。

 ……そういえば俺、蜘蛛と“混ざって”るんだよな。糸とか出せるのかな?


『──わきばら』


 と、“声”が聞こえた。

 ン? レジューナじゃないよな? と、なると……


「アンダーソン君か?」


 いつの間にかこちらを見ているアンダーソン君に、声をかけてみる。

 が、また横を向いてしまった。

 うぬ……まだ許されなかったか。こりゃ土下座でもするしかないか。

 とはいえそれで謝罪の意が伝わるのかどうか。

 ま、まぁ──いいか。

 えっと……このイボか。どうすりゃ良いんだ?

 ……いや、それよりも、だ。

 そもそも俺の顔、どうなっているんだ? 蜘蛛っぽくなっているとか?

 いや──蜘蛛っぽい顔ってどんなんだ、って話だが。

 えっと、鏡は──あった。

 すぐ横の壁に一つ。

 ベッドから立ち上がり、鏡に近づく。

 う……む? 足の形が変わったせいか少々歩きにくいな。

 が、慣れるしかないか。

 そして鏡を覗き込む。

 と、


「ン? ──えっ⁉︎」


 思わず声を上げた。

 視界の端でアンダーソン君がびくりとしたのが見える。

 ……おっと、いかんいかん。

 とりあえず、落ち着いて俺自身の姿を眺める。

 まずは、顔。

 少々若返っている様にも見えるな。おそらく30そこらか? 最近気になってる目尻やら口元が若々しい。それに、肌が白いな。前は結構日焼けしてたのに。……いや、部分的に焼けたまんまだな。

 あとは、髪。部分的に五分刈りになってしまっているな。いや……毛先が柔らかいので生えてきたばかり? それ以外の部分では長さはそのままか。短い方は黒々としているが、長いままの方は白髪まじりだ。最近増えてきてたんだよな……。

 そして、目だ。

 俺本来の目は特に変化はなし。

 だが、眉の部分に一対。そしてこめかみあたりにも一対、黒い真珠の様なものがあった。

 おそらくはこれが新しく出来た目か。

 元からの目を閉じ……

 う〜む。機能はしている様だ。とはいえ何というか──かなりぼやけた感じだ。

 一応、形はわかる程度? とはいえそれでも便利そうではある。

 そして、口。

 それ自体は変化はない。しかし、耳の脇から爪付きの脚っぽいモノが生えている。

 一対……いや、上下二対か。

 上のは折りたたみナイフの様に曲がり、先端は牙状。下のは小さな脚状で先端に爪がついている。ともに黒褐色の毛に覆われているな。

 アンダーソン君と暮らすようなった頃、ネットで調べたことがある。

 確か、上は鋏角……つまり、蜘蛛類にとっての上顎……というか、牙。

 そして下側は、触肢。蜘蛛類にとっては下顎かつ腕のようにもなる器官……だったはず。


 まぁ、まとめて下方に折りたためば長いもみあげに見えなくもない?

 眼鏡かける場合は邪魔になりそうだけど、現状不要だから問題無さげか。

 ……とりあえず、こんな感じか。

 ふ〜む。この世界の“人間”がどんな姿か分からんが、もし地球人類と似ているのなら何とかなりそうではある。

 ……多分。

 まっ、とりあえず今確認できるのはこれくらいか。

 にしても──蜘蛛と“混ざった”、か。

 俺自身、子供の頃から『手足ばかりヒョロ長い蜘蛛みたいなヤツ』とか言われたこともあるしな。それどころか実家あたりには“土蜘蛛”伝説も残っていたりする。

 まぁ、これも運命──なのか?



 俺はベッドに戻るとゴロリと横になる。

 にしても、だ。

 一体どういう訳で俺がこの世界に転移してくるハメになったんだろうな。

 一つため息。

 と、またアンダーゾン君が視界の端でびくりと身を震わせた。

 あー、そうだ。彼も巻き添えにしちまったんだよな。


「あー、ゴメンな。変なコトに巻き込んじまって」

『…………』


 アンダーソン君は何か言いたげに俺を見……今度は視線を落とした。

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