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26 助けてやりたいところだがな……

──どことも知れぬ場所

 森の中に、火の手が上がっていた。

 それはまさに地獄絵図。

 木々は薙ぎ倒され、地面は大きくえぐれていた。

 まさにそれは、大質量の“何か”が衝突した痕跡。

 そして散らばる焼け焦げた大量の金属の塊。その中に見える赤黒い“何か”。

 ……ああ、そうか。

 その“何か”は人であったモノ。そしてこの場所は、テルヤさんの飛行機が墜落した場所か。金属の塊は、その残骸か。

 それにしても、酷い有様だ。これでは、誰も生き残ってはいなさそうだ……ン?

 いや、動いているのもいる。生存者か!

 ……しかし、火傷が酷い。このままでは、間も無く死んでしまうだろう。

 やはり、誰も……


「〜〜!」


 と、どこからともなく響く声。

 誰か来たのか?

 と、そこに現れたのは……ッ!

 ぐっ……うぅ……苦しい。それに、痛い。一体何があった⁉︎

 ……そこで目が覚めた。



──樹上

 何だ? 苦しい、というか重い……。俺の上に、何か……

 って。目を開く。そこには、


「アンダーソン君かよ!」


 確か昨晩は隣に寝ていたはずなんだがな。

 いつの間にか俺に覆いかぶさっている。しかも、肩のあたりを挟角で噛んでやがる。痛いのはこれか。

 ……というか、肩がベチョベチョだ。血と涎? それとも消化液か……あるいは毒液なのか。

 それはともかく。


「アンダーソン君、重いって……それに噛むのは止めて」


 その身体を揺すってみる。


『ン? しろーか? せっかくの 獲物が 逃げる だろ』

「いやあの……それ、俺の肩」

『へ? 道理で あんまり 美味く……いや 何でも ない』

「ヲイ……」


 いや俺はおっさんだし美味くはないと思うよ? でもそれ今いる話? ……まぁいいや。


「とりあえず、傷を治してくれないか?」

『オウ。“治癒”!』


 アンダーソンの魔法で傷口が塞がり、痛みも止まる。

 しかし……服はどうにもならんがな。ただでさえボロボロなのに。早く布を作れるぐらい編み物を練習せねばならんか。

 ……と、ハンモックに繋がる糸が微かに震えた。


「ン?」

『何か 来たな』


 そして、遠くで物音がした。

 その方を見下ろす。と、藪の向こうに揺らめく灯が見えた。松明か何かだろうか?

 旅人か何かか? う〜む。接触は避けたいところだが……。

 そして現れたのは、数人のむくつけき男ども。

 ベルガント邸に現れた泥棒……というか強盗に似た風体だ。


「盗賊か山賊の類か?」


 いや……この世界における一般の人間がどんな格好しているかは分からんので、先入観だけで判断する訳にはいかんが。

 にしても、だ。


「こんな時間に何をしに来たんだ?」


 もう少し歩けば街だ。わざわざこんな場所に来る必要はないだろう。


『ふむ。確かに 妙だな』

「様子を見た方がいいな」


 幸い俺たちがいるのは樹上。大人しくしていれば気づかれることもあるまい。とりあえずは様子見だ。

 数は……六人か。いずれもかなりの強面だ。

 ゆったりとした服を着、腰からナタやら蛮刀やらを下げている。中には斧を持ったヤツまでいる。

 あれが一般人の姿ではないと思いたいが……。

 いや、違うな。もう一人いる。

 細身の少年だ。10才そこらだろうか。あどけない顔立ち。

 身なりも明らかに他の連中よりも良い。

 そして……手足を縛られ、男の一人に担がれている。

 間違いない。ヤツらは盗賊の類だ。

 あの子は何処かから拐ってきたに違いない。


「助けてやりたいところだがな……」

『無茶だな』

「だよなぁ……」


 俺とアンダーソン君はレジューナに追われる身。下手に手を出した結果、ヤツに今の居場所を知られたらマズい。

 正直、俺たちも誰かに助けて欲しい状態ではあるんだよな〜。

 それに、二体六でどこまで勝ち目があるのか。

 確かに俺たち個々の身体能力はそれなりに高いが……いざ戦闘となると、な。

 あのガーゴイルこそ上手くやれたが、相手は人間だ。それに、あの子を人質に取られたら、となるとな。

 あの子が助かる可能性まで消してしまう。

 しかし……イヤな気分だ。こうして目の前の悲劇を見過ごさねばならないとは。

 心中歯がみしつつ、その姿を眺める。

 と、一人の足が止まった。

 あれは……焚火の跡だ。

 ヤツは屈み込み、地面に手を当てている。

 消してからどれだけ時間が経ったか分からないが……


「〜〜〜〜〜!」


 そいつは何か叫んだ。

 と、仲間も周囲を見回している。

 そうか。“誰か”がつい先刻までその場所にいたことがバレてしまったか。


「どうする?」

『とりあえず いつでも 動ける 様に して おこう』

「そうだな」


 俺たちはさっきまで寝ていたハンモックを片付けた。そして、この樹に上がるためのロープも……

 と、思ったところで盗賊どもの一人が周囲を見廻しながらこっちにやってくる。

 マズいか?


 そいつの足が止まる。その視線は俺たちのいる樹に注がれて……

 ……バレたか! 俺は咄嵯に身を隠した。


 男は俺たちのいる樹に向かって歩いてくる。

 そしてロープを手に取り……

 その時既に、俺たちは行動を開始していた。

 まず、アンダーソン君が樹上から飛び降りる。

 音も立てず着地。

 それに気づかない男は、樹上を見上げ……俺を見つけた。

 そして声を上げようと……


「モガッ⁉︎」


 直後、アンダーソン君の糸がその口を塞いでいた。

 すぐさま俺も飛び降り、男をグルグル巻きにして拘束する。そしてすぐには見つからない様、樹上に吊るしておく。ついでにその腰のナタも鞘ごと回収だ。

 こうなったら仕方がない。盗賊どもを拘束してあの子を助けよう。

 後は野となれ山となれ、だ。


『乗れ』

「おう」


 そして俺はアンダーソン君の背にまたがった。

 ジャンプ。そして樹上に着地。すぐさま枝を蹴り、別の樹に向かう。

 その間に俺は捕獲用ネットを準備。そしてそれをアンダーソン君に渡した。

 アンダーソン君は触肢でそれを受け取り、スタンバイ。

 よし。……いるな。

 ターゲット確認。

 一人、藪の中に分け入った男。


『行くぞ』

「おう」


 アンダーソン君は前方の四本の脚でネットを広げ、頭上から男に襲い掛かった。

 これはメダマグモという蜘蛛がやる狩りのやり方だ。今のアンダーソン君なら出来そうだと思ったが、予想以上に上手くいった。


「……ッ⁉︎」


 予期せぬ攻撃に当惑する男。

 その間にまたグルグル巻きにし、樹から吊るす。当然、蛮刀は回収。


「よし。ここから別行動だ」

『おけ』


 そしてアンダーソン君はジャンプして泉の方へ向かう。

 よし、俺も。


 ジャンプして樹上へ。

 枝を蹴り、そして糸を放って方向転換。それを繰り返すこと、数度。

 ……いた。

 男は、何やら土を掘り返している。

 確かあそこは、食べ残しの殻なんかを埋めた場所だな。

 周囲に仲間は……いないな。……チャンスだ。

 ヤツの頭上で方向転換。一気に降下して襲いかかる。


「!」


 直前、ヤツは俺を見上げようと……

 気づかれたか……だが、遅い!

 その背中にしがみつくと、触肢であらかじめ作っておいた猿轡をかませてやる。さらには首に腕を回して締め上げ、同時に副腕でヤツの両腕を拘束。ついでに脚で胴を締め付けた。


「……ムグッ⁉︎」


 男は明らかに混乱している。

 そりゃそうだろう。腕が何本あるんだって話だ。まぁ、俺の方は本物の蜘蛛よりも一対少ないんだがな。

 おっと──ここで時間を食ってる場合じゃない。

 最後の一対、鋏角の先をヤツの首筋に軽く突き立ててやる。

 と、


「! ……」


 男の身体から力が抜けた。気絶したか。

 まぁ、仕方あるまい。夜中、いきなり腕や脚の多い“何か”にしがみつかれ、首筋に牙を突き立てられたらな……。

 とりあえずまた縛り上げ、樹から……と思ったが、誰かくるな。

 とりあえず縛ったそいつを草むらに放り込むと、樹上へ退避だ。

 そして、チャンスを伺う。

 男は、草むらへと近づき……動きを止めた。

 仲間を発見したか。

 ……よし。

 重石をつけた糸を投げつけ、ヤツに絡める。


「!」


 そして糸を枝に掛けると間髪入れず、勢いをつけて飛び降りた。


「〜〜⁉︎」


 テレビドラマの様に首吊り状態……とまではいかないが、一瞬釣り上げることができた。そして糸を緩めると力なく地面に倒れた。

 すかさず駆け寄り、確認。

 どうやらまだ息はあるな。オチただけか。

 まぁ一安心、ではある。下手に殺してしまうと寝覚が悪い。まだそんな覚悟できてないしな。

 ……もう人外になってしまったから不要?

 それはともかく、だ。コイツも縛り上げておく。

 どこかに隠すか……いや、あと二人だ。次の標的を探した方がいいな。

 そしてソイツを残してジャンプ。

 先刻、連中を見かけた辺りへと向かう。

 おそらく少年を連れたヤツがいるとすれば、まだその辺にいるだろう。

 “お宝”を持ったまま周囲を探索する訳にも行くまい。

 俺は枝を蹴り、そちらへと向かった。

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