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2 何だ、これは⁉︎

──闇の中

 俺は一体どうなってしまったんだろうか?

 眩い光。轟音。──そして衝撃。更には……身体を貫く熱い“何か”に灼かれる感覚。

 直前の状況から考えると──おそらく落雷にでも遭ったのだろう。

 クローズドボディの車ならまだ安全だっただろうが──生憎俺が乗っていたのはルーフを閉じていたとはいえオープンカー。

 フロントのピラーにでも当たった雷が俺にも襲い掛かったのだろう。あるいは──ルーフの幌を貫いて頭に直撃か?

 どちらにせよ──俺は多分死んでしまったんだな。状況的にはおそらく即死だったのだろう。

 何とも運のない──しかし苦しむ様な死に方でなかったのは不幸中の幸いか──。

 とはいえ──今の状況は一体?

 どういう訳か意識はあるものの、五感は何も感じることはできない。

 身体はなく、意識だけがこの場所に浮いているようだ。

 もしかして──ここが死後の世界とやらなのか?

 死後の世界とか来世とか──正直あんまり信じちゃいなかったんだがな。

 にしても──落雷とは、これまでの人生に比べてずいぶんレアな死に方をしたものだ。

 平々凡々。会社が倒産するまでは、それが俺の生き様だったのに。

 おっと、そういえば……。あのアンダーソン君は大丈夫なんだろうか?

 いや……入れておいたのが百均のプラケースだったし、状況的に無理だろうな。

 現状、落雷で車も炎上したか──あるいは制御を失った車がどこかに衝突したか。

 どちらにしても──無事では済むまい。

 俺のエゴでこんな事態に巻き込んでしまって申し訳ない。次の住人がよほどの蜘蛛嫌いでもない限り、もっと生きられたんだよな……。すまん。

 う……む。地獄に落ちたら蜘蛛の糸は下りてこないだろうな。

 …………。

 というか、さっきから一向に変化がないんだが……ずっとこのままなのか?

 死んだら電源落としたみたいに意識が途切れてそのままかと思ったよ。正直──暗黒空間にぼっち状態は想定外だ。

 う〜む、どうしたものか。いつになったら“終わり”は来るんだろうか?

 もしかしたら──永遠にこの暗黒空間の中に意識がさ迷うのか?

 そうだとすれば──俺の精神は多分耐えられないだろうな。求職中の孤独にすら耐えられそうにもなかったし。

 だから安易に派遣に飛びついちまったんかな……。しかも後から考えたらヤバそうな会社に。いや、実際かなりヤバかった。なぜあんな真っ黒な会社に……。

 …………。

 よそう──虚しくなるだけだ。

 それよりも──だ。

 微かに記憶に残るあの“声”。

 多分、俺がこの空間で意識を取り戻す直前。“寝ぼけた”状態で聞いた音……いや、“声”だ。

 アレはおそらく、人の“声”。

 今の俺には耳どころか肉体すらないようなので、空気の振動ではないのかも知れんけど。

 アレが人の“声”とするならば、相当焦っていたように感じた。

 もしかしたら誰か死にゆく俺に駆け寄り、救護しようとしてくれたのかもしれない。

 が、おそらく日本語ではなかったな。俺が聞きおぼえのある英語やスペイン・ポルトガル語、中国語でもない。どこの国の言葉なんだろうか?

 とはいえ、もうこの状態では礼も言えんのだよな。無念……。

 …………。

 う……む?

 いい加減、どうであれ“変化”は訪れてくれんかねぇ? できれば、地獄とかは無しの方向で……



 ……そして、どれほどの時間が経ったのであろうか?


(!)


 突如、光が差した。


「え? ──何が⁉︎」


 思わず呟く。

 そしてそれは、音として耳で聞き取ることができた。

 とはいえ普段に比べてかなりくぐもった感じであったが。

 一体どうなってるんだ?

 光に反応し、目が反射的にピントを合わせようとしているが、どうも上手くいか……あ、出来た。

 俺の目は、何か麻酔でもかかっていたかのような緩慢な動きで焦点を結んだ。

 結んだ。が──何だこれは⁉︎

 視界が妙だ。ずいぶん広いというか……

 と……ともかく、だ。

 現状を把握せねば。

 周囲を見回そうとし……

 ッ! 痛くて首が動かん。

 だが、それにも関わらず、かなり広い範囲を見渡す(・・・・・・・・)ことができた。

 どうやらーー俺はベッドの上に寝かされているらしい。

 高く、白い天井。

 コンクリ? いや、モルタルか? ……それとも漆喰? にしても白いな。

 そして壁も、似た様な色、そして質感。床は飴色の、石っぽい質感のタイル張り。

 扉は、やけに重厚な木製のヤツが一つ。窓は……扉と反対側の、高いところにある。真っ暗なところからして今は夜のようだ。

 光源は、天井の中央に吊るされた球状のライトか。

 う……む?

 ここは病院か? 何とか生き延びて、病院に搬送してもらえたのだろうか?

 そういえば、いつぞや仕事中にぶっ倒れ、搬入先で気づいた時がこんな光景だったな。まぁ、そこは窓もあったし扉ももっと簡素だったが。

 あの時はサーバールームに泊まり込みで仕事していてほとんど眠れなかったんだよな。で、疲労の蓄積で……

 その後、医者からは転職を勧められたものの、迷っているうちに会社が倒産、と。

 いつも決断が遅すぎるんだよな。俺って……

 ──いや、今そんなこと考えてどうする。現状を把握せねば。

 上体を起こすべく腕を動かそうとし……

 ──ッ⁉︎

 …………ん? 何だ、これは? 感覚が重複しているというか……。

 まさか、腕が余計にある⁉︎ どうなっているんだ一体……

 とりあえず確認すべく、身体を動かし……ってアイテテ、何だこの痛み。

 う……む。

 どこも動かそうとすると軋む様に痛む。

 ……仕方ない。このまま様子を見るか。

 そう思った直後──扉が開いた。

 そして、現れたのは……

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