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待ち合わせ


 雑多な人間が往来する駅前のロータリーで俺はポツネンと一人立ち尽くしていた。

 暫し、360度方向を挙動不審者さながらに首をキョロキョロと移動させ辺りを確認すると、俺は大きなため息を一つついた後に口を開いた。

「ああ、来てしまったなぁ……」

 そう、俺は来てしまったのだ。

 どこに来てしまったのか?

「オフの待ち合わせ場所に、きちまったよぉ……」

 わざわざ声に出して言う必要などあるわけもないのだが、俺は声に出していた。

 それは後悔の念がそうさせるのか、それとも他の何かしらのファクターが要因なのか?勿論、そんなのわかるわけもない、アルゴリズムでわりきれるほど、人間というものは単純ではないのだ。

――まぁ、ここに鷺ノ宮が居たとするならば、瞬時に俺の心を読みとって『あら、和久は人間ではなく単細胞生物だと記憶していたのだけれど、わたしの記憶違いだったかしら?』などの悪態を付かれた事だろう。しかし、そんなことは起こりえない状況なのだ。

「鷺ノ宮、置いてきたからな……」

 そう、わたくし碓氷和久は、鷺ノ宮千歳をアパートに置き去りにして、一人オフ会の待ち合わせ場所で、相手を待っている真っ最中なのである。

 いつもの朝、いつもの朝飯、いつもの罵詈雑言、それらをこれまたいつものようにかわしつつも、俺は突如として発現した瞬間移動能力を使い、鷺ノ宮から逃れることに成功した……わけもなく、適当に買い物に行って来るとかの当たり障りのない理由で出て来たのだった。

 まぁ、アパートに戻れば、小言でどころか、スタンガンと鞭による攻撃を食らわされかねないが、まぁそれはそれで悪くない……イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ、俺は断じてMではない、きっとMではない、最近もしかしたらそのような可能性があるやも知れぬと思う時がない訳ではないような気がしないでもないのだけれど、そうじゃない!!……はずだ。

 

 俺は雑念を振り払うかのように大きく首を振ると、オフ会の相手である『姫子』がやってくるのを待った。

 とは言うものの、俺は『姫子』がどのような姿をしているか全く知らない。

 そうなのだ、外見の情報を俺は全く、完全に、パーフェクトに、知らないのだ!!

 こんな事ならば、メールで今日の服装とか、髪型とか、メガネをかけているのかとか、巨乳なのかとか、貧乳なのかとか、鞭でぶったりするのが好きかとか、聞いておけば良かった。

 後半、外見ではなく性癖に関する情報を求めていたような気がしないでもないが、そこらへんは俺の脳内での出来事であり、誰にも知られることのない情報なので、スルーしておいてもらいたい。

 こうなってくると、誰でもかれでも、俺のそばにいる女性全てが『姫子』に思えてくるから不思議だ。

 いますれ違ったOL風の女性も、駅へ駆け足で急ぐ大学生風の女子も、お母さんに連れられて買い物に向かう幼稚園児も『姫子』ではないのかと思えてくる。

 おっと、最後の幼稚園児に関しては、またしても俺の脳内の過ちであるのでスルーを推奨する。

 断じて俺はロリコンなどではないのだ!

 そう、俺はむっちりもっちりとした豊満なバストを持つ女性に心惹かれる存在なのだ!

 と、脳内で思った瞬間に、鷺ノ宮の貧乳というよりも無乳といってよい胸周りを思い浮かべてしまっていた。それと同時に、表情は笑顔でありながら、目が何一つ笑っていない鷺ノ宮の顔も浮かんできた。

「いやっ、違うんだ! 俺はそういう意味で思ったのではなくだな!!……はっ!?」

 周りに沢山の人がいる最中、虚空に向かって必死に弁解をする男、それがいまの俺だった……。


「あの人なに……」

「あれよ、最近多いっていう二次元好きな……」

「ママー、あのお兄ちゃんなにしてるのー?」

「見ちゃいけません!!」

「きめぇ……マジ半端なくきめぇ」


 俺を遠巻きに囲う衆人から、ロンギヌスの槍のような視線を、数十ヶ所に突き刺された俺は、逃げ出すように駅ビルの柱の陰へと身を潜めた。

――いったい俺は何をしているんだろう……。確か俺は、オフ会に参加するべくここに来ていたはずだったのに……。それなのにオフ会をするどころか、相手と出会ってすらないという……。

 こうなったら、覚悟を決めてメールをして相手の外見を聞きだし、それを頼りに見つけ出すしか!

 俺は上着のポケットから携帯を取り出すと、すぐさま『姫子』に向けてのメールを作成しだした。

 しかし、ここは悩み処である。相手の外見を聞くというのは、なにか相手を値踏みしているようで、いささか失礼ではないのだろうか? なにかこう、わかりやすい特徴だけをさらりと聞きだすことはできないものか?

 そんなことを考え出してしまうと、携帯のボタンを押す指の動きがだんだんと鈍くなり、ついには止まってしまった。

 そんな時だ、不意に俺の携帯からメール着信音が鳴り響いた。

 メールの送信者は『姫子』

『私は駅改札の前にいます。髪型はショートで、黄色い帽子をかぶっています。オレンジ色の携帯電話を手に持って立っているので、それを目印にしてください』

 メールにはそう書かれていた。

「ふぅ……」

 俺は安堵の息をついた。これで、面倒なメールを考えなくてもすんだからだ。

 俺は即座に『了解』とだけ返事を返し、改札に急ぎ足で向かうと、そのメールに書かれていたのと同じ人物を探し始めた。


 探し始めて約五分が経過した。

「いない……どこにもいない……」

 それほどまでに大きい駅ではないのだ。改札口にいる人数も十数名しかおらず、見つけられないわけがない。

 なのに、駅の改札前には、先ほどのメールと同じ外見の女性を見つけることができないのだ。

――もしかして、俺はだまされたのか……。

 そんな思いが脳裏をよぎった。

 『死の運命』から逃れる方法を教えるなんていうのも、俺を誘い出すための嘘で、全部馬鹿な俺をからかうためだけのものだったのか? いやいや、よくよく考えれば、そう考えるほうが妥当なのかもしれない。こんな意味不明な『死の運命』なんてものを語る怪しい男に、会おうとする女性がいるものだろうか? もし俺が逆の立場だったら、面白半分に話を聞きはすれども、直接会おうなどと思うはずがない。

 そう結論に至った俺は、ガックリと肩を落とすと、その場にヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。

「こっちが先にみつけましたよ。カズさん」

「へ?」

 しゃがみ込んでいる俺の肩をたたく手、かけられた言葉。

 俺は即座に立ち上がり、その方向に視線を向ける。

 そこに立っていたのは……。

「はじめまして、カズさん。僕が『姫子』です」

「え……お、男!?」

 そこに立っていたのは、俺が勝手に脳内で作り上げたお嬢様姫子などではなく、中学生くらいの男子だった。



 続く。


おひさびさです!


生きてます!


最近ウサギを飼いまして……。

部屋中をかじられたり、おしっこをひっかけられたりしています。

ウサギさんのお世話も要領をつかんできたので、これからは小説もがんばってアップしていこうとおもますです!

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