表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最期の歩き方  作者: 月見里さん
終末の始まり
5/5

5歩目


 それから先の事は、あまり大した話ではない。

 おばあちゃんの絵が完成するまで、傍にいるというのも本人の邪魔をしてはいけないだろうと、そこそこ話をした後、私はその場から離れた。


 非常に優しい笑みで送り出してくれたのを、今でも覚えている。

 数時間も一緒にいたとは思えないほど、今後の人生を左右する。そんな時を過ごした気がする。

 燃え尽きて、残骸しかない金閣寺は非常に残念だったが、そのおかげでおばあちゃんに出会えたと思えば、ここに来た意味もあったのだろう。


 誰かを愛し、愛され、お互いの考えが読めるようになった夫婦が、何を残していくのか。

 それは気になるけども、彼女たちの秘密かもしれない。もしくは、人に見せる程、誇らないかもしれない。

 でも、いつか。もし、いつか。見る事ができたなら、この世界が終わる事にも意味があったのだと、思えるそんな気がする。


 まぁ、ここに来られる時が来るのか分からないけど、けど……。

 もしかしたら、おばあちゃんが旦那さんに『見せつけている』ところに遭遇できるかもしれない。そう思えば、幾分気分も穏やかであったが、その緩やかな感情も駐車場までであった。


「…………原付は?」


 停めてあった愛車が姿を消していた。

 いや、勝手にいなくなるわけもないし、確かにここへ停めたのは覚えている。

 ただ、私は忘れていたというだけ。


「盗まれたか……」


 この世界が終末を迎える。

 それに伴い、あらゆる人々の思考回路がゆっくりと壊れていくのを、私は忘れていた。



 ◆



「不思議な旅人さん」


 金閣寺が見渡せる場所であった、観光客が好んで座っていた椅子へキャンバスを広げながら、老婦人は呟く。

 件の人物は、見た時よりも背中を伸ばし、少し見える先が遠くになったそんな歩き方をしながら。


「あなたが、無事に旅を終える事を祈っているわ」


 例え世界が終わろうとも。

 人々が終わろうとも。

 それでも、この残酷な世界を旅する人が、無事目標を果たし、家路に迎えるよう祈りながら。

 老婦人は、少しだけいつもの風景画にはない、新しい色を作り出す。


 たった数色を混ぜ込んだ、なんとも言えない色味。

 それを消失した金閣寺のみを描いたキャンバスへ、落とし入れる。

 表情は諦めが滲んでいながらも、希望へと切り替えるそんな瞬間を。

 顔立ちは、ちょっと怖い印象の目元だが、奥側に優しさを含ませて。

 服装は、旅人とは思えないどこかの学校の制服を着ていて、重そうなバックパックを抱えながら。


「また会いましょう。うら若き旅人さん」


 老婦人はそう呟く。いつか出会えるその時に、完成した絵を見せつけてやる。そう思いながら、筆を走らせる。

 届けたい相手は、原付バイクを失い途方に暮れていた。

読んでいただきありがとうございます。

そして、いつも応援ありがとうございます。


これで第一部は完結となります。

はい。第一部です。

つまり、これから第二第三と続いていくわけですが、章で分けるよりかは完結方式にしてテーマ毎に区切った方が、長くなりにくいと思いこのような方法を取りました。


という感じで、世界は徐々に着実に終わっていきます。

また、第二部でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ