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世界最期の歩き方  作者: 月見里さん
終末の始まり
3/5

3歩目


 場所は金閣寺があった庭園を見渡せる場所。

 薄汚れ、ボロボロになった以前は茶屋として観光客を集めていたであろう椅子で、私と話し掛けて来たおばあちゃんは一緒にいた。

 何をするわけでもなく。

 何かされたわけでもなく。


 ただ、「困った時は一度立ち止まって考えるのも、透き通っていいかもしれませんよ」という助言を貰い、ひとまず腰を落ち着ける判断に至っただけで。

 私は、隣で画材道具を広げ始めたおばあちゃんの長年染み付いた手癖をただただ見ているだけ。

 たったそれだけ。


 何も考えていないし、何も浮かんでこない。

 ただ、日陰で優雅な時を過ごしているだけ。

 絵なんて分からないし、道具の名前だって知らないし、筆か絵の具か筆洗か位な程度で、それ以上の興味は湧いてこなかったが。


「旅人さんはどちらから?」


 おばあちゃんは気を利かせてくれた。

 というより、私が何か思い詰めた表情をしていたのが気になったのかもしれないし、金閣寺の様子を見て落ち込んだ観光客に見えたのかもしれない。

 どちらにせよ、あまりコミュケーションの上手でない私にとって、いつまでも無言のままでは居心地が悪かったので良かった。


「み、南の方から……」


 にしたって大雑把すぎるとは自分でも突っ込んだ。

 ある程度の県名言えばいいところを方角しか言わないって、不審者だと思われても仕方ないじゃないか。


「そう、南ってことは沖縄かしら? それとも、九州? あぁ、四国も考え方によっては南になるかしら」


 私が不審者だと思われたくないのは、こういった滲み出る優しさに報いる為なのだろうか。

 分からない。

 分からないけど、きっと分からないままでいいのだ。


「あぁ、ごめんなさいね。言いたくなかったら、言わなくていいのよ。こんなご時世ですもの、身の安全を守る方がいいからね」

「はぁ。ありがとう、ございます」


 とにかく、勘違いされたままだけど、いいだろう。

 そんな大した場所でもないし、ごくごく一般的で平凡で、平穏なところではあっただけ。

 今はそこに両親を置いてけぼりにしてはいるけど。


「せっかく来てくれたのに、燃え跡しかなくてごめんなさいね。この間まではあったんだけど、誰かが燃やしちゃったみたい」

「そう、なんですね……」


 まぁ、誰かが燃やすのはありえる話だろう。

 明日という未来がある時も、神社に傷をつける人もいたし、どうせ罪に裁かれる前に死ぬんだからいいだろうと思考回路が結ばれる奴もいるはずだ。

 人間、誰かに認められるのを求める以前に、ここにいたという証明を残したいだけなのだ。


 その誰かの残した歴史が燃えただけ。


「銀閣寺なら、まだ残ってたはずだから」

「は、はい。わかりました」


 とりあえず、行くかどうかはさておき選択肢が増えたのならば、来た意味はあっただろう。燃え尽きた意味もあったのだろう。


 そんな息を吸い込んだ私の隣には、色とりどりのチューブに、様々な毛先の筆。そして、真っ直ぐと見つめる鋭い視線。その先に、消し炭となった金閣寺。

 とても、映えた絵面ではないソレと向き合う、勇ましいおばあちゃんがそこにいた。

読んでいただきありがとうございます。

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