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世界最期の歩き方  作者: 月見里さん
終末の始まり
2/5

2歩目


 時は世界が揺らめく猛暑日。

 風鈴の音色が、夏の響きを伝える。そんな日に。

 私は道すがら拾った原動付き自転車に跨り、畦道を進んでいた。


 田んぼの合間、水入れも済んで潤った田園の中、私のたった数時間の愛車は、元気にエンジン音を鳴らしながら駆けていく。

 目的もない。

 行くあても決めていない。


 むしろ、どこへ行ってもいい。

 そんな気持ちで。


「とりあえず、観光名所は抑えておきたいよね」


 旅行気分はそのままに。

 まん丸のヘルメットから覗く願望は、終末世界において的外れかつ、とち狂った思考かもしれない。

 世界が終わるのに、家族と一緒に過ごさないのか、とか。

 愛する者と添い遂げないのか、とか。


 そんな事は微塵も思えなかった。


「人間関係てめんどくさいし」


 それが本音である。

 察しなければいけない世界。

 愛さなければ、愛が返ってこない世界。

 無償の愛は、ただの無駄遣いになる世界。

 何をするにも窮屈で、何をするにも偏屈で、何をしても億劫な世界。


「終わるなら、早く終われよ」


 そう呟かずにはいられない。

 これも不謹慎だと言われるのだろうか。

 いや、今更何かをしようとしても遅いだろう。

 一年後には隕石が地球に衝突して、あらゆる生命体が死を迎え、生き残った生物も耐えきれない極寒に身を置く事になるのだ。

 生きている事を願う方が不謹慎だろう。


 しかし、この時の私は世界の全容を知らない未熟者であり、有様を見ていない浮浪者でしかなかった。



 ◆



 とりあえず、有名な観光名所と言えば東京のタワーだったり、三名園を選んだり、富士山を登ったりするんだろうが、私はとにかく近場で何かないか調べ、適当に選んだ名所に到着した。

 京都府京都市北区金閣寺町。

 うん。金閣寺です。


 ただ、そこには金箔が貼られ、池に映った煌びやかな存在はなく。


「焼け野原じゃない」


 おそらく、燃え尽きた金閣寺と呼ばれる代物しかない。金箔なんてないし、建造物なんてないし、ただの焼失した残骸のみ。

 とてもじゃないが、名所だとは言えない。


「なんでよ……。いや、いつまでも綺麗にあるわけないか」


 無理もない。

 世界が終わるというだけで、世界各地の名所が汚され、崩壊していく中で私の行く場所が健在しているなんて都合のいい話はないのだ。

 自分を失った人間が何をするか。未来の潰えた人類が何を残すか。その中に、金閣寺は無かったというだけだが。


「出鼻折られちゃった感、半端ないんだけど。え、どうしよう」


 八方塞がり――という程ではないけど、少なくとも一歩目で躓いた感覚は否めない。

 これからどうするべきか。

 どこへ向かうべきか。

 一瞬、たったその一秒にも満たない現実を直視し、整理していた私の背中へ。

 まるで女神のような、いや、慈母とも言うべき声が掛かる。


「お困りですか? うら若き旅人さん」


 そこには、片手にキャンバスともう片方へ画材道具を手にした見た目、六十歳代の女性がいた。

読んでいただきありがとうございます。

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