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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
6/33

6.魔術

同日二話更新。まだの方は前話から

「ふむ、概ねの情報は知れたと考えて間違いないか?」

「はい、ネモ様。喫緊の情報を伝えることができたと私も認識しております」


 我の確認に、リリスは丁寧に頷いた。


「では、あとは習うより慣れろといったところか。魔属性霊術、魔術とやらを使えるようにしなけらばならんな」

「はっ!では、僭越ながら私の指示に従ってくださいませ。ネモ様であれば本能に刻まれた術理、すぐに扱えるようになりましょう」

「あぁ、頼む」


 喜色の気配を溢れさせるリリスに微笑みながら、我は魔王としての証明たる魔術の扱い方を学ぶ。


 まずは、霊力の操作だ。これは、精霊や竜王ならば必ずできることだ。そのように精神構造が成立している。目を閉じ、自身の内側に意識を集中する。瞑想の要領でやれば、それはすぐに感ぜられる。無垢なる力の波動、霊力だ。これに純然たる意思を乗せて意のままに操る。重要なのは、純然たる意思で操ることだ。通常の生命にそんなことはできないので言語化は困難だが、要は欲望や感情のない意思だと思えば、当たらずも遠からずであろう。この純然たる意思でなければ、霊力はたちまちのうちに魔力に変質してしまうのだ。まぁ、難しく考えずとも魔王である我は本能的に霊力を操れる。それはすぐに、現実のものとなった。


 リリスは特に感想を述べない。当たり前のことだからだ。これで褒められると、呼吸していることを褒められるようなものだ。


 霊力を身体に巡らせ慣らし、続いて体外に放出する。放出された霊力は、周囲を漂っている魔力と接触すると、本来は魔力に変質してしまうが、純然たる意思で維持すれば問題無い。逆に、霊力で魔力を捕まえる。これは我が魔王だからこそできること。他の属性の精霊や竜王では、魔力に干渉することはできない。この時点で、これは初歩ですら無い原始的な魔術なのだ。

 魔力を捕まえ、そこにある混然たる意思を認識する。混然たる意思は、純然たる意思の逆だと考えれば問題無い。歓喜が、憤怒が、悲哀が、安楽が、正負入り混じるその意思を掌握し、正負の意思をぶつけ合い相殺する。そして、魔力を純粋な魔力へと変える。


 それを壁のように固めるのが、初歩の魔術。


「【魔障(バリア)】」


 ほとんど無色透明の壁が、宙空に出現する。我のイメージによるものか、若干、紫がかって見えるそれに触れる。伝わる硬い感触が、その存在を証明した。


「流石でございます、ネモ様。成功しております。魔属性、純粋な魔力で構成されたこの障壁は、あらゆる魔法を防ぐことのできる万能の盾。もちろん、使用された魔力以上の魔法には突破されてしまいますが、世界に漂う魔力を支配する魔王様に、魔力切れの心配はありません。ネモ様が、魔法にて斃されることは万が一にもありませんでしょう」

「ふむ、しかし、攻撃を認識してから展開するのでは間に合わぬこともあるだろう」

「それは……」

「案ずるな。今のは、ただの確認だ」


 魔術行使の成功に喜び綻んだ表情を見せるリリスに懸念事項を伝えれば、すぐさま満月のように美しかった表情に陰がつくられる。だが、それは悲観するようなことではない。事前に知れていれば、対策は容易なことだ。


 先ほどと同じ要領で霊力を操り、魔力を捕らえる。それを純粋なそれに変え、カタチに工夫を凝らして固める。


「【魔障鎧衣(バリア・クロス)】」


 霊力は我が意を正確に汲み取り、魔力の障壁を我が肉体を覆う鎧か衣のように形作った。軽く腕や脚を曲げ伸ばししても支障はない。そして、今気づいたが、我はどうやら学生服に身を包んでいたらしい。おそらく、容貌もおよそ日本人らしいものであろう。しかし、学生服では少々威厳に欠けるかと思い、マントをイメージしてみる。霊体は仮初の肉体であるからして、当然のように衣服もまたその一部であろうとの予想の下の戯れは、あっさりと成功。視界の端に揺らめく黒いマントがあった。


「嗚呼、流石にございます、ネモ様。最初の魔術に成功してから幾ばくも無く応用しておられる。まさしく、精霊王様竜王様方と同格の御方でございます。これには傲慢なる人類もすぐさま膝をつき、絶望に咽び泣き、そして、世界の均衡は保たれましょう」


 リリスは【魔障鎧衣(バリア・クロス)】の存在に目を奪われ、頬を上気させ陶然とした表情で我を褒めそやす。どうやら衣装の変化には気づいていないらしい。


「リリス」

「はい、ネモ様。何でございましょう?」

「我の姿を確認する手段はないか?」

「?……おや、ネモ様、そのマントは……?」

「気づいたか。先ほど、ようやく自身の姿に気が回ってな。取り敢えず、無難な方向で威厳のある服装だとされるマントを加えてみたのだ」

「なるほど。流石はネモ様でございます。では、私の霊術によって現在のネモ様の御姿をご覧に入れましょう。……【幻影(ヴィジョン)】」


 我の要望に、ようやくリリスも変化に気づく。流れるように我を讃えながら、夢属性霊術によって我の姿を空間に投影する。


 最初に受ける印象は蛇か狐だろう。冷然とした相貌は醜くもないが殊更美しいわけでもない。日本人らしい黒髪と黒瞳は、死属性のイメージとしてこの世界では不吉な印象を与えるだろう。学生服が、ただの斜に構えたガキのような印象に和らげるが、この世界で学生服にそのような印象はない。それどころか学生服の発祥からして、軍服に近い印象を与え、やや威圧的な印象にも思える。それとも、黒づくめであるのでやはり不吉な印象が一番にあるだろうか。リリスはこの格好について特にコメントしなかった。つまり、マントがなくとも、十分に魔王らしい恰好だったとも予想できるが、はて、やはり、マントが取って付けたような感じがしてならない。その辺りを弄り、違和感を解消する。


「どうだ?」

「お似合いでございます、ネモ様。魔王様にふさわしいご立派な出で立ちかと」


 リリスに確認をとれば、ほとんど変更がないにも関わらず褒め言葉が伝えられる。やはり、学生服に子どもの印象がないのだろう。黒一色である点も評価される部分に違いない。さて、続きといこうか。

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