表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
5/33

5.役目

「そういえば、我らは肉体を持たないはずだが、剣で斬れるのか?」


 ふと、序盤の遣り取りを思い出して湧いた疑問を尋ねる。


「斬れます。肉体を持たないとはいえ、それでは現世において何かと不便ですので、霊力で構成された仮初の肉体、霊体を私どもは持っています。この霊体は、仮初であるため痛覚が無いなどの差異はありますが、基本的には物質的肉体となんら変わりありません」

「そうか……しかし、そうなると死ぬわけではないはずだが?」

「はい、私どもの死とは魂そのものの崩壊しかありえません。しかし、先代魔王様は、自身が守護すべき対象に討伐されたことに発狂し崩壊しました。以後、他の管理者の転生に際しては記憶が初期化される処置がなされるようになりましたが、初期化された者は弱く、記憶を言葉や文字によって継承する人類から逃れることは困難を極め、世界の勢力均衡を崩す一因となっています。竜王様方の転生よりも複雑な魔王様の新生は先送りにされていましたが、そのため、そのまま新たな魔王様を生み出しても焼け石に水に過ぎないことを神様方は悟り、ネモ様の異界の魂という新たな要素が現れることで二代目魔王様が生み出されるに至りました」


 経験の伴わない力は宝の持ち腐れということか。世界の管理者であっても負けるときは負ける。故に、知識によって思考が複雑化する我の魂を利用したわけだ。人類並みに狡猾に立ち回ることを期待されているのだろう。


「それで具体的に魔王は何をするのだ?」

「はい、魔王様のお役目はまず魔宮(ダンジョン)を造成することから始まります」

「魔宮?」

「正確には、その核となる魔宮核(ダンジョンコア)の生成です。魔宮核は、魔術によって生成される純粋な魔力の結晶であり、魔王様の分身でもあります。この魔宮核は周囲の環境に漂う魔力を吸収し霊力に変換し竜脈に流す機能があるのです。ただし、設置場所は固定されるため、一定期間が経つとその領域の魔力濃度が薄くなり、その能率は低下します。そこで周囲の環境を一部霊力を利用して改変、生物の集まりやすい環境としますが、この環境こそが魔宮です。さらに、効率的に集まった生物から魔力を吸収するため、その殺害を目的とした眷属として魔物(モンスター)を生成します。魔物は霊力によって構成される謂わば魔の精霊に相当する存在です。人類の間では、対話可能かどうかで魔族と魔獣に呼び分けることもあるようですが、特に違いはありません。魔物の体内には魔石と呼ばれる魔宮核の子機が存在し、これによって殺害した生物の魔力を吸収し霊力に変換し魔宮核に流す機能があり、また、一部霊力は自身の強化に使用される場合もあります。なお、現在では、魔宮核および魔石は人類の間で資源として利用されており、霊力を汲み上げる装置の素材として特に魔宮核は高値で取引されています。以上の理由から魔宮核は人類に常に狙われており、魔宮と魔物は人類に対する防衛機能としての役割も追加されました」


 流すことができるならば、汲み上げることもできるか。最初にそれに気づいた人物はそれが世界の終末を招くことになるとは思いも寄らなかったのだろうな。


「つまりは、魔宮の運営と防衛が役目か。現在、稼働している先代の魔宮はあるのか?」

「百以上存在していた先代魔王様の魔宮のほとんどは人類に奪われています。先代魔王様の晩年、人類に対する防衛機能を意識して造成された魔宮のうち、極東の島国にある活火山たる霊峰フロウの地下洞窟に一つ、未だ人類が到達し得ない魔海リバイーダの深海の底に一つ、見渡す限りの砂の大海クジャタラの中心に一つ、雲海を貫く世界最大の山脈アトラシアの山頂に一つの計四つが残るのみであり、またこれらの魔宮は若い竜王様方の保護施設としての機能も有しています。また、防衛機能を意識していない魔宮であったとしても、配置された魔物が人類と上手く取引することで存続しているものが二つ。ただ、その二つの魔宮に配置された魔物、見通しが悪く足場も悪い方向感覚の狂う大樹海アルヴヘイムにてゲリラ戦術により抵抗し希少な植物資源を取引することで存続するエルフ、光源の無い閉鎖空間で迷路状に造成された坑道が張り巡らされた大鉱山ドヴェルグヘイムにて籠城戦術により抵抗し業物の武具を取引することで存続するドワーフの二種族は、人類の文明文化、特に酒類甘味に嵌り、人類に対して積極的な友好姿勢を示すものも出ており、味方とは言えません。今のところ、魔宮核の機能は知っているため、人類に引き渡すようなことはしていないようですが、自分たちの呼称も魔物ではなく妖精と改めて人類側に浸透しようと試行錯誤しているようです」


 人類が容易には辿り着けない場所に四つ、味方と言えないが一応の役目は果たしている場所が二つ。百以上あったことを考えると、その数はあまりにも少ない。まぁ、生物を呼び込む性質上、何もいない死の荒野に設置するわけにもいかなかったのだろうが、人類頑張りすぎではないだろうか。


「今更だが、そう言えばここは何処だ?」

「人類の小国にある鍾乳洞ですね。この世界には大陸が一つしか存在しませんが、その大陸のやや東に位置しており、精霊信仰が歪ではありますが存続している比較的マシな地域です。それでも魔宮を侵略し魔物を狩る冒険者と呼ばれる職業は存在していますが」


 そう言えば、幻竜王の説明のとき、この世界のイメージは平らで大陸が一つとそれを囲う海があるばかりだったな。実際のところはどうなのだろうか。

 そのこともリリスに尋ねれば、実際、平らであるとのこと。惑星の概念の方に驚かれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ