32.闘争
ウォーディンの呼び掛け虚しく、生き残った多くの人々が、紅蓮の業火に焼かれた。
「ぎゃあああ!?」「アチぃ!アチィイヨォ!!」「何だ!何なんだよぉ!?」
阿鼻叫喚。一時の安息に訪れた突然の危機。直前までの緊張が強かった者ほど、緩急激しい状況の変化に耐えられない。
場は、混乱ではなく、狂乱の域に達している。
一人が熔岩に飛び込んだ。一人が武器を滅茶苦茶に振り回した。一人が水魔法を考え無しに乱打した。
水蒸気爆発が発生し、何人かが熔岩に落ちた。荒々しい岩壁に叩きつけられた者もいる。
「くそっ!」
思わずウォーディンは悪態を吐く。吐くしかなかった。
最早、彼の声も聴きはしない。集団ではなくなったのだ。
「騒々しいな。これが人類か」
ウォーディンの耳に確かに届いた若く鋭い声。
それは、上からだった。
見れば、赤い侍が二刀を握り、背に炎翼を負って滞空していた。
「魔族、なのか?」
それは直前まで考えていた事柄からくる、ほぼ直感的な言葉だった。
しかして、それが正答たるは何の意味があることか。
「いかにも」
ニィと喜色の笑みを浮かべ、赤い侍がウォーディンに応えた。
「我こそは、魔王陛下に仕える一の臣下、シュカである」
名乗り。そこに見る武人の矜持。
何故これほどまで気持ちの良い男が魔に属するのか。
ウォーディンは、惜しんだ。
ふと周りの気配が静かなことに気づく。
殆どが死んだのだ。狂乱に呑まれてしまった。
僅かな生き残りは、狂乱しようにもできない虫の息、あるいは、生来の臆病者か。
ウォーディンとシュカの事の成り行きが、静かに見守られている。
「俺は、B級冒険者ウォーディン」
「ほう」
シュカは、面白そうに嗤った。
「何故、俺たちを襲った」
「知れたこと。この地を荒らす貴様らを許す道理はない」
「いつからここにいた」
「それを知って何とする?所詮、人と魔は相容れぬ。問答は終いだ。ゆくぞ?」
ウォーディンは、できる限りの情報収集を試みた。が、有用な情報も、時間稼ぎもできはしなかった。
シュカが、炎翼を羽ばたかせる。
ゴウと、燃焼音が響いたかと思えば、既にウォーディンを間合いに捉えたシュカがいる。
力量差を測り兼ねていたウォーディンは、反射的に大剣を防御に使った。
ぶつかる一刀と大剣、激しい金属音と舞い散る火花。
痩身からは想像し難いシュカの怪力に、ウォーディンは衝撃を受けた、物理的にも精神的にも。
硬直と動揺を鎮める間もなく、曲芸じみた動きでシュカが鍔迫り合いを起点にウォーディンの頭上を飛び越える。
もう一刀が容赦無く、斬りにくる。
「うぉおお!!」
雄叫び一つ。ウォーディンは、前進を選択した。
力強い突進は、宙空にあるシュカの身体を容易く跳ね除ける。
されど、肩を浅く斬られた。
「【岩球護壁】」
ウォーディンの次手は、防御魔法。岩壁がドーム状になってウォーディンを囲う。後背、左右、頭上を守り、前方に集中するための代物だ。
それを見て、シュカは躊躇わなかった。
ゴウと、燃焼音を響かせて、愚直に突進してくる。
「【噴炎】」
再び交差する直前。ウォーディンが更なる魔法を発動させる。
それは、火炎のエネルギーによって押し出す魔法。
本来の使い方は、それによる緊急回避。
だが、この男は、それを足りない膂力を補うことに使った。
振るう大剣を押し出したのだ。
これに即座に反応して、シュカは二刀を合わせた。
拮抗は、一瞬。
ウォーディンの身体が滑り下がる。
「ああああ!!」
咆哮。ウォーディンは、更なる魔力を注ぎ込んだ。
宙空に浮くシュカが弾き飛ばされた結果。
場は仕切り直し。なれど、ウォーディンは満身創痍だった。
【噴炎】は断じて強化魔法などではない。全身を押し出しての移動ならばともかく、腕部に限定して負荷を掛ければ、筋繊維が断裂し、悪くすれば骨折。それは、どれだけ魔法の制御に長けようと変わらぬ人体の限界。
諸刃の剣は、ウォーディンの賭けは敗北に終わったのだ。
「善い。愉しい死合だ」
シュカが、地に足を着けた。
「もう少し楽しみたいが、どうやら貴様には余力がないようだ。冥土の土産に、我が最高の一撃を見せてやろう」
「けっ、バカにしやがって」
悪態を吐くウォーディンに構わず、シュカは二刀を上段に構えた。
二刀が、燃え上がる。
「【鳳凰閃】」
シュカが同時に二刀を振り下ろす。
すると、火炎の斬撃が二羽の炎鳥を象って、燕も羨む迅速で飛ぶ。
「【水弾】!」
少しでも生き残ろうと、ウォーディンの水魔法が放たれる。真っ直ぐに飛ぶ炎鳥の一羽に直撃し、その勢いが明らかに落ちた。
だが、そんな足掻きを嘲笑うかの如く、もう一方の炎鳥が一鳴きすれば、勢いが戻った。
「なっ?!」
ウォーディンは知る由もないが、鳳凰とは異界の神鳥の名。
二羽一対の比翼の王にして、不死の霊鳥と謳われるモノ。
その名を冠するシュカの最高の一撃。【鳳凰閃】は、その名の如く不滅の刃であり、受けたモノを焼き尽くす必滅の斬炎。
「くっ!【岩壁】!【真空域】!【海母抱擁】!」
最期の悪あがき。
ウォーディンは、岩壁のドームを完全に塞ぎ、燃焼を妨げる真空の領域を展開し、大量の水で身体を包み込んだ。
リアル事情もあり、8月はお休みします。
ご了承ください。再開予定は未定でありますので、9月から先も休むかもしれません。
完結できるよう頑張りたく思います。応援よろしくお願いします。




