30.朱夏
本日、連投。こちらは、2話目。まだの方は、前の話に
リリスと炎竜王の争いは、終始リリスが翻弄していた。
その決着は、炎竜王が根を上げることであった。
『グゥ……まさか、たかだか精霊の分際でこのオレの攻撃の悉くを避けるとは……』
「ふふふ、坊やだったということですよ。これに懲りたら、技も磨くことですね。獣じゃないんですから」
『ケッ……』
口元に片手を当てて上品に笑うリリスの言葉に、炎竜王は舌打ちしながらも納得した様子だ。
「さて、これで認めてもらえるかな?炎竜王」
ひと段落着いたことを認めて、我は口を開く。
『……あぁ、認めよう。テメェは魔王だ』
若干の間の後、炎竜王は了承の言葉を吐き捨て、魔宮核の祠への道を譲った。
「感謝する」
それだけ述べて、我は祠へと歩みを進める。
岩壁を削って造られた小さな祠、その簡素な石扉を開ける。
そこに納められていたのは、煌々と赤く燦く魔宮核。
支配するのは、勿論。我は、この力ある宝玉を使って新たな戦力を生み出そうと考えていた。
平時は、炎竜王との共闘によって魔宮の防衛を。
そして、戦時においては数少ない攻め手とする。
斃れれば、人類に魔宮核をみすみす奪われることとなるが、ゴブリンやグラビィなどの小物では幾らほどの数があろうと兵卒以上の働きは望めはしない。
この世界には魔力があり、人類には魔法という力がある。これは個人が、地球で開発された殺戮兵器の数々を有するに等しい。どれほど、数があろうと剣や槍で武装した蛮族と銃火器や戦車で軍を成す文明人とでは、その差が歴然であるように、数の暴力の前に圧倒的な質がそれを覆し得るのが、この世界の戦場だ。
リスクを負うことを避けることはできない。
「ありがたく使わせもらおうぞ、先代よ」
爀灼大社は、先代の晩年の作品。若き竜王の避難所とされた傑作だ。
そこに宿る力は、我が誕生するこの時まで人類の侵攻を跳ね返してきたことから自ずと知れるというもの。
この地にふさわしき燃え盛る火焔が如き荒武者をイメージする。
生命の誕生と死滅。熱は常にそれに寄り添うモノ。
故にこそ、地球において不死鳥は、灰と化して死に、灰の中から再誕する。
鉄を鍛え、料理を作るための創造の炎。
森を燃やし、骸を焼くための破壊の炎。
火焔とは、古くより神聖視された神秘の象徴にして、危険視された叡智の種子。
人は時に薪を焚べ、時に水を掛け、紅き隣人と上手く付き合ってきた。
だが、彼に求めるのは良き隣人ではない。
汝、火災たれ。何者にも留め難き熔岩の津波が如き大災害であれ。
さぁ、ここに生誕せよ
我が誇るべき戦士よ
「【魔族生誕】」
先ほど、【竜氣功咆】より変換した魔力を利用する。
火の概念の宿った霊力であったそれは、火属性という方向性において最も良質な魔力である。
我が魔術の行使された魔宮核が赤々と発光する。
その光の強さは、すぐさまに視認を困難にさせ、直視を不可能にさせるほどに強まってゆく。
やがて、その光は熱を帯び、魔宮核を中心に集束してゆく。
卵形となった魔力塊が、その熱量で視界を歪めた。
臨界を迎えたそれが、一気に燃え上がった。
その炎の向こうに、一瞬の煌めきが見えたと思えば、そこには一人の青年が立っていた。
一本に束ねられた毛髪は炎の如きグラデーションに色づき、目鼻立ちは爽快な印象を与えながら逞しい。
一見して華奢に見える痩身は、しかし無駄なく鍛え抜かれた武人の剛体。それを覆うはここがミズホの地であることを受けてか、侍の如く。
手に握るは、二振りの刀。両手を鳥の翼の如く広げているのは、おそらく炎を斬って退けたからであろう。
青年は、残心の如く間を開けて、二刀を腰の鞘に納めた。
我に視線を一つ向け、跪く。
「お初にお目にかかります、我が父よ」
それが青年の第一声だった。
「あぁ、初めましてだな。無事の生誕、喜ばしく思う、炎の戦士よ。汝の名は、シュカ。朱き炎、炎天の夏の申し子。どうだ、お前に相応しかろう?」
「謹んでお受け取り致します。我が名、シュカに誓って、我が父に勝利を捧げてご覧に入れましょう」
厳かに、シュカは誓う。
嗚呼、期待している。この若く忠誠厚き戦士の活躍を。
我が道筋を照らす光明となることを。
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