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私の魔王様  作者: 龍崎 明
中編 勇者選定
27/33

27.麓

 依頼当日。


 帝国より派遣された魔宮攻略軍およそ5500。


 その威容は、霊峰フロウの麓にあった。


 陣地を構築し、正にこれより城攻めをするかのような有様。兵たちの動く様は、慣れを感じさせ、その練度を伺わせる。

 だが、士気は高くない。人類の障害たる魔宮を前にして、憎き獣害だろう魔物の巣窟を前にして、彼らには憎悪の火種程度のものしかない。燻って、薪が足りぬと、既に大火の燃え上がった後のような心持ちだ。


「消化試合か」

「おう、わかるか」


 我の呟きに、ウォーディンが反応する。


 この男、何を気に入ったのか、ほとんどの時を我らと過ごしていた。他の冒険者との連携を円滑にするための、潤滑油的な動きを基本としているようだが、それでも我らのところに身を置く間が長い。


 多少、リリスに人を避けるような素振りがあるものの、冒険者であれば間々あるところ。この程度であれば、多少のフォローで後は放置できる問題だ。似たような気性の者は少なくない。


 それでも、我らを気にかけるならば、警戒かとも考えるところだが、この男の発する魔力にそのような色はなかった。


「いつも通りの雰囲気が出ている。外様の我でもわかるほど、あからさまに」

「オマエさんの言う通りだ。奴らに攻略しようなんて気概はねぇ。お上はどうかしらねぇが、平どもからすれば、3ヶ月ほどで交代する実戦訓練だ。ま、長年続けて成果無しとなれば、仕方の無いことではあるがな」


 長年続けて成果無し、か。


 世界の一大強国とはいえ、ミズホはその領土より最も遠方の地。軍の遠征など金が掛かってしょうがないだろうに、文官武官の対立が、どっちつかずの派兵計画にしてしまっているのか。


 まぁ、こちらとしては都合の良いこと。


「ま、俺らには関係のないことさ。きっちり働きゃ、実績と報酬が付いてくる。安い仕事だぜ」

「そのようだな」


 おちゃらけたように最後にウォーディンはそんなことを言った。だが、その後に続いた小さな独り言には、巫山戯た様子は一切無かった。


「……魔宮を攻略するのは、俺たち冒険者の仕事だしな」


 それは冒険者としてのプライドからくる言葉。己の領分を侵されたことに対する確かな怒り。


 芯のある男の、心地よい姿だった。


「人間風情が、魔宮の役割も知らずよく吼える」


 ウォーディンが遠のいたところで、リリスが呟いた。


「良いではないか。真実を知ろうと知るまいと、魔宮が人間どもにとって害のあることは変わりない。あの男は、己の強さと才覚を信じているのだ。それを発揮できる舞台を必要としているに過ぎん。その動きが目に余るなら、我手ずから相手にしてやれば良い。それで満足しよう」

「ネモ様があのようなモノに煩う必要はありません!その時には、私が捻り潰してご覧に入れます」


 我の言葉に、リリスが慌てて口を挟む。


「そうか?では、その時は任せよう」

「はい、お任せください」


 我の任せるという言葉に、リリスが満面の笑みで返事をした。




 さて、夜である。


 今日一日は、夜番の者たち以外、英気を養うことに専念することができることとなっている。翌日、朝一番に魔宮攻略に取り掛かるとのことだ。


 我ら、獅子身中の虫を知らず、夜番の者たちとてカタチばかりの警戒だ。


 仕掛けるならば、絶好の機会。


 強者の気配は、ウォーディン以外に無く、最早、伏して待つ時は終わりとして問題はないだろう。


「リリス」

「はい、ネモ様」


 我が意を汲んで、リリスが幻術を行使する。


 それは、幸福なる夢の檻、甘美なる毒、囚われては目覚めること叶わじ、侵されては抗うこと叶わじ。


「【陶幻郷(スウィート・メモリー)】」


 既に微睡んでいた者たちが深く深く沈んでゆく。


 かつてあった幸福に、かつて望んだ快楽に。


 やがては、僅かばかりの夜番たちも、甘い香りに誘われて、華やいだ祭囃子に招かれて、深く深く沈んでゆく。


 夢属性とは、時空を司る属性。


 そして、時空とは、存在を証明する法則であり、記憶を記録する法則である。


 そのような力に晒されて、抗えるモノがどれだけいよう。


 夢の精霊は、かつて惑わしの魔物へと堕とされた。


 だが、それは逆に言うならば、人類にそれ以外の抵抗の術がなかったのだ。


 心に響く甘美なる毒。それに対する薬は無く。


 ただ、強く、ただ、確かに、己の本性を、弱さを、醜さを、あるいは、信仰を、明確にする他になかった。


 違和感を抱かない者に、目覚めの門は開かない。


「制圧完了しました、ネモ様。贖わせますか?」

「流石だ、リリス。だが、殺すな。……サバト」


 リリスを褒め、そして、闇夜の魔人を呼ぶ。


「ここに」

「一人ずつ、確実に、眷属としてゆけ。ウォーディン、あの冒険者は最後だ」

「承りました」


 我が命に、ユラリと現れた魔人は粛々と応じる。


「では、我らは赴こうか。先代の遺産に」

「はい、ネモ様」


 ことに取り掛かったサバトに問題のないことを確認して、我はリリスと共に歩みゆく。


 先代魔王が、炎竜王のために用意したという大魔宮。


 灼熱に燃え盛る霊峰の地下神殿『爀灼大社』へ。

評価・ブクマのほど、よろしくお願いします。


ちょっと息切れ気味ですけど、まだしばらくは宣言通りの更新頻度を維持することができるでしょう。


もう少し、書き溜めしておくべきでしたね。いつものことではありますが。

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