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私の魔王様  作者: 龍崎 明
中編 勇者選定
26/33

26.B級冒険者ウォーディン

 一先ず訪れたのは、冒険者ギルドだ。魔宮攻略を生業とする冒険者たちの管理・援助団体であるため、公の情報であれば手に入れやすい組織である。


 最初の小国で登録はしたものの、ランクはEで止まっている。それから活動らしい活動もしていないので、会費の滞納で除名処分となっていても不思議ではない。

 しかし、依頼掲示板は確認できる。リリスの幻術によって興味を抱かせぬまま、堂々とそれへ近づいた。


 何某かの採取依頼や街道付近に出た魔物討伐依頼に紛れ、魔宮関連の依頼を探す。


「ふむ、これは……」


 目に留まったのは、攻略軍からの魔宮の案内依頼。内容だけなら当たりを引いた部類ではあるが、参加条件は地元の冒険者であることとC級以上であることであった。


 他にも魔物の露払いや荷物持ちなど細々とした攻略軍からの依頼はあるが、要求される参加条件は最低でもD級であった。どうやらそもそも魔宮の脅威度設定がそのランクであるらしい。


 さて、これは困った。


「おう、オマエら難しい顔をしてどうした?」


 我がどうしようかと思案しているところに掛かる無遠慮な男の声。


 リリスを見やれば、その顔にあるのは困惑の表情。認識阻害の幻術は張ったままなのだろう。


 当の男に振り向けば、短く切り揃えた赤髪に日に焼けた褐色の肌が盛り上がる筋肉を強調する偉丈夫の姿をしていた。


「誰だ?」

「俺を知らねえとは、外から来た冒険者だな。俺はB級冒険者のウォーディンだ」


 我が誰何に、ウォーディンを名乗る男は自信を誇示するように胸を張った。


「そうか、我らはE級のネモとリリスだ」


 我の紹介に合わせて、リリスが頭を僅かに下げる。


「ほう、その強さでE級止まりか。金持ちの道楽か何かか?」

「まぁ、そんなところだ」


 会話は続く。曲がりなりにもリリスの幻術を破った男だ、油断はできない。しかし、幻術を破っているならば、リリスの美貌にも気づくはずであるがそれに反応する様子はない。


「まぁ、素性の詮索は、冒険者のマナー違反だな。それよりもだ。オマエらは攻略軍に参加したいらしいな?俺が協力してやってもいいぜ」


 ウォーディンの提案は願ってもないことだ。だが、しかし、彼にメリットはないはずだ。


「いいねぇ。それだけの警戒心があれば、少なくとも損をすることはねぇ。ま、今回は損の無い話だぜ?」


 こちらが訝しんだことを受けて、ウォーディンがさらに話し出す。我らは無言でそれを促した。


「俺は自分で言うのも何だが実力者でね。今回の攻略に参加する冒険者たちの質を高めるために、スカウトの依頼を受けてるのさ」


 なるほど。地元の実力者の選抜であれば、地元の冒険者に不満が溜まることは最小限に抑えられる。軍の依頼は、その報酬こそ相場を超えないものの、実力さえ認めて貰えば勧誘の目が出てくるし、そうでなくとも実績にもなる。多くの有象無象が受けたがるところを、この男を使うことで上手くギルド側がコントロールしているのだろう。


「そういうことか。確かに我らは攻略軍に参加したいと考えていた。そちらが協力してくれるというのなら願ってもないことだ」

「そうだろうとも!さぁ、早速、名簿に登録してやろう!こっちに来てくれ」


 我の了承の言葉に、ウォーディンはわざとらしい上機嫌で受付に足を向ける。


 特段、何かあることもなく、我らが攻略軍に参加することに成功した。




 その後、適当にとった宿にて。


「申し訳ありません、ネモ様」


 リリスが頭を下げていた。ウォーディンが幻術を破ったことについてあろうことは、すぐに思い当たる。


「良い。結果的にとはいえ、攻略軍への潜入に滞りなく成功した」

「しかし……」

「あれが破ったのは、認識阻害のみだ。容貌の隠蔽については問題はなかった」


 未だ頭を下げ続けているリリスの反論を遮り、淡々と事態を語る。


「そもそも認識阻害は、通行で妨げとならないようにそこにいることについては認識できるようになっている。あの男は、スカウトという目的があった以上、依頼掲示板の前に立つ人物には元より注意を払っていたのだろう。そこに実力も加われば、常時発動させる類いの術が破られようとも不思議はない」

「私にもっと力があれば……」

「いや、今回の事態はそもそもとして想定内のことだ。我は言ったはずだ、不思議はない、と。実力者を炙り出すための指標の一つとしていたのだ。思い詰めているところで悪いが、な」

「……ネモ様のご配慮、痛み入ります」


 深く深くリリスは頭を下げた。さて、これは感謝の礼か、それとも自身を不甲斐無く未だ想うことを隠すためのものか。


「気にする必要は無い。お前とて戦闘用の術を用いれば、あの程度に遅れを取ることは万が一にもあり得ないのだから」


 我が最後に掛けられる言葉は、当たり障りのない何の響きもないそんな内容であった。

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