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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
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24.魔王城

 ミズガルズの象徴、白き巨塔を登る。やがて、屋上に辿り着き、その頭上にて輝ける紅き月を見上げる。


「眼を開けろ」


 ただ一言。我のその言葉に反応して、紅き月が蠢めく。


 ゆっくりと彼は眼を開いた。その巨躯の中心に、金色の瞳を輝かせる単眼だ。


「ヴァルプルギス」

「はっ」


 我が呼び掛けに応え、ヴァルプルギスがその身を血霧へと変じた。血霧は風も無いのに、ゆらゆらと紅き月に吸い込まれていった。


 これこそが、『月下の冥王』が不死身である仕掛け。


 彼の本体は、この月なのだ。


 人間態は最早、分身に過ぎない。


「用意は良いか?」


『はっ、いつでも構いません』


 我が問い掛けに、思念波によってヴァルプルギスが答える。その返答に頷き、我は自身の霊力を汲み上げる。


 周囲一帯の滞留魔力に干渉していく。


 それはミズガルズの都市を越え、霧がかる外にさえも及ぼしていく。


 それに合わせるように、リリスとベルトリンデとスカーレットが各々の霊術を展開する。


 白き霧が、徐々に徐々に黒く染まってゆく。


 異常を察知した鳥獣が逃げ回るのを、魔力越しに感じ取る。


 やがて、全ての霧は黒く染まり、我は最後の仕上げにヴァルプルギスの魔石にこの術式を接続する。


「【魔王城創造パンデモニウム・クリエイション】」

「【幻惑結界(ワンダー・ゾーン)】」

「【屍隷結界(アンデッド・ゾーン)】」

「【四霊門鍵(エレメンタル・ロック)】」


 ミズガルズの都市を造り変える。


 我が拠点。人類の天敵たるモノに相応しかろう漆黒の堅城。


 その城壁は、三重の結界。


 リリスの幻術によって、あらゆる感覚を乱される惑乱の結界。


 ベルトリンデの呪術によって、死者を徘徊する門番へと変える冒涜の結界。


 スカーレットの魔法によって、四大精霊のチカラ無くば決して開くことのない世界の錠前。


 今できる最大の防衛設備だ。


 容易に突破することはできまい。少なくとも、【四霊門鍵】は突破できん。精隷石経由でもどうにかすることはできるが、それは今の利益を手放すことに繋がる。しばらくは、何もできまい。


「どうだ、ヴァルプルギス?」

『はっ、問題はございません。魔王城並びにその周囲一帯の環境について把握、三重結界の術式の不備もまたありません』


 ヴァルプルギスの魔石こそが、この魔宮の核だ。故に、魔王城全体を把握し、管理することが可能となる。


 我が外で活動している間の防衛を一任することとなる。


 サバトの諜報活動が上手くいったとしても、情報の集積地が無くば十全に機能しないだろうからな。拠点が必要だったわけだ。




 後に、ミズガルズの悲劇と人類史に記録される事件の日から、幾日か後のことである。


 大陸北西部に広大な領土を有する人類の最大勢力たる超大国の首都にも、ミズガルズでの出来事が伝わっていた。


「七番は死亡。その護衛を担っていた聖騎士部隊も壊滅。情報を持ち帰ったのは、白影騎士のみ、か」


 伝統と格式に則った模範的執務室で、その男は淡々とその報告内容を咀嚼していた。


 紺色の毛髪を後ろに撫でつけ、美麗なる尊顔を隠すことなく曝け出したその姿は、正に王者の気質と言うべきオーラを纏っていた。


 そして、毛髪と対照的な暗い赤色の眼光には、野心と知性がギラギラと輝いている。


 その男の名は、ナニガ・ナンデル・ハッテンス。


 神聖ハーテ帝国は皇族の一人にして現皇帝の息子の一人。


 第一皇子その人だ。


「魔王、か。初代の頃より、その復活は確実視されてはいたが、まさか私が存命である時とは、運の悪いことだ。聖属性の攻撃が効かないのは、仕方あるまい。霊力転換など今の時代、極一部の者にしかできんが、記録が事実だっただけのこと。できる者はいるのだ、後は状況を整えれば良い」


 血を分けたはずの第七皇子死亡への動揺は些かも無く、ナニガはただ淡々と新たなる障害への対策を構築してゆく。


「……確か、竜王討伐作戦を実行中だったか。魔王の役割を考えれば、邪魔が入るのは必定。しかし、東は今から対策をしても遅かろうな。……狂信者どもとの情報共有は後数日遅らせるべきか」


 ナニガの思考に浮かぶのは、今の時代までしぶとく存続し続けている難攻不落の魔宮の攻略計画。


 神聖ハーテ帝国の版図自体は確かに、大陸北西部のみ。しかし、人類の最大勢力として世界全体に影響力を持つ一強国家というのが実状だ。それでも、大陸統一が果たされていないのは、国教である聖心教の方針との兼ね合い、異なる文化・文明との接触・併合のデメリットを重く見ての判断であった。


 聖心教の主神は創造神ブラフヴァであり、その教えは全ての人類は神に愛された存在である。そのため、無益な争いで人類を磨り減らすことに消極的だ。そのような教義の元で、国家の秩序安寧を図っている帝国においてその国民感情は概ね厭戦主義なのである。


 ただ、神敵たる魔に属するモノどもには容赦が無い。


 そのため、その国力を背景とした圧力外交によって、帝国は大陸各地の魔宮に攻略部隊を定期的に派兵していた。


 今回もまた、その定期的な派兵でしかなかったため、魔王に対抗できる目のある特級戦力は存在しない。


 文字通りの全滅すら有り得る状況にしかし、ナニガが心を痛める様子は無かった。


「……恨みは無い。だが、魔王よ、我が国にとって、貴様は邪魔でしかない」


 淡々とナニガは思考する。


 人類の天敵を屠り得る最高の状況を整える為に。

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