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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
22/33

22. 月下の冥王

「そうだ!私は勇者の血を引く者!魔王を討ち果たす力を、この身に宿している!恐れ慄け、魔王!」


 バカなのか、ブタなのか。第七皇子は鼻息荒く大見得を切った。


『ほう、それで?』


「恐れぬか魔王!私こそは勇者の正統なる後継!お前を討ち果たす者だぞ!」


 ブタは、我の言葉を都合よく解釈しているらしい。何の抑止力にもならないことを喚き散らして滑稽に啼いていた。


『では、その力を見せてみよ。我は魔王サタナエル。人類の天敵たる我が引く道理を示してみよ』


「なっ……?わ、私は!勇者の正統なる後継!神聖ハーテ帝国の第七皇子!魔王さえも跪くべき天上人なるぞ!!」


 いつまでも恭順の態度をとらぬ我に、ブタは混乱しているようだ。唯一の(よすが)なのだろう自身の血統を喚くだけとなった。


 傲慢に過ぎる。自身を過度に特別視するその様は、ひどく痛々しく憐れみさえも湧きおこる。理性を失くした人は、知性がある分、獣たちよりも質が悪い。


「私は!……っ!?」


 遂には、おそらく名乗りを上げようとしたブタの首を斬り飛ばした。このようなモノの名など知りたくもない。


「殿下……」


 まだ残っていた護衛が、顔を青褪めさせた。このまま帰国すれば、処分を免れないからだろう。だが安心するがいい。そも、お前たちは帰れん。


『さて、これで理解できたことだろう。我こそは魔王サタナエル。人類諸君の天敵だ』


 場を仕切り直し、呆然とする人類の意識を集める。


『だが、喜ぶがいい。お前たちは運が良い。お前たちの罪は、死ではなく働きによって許される』


 ザワザワと我の言葉を受け止めて、波紋が広がりゆく。そして、畏まった態度にて、一人の男が進み出た。


「今の御言葉は、どのような意味でございましょうか」

『その前に名を名乗れ』

「はっ、失礼致しました。私は、ここミズガルズの市長を務めております。ヴォルフガングにございます」

『ほう、ヴォルフガングか。知っているぞ、「基礎理論」の著者であろう』


 我は、その役職と名を聞いて散策の折に訪れた本屋にて手に取った魔道書を思い出した。


『確か、魔力の危険性について書かれていたな』

「魔王陛下のお目に留まるとは、光栄にございます」

『クククク、丁度良い機会だ。魔力の支配者たる我が答え合わせをしてやろう』

「答え合わせでございますか?」


 我の言葉に、畏れを抱きながらも僅かの好奇を覗かせてヴォルフガングは尋ねてきた。


『そうだ。我が認めよう。魔力とは、世界を破滅させる力であると、そして、魔王とはその具現であると』


 真実の中に嘘を織り交ぜる。魔王の誕生には、魔力が先であると。人類に伝わるものはこちらの方が都合が良かろう。全ての真実を明かしたとて、創造神が人類に狂っている以上、認められるものではない。


『ヴォルフガング、お前の理論は正しかったのだ』

「あ……」


 ツーっと、ヴォルフガングの片目より涙が流れた。


「……では、人類の罪とは?」


 その言葉に、我はただ頷いた。それを受けて、ヴォルフガングは静かに俯いた。


「魔王陛下に平にお願い申し上げます。我らが罪を雪ぎ給え」


 それはまさしく、罪を悔いる死刑囚。


『良かろう』


 我は鷹揚に頷き、覇王の魔石を手元に取り出す。


『汝は罪を知り、罪を認め、罪を悔いた。その高潔な精神に免じ、汝に死よりも苦しい罰を与えよう』


 思い描くは、地球にて描かれた堕ちた人類。自ら怪物となり果てた不死身の人外たち。


 ある者は、若さを求めた。ある者は、公正を求めた。ある者は、復讐を求めた。ある者は、永遠を求めた。ある者は、知識を求めた。ある者は、優越を求めた。ある者は、淫靡を求めた。


 それは、美しき願望と醜い渇望の具現であった。


『ここに新たなる魔族は誕生する。【魔族生誕バース・オブ・デスペラード】』


 覇王の魔石がヴォルフガングの肉体に吞み込まれると、霧の都に赤みが射した。


 【魔族生誕】は演出も兼ねた【魔宮主変成ダンジョンボス・クリエイション】の応用であったが巧くいったようだな。


 いつの間に夕方になったのかと人類たちが空を見上げる。しかし、そこに輝けるのは、不吉な紅い月だった。


『汝に名を贈ろう。「月下の冥王」ヴァルプルギスと』

「ありがたき幸せ」


 不遇にあってどこか暗い雰囲気のあったヴォルフガングの姿はどこにもなかった。彼のいた場所に立つのは、ロマンスグレーの毛髪を後ろに撫でつけた渋い美丈夫。


『さぁ、最初の仕事を為せ、ヴァルプルギス』

「御意」


 返事を終えるとヴァルプルギスの姿が霧散する。


 そして、観客席にいた人類の一人に噛みついた。魔王の感覚が、その牙より魔力を送り込んでいることがわかる。


 やがて、充分な魔力を送り込んだところで口を離す。


 噛みつかれた者もまた、魔族となったのだ。こちらは、総称としてサバトとしておこう。


 ふらりと、最初のサバトが隣にいた人類に噛みついた。サバトが、サバトを生み出す確率は半々だったが、今回は巧くいったようだ。


 我がその結果を予測された性能と比較している間に、一人また一人と犠牲者は増えていく。


 ようやく自分たちの状況を理解した人類たちが、悲鳴を上げながら我先にと逃げ出した。

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