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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
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21.魔王再臨

 大魔導戦が白熱するその最中、我は魔術を行使した。


「【破界魔封(ディスペル・ゾーン)】」


 その瞬間、全ての魔法が消えた。


 実況の声を届けていた拡声の魔法が、観客を保護していた結界の魔法が、そして、大魔導戦にて競い合っていた魔法使いの魔法が、その魔力を霧散させ消失した。


 一拍遅れて、辺りを静寂が包み込む。魔法都市にあってはならない異常事態。人類は、思考を真っ白に染めた。


 それが、不安の騒めきとなる前に、我は声を掛ける。


『お初にお目にかかる人類諸君』


 上空より、ゆっくりと降りながら


『我が名は、サタナエル。二代目魔王サタナエルだ』


 我の存在を印象付ける。


 傲岸不遜に、泰然自若に、人類の宿命を思い出させる。


『お前たちの罪を、償う時が来た』


「何なの……?」「冗談、だよな?」「罪、だと……」


 大魔導戦の舞台中央に降り立ったところで、ポツポツと人類たちが言葉を発する。


「魔王など、御伽噺だ!神聖なる大魔導戦に乱入した罪を、お前こそ償うがいい!【炎槍壊(フレイム・ランス)】!」


 血の気の多いらしい大魔導戦にて戦っていた魔法使いの片割れが、我に対して魔法による攻撃を試みる。


「……は?」


 しかし、【破界魔封】は今だ効果を継続している。彼の魔法は火種一つ生み出すこともできなかった。


『クククク……滑稽だな。魔法使いなどより、道化師の方が似合いなのではないか?』


「何だと!?もう一遍言ってみろ!テメェの骨も残さず燃やし尽くしてやる!!」


 怒り狂う魔法使いの男は、状況も理解せずにさらなる魔法の行使を試みる。だが、何一つ発動しない。


「クソっ、くそが!テメェ何しやがった!?何で俺の魔法が使えねぇんだよぉ!?」


『これが何か分かるか?』


「あ?」


 何一つ自分の思い通りにならないことに、彼はすぐさま我慢の限界に達した。そして、我に逆ギレぎみに状況の理由を尋ねる。我はそれに対して一つの本を見せた。


 それは、絵本だ。この世界の人類が必ずと言ってよいほど、幼き頃に読み聞かせられるありきたりな王道の英雄譚。道中、本屋から拝借してきたものだ。


「『勇者と魔王の物語』?それがどうし、た……」


 勇者が魔王を斃し世界を救うこの物語を、当然、彼も知っていたのだろう。そして、そこには魔王の一つの特徴が描写されている。


『「マオウはひとびとをこわがらせました。なぜなら、マオウにはかみさまからもらったすごいちから、まほうがきかなかったからです。」』


「本、物?」


 彼が茫然と呟いたそれは、驚くほどによく響いた。


「え?」「ウソ……」「そ、んな……」


『「さらにマオウは、すべてのまほうをつかうことができました」』


 その一節を読み上げて、手に持つ絵本を燃やす。


 灰となって零れ落ち、その灰をそよ風で散らした。


「あ、あ、嗚呼、あああぁぁぁぁぁああああ!!!!」


 発狂したように男が叫ぶ。ドタドタと不格好に走って、我へと拳を振りかぶった。


『【魔障(バリア)】』


 彼の拳は、我の魔術にて張られた障壁にぶつかった。


「神聖騎士よ!あの無礼者を討て!」


 そこに轟いたのは、豚声だった。


 プラチナブロンドの毛髪を生やした格好だけはどこぞの王族のようなブタがふんぞり返っていた。


 そして、ブタが命令を下したのだろう騎士が、既に眼前まで迫っていた。


 磨き抜かれた剣が、振り下ろされる。


「なっ!?」


 驚愕したのは、騎士の方だ。騎士の剣は、我が常時纏う【魔障鎧衣(バリア・クロス)】を破ることはできなかった。


「【神よ、輝きをここに】!」


 しかし、流石といったところか。動揺は最小限に次なる一手に動いた。それは聖属性魔法。唯一、魔王との戦いにおいても使えたことが先の絵本でも描かれている。


「何故だ!?」


 魔法は発動しなかった。


 絵本というのは、噛み砕かれて簡略に描かれている。だからこそ、何故、魔王に聖属性魔法が有効だったのかは伝わってはいない。喉元過ぎればなんとやら、長き時の中で本当の理由は少なくとも大衆からは失伝してしまったのだろう。

 聖属性が有効なのではない。聖属性によって、自身の魔力を霊力に転換することが有効だったのだ。まぁ、そもそも霊力転換はかなりの高等技術だ。聖属性の発現者自体が少ない以上、それを知っていたとして対処ができたとは思えない程度のリスクだ。しかし、僅かに肝が冷えたことも確かだ。まさか、聖属性持ちがこの場に存在したとは。


『【魔刃(エッジ)】』


 魔力の爪撃が、騎士を煌びやかな鎧ごと切断する。


「バカな!?神聖騎士が負けるはずがない!?」


 ブタが現実を受け止めきれず、唾を飛ばしながら喚いている。


『【魔弾(バレット)】』


 魔力の弾丸を放つ。


「殿下!」


 しかし、その一撃には護衛が身を挺して身代わりとなった。


「な?わ、私は神聖ハーテ帝国の第七皇子であるぞ!」


『それがどうした。魔王たる我に何の関係がある?勇者の血統をかたれば、魔王が怖気づくとでも思っているのか』


 神聖ハーテ帝国の第七皇子か。創造神ブラフヴァを信仰する聖心教の総本山を有する大陸北西に広大な領土を囲う現在の世界で最も隆盛を極める超大国だとリリスからは聞いている。さらに、皇族は勇者の子孫を自称していることも。最大の障害であるのは確かだが、今この場で恐れる道理はない。


「そうだ!私は勇者の血を引く者!魔王を討ち果たす力を、この身に宿している!恐れ慄け、魔王!」


 バカなのか、ブタなのか。第七皇子は鼻息荒く大見得を切った。

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