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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
20/33

20.百獣の覇王

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。これより大魔導戦を開催致します!」


 都市中に響き渡る開催宣言。


「今年もまた、選りすぐりの魔法師たちがその研鑽を、その叡智を、その戦いを披露し、魔道の導となるべく参戦してくれました!」


 我はそれを聞きながら、【魔刃(エッジ)】を放つ。


 まるで豆腐のようにあっさりと細切れになる衛兵たち。


 ここはミズガルズの中枢部。無骨な白皙の巨塔、その内部。地下通路。


「何なんだ?!お前は一体、何なんだ?!」


 衛兵の一人が、問い掛ける。我はそれに笑みを返す。


 【魔刃】によって真っ二つ。


「我の使う魔法でわかりそうなものだが……魔法都市といえど、この程度か」


 独り言ちる。


「魔王の脅威が去って久しいからね。気付けという方が酷というものだよ」


 同伴者であるスカーレットが口を開く。彼女は、道案内役だ。まぁ、この先のことは彼女も知らないが。

 リリスとベルトリンデには、入口に待機してもらい、異常の発見を遅らせてもらっている。


「そうかもしれん。だが、無責任に過ぎる」


 我の返しに、スカーレットが押し黙る。


 しばらく無言の行軍が続く。衛兵の姿が途切れたと思えば、魔動人形(ゴーレム)の大群が襲い来る。


 蒼みがかった独特の銀色をしたその装甲は、おそらく霊銀(ミスリル)によるものだろう。魔法の触媒として優秀な金属だ。


 だが、我の前には意味を成さない。


「【破魔(ディスペル)】」


 ただ、それだけで魔動人形に組み込まれた命令術式(プログラム)が崩壊する。ただの置物と化したガラクタたちは、自重により斃れ臥した。


 最後に現れたのは、獅子をベースに、蝙蝠の翼と蛇頭の尾、熊の四肢をもった混成獣(キメラ)だった。


「憐れな、【破魔(ディスペル)】」


 歪みきった生命を維持する術式が崩壊し、混成獣はその恐ろしさを示すことなく亡骸を晒した。


「此処か」


 一際、厳重な門扉を前に、それはやはり【破魔】にて開く。


 魔法的な錠に意味はなく、我の眼前にそれは姿を現す。


「これは?!」


 それを覗くスカーレットが驚愕を含む声を上げた。


「どうした?」

「そ、んな、ライガル……?」


 呆然とするスカーレットには、我の問い掛けは聞こえなかったらしい。仕方ないので、【魔眼(スキャン)】にてそれを見る。


 それは、一人の戦士の記録。


 戦闘教導用魔族『百獣の覇王』ライガル。


 自然に生きる獣たちが、無意識に身につける合理的動き。その全てを理解し、人の動作に落とし込んだ武術の開祖。


 先代魔王が生み出した四体の始祖魔族の一体。


 豪放磊落な大男。獅子のように泰然で、虎のように孤高だった。


 人類の裏切りを受けて、彼は当然のように先代の元に馳せ参じた。


 そこに如何なる想いがあったのか。


 師を超える弟子こそ本懐であったか。


 生みの親への忠義であったか。


 何であれ、先代が彼に翻意を促すことはしなかった。彼に迷いはなかったのだろう。


 やがて、来たる人類の精鋭。勇者とその仲間たち。


 その内に、彼はかつての直弟子の姿を見る。


 彼に、言葉は無かった。


 勇者たちの呼び掛けにも、問い掛けにも、一切応えることはなく、構えをとり続けた。


 そして、勇者たちが戦うことをようやく決めたところで、すぐさま踏み込んだ。


 最期にあっても、やはり言葉は無く、直弟子の一撃を受けてただ口角を釣り上げ、笑った。


「ふむ……」


 見ることができたのは、あくまで記録。記憶を見ることはなかった。ライガル自身に未練が無かったのもあるだろうが、まぁ、あれからかなりの時が経っていることだし、仕方あるまい。


 それを無造作に掴み上げる。


 『百獣の覇王』の核となっていた魔宮核にも匹敵する魔石。環境調整機能と魔物生成機能を削った霊力を汲み取るだけの代物だ。つまり、強大な存在を創るためだけの核か。

 魔宮核では無かったが、予定を変更するほどのことでは無いな。


「構わないな、スカーレット」

「……うん、あの時に別れは済ませた。大丈夫さ」


 友人の成れの果て。それを見て取り乱していたスカーレットだが、我が確認している間に落ち着きを取り戻していた。

 我の確認に、スカーレットは真面目な顔で頷いた。


 来た道を戻る。


 爆音が響き渡る。大魔導戦に炸裂している魔法の音だろう。遅れて、歓声も聞こえ来る。どうやら一つの勝敗がついたらしい。


 呑気なものだ。己らの足元で蠢動する我らを知らず、終末の兆しを見せた世界を知らず、かつて犯した罪を知らず。


 己らの繁栄を永遠のものと疑わぬ、愚かで滑稽な愛しき神の被造物。


「ネモ様、如何でしたか?」

「順調だ。利用されていたのが、これであったのは想定外ではあったがな」

「ライガル……」


 リリスもまた、それの正体を即座に看破った。


「ネモ様……」

「不可能だ。彼自身、未練を残さなかった」

「そうですか。差し出がましいことを申しました」

「かまわん」


 復活を望むリリスの言葉を、皆まで言わせることなく否定する。それを改めて聞かされたスカーレットの顔が僅かに歪む。しかし、それも一瞬であった。


「さあ、行くぞ」


 我の言葉に、リリスが、ベルトリンデが、スカーレットが頷いた。

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