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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
16/33

16.魔族

 案内されたスカーレットの家は、閑静な住宅街に位置するこじんまりとした一軒家だった。どこか魔法使いのとんがり帽子を思わせるデザインだが、それ以外に特徴と言えるものはない。


 なお、リリスの機嫌は道中に自然と回復しているように見える。


「ほらほら、入った入った」


 玄関戸の鍵を開けたスカーレットが、せかせかと言葉だけで我らの背中を押す。それに促されるようにまずベルトリンデが入り、その後にスカーレットが続く。


「邪魔をする」

「は~い、いらっしゃい」


 そして、言葉を添えながら我が入れば、最後にリリスが続き外を警戒してから戸を閉めた。


「こっちね~」


 入ってすぐのところに、手狭なリビングとキッチン。整然としてどこか生活感に欠ける光景が目に入る。スカーレットはそちらではなく、地下へと続く階段の方で我らを手招きしていた。

 特に異論はないのでその案内に続けば、奈落を覗いたかのような暗がりの中を進むこととなる。


「あぁ、この暗がりは隠蔽の魔法によるものだからね。見た目ほど深くはないよ。この都市では、魔法実験によく地下が利用されるから、どこの家にも地下室は備わっていてね。誰でも密談し放題さ。まぁ、研究者気質の人ばっかりで、陰謀なんて滅多にないんだけどね」


 誰かが尋ねたわけでもないのに、ペラペラとスカーレットが地下室に関することが始まり、この都市の事情や暗黙の了解というものを語りだす。その様子は愉しげであり、彼女の素の性格を表しているようだ。この都市に住み着いているのも、それに由来するものか。刹那主義か快楽主義か、とかく彼女には暇人という印象を受ける。そもそも魔物である彼女が、人類社会に紛れ込むのは命のリスクが常に付き纏うものだ。魔法の研究をするだけならば、御伽噺の魔女のように森奥で勤しめばよい。それをあえて、この都市にいるならば、彼女の目的は人間観察やいつバレるかというスリルだろう。自称・妖精どもと違い、別段、人類と友好的に暮らそうとは考えていないはずだ。我らに接触したのは、そちらの方が面白そうだからといったところか。


 スカーレットに対する考察を丁度、終えたところで視界が明けた。雑然とした空間だ。至る所に一見してでは何かわからないものが置かれている。怪しげな土産物屋の品ぞろえに近い。スカーレットはその中から、テーブルになりそうなものと椅子になりそうなものを引っ張り出す。


「たはー、いやぁ悪いね、とっ散らかってて。さぁ、座った座った」


 スカーレットのどこかわざとらしい声に促されつつ、我らは座った。我の対面にはスカーレット、右手にリリス、左手にベルトリンデの構図だ。


「そ・れ・でぇ~!君たちは一体、何なのかな?」


 第一声は、スカーレットだ。


「さて、それだけの知能をもって設計されたのなら、予測はついているのではないか?」

「嫌な言い方するねぇ、アタシにだって自我はあるんだよ?」

「それはすまないな。だが、そんなことを気にする質でもないだろう?」

「そうだけどさ、やっぱ気を使われた方が気分がいいのは事実だろ?」

「ふむ、一理ある。しかし、既に発してしまった言葉は取り消せないものだ。いつまでも拘らず、先ほどの問いに答えてもらいたい」

「えぇ、どうしよっかなぁ」


「いい加減にしなさい!ネモ様への無礼が過ぎますよ、スカーレット!」


 スカーレットの遊びに付き合い、冗長な対話を続けていれば、案の定、リリスが怒ってしまった。まだ、攻撃は実行していないが、今にも実行しそうな般若の形相である。


「やだなぁ、ちょっとしたお遊びじゃないか。君がご執心のネモも分かった上で付き合ってくれていたんだよ?ね?」

「ネモ様?」


 スカーレットの返しに、リリスの怒りが一時的に鎮静化する。我が了解していたと知れば、己の感情を抑えつけてこの場での矛は納めるだろうが、あまりそういうことは望ましくない。


「いや、確かにわかってはいたが、正直、面倒だった」

「えっ?」

「ふふふ、さぁ、覚悟はいいかしら、スカーレット?」


 我の裏切りにスカーレットは呆然、リリスは水を得た魚のように、艶然とした蠱惑的な凶笑を浮かべていた。


「いや、その、ネモ君?」


 スカーレットが頬を引き攣らせながら、こちらに縋るような声を掛けてくる。しかし、リリスの精神安定、引いては配下の管理は、支配者として当然の役割である。我がどちらを優先するかは言うまでもあるまい。

 スカーレットにだけ見えるように、にっこりと笑いかけてやる。


 すると、スカーレットは絶望に顔を青褪めさせながら、リリスを確認しベルトリンデに最後の望みを託した。

 果たして、ベルトリンデが口パクで示したのは、諦めなさいの七音。


「え、あの、ごめん、なさい?」

「   」


 ほとんど無意識に発したのだろうスカーレットの謝罪に、リリスは満開の微笑。


 それに安堵してしまったスカーレットは、致命的な隙を晒すことになった。


「あ?あ、あ、あぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!?」


 リリスの幻術に囚われ、悪夢を見せられ続けるのだった。

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