14.悪魔
同日連続更新。8話目
さぁ、目覚めの時だ。破壊神の御使いよ。
【破魔】
精隷石を構成する魔力を崩す。ピキピキと罅割れゆく様はどこか生命の誕生のようにも感ぜられた。封じられた者に先立ち、濃厚な死の魔力が黒霧のように漂い出る。
やがて、黒霧に覆われた精隷石を確認することができなくなり、一際大きな音だけが解放を知らせた。
「ふぁ〜〜ぁ……よく寝たわ」
解放されて第一声は、呑気な欠伸だった。黒霧が薄まる中、徐々に見えてきたその姿は、ゴシックロリータファッションに身を包む白皙の美少女だった。妖しくも美しき紫紺の長髪と眠たげな瞳、小柄な身体に不釣り合いな豊かな双丘、色気を漂わせながらもあどけなさを残す美貌は背徳をテーマとする芸術のようであった。
彼女はいつの間にか手にしていた日傘を広げ、ようやくこちらを認識した。コテンと小首を傾げる様は庇護欲を掻き立てる。
「あら?あらあらあらあら、あら?貴女は、魔王様ではなくて?」
貴女?
「えぇ、こちらにいらっしゃる御方こそ二代目魔王ネモ・サタナエル様。貴女を解放してくださった御方です」
「そう、感謝するわ、魔王様。私は、破壊神様の御使い、死の精霊が一体、ベルトリンデ。よろしくお願いするわ」
疑問を挟む前に、リリスが我を紹介する。それに対して、優雅な礼を執りながらベルトリンデは感謝と名乗りを上げた。
ふむ、まぁ、リリスに対するものだったのか?
「あぁ、よろしく頼む。さて、ここでの用事は済んだな。取り敢えず、外へ出よう」
「はい、ネモ様」「わかったわ」
我の提案に、二人は素直に頷いた。
「まぁ、随分と徹底的に潰したのね」
ベルトリンデの感想とも問い掛けともとれる言葉に、我は頷きながら答える。
「あぁ、まだ、魔王の復活を悟らせるものではないと考えてな。この地に住んでいた人類には悪いが、根絶させてもらった」
「あの魔物は、貴方が創ったのかしら?」
「そうだ。魔宮増築を主目的として、戦闘は数を頼りとすることで補った軍勢の魔物だ。我は魔蟻と呼んでいる」
「魔蟻ね、可愛くない名前だわ」
魔蟻たちを指して、今度は明確に問い掛けてきたベルトリンデ。それに答えれば、性能よりも名に反応された。女性体ではあるが、精霊に性別は無い筈だが、感性が女性的だからこそ女性体なのか、女性体だからこそ女性的なのか。
「そうか。では、お前が名前を付ければ良い。魔蟻は仮のモノに過ぎないからな」
「そう、それじゃあ、グラビィとしましょう。意味は、『這いずる蜂』。そのままだけれど、響きは可愛いでしょう?」
「リリスに聞け。我の感性では計りかねる」
「あの子は、苦手だわ。夢の精霊はそもそも表には滅多に出てこないし、役割も異なるから接触は殆ど無かった。だからこそ、別にどうとも思っていなかったのだけど、何故あんなにも属性違いの貴方を崇敬しているのかがわからない」
可愛いかどうかの問い掛けを、リリスではぐらかせば、ベルトリンデが彼女に対する所感を語った。
どうやら本来、精霊とは同属性に親しみ、他属性とは少し距離があるのが通常であるようだ。そうなると、確かにリリスが我に向ける感情は、果たして何を根拠としたものであるのか。まぁ、好かれる分には問題あるまい。
「この後は、どうするつもりだ?」
「うーん……封印されていたせいで弱ちゃってるのよね。だから、暫くは貴方と一緒に行動するわ。悪魔の役割は人類の間引きだけど、それは貴方の役割と似たところがあるしね」
「そうだな。我としても手駒は多い方が助かる」
どうやらベルトリンデは暫くの間、こちらに協力してくれるようだ。魔術は他属性の力を扱うこともできる。死属性の効果を把握するのには、これ以上の教師はいないだろう。まぁ、教えてくれるかは別問題だが、こちらには助けた恩があるのだ、大丈夫だろう。
「ネモ様、ただいま戻りました」
粗方の話を終えたところに、ちょうどリリスが帰還した。
「どうだった?」
「はっ、現在、小国の現状を察知された様子はありません。作戦は、成功でございます」
「そうか」
万が一を考え、リリスに周辺国家の様子を探ってもらったが、どうやら杞憂に終わったようだ。
「次の魔宮造成地は、何処だ?」
こちらが本命だ。移動するといっても、無作為にするわけにもいかない。魔王として魔力を霊力に戻さなければならない以上、魔力を多く滞留させる地域を目指すべきだ。
手順は理解した。まだ、大国を相手取るには不足だろうが、次はこちらの存在を隠す必要は無い。バラす必要も無いが、人類にはその驕りを自覚してもらう必要がある。なるべく衝撃的な印象を与えることのできる舞台が望ましい。
「はっ、次なる目的地は、薄汚い欲望渦巻く霧の都。魔法研究により発生した魔力滞留が齎す霧に常に覆われた世界最高学府ミズガルズ。人類の叡智が集まると嘯かれる世界の法則を乱す愚者たちの溜まり場でございます」
次なる相手は、魔法使いか。リリスらしい選択だ。魔王である我の前に、魔法使いの実力者たちは無力。世界への影響力も強大だ。彼らを壊滅させれば、人類に激震が走るだろう。
次なるは、世界最高学府、霧の都ミズガルズだ。
人類よ、慄け震えよ、これは魔王の進軍である。




