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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
13/33

13.滑稽

同日連続更新。7話目

 マヌケは、他のゴブリンに囃し立てられながら、堂々とした足取りで兵士長の前に立つ。


「ほう、卑怯卑劣な小鬼の中にも気骨のある者はいるものだな」


 兵士長もその堂々としたマヌケの態度に感心していた。てか、卑怯卑劣と分かっているのなら、何故に一騎討など申し込んだんだ。


 しかし、ゴブリンたちの方も一騎討と見せかけての、集団リンチを行おうとするような様子はなかった。そのような思惑であれば、ゴブリンたちの醜悪な顔に滲み出る悪意で分かろうものだが、どうやらマヌケは我に従属させられる時に唯一、平然としていたことからゴブリンたちに英雄視されているらしい。


「我こそは……ぐべえ!?」


 一騎討の作法なのか、兵士長が名乗りを上げようとしたところに、マヌケの不意打ちが決まる。所詮、狡猾なゴブリンだ。たとえ、力を過信し一騎討に応じたとしても作法を守るはずも無し。マヌケの握る棍棒で脛を打ち据えられた彼は、奇妙な呻き声を上げて蹲ってしまう。その隙をマヌケが逃がすはずもなかった。


「ぼぎょお!?」


 再び奇妙な呻き声を上げる兵士長は、顔面を思いきり打ち抜かれていた。


 それに気をよくしたマヌケが、兵士長を指差して嘲笑する。それにつられて周囲のゴブリンたちもギャッギャッと笑い始めた。いや、まだ倒せてねえからな?あと、働けよお前ら。


「貴様ぁああ!!」


 鎧兜のおかげで命を取り留めた兵士長が、雑魚と侮っていたのだろうゴブリンにしてやられたことに激高する。そして、気炎を吐きながら、鈍く煌めく剣をマヌケに向かって振り下ろした。


「ゲゲ!?」


 それに全く反応できないマヌケ。我は仕方なく魔術を行使した。


「【魔障(バリア)】」


 マヌケを守るように、魔力の障壁が展開される。


「ぬぅあにぃぃいい!?」


 ゴブリン如きに弾かれたことが酷く遺憾なのか、兵士長が驚愕の叫びを上げる。


 そして、体勢を崩す兵士長の隙をマヌケが逃すはずも無く、その膝裏に棍棒が叩き込まれた。


「ぎぇええ!?」


 しかし、この兵士長、何で奇声で悲鳴を上げるんだ。


 その後、地に伏した兵士長はその頭部をマヌケにより滅多打ちにされ、命を落としたのであった。


 都市の方へと目を向ける。無機質で機械的に見える昆虫特有の複眼を光らせながら、至る所で魔蟻たちが無慈悲に強靭な顎で、厄介な蟻酸で、鋭い前肢で、人類の命を刈り取っていた。それはあたかも冥府の雇われ農夫の収穫がごとく。


 散逸的な抵抗は残っているものの、最早全滅は時間の問題。中には、死体を肉団子にして運んでいる個体も散見されるほどに余裕があった。生物でない魔物に食事の必要はないが、死体にもまた魔力が含まれるためである。


 これ以上、魔物たちに任せて犠牲が増えるのも面白くない。我も手を出すか。


「【散魔弾幕(バレージ・バレット)】」


 一発の魔弾が空へと撃ち上がる。一定の高さに達したそれは花火のように炸裂し、無数の魔弾となって残存勢力に降り注いだ。


「ぐあ!?」

「畜生!」

「なんだこれは!?」

「魔法だと!?」


 様々な怒号と悲鳴が吹き荒れる。そして、上空に注意を払った者に襲い来る無慈悲な死神の鎌。


 小国の住人たちは、瞬く間にその命を散らしていった。




「お疲れ様です、ネモ様」

「あぁ、リリスもご苦労だった」

「勿体無いお言葉であります」


 小国の人類を駆逐したことを確認した我らは合流し、今は王城内を探索しているところであった。とはいえ、目的地は分かっている。魔力の支配者である我にとっては、五感で捉えるよりも明確にそれは感ぜられた。


 王城の地下深く、決して光の届かぬそこに目的のモノはある。曲りなりにも都市規模の範囲に結界を敷くことは、本来ならば人類の魔法では不可能だ。それを可能にする方法は主に二つ。


 一つ目は、魔宮核を利用した竜脈を流れる霊力の魔力変換。しかし、これは小国においては現実的ではない。魔宮核が確保できないのだ。竜脈が利用できるならば、そもそもこの国は小国に留まることはなかっただろう。竜脈にはそれだけの力がある。


 今回の方法は二つ目、精霊の利用だろう。精霊は生来から霊力を操るように神に設計されているため、彼らを利用すれば竜脈ほどではないが、結界を維持する程度ならば十分な霊力を確保できるのである。


「これか」

「そのようですね」


 おそらくは地下における最奥。結界を展開するための魔法陣の中心にそれは安置されていた。見た目は魔石である。それも当然、魔石が素材なのだ。しかし、人類を守護していた結界の要石には似つかわしくない禍々しくも、妖艶な波動を放っている。


「死属性……悪魔か」

「はい、この甘美にして恐ろし気な波動は、破壊神様の司る死属性で間違いありません」


 リリスの肯定を聞きながら、我は手を伸ばす。


 破滅もまた世界には必要な現象だ。全てが生存し続ければ、発展する必要はなくなる。生きる意味を、目的を、目標を設定することができなくなる。少なくとも、この世界の神はそう考えたのだ。なれば、恐れることはない。人類が精隷石と名付けたそれに封じられし者もまた世界を支える柱に過ぎない。我らの同胞だ。


 さぁ、目覚めの時だ。破壊神の御使いよ。

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