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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
11/33

11.冒険者

同日連続更新。5話目

 ゴブリンの里に初めて訪れてから数日。我らの活動に変わったところはない。都市と森とを往復する日々、この国の冒険者の誰もが似たり寄ったりの生活だろう。ただ、異なる点があるとすれば、我らの持ち込む魔石が徐々に増え、質も高いものが僅かに混ざるようになったことだろうか。


 リリスの印象操作もあり、違和感なく羽振りが良いように見えたはずだ。そして、そこに溢れる僅かな欲望を、やはりリリスの夢属性霊術で刺激してやる。


 後をつければ、割のいい狩場を見つけれる。尾行は褒められたことじゃねぇが、犯罪でもねぇ。


 元がスラム出身で、荒事仕事の冒険者たちは、良くも悪くも狡猾だ。その思考に他者からの干渉があるだなんて、思いもよらない。あと少し放置すれば、自分たちでその思考に辿り着きもしただろう。ただ、一度に多くの者を釣ると不測の事態が起きないとも限らない。慎重に用心深く、なるべくこちらでコントロールできる状態に留めおく。




 尾行を撒かないように気を付けながら、足早に森の中を移動する。あまり入り口を増やしてもメリットはないが、鍾乳洞は少し遠いため、こちらに一つ開通させてある。リリスの霊術で隠蔽されたそれを自力で見つけることは、小国の冒険者どもには不可能だという理由もあった。


 我らが巣の中へと入ってから程なくして、尾行していた冒険者どもも我が魔宮へと侵入してきた。


「何だ、ここ?おい、こんな洞窟あったか?」

「さぁ、どうだろうな。まぁ、何だっていいじゃねぇか、この辺に出てくるのはせいぜいがゴブリン以下の雑魚どもなんだからよ」

「それもそうか。大方、ゴブリンが掘った巣穴ってところか」

「そうそう、ほらさっさと入りやしょうや」


 何も知らぬ冒険者どもが警戒しながらも、堂々とした足取りで魔宮の奥へと進んでゆく。万が一にも逃がさないために、奥へ奥へと彼らを誘う。一時的に設置した壁で一本道を作り、彼らが通り過ぎたところでその壁を崩す。今回、戦闘するのは魔蟻だ。彼らだけでどの程度、戦えるのかを知る必要があった。


「ん?何かいるぞ」

「あ?あぁ、ありゃ、ビィじゃねぇか?」

「バカか。ビィってのは、地上に巣を作る蜂型の魔物のことだろうが、そんなのが洞窟にいるかよ」

「でもよ、それ以外にあいつをなんて呼ぶんだよ」

「知るか。ほら構えろ、来るぞ」


 冒険者が魔蟻の正体を詮索している間に、魔蟻は一直線に突撃する。流石、ベテラン冒険者ということか。慌てることもなく、彼らは陣形を整える。ただ、場所は狭い通路だ。戦闘となると、先頭にいる一人くらいしか動くことはできない。


 まずは、一対一だ。


 魔蟻の噛みつき攻撃はあっさりと冒険者の盾に防がれる。だが、反撃に繰り出された剣撃はこれまたあっさりと魔蟻の甲殻に弾かれる結果となった。


「固ってぇ!俺の剣が刃毀れしちまったじゃねえか、よ!」


 ただ、両者ともに動揺は無く、一拍速く冒険者の盾による殴打が魔蟻を襲う。鈍い金属音を響かせたその一撃は、魔蟻の意識を朦朧とさせた。


「もういっちょ!」


 その隙を逃す冒険者ではない。大きく振りかぶって再び盾による一撃を繰り出した。


「【魔障(バリア)】」


 我の魔術が魔蟻の前に展開する。それは音も無く、冒険者の一撃を防いだ。


「うえ!?何だ、今の感覚?」


 やはり一対一では無理があるか。我はそう結論付けて、魔蟻たちの反撃を許可した。


「何やってんだよ」

「いや、変な手ごたえだったんだよ」

「ふざけてないで、さっさと……うお!?なんだぁ!?」

「どうなってやがんだよぉ!?」


 悠長に構えていた彼らの周囲の壁が崩れ、無数の魔蟻たちが一斉に攻めかかる。


 上下左右前後斜めありとあらゆる方向から襲い来る軍勢の魔物の前に、ただの小集団でしかない冒険者どもに為す術はない。一つ、二つの攻撃を防げたところで意味はなく、人体の構造上最もおろそかになる足元から徐々に、しかし確実に崩されていった。


「い、いやだぁ!!誰かぁ!!助けてくれぇ!!!」

「あ、あぁ……ぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」

「母ちゃん!!!」


 冒険者たちの野太い悲鳴はどこに届くこともなく、呑まれて消えた。


「圧倒的でしたね、ネモ様」

「一対一では、簡単に対処されてしまっていたがな。まぁ、そこは設計上仕方のないことではあるが、油断はできん」

「はっ、申し訳ございません。人類の醜態に浮かれておりました」

「……いや、かまわん。さて、あと何度か繰り返して、人類との戦闘に魔蟻たちが慣れたらば、開戦といくか」

「ネモ様ならば、必ずや勝利なさることでございましょう。どうか増上漫の人類に鉄槌がくだされますことを」


 リリスの大袈裟な物言いに呆れながらも顔に浮かぶのは、おそらく笑みだ。獲物を追い詰め、逃げ場をなくし、思う存分痛めつける状況を整えた蛇の浮かべたようなそれ。

 地球に生きた頃には、浮かべることのなかっただろうものだ。人格がもはや別物であることに僅かな寂しさを思いながら、我はその違和感を心に留めおくこととした。

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