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私の魔王様  作者: 龍崎 明
序編 魔王再臨
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1.漂着した魂

明けましておめでとうございます。(2022年1月1日)

「起きよ……起きよ、彷徨える魂よ」


 大きな存在感に満たされた声が響いた。それに揺り起こされるは、一人の迷い子。淡く溶けていた意識を、ゆっくりゆっくりと再び整えてゆく。


 やがて驚愕の意思が伝播する。


「落ち着かれよ、落ち着かれよ……我が領域に漂流せし魂よ」


 声が、迷い子に安心感を与える。落ち着くことができた迷い子は、声に意識を傾けた。


「我は時空の狭間にて世界を管理する竜王が一柱、幻竜王オネイロス。汝の漂着は偶然なれど、どうか我が頼みを聴いて欲しい」


 声が名乗る。すると、どうだろうか。


 巨大な姿が現れる。胎児のように丸まった虹色に輝けるそれは、確かに竜であった。

 雄々しく聳り立つ双角、鋭い輝きを放つ爪、天を覆うと見紛う大翼、古き巨木が如き尾、そして、その強大な身を覆う硬質な鱗。その全てが幻想に棲まうはずの最強生物の存在を証明していた。


 その竜は瞳を閉じていたが、それが幸運と思えるほどの神威を放っているように、迷い子には感ぜられた。視線が合えば、存在の格差によって自身が消滅するように悟ったのである。


「我が管理する世界は、我らの父にして母たる創造と破壊の神ブラフヴァ・シマーによって創世された。神は世界を構成する自然を四つに分けた。すなわち、火と水と地と風である。神は世界を輪廻させる法則を四つに分けた。すなわち、聖と死と夢と魔である」


 オネイロスの話と共に、赤と青と黄と緑と白と黒と虹と無色の光が現れる。


「神は自然と法則の管理者として精霊とその王、そして我をはじめとする竜王を生み出した。それすなわち、火の精霊とその王、水の精霊とその王、地の精霊とその王、風の精霊とその王たる四大精霊とその王と炎竜王、海竜王、冥竜王、天竜王、神竜王、邪竜王、幻竜王の七大竜王、そして、魔の精霊王にして竜王である魔王であった。夢の精霊もいたが、その王は神に叛き滅せられ、以来その役目は幻竜王である我が負うた。特に重要な法則であった聖と死の精霊王としての役目は神自身が負うた」


 話が進むと、光は明滅しそれぞれに形を変えた。


 赤は鬼のように、青は狼のように、黄は牛のように、緑は龍のように、白と黒は一つとなり、虹は消え、無色な光だけが静かに佇んでいた。


「世界は整い、生命は繁栄を謳歌する。最も賢く、最も弱い生命であった人類を神は殊の外、慈しんだ。故に神は人類に力を与えた。それは願いをカタチにする力、魔力であった。世界に張り巡らされ竜王が管理する竜脈を流れるいと遙かなる根源、霊力(エーテル)は意思を受信し具現化するエネルギーであり、神が創世に用いた力である。この性質をある意味で強めある意味で弱めたのが魔力であり、魔王が管理する法則にして、世界を歪める秘法たる魔法であった」


 光が全て消える。


「なれど、それは過ちであった。力を得た人類は、争いを始めた。そして、資源のために自然は喰い尽くされ、魔法のために法則は波打ち乱れた。やがて、その慢心膨れ上がった人類は、手始めに魔王を滅ぼした。それを為した者を勇者と呼び讃え、人類は世界で唯一の魔法使いとなった。それからというもの人類の狼藉は尽きること無かった。強大な魔法を使うための装置として四大精霊たちとその王を隷属させ、その身こそが財宝となる竜王は時空の狭間に在る我と神と共にある神竜王と邪竜王を除き鱗一片残さず狩り尽くされ、そして、我ら竜王の管理する竜脈から霊力を汲み出し浪費した」


 緑溢れる世界が、燃え上がり、波濤に沈み、地に呑まれ、大嵐に刷新される様子が浮かび上がる。やがて、世界を循環していた大流が、世界の果てより零れ落ちるばかりとなった。


「事の成り行きは、神に世界の終末を悟らせるまでに至った。それでも、神は人類への慈しみを忘れることはできなかった。故に神はその身を二つに裂いた。人類の絶対の味方として聖の精霊王にして創造神ブラフヴァ、人類の絶対の敵方として死の精霊王にして破壊神シマーとなった。ブラフヴァが耳を塞ぎ血の涙を流し舌を噛み締め神竜王と聖の精霊によって押さえつけられている隣で、シマーは世界のあるべき姿を取り戻すべく手始めに、死の精霊に悪魔の名を与えて人類の間引きの役目を負わせた。さらに、邪竜王に人類に隷属させられた四大精霊とその王の解放を命じられた。また、幻竜王である我に夢の精霊を使い、人類の改心を促すようにとの言葉を与えた。我はその言葉の通りにしたが、夢の精霊たちは人類を惑わす存在として、人類の間で夢魔と呼ばれるようになってしまった」


 一つとなった白と黒の光が再び現れ、すぐさま二つに分かたれた。白き光は明滅を繰り返し、黒き光が忙しなく飛び回った。


「四大精霊とその王が次々と解放され、世界が一応の安定をみせた時、ブラフヴァの限界に達した。ブラフヴァは、シマーがしたようにしかし、それとは逆に、聖の精霊に天使の名を与えて人類の守護の役目を負わせた。さらに、神竜王を勇者が振るうべき聖剣に変え人類に託した。現世の創造神と破壊神の均衡はしかし、少しばかり人類優位に傾いてしまっているのだ」


 赤と青と黄と緑の光が戻り、しかし、白き光がそれらを霞ませる光量で輝いた。


「誠に勝手ながら、汝には魔王となってこの世界の均衡を正してほしい」


 迷い子は、壮大な創世の物語に圧倒され、自身がその当事者となることを頼まれ、いつの間にか灯っていた無色の光に触れた。


「礼を云う、ありがとう、汝の運命に幸多からんことを」


 オネイロスは迷い子の選択を喜び、祝福し、優しく現世に送り出した。

一の位に1のつく日に更新することを心がけていきます。よろしくお願いします!

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