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村長


 そんな言葉を聞いて大いに戸惑った。村長である身でありながら、このまま人口が増え続けて村人が飢えてもいいということなのだろうか。それとも、別の意図があってのことだろうか。


「このままでいいと仰るのはなぜでしょうか? 随分村人は困ってらっしゃいましたけど」

「間に受けてはいけませんよ。そもそも、私たち平民などは愚痴など星の数ほど出てくるものです。いちいち真面目に話を聞いていたらやってられません」

「……しかし、現に彼らには飢餓症状が出始めていますし、麦畑に対して人口が多くなっているのも事実なのでは?」

「いずれ減りますよ。現に今年は生まれてくる子が減ってます。そろそろ気づきだした頃でしょう」


 食べるものがなければ、自分たちの食べる分を減らすしかない。それには、今後生まれてくる子どもを制限するしかない。そして、それを気づかせるのはある程度、飢えさせなければ駄目だということらしい。身も蓋もない放置論だが、実際に効果は出ているということだ。


「でも……なにか他に方法はありませんかね?」

「ありません。少なくとも私にはなんともできませんよ。それとも領主様にはなんとかできるんですか?」

「……税率を下げるとか」


 今までに余っている予算はあるのだから、それを税収として賄えば、村人たちの負担は減る。そうすれば、ある程度の飢餓状態は緩和できるはずだ。


「私はお勧めしませんね。間違いなく失敗するでしょうから」

「なぜですか? 余ってる予算がまだ多く残ってるので、そちらを使って負担をやわらげることもできますけど」

「その慈悲はありがたいです。しかし、それはいざと言う時のためにとっておいて頂ければと思います。税率を下げてそれを使えば子がまた増えます。子が増えれば、村人の食事は減ります。そして、その下げた税率でも賄えなくなり、飢饉が起きた時に全滅します」

「……」


 村人たちを想うならば、このままがいいんですとドバッサオはつぶやく。確かに、言っていることは間違いじゃない。税率を下げるのは得策ではなさそうだし、他にいい手が思い浮かばない。


「……随分といろいろ考えて頂いてるのですね。それ自体はすごくありがたいことです」

「いえ、そんな」

「しかし、私たちもバカばかりじゃない。見たところ、かなりお若くいらっしゃる。私がこれだけ歳を重ねて、いろいろ考えて、手を尽くした結果がこれなのです。領主様が上級でもっと力があれば結果は違いそうですが、そもそも上級領主は私どもとお話すらしてくれませんからね」


 『気を遣って頂いて』という労いと『知恵も力もない若造は引っ込んでろよ』という罵倒が入り混じったようなおべっかが続き、私は大きく息を吐いた。確かに今の自分ではなんの解決策も見出せていない。それを地位が下である村長に求めたって仕方がないだろう。


 ドバッサオの家を後にして、馬車に乗り込んだ。そして、「戻りますか?」というアルベルトの問い対して、「アルバドール修道院」に向かいますと答えた。


「まだ、なにかをやるんですか?」

「あそこには多くの本があるんです。なにか、参考になる知識があるのかもしれません」

「……その様子だと、まだあきらめてませんね」

「あら? まだ始まってもいないじゃありませんか」


 笑顔で答える私に、アルベルトは大きく目を開けて私を見る。なにか、おかしなことを言っただろうか。実際、村人と村長から話を聞いただけで、なにもやってない。こんなことで挫けていたら、領主なんて務まらないだろう。


「村人たちはこのままでいいと言ってるのに、なんでそこまでするんですか? どちらかと言うと、貴族はより多く階級を上げるために社交に励む存在であり、領地経営などは現場の村長や町長などに任せっきりだと思いますが。実際、ヴィルフリート様もそうでした」

「……そうなんですか。私は知りませんでした。でも、現場の村長であるドバッサオさ……ドバッサオは今のままでいいと仰るでしょう? 私は今のままが嫌なんです」


 私は食事を食べるのが好きだ。美味しいものには目がないし、満腹になると幸せな気持ちになる。だから、誰もがそうであって欲しいって思う。私たちは神がお与えになった恵みに感謝して、神に祈りを捧げるべき存在。しかし、恵みがなければ多くの人は神に感謝できないだろう。そう答えると、アルベルトはますます大きく目を開けたまま硬直していた。


 馬車に揺られて、アルバドール修道院に到着した頃には、すでに夜だった。中に入ると、ゼルヴァーダ神父と他の修道院の面々が驚いたようにこちらを向く。そりゃあ、今日行ったと思っていたら、早速のトンボ帰りなのだから無理もないかもしれない。


「……いったいどうしたと言うんだい?」

「書斎で資料を探したいのです」


 他の子たちに手厚い歓迎をされながらも、向かうのはゼルヴァーダ神父の書斎だった。私はここで育ったというくらい、重要な場所だ。子どもたちを適度にあやしながら、部屋に入って適当な参考書を探し始めた。





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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ主人公はこうでないと!!
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