交流
グーっ。
お腹の音が鳴る音で目が覚めた。気がつくと、ベッドの上にいた。どうやら、眠ってしまったようだ。隣には、使用人のブァゾスが控えている。服装は新しいものに変えられている。
「あなたが運んでくれたんですか?」
「……」
お礼を言ってすぐに起きあがる。取り敢えず、食事に行かなくては。そう思ったが数足でふらついてしまった。どうやら、予想以上に身体に力が入らない状態だ。そんな私を反射的にブァゾスが支えてくれる。
「ありがとうございます」
「……」
やっぱり話してくれない使用人に切なさを感じながらも、階段を降りて食卓に向かう。執事のマロンドはやはり待ち構えていた。ずっと立っていると言うのもなかなか大変だとは思うが、そんなことより他の仕事はないのだろうかと思ってしまうのは貧乏性の私だけだろうか。並んだ料理は2人分。マロンドと私の分。
「……これだけ?」
「ご安心ください。食卓に並んでいないだけで、準備はしてあります」
「そう」
どうやらマロンドは仕事人タイプのようだ。納得はしているしていないに関わらず、言われたことはキチンとやる。逆に、護衛士のアルベルトは仕事人タイプを装っているが、忠誠心で仕事をしそうなタイプに見える。早く全員の性格を見抜いて、意仕事をしてもらいたいものだ。
「ソフィ様、明日ですが、また村に行くつもりですか?」
「いいえ、もう指示はしましたから。急いでも仕方のない話です」
早い対応が必要だったのは、村長との交渉までだ。あとは、彼の手腕と村人たちに期待するしかない。あんまり、管理者が頻繁に出入りすると逆効果になる。そして、彼らを飢えさせないためにやることは他にいっぱいある。
「隣接する領主との社交を行います。すぐにお茶会に招待しましょう」
ここバラバラドルは東西南北他領に囲まれている。東と南は大領地。西は中領地。北はここよりも小さな領地。父のヴィルフリートは、東と南の大領地との親交を厚くしたいと目論んでいたらしいが。
「……恐れながら、東のコトナタリ様も、南のヤンドラ様もお会いにならないと思います」
「あら? 私がお会いしたいのは、北のナバラレーザー様ですよ」
「は? あの小領地の領主にですか?」
ポカンとするマロンドの問いに私は深く頷いた。背伸びして大領地などと付き合うより、小領地同士互いに協力しあった方がよほど利益になる。それに、北の小領地はデブァラル山を分け合っているような状態だ。今後、うまく付き合って利益を共有できればいいと思っている。
「あちらにすぐ招待状を送ってください。なんなら、こちらから行ってもいいんですけど。道中、デヴァラル山の様子も見ておきたいし」
「……それは、序列としてやめておいてください。基本的には格下の貴族が訪問するのが礼儀です。先方も困ってしまうでしょうし」
「わかりました」
こちらも困らせるつもりはない。小さな領地同士協力関係が築けたら、次は中領地と協力関係を築くつもりだ。身の丈に合った交渉や取引を行って、大領地なんかは、今は関わらない方がいい。
「北の領地の情報は?」
「あちらも麦農家の村が一つありますね。それ以外は、特徴のない土地ですよ」
「うーん」
……そうか。できれば、他の種類のものを生産していれば物々交換なんかもできたかもしれないのに。ただ、二毛作がこの村で広がれば彼らと技術の共有はできるかもしれないな。
「……ソフィ様はそれまでにテーブルマナー全般を身につけねばいけませんね」
「えっ? そんなにおかしいですか?」
一応、本で読んだままやってみたが、ド平民丸出しであるという感想をいただいた。マロンドが言うには、細かい仕草がいちいち優雅じゃないとのことだった。
「格下の貴族になめられる訳にはいきませんので、明日からの食事では必ずそれを意識して食べるようにしてください」
「ううっ……そんな食事はおいしくなさそうですけど」
思わずそんな泣き言を言うと、マロンドは満面のスマイルで頑張りましょうと言った。




