花咲き、儚く
【注意!!】
このお話には暴力的な描写が含まれています。前回よりちょっと過激です。苦手な方はUターンしてください。
今日はなんだか騒がしい。おそとで人が何人か集まってるみたい。
うとうとと目を覚ます。もう寝ようとしてたのに、起きてしまった。
「...で......あいつ...」
誰の声だろう。何人かいるように聞こえる。
ぼくはゆっくり体を起こし、格子窓を見上げた。
夜のはずなのに明るい。ハルが言ってた明るくする道具...火?がついてるのかな。
「お前...あの......ルミナス...」
少し耳を澄ますとぼくの名前が聞こえた。ぼくの話をしてる?
なんとか聞こうとするが、違和感を感じて視線を落とす。なんだか手足首がスースーする。
その違和感は合っていた。手足の枷が緩んでいたのだ。
ちょっとカチャカチャ動かすと、偶然にも外れてしまった。...外していいのかな、これ。
そういえば、ハルが鉄は熱いと柔らかくなるって言ってた。多分夏の暑さに当てられて接していた部分が歪んでしまったのだろう。今年はすごい暑かったし。
......今までぼくを縛ってきたものがこんな簡単に取れていいのだろうか。
もしかしたらハルが細工をしていってくれた可能性もある。
なんにせよ、ぼくは自由だ。...でも今すぐ出て行っても逃げられる気がしない。
先におそとの人たちの会話でも聞いてみよう。
にしても夏か...今年の花火大会の日は大雨が降って中止になったってハルが悲しんでた。
ぼくも楽しみにしてたから残念だな。また来年って指切り交わした。
...来年は会場に行っておっきな花火を見たいな。鎖が取れたからぼくはもう外に出れる。されるがままだったあの日と違う。
最近はハルのことを考える時間が増えた。いや、毎日ずっとハルのことを考えている。
おそとに出れるとわかって真っ先に浮かんだハルの笑顔。太陽みたいに明るくて、月みたいに優しい笑顔。
夜だけじゃ寂しい。ずっとハルの顔を見ていたい。...ここじゃ無理だけど、ここじゃないとこなら。
明日、ハルを誘ってみよう。どこか遠くに行こうって言おう。
おそらいっぱいの花火を、ハルと一緒に......
「ハル=メシカル!なんてことをしたんだ貴様!」
びっくりして体が固まる。ハルの名前を叫ぶ人がいる。
ぼくは慌てて格子窓に飛びついた。歩き方を少しハルと練習しててよかった。
おそとでは何人かの人たちが囲むように立っていた。その中心には見知った男の子。
「あいつに言葉や知識を与えたのはお前だろう。何故そんなことをした!」
「別に、僕が教えたかったからしただけだ。関係ないだろ!」
ハルが怒鳴る男に向かって抗議する。
周りの人たちはそれに怒りを顕にした。
「それがダメなことだと何度言ったらわかる!あいつは永遠にあそこにいなければならないんだぞ!」
「なんでそうじゃなきゃいけないんだよ!ルナが何したって言うんだ!」
「ルナ...!?お前、名まで与えたのか!?」
男の人たちがハルを責め立てる。ハルは負けじと言い返す。
ぼくは格子にしがみついてハラハラしながら見ていた。もしあまりに酷いことになったら、ハルは二度とぼくに会うことができなくなるかもしれない。
そうなれば逃げることもできない。新しいことも教われない。そんなの嫌。まだ一緒に花火見れてないのに...!
「おい、メシカル。お前どれだけ罪深いことをしているのか、わかってるのか?」
突然輪の外から杖をついた【村長】が現れた。
白い髭が風に煽られ、しわくちゃの顔がハルを鋭く睨んだ。
「僕、悪いことした覚えないんですけど」
それでもハルは悪びれる様子もなく、むしろ強気に返した。
ここからじゃ声は聞こえるけどよく見えない。人の輪、散ってくれないかな...。
「あの大罪人に知識を与えてはならぬ。奴は災厄の子じゃ。あそこで永遠に封じてなければならないのだ」
「ルナが?あんな小さい子が?嘘だ!そんなのただの当てつけでしょ?自分らのストレス発散のための道具だ!」
ハルが思い切り声を張った。それに動揺し大人たちがどよめく。
「道具...?当てつけ...?」
「メシカル、貴様...!」
「大罪人だか災厄の子だとか、それはただの理由づけでしょ?自分たちが快適に過ごすための犠牲だ!罰を与えるとか言って、日々の鬱憤晴らしにしか使われてない!村長が罰を与えていると思っていても、少なくとも断罪者本人はそんなこと微塵も思ってないんだ!」
なんでこんな強く言っているのか、ぼくにはなんとなくわかる。
ハルは言った。自分は助けを待つことしかできなかったと。それをぼくに重ねてしまったのかもしれない。
【村長】の考えを折ってぼくを助けようとしてくれている。ぼくはそれをただ単純に嬉しく思った。
だが同時に、焦燥感にかられた。
【村長】は残虐だ。ぼくをここに閉じ込めて半殺しにし続けているんだから。やろうと思えば村人一人くらい切り捨てられる。
ハルがこれ以上【村長】の怒りを買う前に止めなくちゃ。
ぼくは格子窓から離れ、ドアに向かって走った。
飛びついたはいいものの、これどうやって開けるんだろ?ああ、こんなとこで足止め食らってる場合じゃないのに!
確かこの出っ張ってるやつを持って...引く?...動かない。じゃあ押す?...動かない。
「みんなもよく考えてみてよ。抵抗の仕方も、泣き方も、助けの求め方も知らない子供が、ずっと暴行を受けてるんだよ?たとえ大罪人の子供でも、子供にはなんの罪もないはずでしょ?」
おそとのハルの声が柔らかくなる。わかってもらえるように、説得するように言っている。前ぼくに言ってたのと同じことだ。
なんとか早くおそとに出たいのに...!ガチャガチャと音を鳴らしながら押したり引いたりドアノブを弄ったり。どれをやっても開かない。もういっそ壊した方が早いか。
そんなことぼくにできるのか。まあ無理を承知で蹴っ飛ばしてみてもいいか...もうなんでもいいや!
左足に重心を置いて右足を地面から離した。これで足の骨を折っても文句は言えない。が、それ以上に早くここを出たい。
ふーっと息を吐き、覚悟を決めて右足に力を入れ...蹴る!!
「おい、なんだガチャガチャと...!」
突然、暗かった部屋に明かりが入ったかと思うと男が顔を覗かせた。マズい、勢いが消せない...!
ガンっと大きな音を響かせ、ドアが向こう側に思い切り開いた。
そのスイングで男は吹っ飛ばされ、背後の木に背中を強打してしまった。これは...悪いことをしたかも...。
ただ幸いにも、男にちゃんと意識はあるようなのでほっとかせてもらう。今はそれどころじゃないんだ。
...にしても、見たことないものばかり。
これがぼくのおうち。石でできたみすぼらしい小屋。
木に草に花に土に...実物を見るのは初めて。ほんとはもっとじっくり見ていたいけど。
よたよたと危なっかしい足取りで小屋の壁に手をあてつつ裏に回る。
明かりがぼくを照らし、思わず目を細めた。
「......ルナ?」
明かりたちの真ん中、ぼくを驚いた顔で見つめる琥珀色の瞳。
「ハル......!」
それを見た瞬間、ぼくは安心感で力が抜けかけた。倒れそうになる体をなんとか支え、大好きな彼にむけて真っ直ぐ足を動かす。
ハルも人混みを掻き分け、両手を広げてぼくに近づいてくる。
自然と笑みが溢れ、ぼくも腕を伸ばす。
一緒に逃げよう、ハル。ここから離れよう。会いたかった。大好きだよ。
言いたいことがたくさん喉に出しゃばって言葉が出てこない。全てを伝えたい。
伝えよう。なんでも言える。今のぼくなら。
ぼくは希望しか見ていなかった。
ザク、という音を聞くまでは。
「......?」
不意に足を止める。
ボタっと何かが地面に落ちる。
それは大きくて、見慣れている、一対の...
「!!羽が...っ!」
ハルの悲鳴に似た声に糸が切れ、がくりと膝をつく。
かつてないほどの痛み、痛み、痛み。
拳を握り締め、歯を食いしばっても口の端から漏れる苦悶の声。
どくどくと流れる赤。バクバクと耳元で叫ぶ鼓動。
「っぐ...あっ...がぁっ...!!?」
理解できないほどの苦痛が背中から体全体に響き渡る。
ねえハル、ぼく今どうなってる...?
「ルナ!!!」
大人たちに跪き、痛みに悶えるぼくに、ハルは慌てて近づいた。
「ルナ、しっかりして!だ、大丈夫...だから...!」
ハルは明らかに動揺した声でもなんとか声援を送ってくれるけど、ぼくは赤く染まっていく服から全く目を離せずにいる。
「なんで...こんなにすること、ないじゃないか!!!!」
浅く呼吸を繰り返す朧げな視界の中、ハルが涙目で叫ぶ姿が見える。
ぼくの左側から姿を現した男は右手に血まみれの剣を持っていた。さっきぼくのおうちに来た人だと気づくのに時間がかかった。
「羽は龍族にとっての誇り。それを奪われた今、こいつに価値など微塵もない。お前もとっととそいつを見放せば済む」
冷たく見下ろす【村長】の目。ああ、なんて汚いんだろう。
おそらに浮かぶ月はこんなにも綺麗だというのに。
涙を浮かべるハルの瞳はこんなにも綺麗だというのに。
「価値...!?誇り!?そんなのでしか人を見れないのか!?僕らと同じ種族なのに!!同じ仲間なのに!!」
これまでにないくらい声を荒げ、怒りを顕にするハル。それに「死にはしないから安心しろ」と残酷に返す【村長とも言い難いクズ】。
「こいつを小屋に戻せ。今度は二度と出れないように注意するのだ」
無情に命令を下し、【断罪者】二人がぼくの腕を片方ずつ持って引き摺った。
「や...やだっ...!」
ほんとは抵抗したいけど、体に力が入らない。またされるがままだ。
動きたいのに動けない。ぼたぼたと血の跡を作りながら、何も言わない大人たちに見送られておうちに逆戻り。
辛くて痛くて寂しくて悲しくて。つうと一つ雫がこぼれた。
ああ...もっと自由でいたかった。結局ぼくは憂さ晴らしの道具でしかなかった...。
「......そんな...そんなん許すわけないだろ!!?」
突然、激昂したハルが一人の【断罪者】に飛びついた。
不意を突かれた【断罪者】は反応できず、足を崩されて仰向けに倒れる。
驚いて固まるもう一人を尻目に、ハルは動けないぼくの手を掴んだ。
「逃げよう、ルナ!できるだけ遠くに!!」
振り返ったハルが言った。足を止めずに叫んだ。月明かりがハルの輪郭を淡く浮かばせる。
──────それは、ぼくが言いたかったことだ。
ふわりと頬にハルの涙が触れた。
もうこんなところに用も未練もない。
羽はないけど、どこまでも飛んで行ける。そんな気がする。
ぼくは大きく強く、確かに頷いた。
◇◆◇
「もし外に出たら、何がしたい?」
はらりとおうちに入る桜の花弁を目で追って、ハルはぼくに尋ねた。
ぼくは一瞬首を捻った。改めてそう聞かれるとやりたいことがたくさんありすぎる。とりあえず思いついたことを並べていった。
「まず...ハルと花火見て、お祭りに行って、えっと...海にも行きたい。山?も面白そうだし雪でも遊びたい。あとすぽーつもやってみたいし...」
「ちょ、そんな一気に言わないで!追いつけないからもっとゆっくり!」
指折り数えながら言っていくと、ハルが慌てた様子で制止した。
よく見ると鉛筆を片手に何かを必死に書いている。
「何書いてるの?」
「ん?これ?これはねえ、ルナと僕が外に出たらしたいことをメモしてるんだ。やりたいこと全部できるようにね」
紙面には行に合わせてよくわからない記号の列が並んでいた。これが文字ってやつなんだろう。
楽しそうに文字を書き記していく鉛筆の揺れを眺め、不意に変な感情が胸中に蠢いた。
「...ぼく、出れると思う?」
はたとハルが手を止めた。
いつか出れると確信した行動に、ぼくは不安を覚えてしまった。
もし一生このままだったら、こうして希望を持つのは残酷に思える。叶わない夢を語るのはどうしても怖い。
残酷な現実を突きつけられた時、ぼくは耐えられるだろうか。
そんなぼくに、ハルはいつもの温かい手で優しく頬を撫ぜた。
「大丈夫。僕が絶対出してあげる」
陽光を反射する瞳が細められる。単純なぼくは、ただそれだけで不安が消えてしまう。
その言葉だけで、今までぼくはどれだけ救われたろう。聞くだけで安心できる魔法みたい。
「出れる日が楽しみだね」と笑うハルに、ぼくはただ「うん」と頷き返す。
◇◆◇
ああ、結局ぼくは
残虐な未来から目を背け続けているだけだった。
最初から、最後まで。
ザク、とさっきと似たような音がした。
ぼくからじゃない。ぼくの隣から。
その音に気づいて振り返ると、ぼくの手を握ったまま崩れ落ちる影が映った。
目を見開いて倒れこむ赤髪の彼。
その胸に貫通する銀色の刃を光らせながら。
「か...はっ...」
わずかに残る空気を吐き出し、ぼく右手からハルの左手が滑り落ちた。
見開かれた目から消える光。
触れた指先から失せる体温。
抵抗もなくうつ伏せになったハルの体から、大量の『赤』。
その『赤』を、ぼくは誰より知っている。
「キャアアアアアアア!!?」
大人たちの中から悲鳴が上がる。それを皮切りにみんながどよめく。
「ハル!?ハル!なんてこと...!!」
最初に駆け寄った女は、ハルの前で跪き涙をこぼした。
「そ、村長...!いくらなんでもそれはあんまりじゃないか!?」
「しきたりを守らぬ奴が悪い!儂の忠告を無視し、この大罪人を世に放とうなど言語道断だ!」
右手に返り血を纏わせた【クズ】が喚く。想定外だと顔が言う。
じわり広がる血溜まりが足下まで来ても、ぼくは瞬きすらできなかった。
動けない。動けない。動きたくない。
信じたくない。認めたくない。ここに倒れてるのはハルじゃない。ぼくが大好きな人じゃない。違う。あれは。
何故?ハルどうしたの?さっきまで一緒だったのに?元気に走ってたのに?ぼくの手を握っていてくれたのに?綺麗な瞳をしていたのに?笑っていたのに?
ねえどうしちゃったの。教えてよ。どうして動かないの。どうして冷たいの。どうして答えてくれないの。どうして笑ってくれないの。
いつもみたいに教えてよ。絵本を使ってさ。月明かりの下で。一緒におそとに出ようって約束は?ここから逃げようって言ってくれたのに?
ねえハル。答えて。動いて。教えて。まだわからないことがたくさんあるの。教えてほしいことがまだあるの。
ああ、そうか。
自分を使って教えてくれてるんだね。
ぼく、新しいことを学んだよ。
人がいなくなるという『死』
いなくなってしまった『絶望』
そして心から湧き上がるこれは......
「......あ...ああ...」
口論をしていた【クズ】の舌が止まった。
ぼくの方を唖然として見ている。
大人たちも皆一様にぼくを見た。
「ああ、あああ...」
ブツリと何かが切れる音がした。
「ああああああああああああああああああああああアアアアアアアア!!!!!」
全てを失った。大切なものを。守りたかったものを。欲しかったものを。
ぼくはただ、自由になりたかっただけなのに。
目から溢れるものを抑えることもできず、突っ立っている【クズども】を見据えた。
そして地面に突き立っている剣を抜き取り、力任せに【クズ】に振り下ろした。
「がアっ!!?」
悲鳴をあげて【クズ】が横たわる。
知ってる。しってるよ。そこは斬ってもしなないんだよ。でもちはいっぱいでるんだよ。
いたいんだよ。しってる。みんながおしえてくれたからね。
「グ...ああ...っ!?」
「...っ...!」
みんなが引きつった顔でぼくを見る。
そんなかおは知らない。ぼくに向けられたことのない顔だ。
でもなんとなくわかるよ。
それは、恐怖だ。
「に...逃げろっ!!!」
誰からもなく叫んだ。正気に戻ったみんなは散り散りに駆け出した。
にがすわけないじゃん。ぼくを逃がそうとしなかったんだから。みんな逃げないのが当たりまえでしょ?
地面を蹴る。一番近い男の脚に斬りつける。鮮血が飛び散る。
地面を蹴る。尻餅をついてる女の腕に突き立てる。鮮血が飛び散る。
地面を蹴る。泣き喚く老人の肩に振り下ろす。鮮血が飛び散る。
もう何も感じない。ここにいる人たち全員殺す。ぼくが味わったことと同じことをする。ハルが感じた痛みと同じものをあげる。
いたい。たすけて。しにたくない。いやだ。どうして。じぶんはなにもしてないのに。
うるさい。黙れ。結局ぼくを助けてくれなかった。可哀想とか口先で言っただけ。結局ハルも同じ目に合わせるつもりだったんだろ。いじめて蔑んで罵倒して...それがどれだけ辛いかも知らないくせに、変なこと言うんじゃねえよ。
結局ぼくら、幸せにはなれなかったじゃないか。
信じてたら救われるって信じてたのに。
きっといつか自由になれるって信じてたのに。
一緒にいろんなとこに行けるって信じてたのに。
...ねえ、悲しいよ。虚しいよ。
必死に手を伸ばしたのに、我慢したり勉強したり頑張ってきたのに、手に入れた結末ってこんなものなの?
絵本のように幸せにはなれないの?
...なんで神様は、こんな不平等なの?
最期の最期まで逞しく喚いていた【クズとも言えぬ何か】の頭を叩き潰し、村に静寂が訪れた。
あちこちで死体が寝転がり、血溜まりがたくさん出来上がっていた。
ぼくも血塗れで体も重い。今すぐ眠ってしまいたい。でも眠くない。
ずるずると足を引きずり、最初にできた死体の前に立った。
「ヒュー......ヒュー...」
それの上に覆いかぶさる女から、わずかに息をする音が聞こえる。
トドメ、刺しきれなかったんだ。ずっとそのままは辛いでしょ。どうせ致命傷だし、もう助からない。
ぼくはもう光を反射できないほど赤い剣を振りかぶった。
女の体を斬る直前、彼女はか細い小さな声を出した。
「...ありがとうね...ハルと...仲良くしてくれて...」
驚いて手が止まった。それだけ言って、女は事切れた。
女の赤い髪が風で揺れた。その色は、まるで...
右手から剣が落ちた。血だらけの足から力が抜けた。消えた感情がまた湧き上がってきた。
「ぅあ...あああ...っ!」
虚しい。悲しい。苦しい。
こんな感情知りたくなかった。教えてほしくなかった。
ごめん。ごめんねハル。守れなかった。助けられなかった。無力でごめん。どうかこんなぼくを笑ってよ。
大好きだった月の下、ぼくは涙が枯れるまで泣き続けた。
こうして、ぼくは新しいことをたくさん学んだ。
『死』『絶望』『怒り』『悲しみ』『虚無感』......
そして、最初で最大の『愛』を。