四話
正規ルートに戻ると言ってもどれが正規ルートかは知らんが抽出をしながら彷徨っていたら正規ルートに行くだろうと高をくくって早2時間。俺は帰り道すらわからなくなっていた。
「やべぇぞこいつぁ...デスルーラするか?」
ぶっちゃけたところ分岐が多すぎて途中からめんどくさくなった俺は分岐無視の直進をしていたため余計に迷った。どうしようかとうんうんと唸っていた。
「あのぉ、どうかしました?」
今の俺にとっては神とも思えるタイミングで声をかけられた。バッ、と自分でも驚くレベルで声の主の方を見たら少し後ずさりされた。悲しい。
「いや、その、道に迷ってしまってね」
「そうなんですか?次の街に行きたいなら案内しましょうか?」
「本当か!?頼む!」
「お任せください!私の名前はアリアって言います!お兄さんは?」
「おにっ...ヴェルクだ。これでも女だ。よろしく」
「えっ」
「えっ...声でわからない?」
「いや、その、言動が男性らしかったので...すみません!!」
俺の口調のせいらしい。それもそうか。一人称なんか『俺』だもんなぁ。気をつけよう。私だとどうにもなぁ。リアルでは平気なんだがどうしてだろうな。
アリアの案内に従って進むとフィールドの名前が変わって【モンテ大森林・最深部】と表記されていた。つまるところボス部屋なのだろう。彼女には感謝してもし足りないような気がする。
「この先にボスモンスター・ヘケトサウルスがいます。ジャンプ攻撃が多くてたまに舌で攻撃してくるので気を付けてください。」
「わかった。んじゃ前衛は俺がやるから援護よろしく」
「は、はい!...本来二人じゃなくてパーティで挑むものなんですけどね」
「いいだろ。勝てるし。」
俺がそういったら乾いた笑いを浮かべられた。解せないな。大剣を出して重心を確認する。重さに体を慣らしていると目の前に蛙と蜥蜴を合わせたような奴が出てきた。アリアの反応を見るにこいつがヘケトサウルスなのだろう。だがしかし敵を見つけたら突っ込むのが俺の流儀!
「行くぞおらぁぁぁぁああああ!!」
「えぇぇぇぇえええええええ!?」
「ゲコッ」
突撃していった俺を見てアリアは叫びカエルは跳躍した。そのままカエルが落下の勢いのまま俺にのしかかろうとするので大剣で迎え撃つ
「そこで寝てろやぁ!」
「ゲコッ!?」
「えぇぇぇぇえええええええ!?」
鱗のない腹を落下の勢いを跳ね返差れた挙句斬られているのだからたまったものではないだろう。実際半分ほど体力が削れている。すっころんだ奴にすかさず走り寄り頭と胴体のつなぎ目の場所に思いっきり大剣を振り下ろす。
「グエッ」
「おしまいっ」
「えぇ...私のいる意味って...」
首ちょんぱで死んだカエル。二発なんだが...さすがに首が切れてたら体力関係なしに生きられないだろうがこれでいいのかボスモンスター。裏ボスを見習えよ。あいつの方が根性あったぞ...アリアは驚きっぱなしだし、今は何故かいじけてるが。
「アリア?倒したから次の街にさっさと行こう。まだ見ぬ鉱石が俺を待っている!」
「えっ、ヴェルクさんって鍛冶師なんですか?」
「おう。鍛冶師と錬金術師だが」
「じゃああれ全部プレイヤースキルなの...?生産職ってなんだっけ?」
なにやらぶつくさ言ってるが気にしない、気にしない!今のところ新鉱石は出ていないが新しいフィールドに行けば一個や二個くらい手に入るはずだ。期待を胸に森林を出る。
そこに広がっていた風景は一面焦土のマグマの川が流れる火山地帯だった。
「これは、いいな。」
「なにがですか!?あっついじゃないですか!草原のモフモフたちの方がいいですよ!断っ然!」
「いや、ここは絶対いい鉱石があるぞ!火山!行きたい!」
鉱山かどうかはわからないが行く価値はあるだろう。そもそも俺は山が好きだ。あの山が鉱山だった場合街に炉もいいものがそろってる可能性が高いしな。
「よし!善は急げだ。早く街に行こう!」
「ちょっ、待ってくださいよぉ!」
神晶の籠手を装着しアリアが追いつけるレベルの速度で走る。街に着いた俺たちは、というか俺はすぐさまマップで生産場の場所を調べる
「じゃあアリア俺はここでお別れだ。またな」
「え、ちょっ、ちょっと!もう行っちゃった...」
生産場に着いた俺は鍛冶区画に入って個室の中に入った。
まず確かめなければいけないことはここでアトゥクヌム輝煌石の加工ができるかどうかだが、結果的に言えばできなかった。理由としてはやはりまだ炉の強度が足りなかった。これはいよいよもってイベントとやらに期待するほかない。
とりあえずはドロップしたヴァハグンの素材で槍を作る。まずは錬成をする。錬成は基本MPだけでできるがレア素材の場合は大体ほかに何かしらの素材がいる。
今回使おうと思っているヴァハグンの牙と爪にも対価が必要なのだが、その対価ってのがミスリル鉱かそれ以上の硬度、もしくは魔力伝導率の鉱石だ。これアトゥクヌムでできるよな...?できたな。と、錬成ができたから次は加工に入る。
使うのは融合と凝固と抽出だ。どのようにするかというと牙と爪を融合で一つの塊にする。このままだと素材の混じり具合にムラがあるから抽出で混ぜながら牙と爪を液体のようにしたものをだす。この段階でに混ざりきったのでくらいに形を整える。石突はアトゥクヌムを謎に何でも削れるやすりで頑張って作る。途方もない...戦いであったということだけ伝えておく...もう絶対にやらない。ないったらない。
柄は手持ちに丈夫な木がなかったから仕方なく鉄を錬金で世界樹の枝に変え、削って作った。強度は十分なはずなので装飾でヴァハグンの皮を巻く。
次は刃だ。刃は青龍戟のような作りにしようと思う。戟なので槍の派生になるが槍は槍だ。ブロック状になった爪と牙の融合物を溶かして型に流し込む。冷えたら次は研いでいく。月牙もしっかり研ぎ終了。
あとはそれぞれ作ったパーツを凝固でくっつけて完成だ。さてさて、性能の方は?
====================================
方天画戟:STR+3000VIT+500
彼の人類最強が扱ったとされる青龍戟。何物をも打ち砕き、薙ぎ払う圧倒的な威力を誇る。
用法は「援」「胡」「内」「搪」の4種で、「援」は払う・薙ぐ・回すと謂った槍と同じ要領、「胡」は側面で叩く用法、「内」は掛ける・捩じ込む・翻すと謂った回転を加える。「搪」は貫く・突上げると謂った攻防一体の武器である。
====================================
目を疑った。
期せずして威力がアトゥクヌムを使ったとき並みになってしまった。原因は十中八九世界樹だが...仕方なかったんだ!作ってすぐ折れるとか絶対いやだろ!?万全を期したんだよ...
「よし、俺は悪くない」
俺が悪くないことが分かったところで今日はログアウト。明日から家族旅行なのでしばらくの間ゲームとはおさらばだ。
.
.
.
旅行から帰った俺は就寝。起きたらすぐにゲームを起動。ログインして生産場を出た俺はとりあえず時間を確認した。現在時刻は11:54だ。おっと今55になったな。時間を確認していたら周りのプレイヤーと思しき人達がざわめき、上を見た。俺もそれに倣って上を向くと『バトルロワイヤルイベント開始まであと5分』と空に書いてあった。アッ、イベントあったの忘れてた。
しまった。アイテムとか全然ないぞ?変えるだけ買っとかねば...
5分間で何とか回復アイテムは集められた。神晶の籠手がなければ詰んでいた...
店の中で座り込んでいると体が浮遊感に包まれ次の瞬間俺は見知らぬ街にいた。ボケーっとしていると遠くの方で爆発音が聞こえた。いかんいかん。しっかりしなければ。
にしてもこの街はどのくらいの広さなんだろうか。全プレイヤーを入れてるんだったらとんでもない広さだが、分けて入れてるんだろうか。何はともあれ、俺はどっしり構えて向かってきた敵を殺せばいいだけだ。あ、大剣だしとこ。
♢
ついに始まったイベントだ。ここでどれだけ活躍できるかでギルド内での私の扱いも変わってくるはず。見返してやらないと。私もやればできるってことを見せてやる!いくら攻略組のパーティにいるとしても雑用なんかじゃ楽しくない。あの人みたいに一人でもあんなに戦えたら...
「もうっ!だめだめ!人は人自分は自分よ!私は私で頑張らないと!」
そんな私が最初に出会った敵プレイヤーは何の因果か、ボスをほぼソロ同然で倒した『あの人』だった。
♢
すでに何人か殺してきたがまだまだ序盤。もっと強いやつも出てくるだろうと大剣を地面に突き刺し佇んでいると目の前には先日分かれた少女、アリアがいた。あまりの偶然にかなりびっくりしているが向こうも同じようで驚きと絶望が浮かんだ顔をしている。ふぅむ?
「そちらが来ないならこちらから行くぞ」
「っ!」
俺は大剣を担いで走り出し、そのまま止まって動かない相手に向かって剣を振り下ろした。このまま斬られるのかと思ったが素早い動きで攻撃をかわし短剣で斬りかかってきた。
「【アサシンエッジ】!」
「おっと」
アサシンエッジは短剣術のアーツで当たった敵を低確率で麻痺と毒の状態異常にかけるというものだが、そんなもの食らったらやばい。盾で受け流した方がいい攻撃だ。
「っ、なら!【乱舞】!」
「それも使えるのか...」
乱舞は30秒間一回の攻撃で2HIT入るようになるスキルだ。驚いた。乱舞は短剣術LV10で習得するアーツなのでアリアはかなり優秀なプレイヤーなのではないか。ひたすら攻撃してくるアリアを盾と大剣でいなしつつスキル覧を確認。《大剣術》が習得できているのを確認した俺は、盾でいなすのでは無くパリィをして少し怯ませた隙に大剣と盾をしまい飛燕を取りだす。
「なっ...!?」
「どうだ、驚いたろう?刀もいけるんだ。さて、次はこっちの手番だ」
「しまっ」
居合を浴びせてやると焦った様子でこちらを振り返る。その間に距離を詰め肩から腰にかけて斬る。
「こ...のぉぉ!」
「燕返し!」
斬られたことを気にせず短剣を逆手に持った彼女は大ぶりな攻撃の後、前かがみになってがら空きになった俺の首を狙ってきた。それを防ぐために成功するかは運であったが佐々木小次郎の技、燕返しを模倣した。瞬時に刀の切り返しを行い首に迫る刃を持つ手を斬り飛ばした。
「そんなっ!?」
「これで終わりだ!」
切り上げと同時に刀から手を放し大剣を取りだしさっき斬った場所をさらに深く斬る。アリアはその場に倒れ、消えていった。
方天画戟の用法はwiki引用です。
♢は視点変更です。
誤字脱字ありましたらご指摘のほどお願いします。