一話
初投稿です。お願いします。
遠ざかる意識の中で声が聞こえる。
「師匠!ヴェルク師匠!逝かないでください!まだ...まだ教わりたいことがあるんです!」
「やめろ!先生は天寿を全うしたのだ!貴様一人だけがそうだと思うなよ!私も気持ちは同じなのだ!」
「でも!」
何やら言い争いをしているようだ。こやつらはいつもうるさいったらありゃしない。どれ、最後に教えてやろう。
「俺が教えることなんざぁ、もうねぇさ。おめぇらはもう十分に育った。免許皆伝だ、胸を張れ。おめぇらは俺の最高の弟子だ...なぁに、心配すんな。魂ってのはなぁ、廻っていくモンなんだ。輪廻の先でまた会おうや。俺の...自慢の...」
「先生っ!?先生ッ!」
思い返せば後悔が残る人生だった。鍛冶を愛しひたすらに槌を振っていた。だが、この二人の弟子を拾ったのはいい判断だったと思う。名工と言われても所詮人は人。等しく死ってのは来るもんだ。後継という意味でも、可愛がったが何より、実の子供のように思えてあいつらが来てから毎日が楽しかった。うまくやってければいいがなぁ。
アァ、もうちっとでもいいから槌を振りたかったぁなぁ。
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ふと、目が覚めるとそこは知らない天井だった
不審に思ってあたりを見回すとそこには木の柵が俺を囲むようにあり、今自分が寝ているであろう場所にはやわらかいタオルが敷いてあった。まさかと思い手を掲げて見ると小さくまるで赤子のようなというか赤子の手が姿を現した。
「ファァァァァァァ!?」
叫んでしまうのも無理はないだろう。なぜならつい先ほどまで爺の体で死ぬ寸前ってか死んだのに生まれ変わってるのだから。しばらく呆然としてるとパタパタと足音が聞こえてきた。部屋の扉を開けて入ってきたのは東洋の方の顔立ちでなかなかに別嬪さんな女性だった。彼女は俺を抱きあげると
「どうしたの?美琴?」
などと言っていた。いやちょっと待て。なんとなく名前的にもこの家が東洋にあるというのは分かったが美琴?それが俺の名前...男、だよな?そうであってほしい。というかしゃべろうとしても「あー」とか「うー」とかしか声が出ない。ふ、不便だ。しばらく俺をあやしていたおそらく母親が部屋を出ていったのを確認した俺だが、まず最初にしたことといえば性別の確認だ。一縷の期待を胸に下半身を見た俺は崩れ落ちた。
「ううおあいあい...(息子がいない...)」
どうやら俺は女児らしい。長年連れ添った相棒がいなくなるというのは悲しいものだ。
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この家で暮らし始めて早5年になるが今俺のいる『世界』はアールヴガルズではないということがわかった。アールヴガルズでは発展していなかったカガクというものが発展していて魔法が一切使われていない。
そして俺の家は今では珍しい鍛冶師の家だそうで武器が打てるようだ。俺にとってはこれが何よりも嬉しいことだ。ただ俺が子供で女というのもあって打たせてはくれない。
そこで俺が考えついたのは女という武器を最大限に生かした攻撃だ。それは、涙目+上目遣いそして袖クイッである
「お父さん、みこともそれやりたいなぁ」
「ぐふっ!み、美琴?これはとても危ないんだ。5歳のお前にやらせるわけにはいかないんだ。わかってくれるか?」
「ダメなの?」
「ぐっ、と、遠くから見てるだけだったらいいよ...これが最大限の譲歩だ。」
「やったー!ありがとうお父さん!だいすき!」
「ゴハッ」
前世でやられたハニートラップを参考にしたがやはり子供では効き目が薄いか...
それからというものの俺は父親がいないときにこっそり鍛冶場に入っては槌を振っていた。鍛える鉄がなくても槌を振っていれば力も付くし楽しいしでいいところしかない。基本父親がいるときは、鍛冶をしていれば見て、していなければ裁縫をしている。
アールヴガルズにいるときは鎧なんかも作っていたがこちらの世界は争いなどほぼ無いようで平和らしい。母親に暇だと暗に告げたら裁縫に誘われたので一緒にやってるという次第だ。
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10年ほどたち中学校を卒業し高校入学までの休みの期間にその報道は来た。
テレビをぼんやりとみていたらニュースで大々的に【ついに完成!?夢のゲーム!】と報道されていた。
どうやらこれはVRMMOという種類のゲームらしくゲームの中に自分が入り込んだような状態になることができるらしい。そのゲームの名は≪Valhalla・Online≫このゲームの売り文句は『自由』というものらしい。世界観はアールヴガルズのように剣と魔法の世界という設定のようだ。今テレビで流れているのは少し前まで行われていたというβテストの映像だ。懐かしい魔法や武器を見ていたら弟子たちを思い出して泣けてきた。今までゲームという物をやってこなかった俺だがこれを機に始めてみようかと思う。
「さて、善は急げというし、さっそく買ってみたが...でかいな。」
俺が買ってきたのは結構なお値段のチェアー型VRマシンであったのだが、サイズが魔王とかが座るイスのそれだ。しかも人をダメにするイスときた。これはまずい。非常にマズイ。寝てしまわないうちにゲームを起動せねば。
睡魔に抗いつつもゲームを起動した俺は軽い浮遊感とともに暗闇に包まれた。しばらくすると目の前に看板が
「『Valhalla・online』へようこそ!まずはプレイヤーネームを入力してください!」
という文面とともに現れた。読み終えると手元に半透明のタブレットが出てきて『PN:___』と表示されていた。とりあえず名前は前世の名前を入れておく。するとまた看板が現れ
「PN:ヴェルクでよろしいですか? YESorNO」
「YES」
「では次にキャラクターメイキングです」
すると目の前に美琴がでてきた。...自分で言うのもなんだが俺はとてつもない美少女だと思う。肩あたりまで伸びたさらさらの黒髪に均整の取れた体つき、大きな瞳に形のいい鼻と。ぶっちゃけめちゃくちゃ恵まれていると思う。しかし、だ。さすがに何もいじらないでやるとプライバシー的にもまずいものがある。
なので髪を腰ほどまでに伸ばして目の色は黄色に変えておく。髪の色は変えるか迷ったがそのままにした。
まあいじると言ってもそのくらいしかやることがないのでキャラメイクを終えるとまた看板が出てきて次は最初のジョブ、5つのスキル選びとステータスの割り振りをするという。ジョブは当然鍛冶師だが、スキルは鍛冶系統を取らない。なぜならスキルの変なアシストがつくよりすべて自分でやった方ができがよかったという経験があったからだ。絵は何のスキルを取るかというと、まず《錬金術》だ。これはいろいろと役に立つので取っておく。二つ目は《弓術》。三つ目は《付与魔法》。四つ目は《槌術》。五つ目は《転移魔法》だ。どう使うのかはお楽しみだ。ステータス配分はこう
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PN:ヴェルク
Lv:1
JOB:鍛冶師
SJOB:___
HP:100
MP:12
STR(筋力):30+70
VIT(耐久):10
DEX(器用):28
AGI(速度):4+30
LUC(幸運):16
スキル:《錬金術》LV:_《弓術》LV:1《槌術》LV:1《付与魔法》LV:1《転移魔法》LV:1
装備
頭:なし
胴:布の服(VIT+1)
腰:布のズボン(VIT+1)
足:布の靴(VIT+1)
左手:木の槌(STR+10)
右手:___
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という感じでSTRに多めに振っておきAGIを少し上げておいた。武器は選べたので槌にした。槌は両手武器らしいが、どうにかして改良できないだろうか。まぁ、そんなものはゲームを始めてから考えればいいのだ。そして俺は決定ボタンを押す。すると突如暗闇が縦に裂け空が見えた。時間がたつごとに裂けめは広がっていきついに俺のところまできた。そう、それはまるで紐なしバンジー。殻からでた卵の黄身の如く俺は地面に向けて急降下していった。
「......って死ぬだろこれぇぇぇぇぇええ!?」
衝突まで1!2!3!死を覚悟して地面を見つめていると地面から謎の反発がありふわっと着地。墜落死することはなくなった。だが、
「これ作ったやつ絶対性格悪いわぁ...」
そうぼやきながら少し先に見える街へと歩く。ただその前に、まずやらねばならないことがある。このゲームは大体すべての操作においてオートかマニュアルかを選ぶことができるのだが、俺は基本マニュアルでいこうと思う。
この世界で通用するかはわからないが、やらねばならないのは錬金術だ。このスキルは主にポーションを作るときに使うのだが、主な要素は抽出・凝固・融合・乾燥だ。今回はこの4つのうち2つを使い、金属を取ろうと思う。何を使うかといったら抽出と凝固だ。使い方は簡単で、抽出で土や地面の底の方からから金属をとれるだけ取って一塊にまとめるだけだ。小一時間ほど待ってるとかなりの量の鉄が取れた。さすがにこの序盤の場所に希少な金属はなかったがまあ当然だろう。
そんなこんなで街に着くと発売したばかりなのもあってかなり賑やかだ。街の名前はスタートルトというらしい。始まりの街だからスタートがついてるのか。随分安直だな。まあ何はともあれまずは鍛冶ができなければこのゲームを買った意味がない。
なので「マップ」という素晴らしい機能を利用することによって生産職用の施設を見つけ、中に入った。
いかがでしたか?なにか至らない点、ありましたらご指摘のほどお願いいたします。