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道案内  作者: 早起ハヤネ
1/8

田原夫妻

サクッと読めるミステリーです。

「ばあさんや、ここが日本百名山の一つ、霊が集まるとの噂の、オイソレ山の登山口みたいじゃぞ」

「霊が集まるというだけあって、夏なのに、なんだかひんやり寒いくらいだわね」

 田原夫妻は、夫のたわしが仕事をリタイヤしてからというもの、夫婦で、日本中をドライブしながら、百名山巡りをしていた。登山歴は、十年ほどになる。

 AコースとBコースの二つがあった。

 案内板によれば、Aコースが、距離は短いが勾配がきつい。

 Bコースは、距離は長いが、勾配は比較的緩やか。初心者向けのコースらしい。

「どちらに行きます?」と、妻のミチ。

「もちろんAコースに決まっておるじゃろう」

「勾配がきつい、って書いてありますよ」

「登山は、きついほど、達成感があるものよ。ミチ、わしらは、すでに登山歴十年のベテランじゃぞ」

 ミチがリュックを下ろしたとき、

「ワッ!」とたわしが声を上げた。

「な、なに! いきなりびっくりさせないで下さいよ」

「で、出た! 幽霊じゃ!」

 彼の視線の先には、登山届のポストがあり、その横に、長い髪で顔を覆われた者が立っていた。

「じいさん、あ、脚があるわよ! 幽霊じゃないわ。人よ!」

「くっくっくっ」とその者はふざけたみたいに笑った。顔は見えないが、口の形が明らかに笑みを刻んでいる。「脚があるかないかで、幽霊か否か…ばかばかしい」

 どうやら若い男の声のようである。

「お前さんは何じゃ!」

 人と分かって、たわしはやや強気に出る。

「俺は、登山ポストでーす」

「ふざけるな!」

「マジだって、じいさん。悪いことは言わない。Aコースだけは、やめておいた方がいい」

「なんで行きずりのあんたに、わしらのコースを決められなくちゃならないんだ。一流登山雑誌に、おそれい山は、Aコースがお勧め、って星三つで書いてあったんじゃぞ」

「あんた方のために言ってるんだ。登山歴十年なんてまだまだおたまじゃくしに足が

生えてきたようなものじゃないか」

「そういうお前さんはどうなのじゃ!」

「俺かい? 俺は五年くらいかな」

「わしらより短いではないか! 素人がふざけるんじゃない」

「では、お好きなようにどうぞ」と男が言った。

 田原夫妻は、再びリュックを背負うとAコースへと進んでいった。ズズズ、と微かに地面が揺れた。

まだ先は長いですよー

読めますかー?

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