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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
西の国の動乱
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勝利宣言



 翌日は予定通りシャルを誘って外に出ていた。

 ここで予定外なのがシエルも付いてきた事だ。

 考えてみたら、シエルは未だ王国ではドワーフと言う事で一部では嫌われていて、あまり一人で外を出歩けないので誰かが行く時に付いていく他無いのだ。

 シエルの強さなら何かあっても一人で何とかなってしまうが、多少の緊張感と侮蔑の視線を一人で受けるよりかは、逆に全員に慕われているエルフだったり勇者の二人と一緒に行動していた方が何かとお得なのだろう。

 ちなみにだが、俺がシェリール以外のエルフ、つまりシャルと二人でいる事は以前から多少の誤解を生んでいて、『嫁を放っておいて他のエルフとデートかよ』と噂されてしまうので、実はシャルと二人で行動と言うのも滅多にある事では無い。

 今回はちょっと成長した版のシャルだから、その誤解があらぬ方向へ行きかねないし。


「へぇ、あのシャルロットが成長ねぇ」

「本当ならもっと早く来なきゃいけなかったんですけど、色々忙しくて」


 アンリさんの服屋に来てシャルを見せると、アンリさんの目は爛々と輝いていた。

 ぷにぷにロリっ子がスラッとした少女に変化した事により、頭の中で色々想像が膨らんでいるようだ。

 ちなみに前々から気になっていたが、アンリさんはやはり杏里と言う漢字表記が正しいらしい。


「貴族の娘用のならすぐ用意できるけど、あっちの世界風のはちょっと直さないと合わないわね」

「別にいい。おさがりばかり着てるのもちょっと問題ってだけだから」


 コレットはそれでもうっとりとした視線でシャルを見るけどな。


「じゃあ一番ちんまいのはシエルって事ね」

「違うよー、トラ子だよー」


 ちんまい扱いされて少々ご立腹のシエルさんだが、ちょっとむくれてる顔もかわいらしい。

 そう言えば当初は扱いに困ってたせいで、面と向かってシエルに可愛いと言った事無かった気がしないでも。


「あの不思議生物はちょっと……。服自体にシェイプチェンジの魔法陣でも刻んで脱がなくても大丈夫にならないかな、と思って試行錯誤したけどやっぱり駄目だったわ。この間みたいにおっきな猫になったら一発で破けちゃうわ」


 そう言えばリリアナ達の服を買いに行った時は、大猫モードで三人を背に乗せて行ったっけ。

 街中でアレは目立つと言うか多分ビビって逃げた人もいると思う。


「シエルも何か買うだろ」

「うーん。私の場合背が無いから、何着ても今一なんだよねー……」


 見た目はいわゆるロリ巨乳なシエル。

 既製品だと楓子と同じく緩いタイプのワンピースとかじゃないと中々着れる物が無く、オーダーメイドするにしてもアンバランスな体系のせいでどこか違和感が出てしまうと言う難しさがある。

 元が可愛いだけに何を着ても可愛いと思いはするが、バランスが取れているかを見るとイエスとは中々言えなかった。


「一応シエルにサイズ合わせて作ってあるから、試着していきなさいよ。気に入るのがあればいいけど」

「サイズ合うなら全部ほしー! あ、値段と相談だけど……」

「良かった。シエルが浪費家になったらどうしようかと思った」


 杏里さんの作る服は基本的に高いんじゃー。

 元々の布の値段が前の世界より高いから仕方ないのだけど、それだけじゃなくて杏里さんの技術料もそこそこ乗っている。

 こっちの世界の服は布の使用量が多いから、元の世界風のが下手すると五分の一くらいで買えちゃったりけどな。

 裁縫系のスキルが盛り盛りの人らしく、シェリールの一張羅であるドレスですら一人でパパっと作ってしまう人だが、その細かな技術力は千絵に言わせると精密機械と変わらないらしい。

 確かに細かい刺繍なんかは手縫いでこんな綺麗に出来るのかと驚いた事もある。


「シャルロットの分は作っておくから、今日は何着か無難なの買って行けばいいわ」

「ん、わかった」


 そう言って貴族の娘用の服を並べていく。

 ジュニアモデルでこんな子いたら世界が放っておかないって位に整ったシャルなので、ハンガーにかけたまま服を体に当てて鏡で見てる姿すら絵になる。

 ほんと俺がロリコンじゃなくて良かったと心底思うのだ。

 中身が琴美だとわかっているからいいが、突然こんな子に出会って迫られたら年下であってもグラッとくると思う。


 服の調達が終わると、機織り機を作ってもらっている工房に顔を出した。

 元々木工細工を作っているこじんまりとした工房なのだが、機織り機が四畳から五畳くらいのどでかいサイズなので、これを作るとなったら他の仕事が殆ど手が付けられんとお叱りを受けている。

 まぁそれでもこの手のサイズも金額も大きな仕事と言うのはやりがいがあるようで、最初こそ文句を言われたが、それ以降は熱心に作ってくれているようだった。

 勿論パーツを全て揃えてから組み立て作業なのだが、そのパーツの数も膨大で置き場に困るのだ。

 機織り機は、縦糸を張って横糸を通していく手動でも機械化されても基本造りは変わらない物だが、細い糸で作る目の細かい上質な布はその分縦糸を張る本数が莫大になる。

 その為に巨大化もするしパーツの数も増えるのだが、逆にジャイアントキメラワームの亜種の細かい糸にも対応した機織り機を作ってしまえば、それ以上に荒いタイプの布ならどの種類も大体作れると言う事である。

 完成にはまだ少し時間がかかりそうだが、恐らくコボルト製のお茶の出来が確認できる頃には目途が立っている事だろう。


 その後は中央噴水広場に来て、何か軽く食べようと言う事になった。


「でも聖地でも屋台料理食べまくってたしな」

「ちょっと飽きた」

「私は何でもいいよー」


 ぐるっと見回し、見つけた。

 見つけたら食いたくなるのが人間と言う物で、絶対嫌がられるだろうなぁと思いつつも向かうのだ。

 とあるパン屋へ。


「いらっしゃ――、いませー」


 一瞬固まっても何とか持ち直すサクラさん流石っす。

 一体何しに来たと険しい目付きなのも一瞬で、会計をしている客と軽い雑談を始めた。

 その客は俺達が来た事で軽く驚いているようだが、騒ぐわけにも行かないと思ったのかサクラとの会話を早々に切り上げて出て行ってしまった。

 丁度お昼時、他にも客は二人いる。

 その二人もさっさと選んで会計を済ませて出て行ってしまった。


「サクラ、久しぶりに来た」

「いらっしゃい、シャル」


 シャルとの面識は数回のはずだが、千絵と楓子は偶に来てるらしく、シャルもサクラの事はしっかり記憶しているようだ。

 どちらかと言うとシエルの方がシャルよりも千絵達に連れられて来てると思う。


「サクラー、次がー」


 奥から女性の声が聞こえて来たと思ったら店内に顔を出した。

 この間見た時は産まれたばかりだと子供を抱っこしていたが、今は寝かせているのかいなかった。

 そして俺達を見て驚いて顔を引っ込めると、旦那さんを連れて出て来た。

 で、頭を下げまくるのだ。


「いやあの、そんな畏まられても困るので」

「自分の立場を考えた方がいいと思うけど」


 サクラが軽く毒を吐いて旦那さんと奥さんが軽く驚いていた。

 ここの所忙しくて会ってなかったが、サクラはサクラで暇な時は城に来て――待てよ。

 何となくサクラが機嫌悪く感じたのだが、これはアレか、最近はトラ子がリリアナ達の護衛で付いて回ってるから、モフれていないのだろう。


「こらサクラ。トモヤ様に向かってなんて口だ」

「いやあのいいです。確かに気軽に店に入っていい立場じゃなかったので」

「いえいえいいんです。うちなんかで良ければいつでも」

「とは言えお客さんが驚いてしまいますし」


 やはり、この夫婦とサクラは非常に良好な関係のようだ。

 住み込みで働いているから家族同然になって来たと言うのもあるだろう。しかしサクラ自身がいい子なので、家族同然と言うかむしろ家族の雰囲気すら出ている。

 特に中には無いのだが、何となくの会話を少しすると旦那さんが再びペコペコし出した。


「ではすみません、仕事に戻らさせて頂きます」


 旦那さんはそう言って奥さんと奥へ引っ込んでしまった。

 その時の横顔が、なんかこうニヤッとしていると言うか、サクラとの仲を邪推された感じがする。

 サクラの話だと魔力を押さえていてもある程度のアプローチは受けているようで、この夫婦としてもサクラが誰とくっつくか楽しみにしている部分があるのだろう。


「今度遊びに来たらどうだ。千絵と楓子とも最近会って無いだろうし」

「お城ってそんな簡単に平民に門戸が開かれている場所だったかしら」


 それもそうでした。


「ん、サクラなら許可証を出してもいい。千絵と楓子もサクラは特別な友達だと思ってる」

「嬉しいけど、そんな特別扱いなんかされたら、周りからなんて思われるか」


 平民視点だと王家の分家扱いの俺達なんか雲の上の存在と言う奴だろう。

 しかも王女が二人に勇者も二人いるのだから。

 にしてもシャルよ、その姿で許可証を出してもいいとか不用意に言うもんじゃないぞ。

 サクラはシャルがシェリールだってわかってるからいいけど。


「まぁ来る気があるなら任せる」

「――」


 じーっと見られた。

 暗にちょっとツラ貸せやと言う意味を込めて言ったのだが、どうやら全く通じていないわけでもなさそうだ。


「所で今日のお勧めは?」

「そこのサンドウィッチ」

「んじゃ三つ」

「毎度」


 うーん、素っ気ない。


 街中をフランスパンで作られたサンドウィッチに齧りつきながら歩いた。

 食パンの方は売れ行きが良く残り少なかったが、こっちは多少余り気味だった。

 恐らくだから勧められたのだと思うが、それでもここのパンは美味いので騙されたとかは思わない。

 俺達が歩いているとやはり目立つのか、かなりの確率で視線を集める。

 そこで何か言ってくるとかされる事は無いからいいけど、それでも見られまくっていると多少の緊張感はあるのだ。


「おにーぃさん」


 だから声を掛けられた瞬間、飛び上がるんじゃないかってくらい驚いた。

 何なんだ一体と声をした斜め後ろを振り向くと、憎き坊主が人懐っこい笑顔を浮かべているのだ。


「テオ」

「一昨日? ぶりですね」

「……え、早くね?」

「何の事ですか?」


 てっきり馬車で来ると思っていた。


「まさか移動って転移門の魔法なのか?」

「ええ、うちの従者に割と手練れのウィザードが居まして」


 やられた。

 だが聖地巡礼を挟んでいると言う事は、必ず関所は通っているはずだ。

 あそこで聖地巡礼を目的に通っているはずなのだ。

 本気で聖地巡礼が目的なら最低でも一週間くらいは滞在するらしい。

 俺達は行く事だけが目的だったが、本来なら色々と手順を踏んで礼拝に向かわなければならないらしく、その為に滞在が伸びるらしい。

 それに西の国から王国のどこかの村や町まで一発で飛んでこれるウィザードと言うのも滅多にいないはずだ。

 シャルが規格外なだけで、通常は何かしらの目印が無いと飛ぶ事すら難しい。

 だから一般的には関所を目印にして飛び、関所を徒歩で通過して、自分の魔力で到達できる王国のどこかの村か町に飛ぶはずだ。

 割と手練れと言っても二日か三日に分けて聖地まで飛んで行ってるはずである。

 これは魔力消費量が莫大だから仕方のない事だ。

 その上、西の国第三位の侯爵家ともなれば馬車一台分くらいの荷物はあって然るべきなのだ。

 特に王都で密会すると思われるので、手土産の一つや二つは持参していないとおかしい。

 手練れとは言え馬車丸ごと飛ばせる転移門使いってのも正直怪しい。


「――いや、荷物は後日で人だけ来たのか」


 考えていた事が言葉に漏れた。

 だがそれを聞いたテオが目を丸くしていたので、恐らく正解だろう。

 聖地巡礼に関しても、何かあって予定を繰り上げてでも王都に入る必要があったのかもしれない。


「で、また迷子か」

「そんなまさか」

「いつ来たんだ」

「昨日ですよ。あ、初めまして、テオ・フォン・ノイベルトと申します」


 シャルを初対面だと思ったのか普通に挨拶していた。

 シャルはしかめっ面を隠して挨拶を返すと、面倒だと思ったのか俺の後ろの死角へ移動する。


「お兄さんはデートですか」

「買い物とか色々やる事あるんだよ」

「何なら案内を、いや冗談です嘘嘘」


 さっきのパン屋じゃ無いが、俺の立場を考えやがれと。


「両親は?」

「宿です」

「……一人で出て来たのか?」

「お兄さんに会えると思って」


 いかん。

 何か悪い予感がする。

 いやテオが現れた時点でしてたし、来る前から西の国の問題で不安だらけだったけど。


「何で会えると思ったんだ」

「感、ですかね」


 予知能力の類か何かを持っているとしたら、俺が何をしようが勝ち目は無い。

 ジャポニーゼの町ではしれっと絡んできたし、今回もだ。

 恐らく俺達がどういう立場か最初から知っての行動だと思うのだが、それにしては特に行動計画を発表しているわけでも無いのにドンピシャなのだ。

 考えすぎなだけかもしれないとは頭の片隅で思う。

 だが、俺の中でテオは目下危険人物としてはトップレベルに位置しているのだ。


「多分お兄さんの事だから、僕の話を聞いて色々考えを巡らせていると思うんです」

「おかげさまでな」

「でも、こちらも一通り終わったので、それの報告をしたいなと思ってうろついていたんですよ」


 今こいつは何を言った。


「一通り終わった?」

「ええ。いやー、お兄さんが公に休むと発表していたせいで、父も予定を繰り上げ繰り上げで相手側も日程の調整が大変だったようです」

「……」


 つまり勝利宣言に来たのか。

 あー、んー、こいつ拉致って吊るせば大きな流れも止まるかな?


「じゃあバウワー侯爵家とやり合う方向で纏まったんだな」

「凄い、そこまで情報の整理が出来ていたんですね」

「ちなみにだけど、ここで一思いにテオを殺したら変わるよな」

「全力で逃げます」


 駄目だ。

 あまりにも相手が早かった。

 日程を繰り上げたのなら、話し合いに参加した家の数もある程度減っているはずだ。

 それでもこうして勝利宣言をしてくる以上、分家の大半の賛同を得ているはずだ。と言うか普通なら受ける話なので不思議では無いのだが、こうもあっさり掌で踊らされるとは。


「トモヤ、とりあえずそいつ消す?」

「今考えてる」


 テオがどの程度親の計画に口を出せるのかがわからない。

 もしかしたら殆ど口を出さずに想定された流れを作れている可能性も有る。

 逆に親がテオの言う事を聞いて計画変更を繰り返すとしたら、それは既にテオが転生した異世界人だと知っていると思う。

 となるとテオが好き勝手出来る状況も考えられる。

 見た目はこんな小さな子供が、一人で隣国の王都を歩くと言うのも違和感しかない。

 それだけ勝手が許される状況と言う事は、実は既に異世界人だと明かしているのではないだろうか。

 だとしたら聖地でのテオを見つけた時のご両親の顔は真に迫っていた。

 あの時は自分達がこういう立場だと言っていなかったが、あの時点でテオの両親は俺達の事を知っていた可能性もあるのだが。

 そうなると迫真の演技で誤魔化した説も出て来る。

 ヤバいな、思考の選択肢が増えすぎてなんでもありになって来た。


「いやもう駄目だな。テオをどうにかした所で何か変わるわけでも無いし、王城に拉致って帰ってもなんにもならない。大人しく帰ろう」

「ん」


 シャルが転移門の魔法を使い、俺はその中に入りつつ中指を突き立てた。

 このクソガキが、とはいえ中身の年齢では負けているのだ。

 奴が元々策略家か何かで頭の回転が速かった場合、俺なんかでは元々太刀打ちできない相手かもしれない。

 それでも戦争は何とかして回避しないと。


先週の体調不良で胃腸が死んでたのが軽く尾を引いていて、まだなんか調子悪いんだよなぁ。

それでも普通に食べるから余計に胃腸が。

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