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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
西の国の動乱
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亜人と魔物と境界線



 折角の休暇だと言うのにやる事と心労ばかり溜まって行く気がするが、差し当って休める時に休んでおく事は大事だと思う。

 どうせこの先忙しいってわかってるし。

 と言うわけでシャルから聞いた情報を何となく頭に浮かべながらゴロゴロしているのだが、浮かんでくるのはテオコノヤロウと言う感情ばかりだ。

 あの野郎マジで覚えておけ。

 休みとは言え、今後の事を考えると多少はやっておかないとならない。

 暇な間に色々と話を聞いておかなければならない人たちがいるのだ。

 サウスルタンの件も一応落ち着いたので会議の招集も無く、公爵家の長が王城に来るのは定例会のある来週末だ。

 それでは遅い。

 かと言って俺があちこち動き回るのは不味い。

 少し考えてみたら、公爵家の子が王城の一室で会議しているのを思い出した。

 サウスルタン復興の方での話し合いだ。

 どうやら真面目にやっていたようなので、昨日リリアナ達が見ていた案がどうなったかの確認をしに来るだろう。

 案の定午後に来たので、雑談がてらなんとなしに西の国の話を出して、どういう感情を持っているか探ってみた。

 露骨に聞いたわけでも無いのに、話した感じでは全員何となく嫌悪感を持っているようだ。

 その理由は、単純に相手から嫌われているからだろう。

 あんまり西の国の話をしていても感づかれそうなので、サウスルタンをどう復興すべきかを軽く話し合って席を外した。

 全員が何となく嫌ってる以上、テオの考えた通りに進む可能性は高い。

 後は採決の場を探して乗り込んでぶっ壊すか、決まろうが何だろうが突っぱねるか。

 実際問題採決の場がどこか探る場合は俺が賛成派だと思わせた方が無難だが、そこら辺の工作をしてる間に当日を過ぎてしまう可能性が高い。

 元々争いごとを好まない事は知られているので、逆に疑われる事も十分に考えられる。

 と言うわけで、どう決まろうが突っぱねるの一択だ。

 一応ルーベルトの爺様にバウワー侯爵家と戦うハメになると噂を流してもらう事にはなっているが、人間美味い話は大好きだ。

 元々それなりに親交のあるらしいピレネーは真相を知っているかもしれないが、他の人達は楽に西の国を叩けると勘違いしているだろう。

 いざ蓋を開けたらバウワー侯爵家とドンパチ始めるハメになるとは思うまい。

 仮にピレネーが真相を知っていて乗る場合だが、やはりそれなりに見返りが約束されているのだろう。

 知らない場合はその後の関係が悪化するだろうし、ここは知っていると思った方が無難だ。

 まぁいまの時点でバウワー侯爵家と戦うかどうか確定したわけでは無いのだが、都市防衛分位の戦力は余裕でありそうだ。

 気楽に考えて話に乗る人たちの中には、多分だが勇者がいるから人間くらい大したことないと思っているのかもしれないが、冷静に考えて欲しい。

 お前等は自分の嫁に進んで人殺しをさせるのかと。


 こうなると、今更休み返上して西の国関連で動き回った所で大して変わらないので、西の国のせいで遅れるであろう仕事を片付ける事にした。

 魔人の国から受け入れる三人、アイシア、ミハイル、ニコは人間社会の事をフローラさんに叩き込まれたので、普通に生活しても大丈夫なくらい仕上がっているらしい。

 なのでお披露目の日程を来週の休日に決め、公示する方向で調整する事にした。

 問題なければそうしますよ、と爺様方に手紙を(したた)めてマリーネにお使いに行ってもらった。

 次にリザードマンの件だ。

 調べたらリザードマンはトカゲの亜人と言って差し支えない見た目をしているが、それでも魔物の部類らしい。

 だがその辺りも曖昧だ。

 そもそも魔物と亜人の境界が良くわかっていない。

 一般的には動物の姿をした人型が亜人と呼ばれ、虫や異形の物の人型が魔物と呼ばれがちなようだ。

 この曖昧さが亜人嫌悪の大本ではないだろうか。

 魔物扱いなら迫害して追いやるのではなく討伐してるはずだし、一応昔の人達は嫌悪しながらもほんの少しだけ配慮があったのだと思う。

 他にも人間に対して攻撃的なのが魔物、進んで攻撃してこないのが亜人とか。

 結局は人間が好き勝手呼んでるだけだと思う。


「で、話の分かる人ー?」

「いないと面倒なのだがな」


 昨日に続いて様子を見に来たベスターを捕まえた。

 お披露目の日程をこの日にした、とほぼ確定のニュアンスで伝えたら特に驚きもせず『うむ』と頷いたので、そんな気はしていたが細かい事は気にしないらしい。

 それでフローラさんにお願いしてリザードマンの集落に来てみたのだが、いきなり人間と魔人が来たものだから大騒ぎしてしまい、俺達はその状況で会話の出来るリザードマンを探すハメになってしまった。

 一応フローラさんの事を覚えているのはいるようだが、かと言っていきなりフレンドリーにと言うわけにもいかないようだ。


「話のー、分かる人ー、いませんかー?」

「いなかったら駄目元でポチでも拉致って来て通訳させてみるか」


 ポチの顔と名前が頭を過って、また笑いそうになってしまった。

 駄目だな慣れない。

 ざっと見た感じ三十ちょっと位しか数がいない集落なので、言語理解のスキルに引っかかるリザードマンが居なくても仕方ないとは思う。

 俺よりも効果範囲が広いらしいベスターでも駄目と言う事はお手上げだ。


「ふむ、ちょっと待っててくれ」


 そう言って俺が何か言う前にベスターは転移門でどこかに行ってしまった。

 かと思えばすぐ戻って来て、その左手は頭蓋を握りしめている。

 ポチの。


「痛い痛い痛い」

「早く来るのだ。リザードマンと話してみて欲しい」

「は? はぁ……。あのー、こちらの方々がお話があるそうなのですが……」


 脳内で勝手に語尾に『ワン』と付けるのを想像してしまって、ポチに背を向けて笑ってしまった。

 いかんいかん。

 と、リザードマンが何体かやって来てポチに何か告げる。


「何の用だって言っていますけど」

「おー……まさかの会話方法」

「やってみるものだな」


 だがこれで証明してしまったのかもしれない。

 亜人と魔物の境界の曖昧さを。


「ああ、出来れば保護してやりたいけど公には難しいから、あまり行動範囲を広げないで欲しいってのと、人間には絶対手を出さない事、出したら討伐しなければならない事と、何か困ってる事があったら力になれるかもしれないから言って欲しい」

「わかりました」


 わん。

 ぷっ。

 いかん自動で想像してしまう。


「元々人間と関わりたくないからここに住んでるって言ってます。困った事は、医薬品が欲しいって」


 コボルトの魔王も言っていたけど、医薬品は魔物向けに開発するべきなのだろうか。


「ちなみにポチよ。其方等亜人は、このリザードマンと共同生活できるような仲なのか?」

「さぁ、やってみない事には。なんせ生活が違うので」

「――と言う事は嫌悪等の感情は抱いていないのだな?」

「ええ。同じく人型に産まれた物同士、通じ合う事は出来ます」


 その辺りよくわからない。


「リザードマンも亜人って事でいいのかな?」

「本来はそれでいいと思いますよ? ほら、魔物みたいに単独行動取ったり理性の無い行動も無いわけですし」


 新たな判断基準が出来た。

 確かに魔物は基本的に単独行動だし理性も無い。

 オークみたいなのは例外だろうが、だからこそ亜人と仲良かったのかもしれない。

 いや、もしかしたらだ。


「ちなみにオークも亜人?」

「だと思いますけど?」


 亜人からしたらそう見えるのか。

 だがあれは俺でも魔物だと思う。

 そして亜人に優しいオークもリザードマンを迫害していたようなので、恐らく魔物と見ていたのだと思う。


「なるほど……。ちなみにですが、亜人の集落を新しく南部に用意したんだけど、って」


 もし移れるのなら、どう考えてもそっちの方が安全だと思う。

 ここに居て人に見つかった場合、下手をしたら討伐依頼が出る可能性も有るのだ。

 それが王都に直接来ればいいが、マーレンに誘致されるギルドの初仕事になる可能性も有る。

 そうなったら気が付いた時には壊滅してました、があり得るのだ。


「自分達が行っていいのかって」

「ここで集落を作るよりいいかもしれない、程度の提案です。一応東側の外れなら海に降りれたはずだから、リザードマンの生息域的にも合ってると思うし」


 何より人がいないから伸び伸び出来ると思う。

 ポチが話すと一部のリザードマンが何やら怒ったっぽい。


「そんなに我々をここから排除したいのかって言ってますけど」

「排除するなら強引に出来る。だからこれは提案であって、もしここに居たいって言うなら多少のバックアップはする」

「同じくだ。形式上魔人の支配下と言う事にしてしまえば下手に手出しは出来ぬだろう」

「ベスターは何で保護しようと思ったの?」

「理性ある魔物を好き好んで排除するほど鬼でも無いぞ」


 それもそうか。


「それなら移りたいって」

「じゃあ後日荷物を纏めておいて貰って、ベスターに飛ばしてもらおう」

「構わんが、ここはほったらかしにするのか?」

「別に使わないし」

「うむ、それならそれでいい。いずれ周りの森が侵食してくるだろう」

「それじゃ決定。えーっと医薬品か」


 道具袋を漁る。

 消毒液と包帯くらいなら入れてあるので渡しておいた。

 本当ならちょっとした滋養強壮の薬とかが欲しいんだと思う。

 この世界には漢方の前段階くらいの大雑把な薬はあるが、基本的に体調を崩した時は栄養を付けて寝る。

 人間の場合は魔法である程度治癒出来るからそれでいいのだが、魔物や魔人の場合はプリーストが出ない為に中々そう簡単に癒せないらしい。

 だからこそ薬が欲しいとベスターやコボルトの魔王に言われたのだが、風邪自体は様々な菌が原因だから特効薬が出来たらノーベル賞モノだなんて言われるくらいだし、熱を冷まして痛みを取って炎症を抑える、この三つが出来る薬があればとりあえずいいと思う。

 と思っていたのだが、その辺りは流石教会、その程度は既にやっていたのだが、いかんせんそれ漢方の前段階みたいな薬なのだ。

 つまり、乾燥とかさせないで生のまますり潰して与える。

 薬草の場合死ぬほど苦いらしい。

 今度教会に薬の改良を打診してみよう。


「その、こっちにも薬欲しいんですが」

「……」


 マジで考えないと駄目だこれは。


 王城に戻って来て、そろそろ帰ると言うのでフローラさんにはあの魔人トリオにスピーチの原稿を考えさせてくれとお願いしておいた。

 こっちで用意しても良かったけど、本人たちがどう言う文章を書いてくるか気になったからだ。

 文章と言うのはその人の性格が出ると思っている。

 結果添削しまくりでもいいし、纏まらなければこっちで用意しよう。


「わかりました。何分くらいでしょう」

「一人五分程度でいいです。長くても十分以内で」

「わかりました。腕が鳴ります」

「えーっと、お手柔らかにお願いしますよー?」

「ええ、勿論です」


 これはわかってるようでわかってないな。

 フローラさんの目が爛々と輝いている。


「ベスターの蔵書の中に薬に関する本ってないの?」

「民間療法レベルの物ならあるが」

「なにそれ怖い」


 十中八九効かないやつだ。


「じゃあやっぱり普通に開発しなきゃ駄目かー」

「薬か。だが各種族に共通して効くのか?」

「効果が高いわけでは無いけど、ってのなら出来ると思う。基本的に人間にとって毒は魔人や魔物も毒だろ? 人間が食える物なら大体大丈夫そうだし、それなら人間基準で考えれば多少効果に違いは出るかもしれないけど大外れは出来ないと思うんだ」

「まぁ確かにな」


 原材料をリストアップしておいて、使わせる前に各種族駄目な植物等の聞き取りをしてチェックすればいい。

 それでどうしても効かない場合は改良だ。

 何か特別な薬を作るとなると厳密な研究が必要になって来るけど、軽い風邪薬くらいなら少量ずつ試して様子を見ればいいし、開発自体は何とかなると思うのだ。


「楽しみにしている」

「何とかなればいいけどね」


 ベスターとフローラさんが去った。

 俺はメモに薬関係の事を纏め、後で楓子に渡すべくポケットに入れておく。

 何だかんだ教会関係は楓子に任せておいた方が動きが早い。

 他に何かしておきたい事と言えば、コボルトに卸すつもりの機織りの進捗具合の確認だが、これは明日誰かとっつ構えて街に出よう。

 考えてみたらシャルが成長してから、ずっとコレットの妹のおさがりを着ているのだ。

 この際だからシャルをアンリさんの店に連れて行って、ついでにあちこち見てきてもいい。

 こっそりサクラに会えないかなーとも思うのだが、これに関しては運だ。

 勿論頼むのはスパイ活動である。

 そんな事やらせるなって怒りそうだけど。



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