状勢
「すっかりだらけているではないか」
俺の行動予定を何となく知ってるベスターが、王城のリビングでだらけていたら遊びに来た。
女性陣は学校で聖地巡礼の土産物配りをしに行っている。
これも俺達が聖地へ行ったと言う一種の宣伝活動だ。
リリアナ達はうちの有力貴族への挨拶行脚で、トラ子が護衛に付いている。
「向こうで変なのに絡まれて大変だったんだって」
「ほう、聞こう」
テオの事を話すと、ベスターの眉間に皺が寄った。
「折角の転生してきた人材だと言うのに厄介な奴だ」
「だろ? 前世の自我に目覚めて割とすぐらしいけど、その割には妙に頭回るから恐ろしいよ」
「そのテオも自分の生活を守らねばならん。今のままでは不味いと思ったからこそ、偶々いたトモヤを使おうと思ったのだろうな」
「朝から突撃かましてくるとは思いもしなかった」
「だが悪い話でもあるまい。これで西を何とかしてしまえば、お前が正式に戴冠した時に反発してくる国は無くなるだろう」
「ただなんて言うか、話してるとどんどん思惑にハマって行ってるような感じがして気持ち悪いんだ」
「事実ハマっているのだろう。大局と言う物は予想しやすい故にちょっとの事では変わらん程大きく強い流れだ。奴はその流れを上流の方で少し弄る事で、王国が回避できないように出来る位置にいるのだ」
「見た目四歳か五歳くらいの子供で?」
「例えば親が計画を画策している面々と会合している時に、いつの間にかその中に紛れるんだ。本来なら大人の会話はそんな子供では到底理解出来ん。だが、そこでチラッと核心を突く。どうなる?」
「頭の回る親だったら、馬鹿げたことをと思いながらも一応考えるかも。何を言うかにもよるだろうけど」
「そう、この場合重要なのは『小さい子供だから紛れ込む事が出来る』事と『核心を突く』事だが、身内のパーティーでなら十分紛れ込めるしトモヤの話を聞くに十分頭は回るようだ」
「そりゃ計画の一番上流に影響出来るんだから、奴の思惑通り進みかねないか……」
「恐らくそれが出来るから本人も色々策を練るのだろう。平和主義と言ったようだが、奴の最終目標は王国の庇護の元での盤石な領地運営だろうな」
それはおかしい。
「普通なら横やり入れられかねない植民地化より独立じゃないのか」
「植民地化する気か?」
「しないけど」
「何にしても王国が絡めばテオの家とは友好的だと解釈されかねん。となれば属国となろうが独立しようが、下手に手を出せば王国が絡んでくる可能性が出てくるわけだが、今の王国に喧嘩を売ろうとする人間がいると思うか?」
元々エルフの治める国で、勇者二人とエルフの王女とドワーフの王女を娶り魔人の王と友好関係にある俺が、次期国王と言われている王国。
よっぽど頭がぶっ飛んでなければ手を出してこれないと思う。
「じゃあ何か、奴は他の領地の貴族を生贄にして王国を取り込もうってのか」
「生贄と言うか大昔の戦争の続きだろうな。それも領地や領民が疲弊していて、まともに戦えないと言うのであれば王国にとってこれ以上ないチャンスだ」
「本当に西の国って疲弊してるのかな」
「どうなのだ、フローラ」
毎度の事超絶美形の置物よろしくベスターの後ろに控えているが、問われて前に出て来た。
「私が西の国を回ったのは百年ほど前ですが、その時点で上位三位以外は領民に高い税を押し付けてかなり恨まれているようでした。山間部の領地などは穀物の収穫も少ないでしょうし、生きる事で精一杯と言う領民も多くいる事でしょう」
「何でそうなっちゃったんですか?」
「さぁ、詳しくは知りません。ですが、貴族の力が強い国ですので、暴君が現れれば簡単に腐敗が進む事でしょう」
「貴族の力が強いって言うのは前にもシャルから聞いたんですけど、どう言う事なんですか?」
「貴族が領地を持っている事が大きな要因だと思います。土地の大きさや収穫の量なんかで順位が明確に決められ、それによって共和国制での議席の増減や発言力に差が生まれます」
「うちみたいに貴族の大増殖なんかしてないのもありますよね」
「ええ」
「でも、そんな今の西の国の貴族って腐ってるんですか?」
「最新の情報はわかりませんが、衰えているのに内紛が進まず停滞している以上、多くが結託して不可侵なのかお互い戦う体力が無いのかどちらかだとは思います」
「今の一位や二位が動かないのも?」
「それはバランスを見ている可能性があります。今の均衡を崩したら一気に勢力図が塗り替わる。そのタイミングで王国が介入して来たら不味い事になる、と」
「つまりテオが狙っているのはそこだと」
もしかしたら西の国も反王国と見せかけて、テオの所以外にもうちと通じているのがいるのかもしれない。
有力貴族たちはそれを警戒して下手に動けず、結果悪化する所まで悪化してしまった。
「ああ、駄目だな。西の国の知識が無さすぎて判断が付かない。休みの間に資料かき集めて読むかなぁ」
「それは休みと言わないぞ」
怖いのはテオの話がブラフで、手を出してみたらそこまで王国有利で無かった時だ。
人的被害が確実に出る。
「そのテオの家族が王都に来るのはいつ頃なのだ」
「さぁ、巡礼をすぐ切り上げたとして十日くらいかな」
「では私が西の国巡りをして来よう」
「ありがたいし嬉しいけど、ベスターは手を出さないで欲しいんだ」
「何故だ」
「うちとあっちの問題だから」
「つれないではないか」
拗ねた。
「魔王が発生したとかだったらベスターには居て欲しいけど、政治の話になると俺がベスターを使ってマウント取ろうとしてると思われかねない。それだと今後に響くんだ」
「言わんとしてる事はわかるが、少しつまらぬぞ」
「えーっと、別件では色々助けて欲しいから。ほらリザードマンの件とか、マーレンの町に別荘用の土地貰ったから設計の相談とか」
「別荘か」
食いついた。
「マーレンと言うと海の魔獣を食用にしようとしてる所だったな。ふむ、既に近代化改修に入ってる町だったはずだから、さほど大きな地下工事も無く建てられるだろう」
「災害対策用に、地下に町の人全員を収容できるフロアと備蓄庫が欲しいんだよね」
「なるほどな」
「リザードマンもそろそろ対応しないとなんないし」
「トモヤの休暇が終わって暇な時にでも行こう」
「魔人の留学生のお披露目もそろそろだし」
「それに関してはフローラが問題無いと言っていたので大丈夫だろう」
後の心配事はコボルトの集落で提案したお茶や機織り関係か。
サウスルタンに関しては動き始めたので、後はなるようになる事だろう。
「ベスターの所は落ち着いた?」
「うむ。魔人どもも新しい街に順応し、通貨の勉強も始め物の売買も始まった」
「そう言えば魔人って、ベスターって言う魔王が居るとどんな恩恵があるんだ?」
「ん? 私の恩恵は魔力だろうな」
元々知性も高めで体も強い魔人が、ただでさえ高い魔力をベスターが更に上乗せする。
フローラさんが妙に強いのってベスターの存在もあるんだろうな。
「下水処理施設の稼働が少々心配ではあったが何とかなっているようだし、後は魔人を教育して国として政治が出来るようにならんとな」
「素直な感想言っていい?」
「ん、何だ」
「ぶっちゃけベスターとフローラさんの二人で国の運営できると思う」
「それでは私達にプライベートの時間が出来ぬではないか。そろそろサクラに弟か妹をだな――」
「旦那様」
ガッとフローラさんに肩を掴まれ、今の自分の発言を反芻するベスター。
俺が思うに問題は二点だろう。
家族計画を語る事、そしてサクラの名前を口にした事。
他に会話を聞いている人がいないからいいが、不用意であると言わざるを得ない。
「トモヤ様、本日はこれで失礼いたします」
「あ、はい……」
「ちょ、まっ、待つんだー!」
フローラさんが開いた転移門でベスターがドナドナされていった。
さーて、西の国の資料集めでもするか。
王城の資料室にある西の国の資料をざっと見たが、大して重要な内容は無かった。
大昔の国の成り立ちや戦争になった経緯なんかがまとめてあったけど、筆者の主観ばかりでまるでアテにならない。
どうやら当時共和国だったうちが、恐らくシュバインシュタイガー公爵家の当主が暴走して王制にし、何かやらかして西の国と喧嘩を始めた。
そんな話だったと思う。
当時の資料が消失してて、どの程度本当なのか全くわからないのだ。
シャルもベスターも多くの書物を読んでいるので知識の上ではあるようだが、その本自体が後世に歪んだ事実を伝えるための物と言う可能性もある。
自国ですらそうなのに、他国の情報なんて碌に集まるわけ無かったのだ。
通説ならいくらでも転がってるんだけども。
何ならベスターじゃないけど西の国に行って調べてやろうかとも思ったが、そっちの情報も果たして正しい事やら。
結局戦争が悪いのだ。
最終的には勝てば官軍で後世にはいいように伝えられてしまう。
王国に関してはエルフによって停戦が為されたが、その停戦も飲みの席での賭けで負けたからと言うからどうしようもない。
一応表向きは泥沼化した戦争を止めるべくと言う事になっているらしいけど。
って事は、一番詳しいのは直接向こうに行って仕事してるシャルって事だ。
「って事になっててさ」
「やっぱりあのクソガキ殺せばよかった」
夜、寝るまでの時間。
丁度シャルの番だったので、テオの事を説明して聞いてみた。
「西の国の情勢は私が知ってる最初の頃から危うかった。だから千絵のサンバーストを見て余計に大騒ぎだった」
「あの規模の魔法を目の当りにしたら普通は騒ぐけどな……」
「まず、第一位がアルフレート・フォン・バウワー侯爵。西の国はデュークの方の公爵が消滅していて候の方しかいないから」
「何で消滅してるんだ」
「共和国の更に前は王制で、その王の親族が公爵家をしていたみたい。で、戦争の中で王族の中で王だけが生き残って、その王も死んで一族が途絶えた」
「ああ……」
本来公爵家ってのは王家の親族がなるもので、同じくらいの力を持つ外部の人間を任命するに当たって侯爵を付けたらしい。
家柄の都合上、必ず公爵家が上になるようだ。
うちの場合も恐らくずっと昔、共和国の前も王制だったんじゃないかとシャルは言う。
「第二位がデニス・フォン・オイレンブルク侯爵。バウワーが中央の平野に大きな領地を持っていて、オイレンブルクが東の海岸線付近を持っている」
「フォンって付くのは?」
「貴族名。これが無いのは平民」
「そこら辺翻訳の魔法札の効果範囲内?」
「内。やっぱりこの世界の言葉でも貴族名はある」
第一も第二位も食に困らなそうだ。
だからこその上位なのかもしれないけど。
「第三位がテオの所のハーゲン・フォン・ノイベルト侯爵。国境の先にある山岳地帯から平野に掛けて領地を持っている」
「話だけ聞くと、その三家だけでほぼ全部の領地っぽく聞こえるけど」
「その三家の間に領地を持つ貴族がいくつもいる。『御三家の緩衝材』って言われてる」
隣接してたら争いが生まれかねないけど、その間に小さな領地を持つ貴族がいる事で直接やり合う事が無いと言う事か。
「その隣接してる領地を得て一位になろうって言うんだろ? 確実に一位のバウワー侯爵家と戦争じゃないか」
「普通に考えたらそう。バウワー侯爵家は私兵も数が多いし西の国の穀物庫と言われる程に収穫量が多い土地」
って事は収穫した穀物をあちこちに売って大分利益を上げていそうだ。
となると邪推するのが、バウワーの価格設定一つで他の家の財政状況が左右されかねないんじゃないかと言う事だ。
主食は必要だ。
仕入れなければならない。
それは個人間では無く領主同士でのやり取りだろうから、バウワーが『今年は少し収穫量が少なくてね』とでも言って釣り上げれば財政に直撃する。
「もう今の時点で、テオがバウワーを倒す為だけに王国を利用してるとしか思えないんだけど」
「ん、そう思う。でも今のバウワー家当主はアホ」
「……アホ?」
「頭悪い。先代が早死にして親の七光で無茶やってるから、側近も戦々恐々としてる」
「戦力は?」
「うちの近衛兵団と魔法師団がいる感じ」
千絵と楓子で封殺出来る規模ではある。
「シャルとしては、今回の件どう思う?」
「バウワー次第。真面目に立ち向かうならノイベルトに勝ち目は無い」
「オイレンブルクと結託したら?」
「勝てる。バウワーとオイレンブルクは昔から反王国で、特にうるさい」
「それがあった……」
全く、変に停戦とかじゃなく解決しておいてほしかった。
「バウワーから東側の貴族が纏まって攻めたら?」
「それこそ死に体の貴族を死地に放り込むだけで意味が無い」
戦力としては考えられないか。
「でも今回の件、私はピレネーの人間を少し尊敬する」
「珍しい」
「ん。ん。ん」
珍しいと言った事に大変お怒りな様子で、人の腕に爪を立てつつゴンゴン頭突きしてきた。
「本来国境線付近は戦いの場になりやすく敵対感情も悪化しやすい」
「まぁそうかも」
「逆に仲良くなってしまえば、こっそり物資の横流しとか出来て更に関係は良好になる」
「うん」
「恐らくそう言う事はやってると思う。でもそれによって敵を抑えてくれたのも事実」
「じゃあ今回の件で何かあっても責任追及はしないのか」
「する」
「おう……」
「この件は難しい。多分大体の家はノイベルトの提案を呑む」
「大体の家が提案を呑むって、そこまで水面下で進んでると思ってるのか」
「多分今回は本人が直接来て決を採る。公爵家本家がどの程度関与しているかはわからないけど、分家の人間が多数賛同してたら勢いに飲まれて本家も動きかねない。それくらい好機ならやっちゃえ案件」
「厄介だ……」
「この際バウワーとオイレンブルクを身動き取れなくして降伏させるのもあり」
「身動き取れなくしてか」
兵糧攻めが頭を過ったが、バウワーの街は備蓄があるだろう。
備蓄庫全ての情報があったとしても難しいし、不安定な情勢なら恐らくバウワー家個人所有の備蓄も相当あると思う。
「街道、各町の周囲に千絵と楓子でクレーターか深い溝を作って貰って、人も荷物も行き来を殆ど出来なくするか」
「ん、完全にシャットアウトは出来ないけど消費の方が多いから有効」
「後は向こうにどの程度の転移門の使い手がいるかだな」
「私くらい使える人は人間にはまずいない」
元々種族違うしな。
千絵や楓子ですら異世界人の中でも規格外らしいし、となると有効打を与える事は出来るか。
「じゃあどうしようもなくなったらそれで。その前に、恐らくバウワー家を叩く為の戦力にしか見られてないって情報を流しとく」
「ん」
でもテオの事だ。
また変な事を考えている可能性も捨てきれない。
西の国側も王国が介入してすんなりバウワーを倒し、東のオイレンブルクへ向かうかと言ったらそうでも無いと思うのだ。
俺が西の人間で王国を良しと思っていないなら、バウワーを倒した後で内部で反乱を起こし、オイレンブルクと通じて逆に王国へ攻め込む事も考える。
抑止力として勇者と、脅しとして大魔王が控えてるけど。
完全に併合しないでオイレンブルクとそれ以外と言う形にしてもパワーバランス的には勝ちで実質支配してしまえる。
後は西の国の人間で勝手に争って支配者を選べばいい。
恐らくテオの父親は、自分たちの安全確保の為に王国に助力を願いに来るのだ。
何かあったら王国がバックに付いていれば、バウワーを倒した後も攻撃される可能性を減らせる。
自分達に何かあったら王国が襲って来るぞ、と言うだけで充分効果はあるはずだ。
それに反発をする王国嫌いもいるだろうが、今すぐ手が出せないならとりあえず西の国を併合してから考えればいい。
となると将来的に危ないのは息子のテオだ。
取り入ろうとする奴もいれば、テオの両親が死んだ後でさっくり殺して成り代わろうと考える奴もいるだろう。
多分テオはそう言う事も考えた上で、俺に助けを求めている部分もあるのだと思う。
気に食わないけど。




