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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
西の国の動乱
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西の国の転生者


 夕食はおやっさんの料理には劣る物の、見栄えのいい料理ばかり大量に出て来た。

 こう言う宿の料理よりもおやっさんの方が美味いのは仕方ないと言うか当然だし、こう言う宿ではそれっぽい物を出す事が求められているので、まぁこんなものだよなと言うのが素直な感想で、同時に俺もそんな寸評を出来る位にかぶれてしまったのかと少し嫌にもなる。

 でも、全てはおやっさんの作るメシが美味いのが悪い。そうだそう言う事にしよう。

 こう言う所の食事が残すの前提じゃないかくらいの勢いで出て来るのは、どこの世界でも共通なのだろうか。

 そして貧乏性な俺はそれを必死に食べきるわけだが、他の面々は普段の割と質素な生活もあって早々にギブアップしていた。

 ビックリなのは底なしのはずだったシエルで、先にシャルがアウト、千絵がアウトと二人消えてしばらくは楓子と共に頑張っていたのだが、楓子が突っ伏して少しして限界を訴えた。

 元々シエルは、ドワーフ王国のキノコが主食の日常に辟易してたせいもあっての底なしだったので、最近の満ち足りた食生活のせいで以前ほどでも無くなってきているようだ。

 それで言うと普通に大食いになってる楓子さんがいらっしゃるのですが、楓子の場合は単純に美味しいモノなら何でもバッチコイな部分があったし、食っても腹に付かない特異体質なので最近調子に乗って食べ過ぎてるだけだと思う。


 食後にバルコニーに出て町を見下ろす。

 この部屋が最上階の五階に位置していると言う事は、この町では神殿より少し低い程度ではあれど、それ以外であれば町を一望できる高さと言う事である。

 神殿より高くしないのは配慮と言うよりも、この宿の主が敬虔な信徒だからと言う方が正しいのだろう。

 時間は遅いが、町には飲食店も多く飲み屋もある事で外はまだ賑わっているようだ。

 もっと大人なら町に繰り出してとか考えるのだろうが、それよりも面倒事に巻き込まれる可能性を考えてしまうヘタレである。

 だってなぁ、昼であれなんだから、酒の入った信徒に見つかったらどうなる事やら。


「トモヤー、何か面白い物でもあるのー?」


 腹が満たされて普段よりふにゃふにゃのシエルが部屋から出て来るなり抱きついてきた。

 こいつ、トラ子がいない事で今の内だと思ってるな。

 その癖トラ子とは仲良く日向ぼっこしながら昼寝したりしてるんだからな。

 多分本質的にシエルとトラ子は似ているのだろう。

 構ってほしくて仕方ないと言う部分で。

 その証拠に腰に抱きついてうにゃうにゃと謎のうめき声を発している。

 俺はその栗色の髪を撫で、軽くケツを引っぱたいて部屋の中に戻る。


「トモヤにお尻触られたー」

「ご褒美じゃない。よかったわね」

「えへへ」


 千絵が投げやりに答えると、シエルはそれでも嬉しそうにしていた。

 なんだうちの嫁の半分はドMなのか。

 いやシャルも言う事は言うが構われてナンボな生き物だし、千絵も構わないとじりじり近寄って来たりする。


「早いけどそろそろ寝るかなぁ」


 そう言った瞬間、何故か緊張が走った。

 俺を除く四人が顔を見合わせる。

 これはアレか、今日が誰の番かとかそう言う奴か。

 旅行先に来てまで何やってんだかと思うと同時に、旅行先だからこそ、今日こそはみたいな意気込みを四人から感じてしまう。

 えーっと。

 夜だけ王城に戻るか、と言いかけてやめた。

 多分袋叩きに遭う。

 四人が望んでるのは究極的には一対一の諸々込みの甘い夜なわけで、王城に帰るなんて言った日には興醒めだと怒られた挙句に相応の見返りを要求されるだろう。


「えーっと、今日は千絵だったか」


 なので早々にこちらから手を打つことにした。

 千絵は無言で両手を上げてガッツポーズをすると、立ち上がって三人を見下ろしながらにんまり笑う。

 宿泊予定は三日だ。

 三日目の朝にチェックアウトする。

 と言う事は二泊なので、明日は楓子だからシャルとシエルは残念ながらだ。

 となると不満を募らせるのがわかっているので、俺は勝ち誇ってる千絵を見つめた。

 その視線に気づいた千絵が、俺の視線の意味を少し考えてから察したのかため息をついた。


「シエル。今晩は一緒よ」

「やったー!」


 まぁ別に何をするでもなく、いつものように寝るまで喋るだけなんだけどな。

 シエルを選んだのは、千絵が個人的にシエルを気に入ってる事が一番大きな理由だろう。

 次いで、シャルを選んだ場合は明日の晩が楓子とシエルになるので、胸々しいペアを避けたこともあると思う。

 千絵だって普通にあるのに、二人が規格外なので多少ぐぬぬと思う部分はあるようだ。

 別にそんなの関係ないのにな。

 シエルが諸手を挙げて喜んでいるのを見ると、なんと言うかこう、何かあって一線超えてしまいさえすれば、四人にとって本当はいい方へ向かうんだろうなと思いもするのだ。

 まぁその結果一気にご懐妊とかなると、一国の兵隊の戦闘力以上にもなる勇者二人の戦闘力がほぼゼロになってしまう問題もあるので、実際問題家族計画は慎重にとなってしまうので勢いに任せられないのだが。





 翌朝は軽くはない朝食を済ませ、外に出て様子を伺った。

 巡礼者の視線は感じる。

 感じるが、放っておいてくれるらしい。

 大司教は働いてくれたようだ。


「これでやっと観光が出来るな」

「あの狂信者も仕事出来るじゃない」


 シェリールとしての姿で満足気に言うと、シエルを連れて近くの店を見に行った。

 近場の店から攻めると中々先に進まない気がするんだけど、こうなっては仕方あるまい。


「ほら、智也君も行くよー」

「さっさとしなさい」

「あ、はい……」


 こういう場合、女性陣の行動力には敵わないと相場が決まっているし、一応計画はしてあるが本人たちの思う通りに動いてもらうのが一番いい。

 なんせ結局やりたい事をやるんだから。

 計画自体も神殿への挨拶と何か所か見る予定があるだけで、それも町を回っていればいずれ立ち寄る場所だ。

 そう、いずれ。

 わかってはいたけどテンションの上がった女性陣の凄さは半端なく、ずるずると引きずり回された。

 この町は神殿を中心に円形に発展を遂げていったので、最初に居た中心地から渦を描くように外へ外へと移動していく。

 まぁ午前中を使って三百メートルも進まなかったのだが。

 近くの店で串だのケバブっぽい片手で持てるタイプの食事だのを買って歩きながら食べていると、一人の男の子が寄って来た。

 礼拝に来たのか、質素な一般的な教徒が着るタイプの服の上だけを着ている。

 ちなみに下に関しては大人サイズを仕立て直したらしく、丈だけは大人サイズなので問題無い。


「お姉ちゃん」


 楓子をロックオンだ。

 楓子は割と異性が苦手だが、子供相手だとそれも無くしゃがんで寄って来た子の頭を撫でる。


「どうしたの?」

「女神様って本当?」

「本当だよ?」

「すごいねー」


 子供相手だからか女神云々を受け入れて答えていたが、それを聞いたその子は無邪気な笑顔――? を浮かべて抱き着いた。

 おいお前俺の楓子に何してやがる。

 いやしかし相手は子供。

 その子供は楓子にしがみついたまま、ナチュラルに手を胸に――。

 引っぺがした。


「ちょ、智也君!?」

「たんま。こいつおかしい」


 俺の感が、と言うかこいつの笑顔が訴えて来るのだ。


「こいつの笑顔、エロオヤジのそれだぞ」

「お、お兄ちゃん離してよー!」

「智也、大人げないわよ」

「いーや」


 襟首をつかんで引っ張り上げるだけで浮いてしまう程に小柄な子供だ。

 下手したらトラ子の人型版と同じくらい幼い。

 そんなこの世界の子供を、鼻と鼻がくっつく位までくっつけて聞く。


「お前、いやあんたの実年齢はいくつですか」

「お兄ちゃん何言ってるの?」


 無邪気な笑みで問いかけて来る。


「ゴキブリだらけの部屋に放り込む」

「や、やだなぁ、そんな事しても――」

「はいアウト。この世界には元の世界みたいなゴキブリいないから」


 ぽいと投げ捨てた。

 楓子がポカンとしてる。

 厳密にはいないのでは無く、すぐ大きくなるので見つかりやすく駆除されやすいだけだ。


「なんだよバレるの早いな。もうちょっといい思いさせてくれてもいいじゃないか兄さん」


 そう言って、服に付いた砂を手で叩き落としながら立ち上がった。

 この世界の平民にありがちな茶髪の、普通の男の子だ。

 どちらかと言えば可愛い顔をしてると思う。


「え? え?」

「あのね楓子、多分あの子転生者で、中身の年齢はもっと上って事よ」

「え……」


 急に少年をゴミ屑でも見るような目になった。


「変態……!」

「おぉっ」


 変態呼ばわりされて喜んでいるようだった。

 こいつは最高に変態野郎だ。

 店を見てたシャルとシエルも戻って来て、一体何事だと俺を見る。


「どうやら転生者らしいんだ」

「どこの国出身?」


 シェリールが身を屈めて少年に問うと、少年は手を斜め上に伸ばしてシェリールに抱きつこうとする。

 シェリールは少年の頭に手を置いてそれを防ぐと、見下した視線で言うのだ。


「私が見た目に誤魔化されると思わないで」

「残念」

「で?」

「西の国のテオ・フォン・ノインベルトです」

「ノインベルトって西で三位の領地を持つ家じゃない」

「ええ、シェリール王女の事は父から少し聞いています」

「何だ、有力貴族なのか」

「ええ。なるほど、西の国なら転生者の情報なんか入ってこないわ。あの国は他の領地が敵だから外部に情報を漏らさないもの」

「あまり知らないけど面倒そうだな」

「あんまり関わりたくないってのが本当の所よね。さっさと自国統一してくれればいいのに」

「父も奔走してるようですよ?」


 ニコニコ笑顔で言うが、その笑顔になんか邪悪さを感じるのだ。


「で? そのテオが一人で何してるの?」

「勿論両親揃っての家族旅行です。ちょっとはぐれただけで」

「何、迷子なの?」

「一人で探せるので大丈夫です。偶々いいカモが――」

「智也君、そいつ何とかして」

「吊るすか。で、親を探して抗議するか。子供のやる事とは言え、一国の次期国王と呼ばれてる人間の嫁に不用意に抱きついたんだからな。さて、いくらもぎ取れるか」

「ちょちょちょ、嘘です申し訳ありませんでした。シェリール王女が出て来るまでまさかそうだとは」


 嘘だ。

 だって女神フーコと知ってて近づいたじゃないか。

 いやまぁ向こうでは女神フーコが結婚してることになってない可能性もあるけど。

 宗教がらみになるとその辺り変に解釈される可能性があるから怖い。


「で? 最初と話し方違うけど何なんだお前」

「ああそう言う事ですか、あれは日本語で話しただけで」

「なるほど」


 日本語だとああいう言葉使いだったのだろう。

 この世界で生きていたら許されるわけも無いし、今がこの世界での普段の話し方なのだろう。


「それで日本のどこ出身なの」

「産まれも育ちも生粋の浜っ子、横浜県民です」

「市、な」


 シェリールが突っ込みそうだったので代わりに突っ込んでおいた。


「歳」


 いよいよ相手にするのが面倒になったらしいシェリールは、物凄く投げやりに聞くようになった。


「死んだときが二十歳。今が四歳だから賞味二十四と言いたいけど、自我に目覚めたのはつい一週間前」

「死んだのは何年?」

「令和になった当日」


 テオはシェリールも転生してきたことを知らないので、わざと変な言い方をして遊んでいるらしい。


「それじゃ真新しい情報は無いって事ね。わかったからもう行っていいわよ」

「えっ、エルフのお姉ちゃん僕を置いて行っちゃうの……?」


 元々目立ってるせいで、どうやら俺達が迷子を保護したように見られているらしい。

 これは面倒な事になった。


「よーし、じゃあお兄ちゃんが手を繋いでやろう」

「お断りします」

「やかましい」

「お前俺より年下の癖に生意気な」

「見た目年齢が物を言う世界へようこそ」


 左手を引っ手繰ってつよーく握ると、俺達は歩き出した。


「そうだ千絵、ひとっ飛び神殿まで行って、テオって子供が迷子になってるって知らせて来て。町の入り口に連れて行くから」

「了解」


 答えるなりピューっと飛んで行った。


「シエル、興味深々にツンツンしない」

「トモヤ、この子意外と魔力高いよ?」

「じゃあ助言だ。防御魔法は本気出して技術を磨いた方がいい。自分も家族も守れるから」

「効率的な攻撃魔法とかじゃ無いんだな……」

「それは他の人がしてくれる」


 な? と楓子を見る。

 いまだに楓子はテオの事を害虫でも見るような目だ。


「そう言えば元々の名前はなんて言うんだよ」

「武田悟志」

「悟志ね」

「年下の癖に呼び捨てにしたら怒るからな。いいか、本気で怒るからな」

「この世界では俺の方が年上ですからー。そもそも転生を隠しているならテオとしか呼べないじゃないか。あれ、隠してる?」

「どう反応されるか分からないから隠してるよ。折角美人の母さんに可愛がられてるのに扱い変わったら悲しい」

「一応実の親だろ」

「変な気は起こしてないよ。どうやら本能的に肉親はアウトだってわかってるらしい。もしくは体が性に目覚めてないからかもしれないから、今早く精通が来ないかなと」

「生前は遊び人のチャラ男だったろ」

「これで実は来年医大卒業予定の医者の卵で割と真面目」

「倫理を腹の中に忘れてきたか」

「酷いなぁ」

「今後一生会わないだろうし、割とどうでもいい。うちの嫁たちに手を出そうとしたなら尚更」


 俺も流石にあの国に進んで関わろうとは思わない。

 この間ちょっとだけ調べたが、元は共和国なのに分裂して、今では各々の領地を守るだけになってしまった国だ。

 内紛したり止んだりで、何十年か前までに小さな領地は戦いに敗れて吸収され、今ではある程度大き目の領地を持つ十五の家が西の国と言う形で残っている。

 シャルは面倒だから一番大きな領地を持つ家に行って事を済ますらしいが、中々周りに情報が伝達される仕組みでも無く、後で知る小さ目の領地を持つ家はイライラを募らせるらしい。

 この間の『お土産』の件だって家族内で用途について揉めたろうし、それを知った周りの領地の貴族も何でお前の所だけとなったようで、ここ数ヶ月緊張状態だと言う。

 そんな西の国も、うちに何かする時に限っては手を取り合うと言うのだから、シャルが嫌がらせをしたがる気持ちもわからんでも無い。

 とは言え何事も例外はあり、教皇の実家も元は西の国からの亡命だったし、ピレネー公爵家もこっそり仲良くしてる家があると言う噂だ。


「冷たいなぁ、トモヤは」

「はいはい」

「でも、巡礼の後は王都に行くって言ってたから、また会うかもよ」

「今の生活で会ったら凄いっつの……」


 大体王城か学校だし、それ以外では転移門を使って行くような距離にひとっ飛びだ。

 王都でばったり道端で会うなんて事は中々考え付かない。


「智也、言って来たわよ」

「ありがとう。後は門前の警備兵に渡せばオッケーだな」

「トモヤって意外と手際いいな。ボケっとしてそうな見た目なのに」


 急に呼び捨てになってイラっとした瞬間、テオの体が浮き上がった。

 シェリールだ。


「私たちの旦那を悪く言うと、成層圏までぶっ飛ばすわよ」

「冗談だって、同郷のよしみで勿論許してくれるよな、トモヤ」

「……俺はいつか子供に対して、私情で罰を与えるかもしれない。そうなったら隠居しよう」


 テオが空中で洗濯中の洗濯機の中身みたいにぐるぐる回っていた。

 ほんの数秒だったが、地上に下されて目を回しているテオの手を取り、町の入り口へと急いだ。


 結論から言うと入り口にはテオを探す両親の姿があって、実にスムーズに引き渡しが完了した。

 どうやらはぐれたのは入り口から入ってすぐの辺りで、テオがあちこち勝手に見て歩いていたらしい。

 迷子では無いのだろうけど、親を心配させるとは不届き者だ。

 とりあえず引き渡しは終了し、そのすぐ後に神殿からの伝令が飛んできたので無事解決した事を告げ、俺達は観光に戻るのだった。



こないだの体調不良の時に出た整腸薬が効きすぎなのか、今度は出なくなりました。

あーしんどいよー

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