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サウスルタンの復興



 とりあえず上の方で何となくの方針が決まれば後は早く、翌日にはシェリールモードのシャルにサウスルタンの街にリリアナ達と共に連れて来て貰い、彼女達の母親と面会する事にした。

 一緒に楓子も来たのだが、こっちは治療の続きである。

 どうやらこの地に残った人はフルヒールが必要な程酷い怪我の人はそれほどでもないようで、範囲型のグレーターヒールでほぼほぼ何とかなっているらしかった。

 それもそのはずと言うか、重傷者を優先で王国に運んだらしい。

 亜人たちはと言うと、一昨日ポチと話した後で亜人達で話し合いが持たれたようで、渓谷南部へ行く事で纏まったらしかった。

 そっちに関してはベスターがやってくれるから大丈夫だと思う。

 ベスターとしては南部の探索で、本当は亜人の集落なんかよりもオークの本拠地を見つけたかったらしい。

 いくらオークが集団で生活する魔物だと言っても、本拠地を離れずに残っている個体は多数いるはずだと。

 既に魔王がいない今ではオークもさしたる脅威では無いのだが、本拠地に残る戦力と既に魔王が死んだと告げる事で新たな侵攻を止めるつもりらしい。

 まぁ言われてみれば確かになのだが、後から合流するオークも居て不思議は無いので、そう言った事が無いようにらしい。

 本当に今回の件は、ベスターとフローラさんがいなかったら後手後手に回って王国終わってたと思う。


「トモヤ様、母です。お母さま、こちら王国の次期国王で在らせるトモヤ様と、お后様のシェリール様です」


 リリアナの母親は早々に治療を終えて屋敷に帰っていた。

 幸いなことに使用人も殆ど無事で、何とか元の暮らしに戻ろうとしているように見えた。

 リリアナはそんな母親を見て少し辛そうにしていた。

 応接室のようなだだっ広い部屋に通されたのだが、建物全体に言えるが明り取りと空気の通りを良くするためか窓が多い。

 その為、室内にいても風の流れを感じる位で、気温はそこそこ高いはずなのに丁度良かった。


「リリアナは兄弟は?」

「兄が三人居ましたが、恐らくもう」


 末っ子のしかも女の子が一人だけだったのなら、それはもう可愛がられていた事だろう。


「トモヤ様。この度は我が子リリアナを助けていただき誠にありがとうございます」

「それに関しては訂正を。自分と懇意にしている魔人の王が偵察がてら救出したので、自分の手柄では無いのです」

「魔人の――」

「彼の人間性についてはリリアナから直接聞いて頂ければ」


 使用人が出してきたお茶は紅茶で、どちらかと言えばベスターの森で取れた物の方が香りも味もいいかな、と言う位には質のいい物だった。


「それで本日はどのようなご用向きでございますか?」

「誠に勝手な話なのですが、リリアナをサウスルタン代表として祀り上げようとしておりまして」

「リリアナをですか」


 そう言って少し動きを止めた。

 目に見えて何がと言うわけでは無いけど、これは滅茶苦茶頭が働いてる人にありがちな仕草だ。

 最近会議室でよく見るし。


「そうですね、サウスルタンの代表がいないと話も出来ませんものね。ご厚意感謝いたします」


 数秒で、国の主要な男連中が既に殺されている事、その場合誰が次代を担うべきかを考えたのだろう。

 恐らく何人か候補が浮かんで、同時に自分の娘がそれならば利権が得られると頭に過ったに違いない。


「王国ではサウスルタンを放置か吸収かの二択で争われまして」

「私共に独自に復興を遂げる事を許していただけるのであれば、全力で取り組む事を誓いましょう」

「勿論それでは王国に利が無いので吸収を選択致しました」

「……ですが吸収しても利は薄いのでは?」

「それに関しては山脈を貫くトンネルを作る計画を立てておりますので問題有りません」

「可能なのですか?」

「こっちには勇者二人いますので」


 何ならベスターもいい経験だとか言いながらやりそうだし、トラ子も掘るだけならハイパワーでやりそうだ。


「吸収された場合、わが国はどういう扱いになるのでしょうか。やはりシェーバー領に?」

「それはそれでパワーバランスの変化もありそうですし、何より今後復興を叶えて独立となった時に難しくなるでしょう」

「独立などさせてもらえるのでしょうか」


 やはりそこに突っかかるか。


「ええ、対外的にも王国がサウスルタンを救った、と言う形にする事が最も綺麗に纏まると思いますし」

「表向きはですか?」

「一般にはそう思われるでしょうね。何ならうちの怖い爺様連中も大体がそう考えているでしょう」

「では本当に? それこそ利が無いではないですか」

「その代わり、渓谷の先を亜人に明け渡していただきます」

「――――」


 考えていると言うよりかは、こいつ一体何を言ってるんだと言う顔だった。


「私は異世界人です。妻であるシェリールはエルフ、他の妻も異世界人が二人とドワーフの王女。全員が亜人との確執なんか知ったこっちゃない種族なんです。であれば、亜人も酷暑で死者が出る程に苦しんでいるようなので助けてやりたい」

「意味が分かりません」

「まぁそうでしょう。だから交換条件だと思っていただければ。どうせ南はオークに食いつくされました。これ以上失う物は土地しかありません。そして我々はサウスルタンを完全に取り込む事だって出来ます」

「交換条件にしては少々レートがお悪いのではないでしょうか」


 そこまで亜人が駄目なのか、と言うのをここ最近で既に何十回も感じてそろそろ無力感すら感じてしまう。


「そこでです。リリアナに侯爵位を与えてサウスルタンの地を領地として預けます。これでほぼ今まで通りのサウスルタンとして活動出来ると思います」

「……今度は逆にレートがお悪いのでは?」

「慈善事業みたいでしょう? 実はそうなんです」


 こんな事爺様達の前で言ったら袋叩きだ。


「私は元々ただの異世界人で学生で面倒な事なんて一切やりたくも無ければ考えたくも無い普通の人間なんです。いいですか? そんな人間が次期国王だなんて言われて政治に首を突っ込んでいるんですよ。そりゃもう余計な仕事はしたくないし、今後厄介になりそうな案件はあまり抱えたくない。だからサウスルタンはサウスルタンで基本勝手にやってくれる方が助かるんです。シェーバー公爵家に任せるとシュバインシュタイガー家辺りが代理で統治する事になりそうですし」

「それは少々困りますね。あの家は良く無い噂が多いので」


 国外にまで悪い噂が轟いてるぞ。


「ですが、それなら猶の事放置すればいいではないですか」

「でも残念な事に中途半端な博愛主義でもあるんです。目にしてしまって助けられるのなら助けてしまった方がいいし、それが結果プラスとなって自分達の助けになってくれるかもしれませんから」

「トモヤ様はお馬鹿なのでしょうか」

「ええ、まぁ自覚はあります。でも最近では魔王絡みだろうが何とかなっちゃう人材が揃って来たので、そろそろ自重しないと過労死するかもとは思っています」

「……結果としてサウスルタンにとってはいい条件なのでしょうね。亜人にさえ目を瞑れば」

「その亜人ですが、自分と魔人の王が言語理解と言うユニークスキルを持っていまして、極一部の者と会話が出来るのです。既に見つけてありますので、今までのように会話が出来ないからとりあえず追っ払う、と言う事もしなくて良くなるかと」

「亜人との会話ですか……」


 目に見えて鳥肌立ってんですけど奥さん。


「お馬鹿と言った事を謹んで訂正させていただきます。トモヤ様はお若い割に思慮深くお優しい方なのですね」


 微妙に侮蔑の色が含まれてる気がしないでも無い言い方だった。


「全てトモヤ様にお任せいたします。この子を使ってやってください」

「いや傀儡政権とかそう言うつもりは無いですよ? 最終的に物流が盛んになったり人の行き来が増えればいいな、とは思っていますが」

「トモヤ様、多少の欲が無ければ国は大きくなりませんよ」

「あ、はい……」


 だってなぁ、サウスルタンの地を完全に取り込んだ所で、サウスルタン自体が割と陸の孤島的な立ち位置だから正直微妙なんだよなぁ。

 下手に領土を広げれば、見えない場所で悪さをするのも出て来るはずだ。

 特に山脈の先で見通しの利きにくい所なんて正にだろう。


「で、ですね。リリアナを代表に据える事で、今後の内政を担う人材をかき集めて教育をしなければならないのですが」

「それに関してはこちらの有力貴族に、教えられるだけの人材は残っていると思います。事務系は女性の方が得意分野ですので」


 そうなのだ。

 王国の王城に貴族の付き添いで来てる従者も女性が多いのは、事務系のスキル持ちは女性に多いからだ。

 後は血も影響するのかもしれないが、古くから貴族で商家だったりすると商業系のスキルが発現しやすい。

 近頃めっきり会っていないがジャンだって、元々勇者のスズウキ家の傍流だけど商家の家系だから戦闘系のスキルは殆ど無いようだった。


「それを聞いて安心しました」


 もし駄目なら王国で本気出して教えなきゃいけない所だった。

 まぁそのつもりで学校にその手の先生いたよなぁと頭に浮かべてはいたのだけど。

 何ならサウスルタンの貴族の子を纏めて学校に編入させてとか。


「それでなんですが、リリアナの件です」

「なんでしょう」

「将来サウスルタンを返すに当たり、共和国としての形は取れないと思うのです」

「言おうとしている事は理解できます。何なら王国から婿を取らねばならない状況ですし」

「なのでリリアナには女王になるべく、しばらく王国で勉強してもらおうかと思うのです」

「――女王、ですか」

「ええ。まぁこの辺りは返還云々の話に絡むんで会議でもぼかしたんですけど、うちに立派な王女が居るのでそれっぽくはなれると思うんですよね」


 そう言ってチラッと隣のシェリールを見たら呆れた顔をしていた。


「そこでうちの有力貴族から婿を探してもいいですし、婿を他の貴族の女性に斡旋してもいいです。リリアナにはサウスルタン復興の為に全力を挙げて貰いたいので、多少の事には目を瞑りましょう。どうせうちの公爵家は子沢山ですからね」

「……たまに帰って来ることは出来るのですか?」

「トンネルさえ開通すれば陸路で一ヶ月と少しでしょうし、我々が偶に来る予定なのでついでにくっついて来ればいいだけの話ですから」

「でしたらお任せします」

「ご心配なようならお母さまも王都へ、と言いたい所なのですが、お母さまには貴族の奥方への根回しをしてもらいたいのです。そして侯爵であるリリアナの名代として動いてもらわなければなりません」

「人使いの荒いお方ですのね」

「公爵家の次男坊辺りを連れて来て治めさせてもいいですが責任は取れませんよ? いろんな意味で」


 増やす事に抵抗の無い王国貴族だ。

 好色な人を選べば来年には子供が三十人出来てても不思議じゃない。

 政治関係もある程度頑張るのだろうが、元々政治をやっているのは父親世代かその上なので本人がどの程度出来るか分かったもんじゃない。


「頑張らせていただきますわ」

「それは良かった。とりあえずはそんな感じで今後やって行くと言う事でご理解の程、よろしくお願いします」

「ええ。リリアナ、トモヤ様に失礼の無いように」

「わかっております」

「それと隙があったら行くのですよ」

「はい」


 何の隙かはあえて聞かないが、一応気を付けておこう。


 その後もフェリシアとパトリシアの母親に会って、リリアナの所ほどでは無いがざっと事情の説明と今後の展開を話し、『二人に任せるけどこちらとしてはリリアナの側近になって貰いたい』と打診してオッケーを貰った。

 これで三人そろってしばらく王国でお勉強だ。

 ぶっちゃけフェリシアとパトリシアはサウスルタンの街に帰って勉強でも全然いい。

 どっちの家も内政に関係のあった家なのだから、それを継ぐ勉強をしていると言えば外聞もいいし。

 だが、リリアナが一人で王都に残るとなると彼女のストレスが心配なのだ。

 同郷の同性同士でいれるならそれに越したことは無い。


 午後の早い内に一通りやっつけて広場まで出て来ると、既に回復した人たちが家や店の片づけをしている所だった。

 食糧何かは結構酷くやられたようだが、雑貨なんかは手付かずだったみたいなのに、それにしてはどこの家も店も家具を外に出してまで掃除をしているようだ。


「なんなんだろう」

「トモヤ、多分オークや亜人に使われたからよ」

「ああ、うん」


 納得。


「どうやら街の人達は元の暮らしに戻れそうかな。旦那さんや息子さんがいないと難しい所もあるか」

「あるでしょうね。幸いな事に各地の農地は荒らされてないらしいから、人手が足らなくて生産量が落ちたとしても食い扶持が減ってトントンで済むと思うわよ。それ以外の産業で生活していた人には何かしら仕事の斡旋でもしないと大変かも」

「それに関しては持主のいなくなった農地なんかがあるはずだ」


 シェリールモードのシャルが真面目な顔であたりを見回す。

 うちらの中でシャル程にオンオフがハッキリしているのも珍しいと思うが、これで変身を解いたらいつも通りのシャルになるから不思議だ。

 意識的にキャラを変えてるとは言っていたけど、それなら普段ももうちょっと愛想よくしてほしいなー。

 なんて思いながら繋いでる手をにぎにぎすると、黙り込んでちょっと照れるのだ。

 ちなみに後ろから三人がそれを見て小声で囃し立てたりするのだが。


「トモヤよここにいたか」

「目の前に現れてここにいたかはないだろ」


 ベスターが転移門の歪みから半身を出して来た。

 本来なら滅茶苦茶ビックリする所だったのだろうけど、ベスターだけではなく全員の魔力をトレースしてたので、ベスターの魔力が変な動きをしたから転移したなと察知出来たのだ。


「亜人の移動と後の事は何とかなりそうだ。それとオークの残党なのだが、どうやら西の海岸線沿いに洞窟があってその中で暮らしているようなのだが、少々遠くて簡単に見つかりそうに無い」

「魔王を潰したし放っておいてもいいんじゃないかな。遠くなら簡単に北上して来れないだろ」

「だがあの枯れた地脈がどこまで続いているかの把握が出来ておらん」

「あと数日もすれば枯れるだろ?」

「だから、いっその事今のうちに渓谷から先の枯れた地脈を排除して埋めてしまおうかと思ってな」

「別にいいけど……大変じゃないか?」

「なぁに、南部が全滅と言うのであれば簡単な話よ」

「お手柔らかに」

「うむ」


 そう頷いて去って行った働き者ベスターだが、それから五分後に南の地にきのこ雲が上がって一時騒然となるのだった。

 後で聞いた所、とりあえず残った根は焼き払って墨にして、空洞の遥か先目掛けてサンバーストを放ったらしい。

 それによって吹き飛んで崩れて空洞は埋められたが、その上で周囲の岩石を溶かしてマグマにして辺りに流し込んだとかで、ある程度のウィザードでも掘削に時間が掛かるくらいには潰せたとの事。

 お手柔らかの言葉の意味を問いたい。


 ともあれだ。

 こんな感じでサウスルタンの復興は始まったのだが、正直な所街が壊されたとかではないから復興と言うと語弊はある。

 政治機能がマヒしたのを正すと言う意味での復興は少なく見積もっても数年はかかるだろう。

 それだけ人を育てるのには時間が掛かる。

 後はただでさえ人の多くは無い王国内から独身男性のサウスルタン移住希望を何となく募り、そこに定着して向こうの娘と結婚してくれれば万々歳。

 国として全体的に整うまでには一世代の月日が掛かる事だろう。

 気を付けなければならないのは、サウスルタン側の有力者にどこの公爵家や伯爵家が婿を出すかだ。

 恐らく三男坊辺りから先なら惜しげもなく差し出すと思う。

 最初の内に地盤固めをした者勝ちだから、ある程度注意して見ておかないと結果シェーバーの人間だらけとかシュバインシュタイガーの人間だらけになりかねない。

 まぁ多少は仕方ないとは思っているけど。

 とりあえず、サウスルタンはこうして再スタートを切る事になったのだ。



体調は何とかどうにかと言った所ですが、むしろインフルのが堂々と休めていいんだよなとこの時期は特に思います。


本編入るまでが長いわ、オーク編入って倒したと思ったらその先も引っ張るわでしたが、とりあえずここで切って次に行こうと思います。

まぁ次がどうするか何か決まっていないので、暫定で〇〇編とでも入れようかなとか思っているのですが。

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