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戦後処理 その3




 翌日、千絵にリリアナ達三人をアンリさんの店に連れて行ってもらった。

 トラ子が妙にやる気で、大猫モードで三人を背に乗せるもんだから異様な光景である。

 楓子は昨日に引き続きサウスルタンの怪我人の治癒に奔走してもらい、シャルはシェリールとしてサウスルタンの首都や各町を視察と言う体で見に行っている。

 一応護衛にシエルが付いているのでオークの残党がいても大丈夫だろう。

 となると俺は独りぼっちなわけだが、とてもとても面倒な会議があるので、自分の部屋でそれに向けた準備をしなければならない。

 公爵家は吸収と放置で二分されたようだが、結局の所吸収に向けて動く方が面倒事が多い。

 サウスルタンの政治が麻痺っているとはいえ、それなりに発言力のある夫人が多々いる事が予想されるため、そっちへの根回しも必要だ。

 国を暫定とは言え引き込むのだから、他所の国からの圧も予想される。

 お前ら隣接してないし関係無いだろ、オークと戦ったの俺達だし、なんてハッキリ言えたらどれだけ楽か。

 これで特に旨味の無い土地ならいいのだが、サウスルタンの北部は温暖な気候、南部も熱帯程度の気候らしく、農作物の生育には非常にいい環境だと言う。

 勿論最終的にはオークを退き救助に奔走した王国がサウスルタンをどうするか決める事になるのだが、『結果的に美味しい思いをしたんだからサウスルタン産の農作物を安く仕入れさせてくれ』みたいな話はあるだろう。

 まぁそれもこっちでトンネルを掘ったりしなきゃ来ない話ではあるのだけど、支援する以上掘らざるを得ないわけだし。

 対外的な部分ではまだまだ問題点はあるのだろうが、それよりも前に会議でどうやって納得させるかだ。

 ただ、吸収すると決めてしまえばある程度すんなり事が運ぶ可能性もあると思っている。

 と言うのも、あの山を貫くトンネルを作れるのは千絵と楓子、もしくはベスターくらいなものだからだ。

 穿孔魔法であの山脈をまっすぐ貫くとなると、距離は二十キロを超えると思う。

 穿孔魔法で穴を掘ると周囲が高熱で硬質化するとは言え、トンネルである以上補強は必要になる。

 となるとベスターが自分の国で施した下水道みたいにする必要があるのと、一定の幅でライトかランタンの魔法陣を刻む必要もある。

 その工事の規模から、誰もが一度はトンネルがあればと思っていても実現しなかった。

 ぶっちゃけトンネルじゃなくて更地にするのであれば、千絵の極大サンバーストに楓子の弓があれば数日で出来てしまうが、あの山脈は重要な水源なのだ。

 それを破壊するような真似をしたら、今後水不足に喘ぐ事になってしまう。

 交通、物流の問題を解決するために、このトンネルを作るのが吸収に当たって最も重要な事と言っても過言では無いのだが、それを作るのがこっち側の人間なので強味に出来るのだ。

 少なくとも吸収してる間はサウスルタンの利権がこっちに転がり込むわけだし、一応表向きは返す気が有るような無いようななニュアンスで行くので早々にバレたルーベルトの爺様以外は騙せると思う。

 後は利権が転がり込むと思ってるロメオを納得させる為にどうしたらいいかだが、これもトンネルの件が使えるだろう。

 自分で掘れるのかと問えば答えは出る。

 そう言ったことをざっと紙に走り書き程度で纏めていると、フローラさんとあちこち飛び回ってるはずのベスターがやって来た。


「トモヤよ、南部は中々に悲惨な有様だぞ」

「全滅って奴だろ?」


 それはお互いフローラさんの報告で聞いたじゃないか。


「いや、亜人だ。最南端の村からフライで南下してみたのだが、すぐに高温になってだな、亜人の村に死人も出てるようだった」

「まさかオークに付いて来ていた亜人がごく一部だったとか?」


 それに関しては人数が少ないな、と思わなくは無かった。


「うむ。オークに唆された一部が北上していったようだ」

「それベスターは平気だったのか」

「こっちには魔法を好き勝手出来るだけの魔力があるからな」


 そう言って周囲に氷の塊を発生させた。

 これとシールドで体を覆ってしまえば大丈夫と言う事か。


「どれくらいの町や村があるかわかる?」

「基本的に亜人は種類ごとに小規模の集落か村を形成しているのだが、ざっと見た感じ二十ほどだろうか」

「って事は千人くらい?」

「まぁそんな物だろうな」

「じゃあ何とかなるかな」

「……そう言うと思ったが、本気で亜人も取り込む気か」

「ベスターも別に亜人に何か思う所があるわけじゃないだろ?」

「そうだが、魔人である自分で言うのも何だが、人に受け入れられると思わない方がいい」

「ダメかなぁ、やっぱり」

「人は恐れておるのだ。昔と違って亜人が魔物と同じだと思う人間は減ったはずだが、だからこそ亜人が結託して人間に歯向かって来たらどうしようとな。亜人は温厚と言われてはいるが、それは種類によって違うしな」

「元の動物に準ずる感じ?」

「まぁそうだろうな。おっと済まない」


 フローラさんがお茶をいれてきてくれたらしい。


「フローラさんも亜人と人はわかり合えないと思いますか?」

「さぁ、どうでしょう。切っ掛けが無くてわかりえなかったのであれば可能性はあるかもしれません」

「切っ掛けですかー」


 言葉が通じないんじゃ難しいと思う。

 コボルトの件が上手く行けば可能性はあると思うのだが。


「とりあえず残った亜人を北上させられないかな」

「そう言うと思って言葉が通じるのを探したが見つからんのだ。あのポチと反応を見せた数人に頼むしかないだろうな」

「ぽ――――ち、うん、ポチね、うん」

「昨日も詰まってたがどうしたんだ」

「ああいや、前の世界でポピュラー過ぎて使われなくなった犬の名前だから、それが犬の亜人の名前ってのが妙にツボって……」

「なるほどな。しかしだトモヤ、それを表に出したら嫌われるから注意した方がいい」

「昨日は本当にヤバかったんだって……後ちょっとで爆笑してる所だったんだから……」

「まぁいい。では連中を連れて行ってくる」

「ちなみに南の方って滅茶苦茶暑い以外にはどんな所だった? 砂漠?」

「いや、見渡す限り広がるジャングルだな。そうだな、トモヤ達人間からしたら未知の病原菌がいてもおかしくは無い。連れて来る前に洗っておくか」

「いや別に直接顔を合わす機会も少ないだろうから」

「わからんぞ? これで変な病気が流行ったりしたら、真っ先に疑われるのは奴等だ」

「あー、そうなるのか」


 何なら亜人自体が保菌者の可能性もあるんだけど、基本的にシールドで守られてるから大丈夫だろう。


「にしてもジャングルか。滅茶苦茶暑くても採れる農作物って何があるかな」

「イモとかではないか?」

「魅力に欠ける」

「……まぁ、そこに住む亜人ですら死に直面する暑さだ。その地を開拓するのは考えなくていいと思うが」

「それもそうか。でも実際何度くらいあったんだろう」

「その何度と言う概念がわからんのだが、まず日差しが強いから直射を浴びると一瞬で火傷すると思うぞ。後はそうだな、呼吸をすると肺が焼けそうになる暑さだ」

「俺は行けないな」

「恐らく連中は毛皮があるから何とかなるのだろう。後は水源が豊富で一日中屋内で水に浸かってるような状態だった」

「そこまでして北上しなかったか」

「奴等も人間を怖がっているのだろう」


 その溝を埋められるのだろうか。


「まぁとりあえず行ってくる。そうだ、フウコの王国での治療が終わってたら向こうに連れて行こうと思うのだが」

「ああうん、任せる」


 ベスターとフローラさんが転移門の先に消え、また独りぼっちに戻った。

 楓子もそろそろこっちでの治療を終える頃だろうけど、怪我人の数で言ったら現地から動かしていない人達の方が多い。

 まだまだ頑張ってもらわないとならない。

 昨晩珍しく楓子が『私達に時間作ってくれるよね』と自己主張して来たのは、それだけ今回の治癒が大変だと言う事もあるのだろう。

 さて、一応下調べして予定を組んでおかないとな、と思った所でドタバタと足音が聞こえてきた。


「とーもや、ただいまー」


 めちゃんこ上機嫌な千絵である。

 帰りはトラ子も人型で、これまで見た事無い服を着ていた。

 その後ろから来たリリアナを始めとする三人娘もそうなのだが、まさかの元の世界の服装だった。


「それ千絵に無理やり選ばれなかった? 大丈夫?」

「ちょっと智也、そこに正座」

「いや冗談だけど」

「えっと、サウスルタンは温暖な国なのでこれくらいの服装の方がいいんです」


 リリアナがそう言うが、三人が着ているのはTシャツにジーンズである。

 ラテン系のお国柄、そう言うのが何と言うか滅茶苦茶似合うし、何なら元の世界に戻って来たかなと思う位だったのだが、流石にこの格好で王国を歩いたら悪目立ちしかねない。


「ちゃんとドレスも買ってるから大丈夫よ」

「それなら良し」


 考えてみたらサウスルタンの人達も割とラフと言うか、王国程きっちりとした服装の人は居なかった。

 状況が状況なのでラフな格好のままだった疑惑もあるけど、リリアナが恥ずかしがらない所を見る限り、本人たちは多少露出が多めでも気にならないのだろう。

 まぁ露出と言っても腕とチラ見するお腹くらいな物なんだけど。


「トラ子も新しいの買って貰ったか」

「うん、ままが選んだの」


 トラ子は基本的に変身が多いので、上からスポンと脱げて着れるワンピースだ。

 で、だ。


「勿論千絵も買った、と」

「一着くらいいいでしょ?」

「うん、まぁいいけど……」


 多分三人に触発されたのだろう、最近暑くなってきた事もあって、ワンショルのブラウスなのだろうか、それに膝上丈のスカートだった。

 こんな姿で歩いていたら貴族のご婦人たちの視線を独り占めだったに違いない。

 最近では王国のファッションが近代化と言うか元の世界化しつつあるが、それはどちらかと言うと楓子が好むタイプの服がメインだ。

 楓子のお胸様が目立ちすぎるので、それを緩和すべくダボっとした緩い服装がメインなのだが、そう言うタイプだと露出も少ないのでこの世界の人達にも受け入れられやすいらしい。


「これでサウスルタンに販路が出来たらアンリさん喜ぶんだろうか」

「あの人も趣味でやってるからどうかしらね」


 希少性と言う意味では高くつきそうな現代風の服だが、実際は布の質も最高品質で無くていいし、布自体もそんな使わないので貴族が好んで着るタイプよりも大分安い。

 勿論その分利益も落ちる。


「んじゃあ、三人には一回ドレスに着替えて貰って、会議に同席してもらおうかな」

「私は?」

「そろそろシャルが一回帰って来るはずだから、最短ルートで掘れそうな場所探しをしてもらいたいんだけど」

「掘れそうってトンネル? 私まだ穿孔魔法覚えてないわよ?」

「覚えてなくても使おうと思えば使えるだろ。見てるんだし」

「そうだけど」


 怖いのは、感覚で使ってみたら失敗してコボルト戦の時のサンドストームみたいになりかねない事だ。


「シャルが使えるから教えてもらえばいい」

「そうするわ」

「んじゃ三人の着替えを手伝ってやって。後一時間で会議始まるから」

「はいよー」


 こうして再び独りぼっち。

 忙しい時は一人の時間が欲しくなるのに、いざ一人の時間が出来ると物寂しく感じるのは何故だろうか。

 そう思ってると忙しくなって再びループするんだけど。





 三人の支度を待っていたらギリギリの時間になってしまい、ぞろぞろと入って行ったら公爵家の四人には目を丸くされた。


「紹介します、こっちからリリアナ・ピカッソ、フェリシア・ウリアス、パトリシア・バレンティン。リリアナが共和国代表の娘さんです」


 彼女たちの紹介をした後に、ルーベルトの爺様を始め公爵家の当主を紹介する。

 流石と言うか彼女達もサウスルタンではそれなりに名のある家の娘、王国の実質トップを前にしても怯みはしなかった。


「で、とりあえずサウスルタンの代表としてリリアナに立って貰います」

「それは了解した。だが、これからの話をして大丈夫なのか? その、なんだ、若すぎると思うのだが」

「どうせ気が付けばいつの間にか大人になってますよ。復興にはそれだけの時間が掛かりますし」


 ルーベルトの爺様から見れば、彼女たちは孫世代と変わらない。

 その孫世代が国の代表として振舞わなければならないとなれば心配もするか。


「では昨日の続きだが――」


 その昨日の話が実は無意味になってしまった事を知らないルーベルトの爺様を除く公爵家の三人だが、果たしてどう反応する事やら。

 会議は昨日の続きと言いながら、俺が参加していなかった事もあっておさらいからだった。

 結果として吸収と放置で二分された所までだったが、そこで俺が吸収側である事を表明して傾いた。


「と言うわけで、吸収に当たっては大前提として新しい陸路の確保が必要になってくるわけだが」


 勿論それは誰もがわかっていて、暗に俺達がやるから大丈夫と勝手に話を進めているのだ。


「それをトモヤの方でやってもらう事は可能だろうな」

「ええ、勿論です」

「だが誰も出来なかった一大事業だ。そう簡単にはいかんだろう」

「まぁ、勿論それなりの口は出させてもらいますけど」

「と言うと?」

「まずサウスルタンの有力貴族、例えばリリアナの所を侯爵にしてサウスルタンを領地として持ってもらいます。これはそうする事があっちの国民にとって一番反発が少ないだろうと考えてです」


 それを聞いたロメオの『この若造が』と言う顔はしばらく忘れないだろう。

 多分全員わかっているのだ。

 俺が既にルーベルトの爺様と結託している事は。


「サウスルタンに入り込んでる亜人ですが、思い切って渓谷の南を明け渡してそっちに移ってもらうつもりです。これは住民が全滅していて不満が出にくい事が一番の理由ですが、以前の所まで押し返すのも面倒だし手っ取り早く渓谷と言う障害があった方がわかりやすいでしょう」


 これに関しては賛否が出た。

 亜人嫌いに配慮してこういう言い方をしてみたが、それでもやっぱり駄目らしい。


「勿論亜人に関しては言いたい事や思う事があるのはわかりますが、下手に刺激してオークみたいに攻め込まれたら嫌でしょう?」


 そう言うと誰もが口を噤んだ。

 さっきのベスターとの会話で、実は人間が恐れてると言うのは本当だったようだ。


「既に亜人の中で話が出来るのを見つけてあるので、やり取りはこっちで出来ます」


 亜人と話すと言う事にも嫌悪感があるのか、この場に居る俺と三人の護衛に付いて来てるトラ子以外の全員が顔を歪めた。


「とりあえずはざっとこんなもんですかね。他にも細々と出て来るでしょうが」


 そう言って周りを見ると、何とも反応の悪い顔である。


「追加で話し合いが必要のようだな。さて、今日は何時に帰れる事やら」


 ルーベルトの爺様がやれやれと肩をすくめた。

 これはわかっていたが紛叫しそうだ。


「リリアナ達はもういいよ、トラ子、シャルとシエルが帰ってきたらシエル捕まえて二人で王都の案内してあげて」

「はーい」


 さて、これで気兼ねなく話も出来よう。

 公爵家の御当主たちは孫世代には甘いらしく、リリアナ達をチラチラと見て気にしているようだったし。

 その証拠に三人が去ってからのため息と俺への睨み方よ。

 ああ寿命が縮まる。

 それでも最終的には俺の要望を無理やり通す事に成功するのだ。

 想定通り、ロメオから出た不満の殆どはトンネルの件でねじ伏せる事に成功したし。

 後は亜人の待遇に関しての不満が多かったが、今年は暑すぎて他に北上してくるものが多くなる可能性を告げ、人手の無いサウスルタン南部で争うよりかは利口な選択ではとゴリ押しした。

 何なら殺してしまえと言う話も出たのだが、自分達が逆に殺されて奪われる可能性が直近まであった事を思い出して貰って黙って頂いた。


体温計無いからわからんけど死ぬほど熱出ました

結果インフルでは無く

胃腸に来て寝るかトイレかの生活を丸一日

熱のせいか全身痛くて倦怠感が半端ない

逆にインフルの方が諦めがつくし五日間は休み確定だから気楽なんだよなぁ

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