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オークの魔王

加筆してたら二話分の文字数になったから分割しよー

と思ったけど丁度良く割れる所が無かったんで、普段より少し長くなりました。



 翌朝、と言うにはまだ夜も深くて真っ暗だが、リビングには以前ドワーフ王国侵攻の時のメンバーの一部が来ていた。

 今回はスピードも重要と言う事で、戦闘力と機動力を兼ね備えた十人をフローラさんが選抜したらしい。

 とは言え人間の兵士を引き連れてなので、あんまり機動力を考えてもしょうがないのではと思ったのだが、無いよりはあるに越したことは無い。 

 ちなみに少女達の番をしていたトラ子だが、そーっと扉を開けて『オークを倒しに行くぞー』と小声で言ったら意気揚々と来た。

 どうやら憐みと言えば正しいのだろうか、トラ子はあの三人を気遣っていて、それがオークによるものだとわかっているからやる気満々らしい。


「ではトモヤよ。予定通りでいいな」

「うん」


 魔人達は、ちゃんと人の姿をしているのが半分もいなかった。

 三人が人狼、一人がサキュバスでもう一人もインキュバス、残りの五人は見た目では何に分類されるのかもわからない魔人だ。

 なんか木みたいなパペットみたいな魔人もいれば、熊っぽくてでかいのもいる。

 実質サキュバスとインキュバスしかぱっと見で人なのは居らず、人狼は変化さえすれば人間に見えるが普段は二足歩行の狼だ。

 この十人の共通点は二足歩行で腕があって頭があるだけで、つまり魔人としての最低条件とも言える見た目のみで、大きさもやや小柄からの魔人から熊っぽいのは二メートル五十センチくらいはある。

 この熊魔人で早さ重視かと少し疑問に思ったが、考えてみたら熊って余裕で人間より足が速かったはずだ。ただし四足でだが。


「してトモヤよ、お前は山脈麓で待機でいいんだよな?」

「こっそり捕虜の介抱に混じってもいいかなと思ったんだけど」


 そう言った瞬間の周りの視線よ。

 特にシャルとシエルの目が『クソザコが何を言ってるのかしら』と言っていた。

 千絵と楓子なんかは『また変な事を言いだした』と言った感じだが、同時に余計な事をしてくれるなとも見て取れる。

 はい、大人しく待ってます。


「ではシャルロットよ、連れて行ってくれ」

「ん」

「フローラよ、他の者を頼む」

「はい」


 ベスターはシャルに連れられて行った。





 ベスターを連れて王国軍の所まで飛ぶと、既に起きて準備をしている所だった。

 詳しい時間が決まって無くて何となくでしか話していなかったのに、こう言う所は流石兵としてやっているだけあると思う。

 公爵家の人間が率先してそう言う事を守ろうとしてくれるから守られる規律であって、仮に公爵家の人間が守らなかったり、公爵家の人間がいなければもっと緩いと思う。


「朝早くお集まりいただきありがとうございます」

「御申しつけの通り、班分けも終了しています。あと少しで準備も終わります」

「わかりました。あなた達を連れて行くのはベスターですので、それとなく伝えておいてください。後になって混乱されても困りますので」


 すぐに来たハイリッヒのツヴァイに挨拶と指示を与えると、すぐに兵の元へ行ってしまった。


「その姿を見ると、そう言えば姫だったのだなと思う」

「最近あまり出番無いだけです。私がいなくても回るのであればそれがいいけど、こういう場面では『シェリールとしての姿』が最も効果的ですから」

「ん、お前はいずれ再び姿を隠すつもりか」

「最初は私が政治の舵を取るつもりでしたけど、思いのほかトモヤが良く動いてくれます。と言うか知識さえあれば、ハイリッヒの当主の補助があれば十分回す事も出来るでしょう」

「トモヤは面白い奴よな。その身に纏う魔力は魔力に敏感な種であれば好ましく思う。そして意外と頭が回る。奴ならば『人間の王国』を『人間とその他の王国』にしてしまうんじゃないかと少し楽しみにしている」

「それは過剰な期待です」

「わかっているさ。奴は非常に現実的に物を考える反面、理想を持つ事も理想を目指す事も忘れておらん。非情な決断をする覚悟もあれば、その非情な決断をするべき場面で全てを救おうともする。そして、面白い事にそれが出来る人材がそろいつつあるのだ」


 そう言って若い日本人の顔で厭らしい笑みを浮かべる。

 その一点だけ見れば確かに魔王とも言えなくない。

 残念ながら日本人の若者の風貌だから、魔力を見る才が無い人からしたらただの若者に見える事だろう。


「それがトモヤを気に入った理由?」

「どうだろうな。単純に初対面の印象が良かっただけだと思うが」

「別になんでもいいけど過剰な期待をして何もかも押し付けないで」

「押し付けなどしないさ。私はトモヤがやろうとしている事を助けるだろう。そしてお前を含むトモヤの嫁達は勿論、最近では公爵家に信頼されてきているようではないか」

「……」


 確かに状況は思った以上に良く、このままだと普通にトモヤが王になっても誰も不満を言わないし認めるだろう。

 それはとても喜ばしい事だ。

 だが、同時に心配でもある。

 自分がこの地でやって来た数多の仕事は反発を受ける事ばかりで、結果を出して納得させることが多かった。

 果たして今後、トモヤのやる事が理解されずに反発され、それでもトモヤは折れずにやり切れるのだろうか。

 結局助けがあろうと無かろうと、その一点に於いては本人次第なのだ。

 魔人の件にしたって相当な綱渡りだった。

 今何となく気にしているコボルトの件だって、魔王と仲が良くとも配下のコボルトが何か問題を起こした時点で終わる。

 今回も亜人が絡んで来て、私たちはそれを救えるのなら救おうと思ってしまっている。

 仮にサウスルタンを解放してある程度の人民が救出された場合、オークは勿論、自分達の住んでいる土地に現れた亜人を良く思うわけが無い。

 もうすでに目に見えてる問題を考えると頭が痛かった。


「トモヤを助ける気があるんだったら、意地でも助けなさいよ」

「ほう、これはトモヤの本妻として、好きにしていいと言うお許しなのかな」

「私はトモヤ――智也お兄ちゃんが無事なら何でもいい。それだけ」

「転生してもそれだけの熱量で愛せるのが凄いと言うべきか、だからこそ転生したのかと言うべきだろうか、まぁ私の事を実は良く思ってない癖に私を認めたのだ。ご期待に応える事としよう」

「ええ、貴方の事なんか嫌いですから。いなければ私達が後どれだけトモヤとイチャイチャ出来る事だか」

「そもそも私がいなければ、奴は王国に辿り着けず死んでいたのだがな……」


 ただ単にモヤっとした気持ちを怒りと名付けてベスターにぶつけただけだった。

 よくよく考えてみたら、ベスターと話している中で琴美としての言葉を出してしまい、それを褒められた事が恥ずかしかっただけだ。

 このクソ魔王、いなきゃ困るけどいても何かやだ。

 その『何か』が、ただ単に男であるベスターにトモヤを取られてる気がして、男相手に焼きもちとか何考えてるんだかと言う自分への怒りだったりするのだけど、長年拗らせたこの想いは簡単に嫉妬と言う悪感情を発露させる。

 正直、チエとフウコと言う存在も許容したくは無いし、能天気に告白してトモヤとの結婚をもぎ取ったシエルにも思う所はあったけど、トモヤの構成する一部になってしまっている以上仕方ないし、自分もそう言う物だと早い内に諦めて受け入れてしまった。

 だからあの三人に関しては、ついでに言うとトラ子も既に私の内にいる存在なので問題無い。

 がしかし、あのベスターには嫉妬してしまう。

 いつの間にか二人で話し合ってやる事決めてたりするし、トモヤがベスターを優先して色々動いてたりするし、その分こっちを構ってくれるかと思ったら子ども扱いばっかりで全然だし。

 あれ、ベスターがと言うよりトモヤが構ってくれないのが問題なだけじゃ。


「トモヤと仲良くしていい代わりに条件があるの」

「む、そのなんだ、私にも無理難題と思う事は多々あるわけだが」

「難しい事じゃないわ」

「よし、では聞こう」

「トモヤの子供が欲しい」

「大人に成長して誘惑しろ、以上だ」


 単純に欲しいと言うのもあるけど、子供がいたらもっと構ってくれると思う。

 子は(かすがい)と言うし。


「大人に成長しても人間とエルフの間には滅多な事じゃ出来ない」

「それなのだが、単純にエルフ側の魔力量が人間より多すぎて、精子が魔力にやられて死に絶えるだけだ。トモヤ本人の対魔力性能は本物だが子種がどうかは知らん、もし駄目なら十回くらい転移門の魔法を使って魔力を空にしてやればいい」

「うそ、それ本当に?」

「ああ、実は私とフローラの間でも中々出来なくてな。色々試した結果そう言う事だろうと言う結論が出た。私は魔力で強化されているが本来は人間としての肉体で、フローラは生粋のサキュバスだから出来ないのかと諦めていたのだが、それならば何故オークやゴブリンは亜人や人と子を成せるのかと考えたら魔力量の差なのではないかとな」

「……そうかも」


 元々エルフの魔力量は、人間の魔力量より大幅に多い。

 外で子を成せたと言うエルフは長年世界樹から離れている人ばかりで、その身の魔力量が落ちて行ったのではと考えれば当たっている気がする。

 もしくは、神に会う時に自分の魔力が最大値になるタイミングで行うのと逆に、エルフ側が最小値の時で人間側が最大値の時に偶々致して出来たなんて事も、魔力のふり幅は人それぞれなので十分あり得る。


「と言うわけで、トモヤがお前と、そのなんだ、する気にさえなれば十分可能性はあると思うのだが」

「……でもすぐは成長出来ない」

「世界樹ゼリーとやらがあるではないか」

「無理。吐く」

「……」


 多分見ただけで吐き気に襲われる。

 最早アレは私にとってそう言う物なのだ。


「でもいい事を聞いた。これまでの無礼は笑って許してあげる」

「……いやはや、私自身はお前の事を割と好ましく思っているのだがな。そうやって私を特別視せず雑に扱う所など、トモヤと同じで好感が持てる。だからこそ助けが必要ならばいくらでも相談してくるがいい」

「ビックリ」


 実は嫌われてると思ったのに。





 フローラさんが二往復して山脈麓の合流地点に俺達を運ぶ。

 少しするとベスターの転移門で一気に五十人くらいずつ運ばれて来た。

 連れて来られると、ツヴァイにお願いしておいたように班で分かれた。

 そこに魔人を二人ずつ、フローラさんが振り分けて行く。

 さて、仕事だ。


「えー」


 整列した前に立って辺りを見回す。

 うーん、ほぼ全員俺より背が高いんだよなぁ。

 魔法師団の女性陣には辛うじて勝ってるけど。


「まず魔人の皆さん。突然の招集に応じて頂きありがとうございます」


 そもそも言葉が通じるかわからないが、通じなかったらフローラさんが通訳してくれるだろう。


「暫定で王国軍と言う形で模擬戦に参加していた王国の兵の皆さん、十日ほどかけてコボルトの集落近くまで行って模擬戦をやったかと思えばこんな事になってますが、あともう少し頑張って頂きたい」


 我らが女性陣もベスターと共に飛び立つ準備が出来ているようだ。


「今回の目的はサウスルタンの国民の救出です。オークとの戦闘が発生した場合は基本的に魔人の方々にお願いする事になっています。各班目的地の大体の場所は通達済みですが、そこに至るまで、もしくは捕虜を救出して予定されている地点まで脱出する間、極力戦闘は行わず身の安全と捕虜の安全の確保に努めてください。奴等は人を食らいます。捕まったらどうなるか考えてください」


 兵からは特に何の言葉も出ない。

 一応ツヴァイから何となくは聞いているはずだが、いきなりオークの巣窟へ行って人間を救出してこいと言うのだ。


「尚、サウスルタンの街はオークの他に亜人もいるようです。亜人は何かされない限り手を出さないでください。今後の亜人への対応をこちらで考えていますので、余計な火種を極力作りたくありません。しかし、何かされたら自分の命を最優先にお願いします。では指示があるまで待機で」


 まず、ベスター達が転移門の魔法でサウスルタンの中心部へ飛ぶ。

 そこで一発でかい花火を上げてオークを叩き起こし、しばらくそこにオークを集める。

 その後でベスターは一回こっちに戻って来て、各部隊を捕虜が集められている場所付近に送り届ける。

 どうやら捕虜のいる場所の近くに広場が無いようで、三十人程を纏めて送り届けられる場所が限られているらしい。

 その後は救出班が可及的速やかに捕虜を解放し、東の海岸線の合流予定地点まで行く事になっている。

 一か所に三十人の兵士と言うのは多いんじゃないかと言う話も無いわけでは無かった。

 だが、ベスターが連れてきた三人の子達は表面上は治されていたが筋を切られ、喉も潰されていたのだ。

 恐らく重要度の高い捕虜にはそう言う処置をしていると思われるし、重要度の低い捕虜も逃げられないように足を砕く位はしている可能性がある。

 だとしたら負ぶって行く必要があるのだ。

 ベスターの見立てでは一か所に最低でも五十人は捕えられている感じだと言う。

 もし全員が全員身動きが取れなかったらアウトだ。

 その場合、誠に申し訳ないが重要人物と女子供を優先させて頂き、オークを掃討した後に救助と言う形を取らしてもらう他ない。


「では行くぞトモヤよ」

「うん、頼んだよベスター」

「行ってくるわね」


 千絵が滅茶苦茶気合の入った顔だ。

 正直な所、千絵と楓子に関しては何の心配もしていない。

 と言うのもオーク程度じゃどう足掻いたって破壊できないシールドを使えるからだ。

 不安なのはシャルとシエルだが、シエルは実験作のダマスカス鋼で作られた盾と剣を含む通常のフル装備で、既に王国でオークを何体も切り伏せているらしいので恐らく大丈夫だと思う。

 そしてシャルだが、大猫モードのトラ子の首にバインドの魔法で手綱のような物を作って掛け、トラ子の上に跨っていた。

 縮尺的にもそれほどバランスが悪くなくてちょっと面白い見た目だ。

 猫に乗る人の絵ずらなんて合成写真くらいじゃなきゃ中々お目に掛かれない。

 ベスターの転移門で自分の嫁達が消えていく様は少し不安があったが、戦力的にはこの地方では確実に一番だろう。

 そして、ほんの数秒置いて南の空に爆発による光が見えた。

 あれは恐らく中規模くらいのサンバーストだろう。

 ある程度高い位置で炸裂させれば、広範囲に光と爆発による振動を与える事が出来る。

 まだ外は暗い。

 爆発の光で南側は辺り一帯の地形がわかる程で、北側の山脈まで煌々と照らされている。

 どうやらオークも朝起きて夜寝る生活らしいので、恐らく襲撃の危険性すら考えず寝ている事だろう。

 だって北にある王国はベスターが支配した事になっているのだから。





 転移門から吐き出されてすぐ、ベスターの頭上にはサンバーストの魔力圧縮が見えた。


「なに考えてるの。もっと上でやって」

「勿論だとも」


 そう言うと圧縮と膨張を繰り返す魔力の塊が上昇する。

 それは高さも圧縮率も程々の所で止まり、付近一帯を焼いた。

 自分達にはフウコが張ったシールドで何の影響も無いけど、足元にいるトラ子は耳を下に向けて怯えているようだった。


「トラ子、大丈夫」

「まま、どこ行けばいいの?」

「少し待って。オークが出て来るから。そうしたら適当に倒して」

「うん」


 ややあって、爆音に驚いて色々な建物からオークが飛び出してきた。

 それが自然な光景のような、まるでこの街で当たり前にオークが暮らしてるように錯覚してしまって嫌悪感が沸き上がって来た。

 少しして亜人も建物から顔を覗かせたが、恐らく襲撃だと言う事はわかっているのだろう、建物から出て来る気は無いらしい。


「まま、オーク倒す」

「やっちゃえトラ子」


 ぐっ、と前に傾斜した。

 と思ったら物凄い力で地面を蹴って、一気に百メートル近くジャンプしていた。

 足元にはオーク。

 トラ子はそのオークに飛び掛かり、圧し掛かり、太い手を振って一撃で首をへし折っていた。

 そして音なのか匂いなのか、即座に次のオークに狙いを定めて仕留めて行く。

 ある程度倒した所で一気にオークの数が増えた。

 最初は何かわかっていなかったオーク達も、襲撃だと気づいて慌てて武装して出て来たらしい。


「トラ子、さっきの場所に戻って」

「うん」


 三階建ての建物の上に飛び乗り、建物の上を数回ジャンプして最初の場所まで戻って来た。

 ざっと魔力探知をしただけで数百じゃ利かない数がこっちに向かってきている。


「では私は一回戻る。お前達、怪我の一つでもトモヤがどれだけ悲しむか理解しているな」

「ベスターうるさい。それがわかってない私達じゃない」

「むう、エルフっ子は王女モードではない時に気を張ると口が悪くなるな……」


 そう言うと転移門の魔法で去って行った。

 さて。


「チエ、フウコ、シエル。誰が最初にゴールするか勝負」

「待ちなさいシャル。と、シエル。あんたたち二人が最短ルートなんだから勝ち目無いじゃない」


 街の作りや地形の関係で、北と東に抜けるルートが最も早く安全に出れるらしい。

 逆に西は丘の斜面を登って行くような作りで、南は単純に目的地から遠ざかるルートだから遅い。

 必ずしも東西南北から出る必要は無いけど、出来るだけ多くの敵を惹きつける為にはある程度無茶をしなければならない。

 でも、私とシエルは機動力の観点から最短ルートで戻るようにとトモヤとベスターから言われていた。


「トラ子に勝てないの? ママなのに?」

「煽るわね……。別にいいけど、負けたら一週間トモヤと寝るの禁止ね」

「なっ」


 それは我慢ならない。


「それと転移門を使ったら負けね」

「わかった」

「あのー、勝手にそんな事したらトモヤに怒られるよ?」

「言わなきゃわからないから」


 そう言うとシエルは呆れ顔だしフウコも『しーらない』と見ぬふりだ。

 実際問題勝てるかどうかはトラ子次第だけど、そこは連帯責任と言う奴だ。


「トラ子、一番にパパの所に帰らないと、一週間一緒に寝ちゃダメだって」

「やだ」

「そう言うルール」

「やーだー!」


 ふにゃー! と勢いよく駈けだした。

 どんどん集まるオークを飛び越え、適当に踏みつけて適当に蹴り飛ばし引っ叩き、地面を行けば建物の上も行き、縦横無尽に駆け回る。


「でも敵を惹きつけて帰らないとパパに怒られるから、あんまり早くても駄目だから」

「むずかしい……」


 高速機動しながら耳を垂らすとは余裕のある子だ。

 オークは面白いくらいに追いかけて来る。

 その目、口元が何て言うか、そう、いやらしく見える。

 トモヤが可愛い子を見かけた時の緩み方ではなく、ごちそうを前にした時のような顔だ。

 ベスターの言っていた人を食らう、それも女子を好むらしいと言う話は本当らしい。


「トラ子右にジャンプ」

「にゃーっ!」


 飛んで少しして着弾した。

 アレは恐らくフレイムバーストだろう。

 オークウィザードがどこかで狙っている。

 ただ、それほどレベルの高いウィザードでは無さそうだ。

 オークは肉体の強さが売りな分、魔法関係はそれほど得意では無いだろうと言う仮説は元々あった。

 地脈の周りを掘り進むのだって、ある程度高レベルのアークウィザードなら、地脈の魔力を使えば一人であの程度簡単に掘れる。

 元々分裂して行く形だったから人数が居たのだろうけど、それにしても百体を超えるウィザードがいればサウスルタンから王都まで一日二日で開通出来てしまうはずだ。

 他にも偶に矢が飛んでくるから、アーチャーもどこかに居るはずだ。

 自分は乗ってるだけだから、今できる最高の固さを誇るシールドを展開している物の、囲まれてタコ殴りにされたら簡単に突破されると思う。

 だからトラ子の機動力が規格外で本当に良かった。


「トラ子、そろそろ外に向かっていい」

「にゃー!」


 この姿でも人語を操れるとは言え、やはり猫の鳴き声の方が出しやすいらしい。

 トラ子が方向転換して一気に建物を飛び越えて行くと、その進行方向に砲弾が落ちた。

 砲弾だと思った。

 建物を二つ粉々にしたそれは、腕を組んで着地しようとしていたこちらを見ていた。

 背は他のオークとあまり変わらないのに、その内包する魔力が桁外れなのだ。

 ヤバいヤバいヤバい。

 アレは相手したら駄目な奴。


「トラ子アレから逃げて」


 指示をして前方にシールドを重ね掛けする。

 既にトラ子が飛んだ後で、着地地点が変えられない状態で、その先にはヤバいオークがいる。


「にゃ」


 このまま突っ込むかと思ったら、トラ子が前にやっていた意味の分からない空中機動が出た。

 多分シールド魔法を使って足場を作っているだろうと言われているソレは、地面に着地する前に中空を踏みしめ、再び大ジャンプをした。

 助かった。

 そう安心した瞬間背後に殺気を感じて、慌てて前方に重ね掛けしたシールドを後方に回す。

 その瞬間一瞬でシールドが全部破壊された。

 幸いにもその破壊だけで済んだらしく、振り向いた先に居た拳を振りぬいたオークが気色の悪い笑みを浮かべながら落ちて行った。

 そしてそれは着地と同時に再び飛んでくる。

 トラ子は空中で二度三度と足場を作っては飛び上がり、既に百メートル近く上まで上がっているにも関わらず、そいつは一回のジャンプでほぼ追い付いてくるのだ。


「あれはヤバい。ヤバい。トラ子、転移門出すからそのまま入って」


 トラ子の着地に合わせて前方に転移門を開く。

 目的地は五百メートル先だ。

 入った瞬間、風切り音が後ろから聞こえてきた。

 振り向くと居ないが、遠くで大きな物が落ちたような破壊音が聞こえる。

 あのヤバいオークから逃げる為に雑魚オークを放って来てしまったけど、その雑魚オークもヤバい奴に追従して付いてくるようだ。

 そこでようやく街の外周に到達し、外に着地すると今度は走る。


「絶対止まらないで振り返らないで」

「にゃ」


 魔力探知ではさほど遠くではない。

 恐る恐る後ろを見ると、そいつは走りながら何かをこちらへ投げてきていた。

 慌ててシールドを重ね掛けしてそれを弾き落とす。

 小さな建物丸ごと一棟だった。

 規格外にもほどがある。

 シールドだけで魔力の殆どを持って行かれそう。

 目的のトモヤがいる所までは後少し。

 敵も投げる物が無ければ走って追いかけてくる他無く、さっきより少しは引き離したけど殆ど遅れず付いてくる。

 チエ達はどこだろう。

 辺りを見回す。

 居た。

 向こうも後ろにいるヤバいのに気づいたみたいで、チエとフウコが左右からファイヤーボールを打っていた。

 どちらも精霊化してヤバいオークの体を包み込んだのに、そいつが振り払うと霧散してしまった。

 炎耐性とかでは無い。

 アレは魔力自体に耐性があって、魔力を無理やりかき消したように見えた。


「なにあいつ!」

「ちーちゃん、あれ多分魔王だよー!」

「シエルどこ行ったの」

「シエルは引き連れるはずだったオークを軒並み倒しちゃって、そのせいで脱出が遅れてるみたい」


 チエとフウコが合流してフウコのシールドに包まれた。

 それだけで安心感が違う。

 にしても、シエルは多分囲まれたのだろう。

 それを楽々突破するのだから凄いけど、もしこの後ろにいる奴がシエルの方に行っていたらと思うと震えた。


「ゴールの手前で止まるわよ。あんなの連れ帰ったら智也が巻き添え食らって死ぬわ」

「うん、シャルちゃんはトラ子と智也君の所まで下がってね」

「待って。アレは魔法は効かない。多分シールドも分解される。まともに殴り合ったら負ける」

「さっきのファイヤーボール消したのそれ?」

「多分そう」

「厄介ね……。楓子、弓は?」

「着替える時間無いよー!」

「あのねぇ、シールドで胸守っとけばいいじゃない」

「あっ」


 フウコが高度を上げながら弓を取り出した。

 あの弓の形状は、弦を張っていても袋に何とか入れられるからとても便利だと思う。

 通用の弓術部が使ってる洋弓だと恐らく微妙な所だろう。


「行くよー!」

「トラ子思いっきりジャンプ」

「シールドは任せなさい」


 最初に来たのは音速を突破した時の爆発みたいな音だった。

 そしてフウコの射る矢はオークの魔王に直撃した、はずだった。


「うっそ」

「えーっ!」


 こっちは振り向く余裕が無いけど、チエも上空のフウコまで軽く固まってしまっている。

 慌ててチエがファイヤーウォールであたりを炎の壁だらけにした。

 恐らく突破してくるだろうけど、雑魚オークの侵攻は止められるはずだ。


「ふーこー! 雑魚だけやっちゃってー!」

「やるよー!」


 上空に叫ぶとチエは魔力探知でマークしてたのか、炎の壁の先に向かって極大の岩の塊を射出した。

 あれなら物理攻撃扱いになるから効かないわけは無いだろう。

 そこにフウコの弓が後方に射られ、衝撃が襲ってきた。

 今度こそ矢は当たっているはずだ。

 さっきのもオークの魔王に当たったはずなのに、衝撃が襲って来なかったのは何だったのだろう。


「チエ、何だったの」

「あいつ頭おかしいわ。楓子の矢を手で掴んだのよ」


 規格外。

 その一言に尽きた。

 そんなのと戦うなんて馬鹿げている。


「奴は?」

「一応直撃してストップしてるけど生きてるわね」


 とりあえず雑魚を一掃したと思われるフウコも降りてきた。

 トモヤがいる所まで、もう目と鼻の先まで見えている。

 私達はここで一回止まって振り返った。

 出来るならここで迎え撃ちたい。

 さもないと余波だけでトモヤが死にかねない。

 ファイヤーウォールが消えて、辺りには熱気による空気の歪みとフウコの弓で出来たクレーター、そして巨大な石の塊を両手いっぱいに抱えているオークの姿があった。


「うわー、これはヤバいわ……」

「私まで吹き飛ばす気なのーっ!」


 オークの後方からシエルが追い付いて来て、オークの魔王を飛び越えがてら一発振り下ろした。

 それをオークの魔王は抱えている岩で受け止めるが、そんなもの易々と切り裂いて片耳を落とした。

 魔力への耐性が強いだけだ。

 物理攻撃は効く。

 証拠に岩は抱えて止めたし、シエルの攻撃で体に傷もつく。


「私とトラ子は下がる。チエ、フウコ。シエルに叩いてもらうしかない」

「やっぱそうよね」


 すぐさまフウコがシエルに各種補助魔法を重ね掛けした。

 シエルはオークの魔王に切りかかるも、オークの魔王もいつの間にか持っていた剣でそれを受け止める。

 受け止められるはずだった。

 シエルの剣はオークの魔王の剣を切り裂き、オークの魔王の腕の半分くらいまで切り裂く。


「行けるわね」

「ん」


 そう思ったのもつかの間、オークの魔王が砲弾の如く飛んできてシエルに殴りかかった。

 シエルはそれを盾で受けるも、威力があり過ぎて吹き飛ばされてしまう。

 そこからの追撃で更に飛びつき殴りつけ、それを盾で受けるシエルはシールドの魔法も破壊されて盾自体の金属の硬質な音が辺りに響き渡った。

 あの新しい金属が幸いした。

 シエルが吹き飛ばされるくらいの威力なのに盾に凹みは無い。

 しかし、そんなモノを物ともしないパワーで殴り掛かれる。

 チエが援護にウィンドカッターを飛ばすも、それを拳で弾いて霧散させてしまった。

 シエルに攻撃する余裕さえあれば倒せる。

 でも攻撃する余裕が無い。


「中々豪気な戦い方をするではないか」


 多分その声に心底救われたのは私だけでは無かったはずだ。

 いつの間にか吹き飛ばされたシエルとオークの魔王の間にベスターが立っていた。


「オークの魔王よ、幼い子をいじめて楽しいのかな」

「これはこれは、魔人の王よ。こんな朝っぱらから何の用だ」

「何って、私は言ったであろう。人間を食うのは共食いだと」

「ああ、だからどうせ来ると思っていたさ。それにしても美味そうなのを連れてきてくれて感謝してるぜ」

「生憎とだがな、彼女たちは我が友の嫁なのだ。それを一人でも怪我をさせたとなれば許す事など出来ようもない」


 そう言った瞬間にベスターの姿が掻き消え、しかしオークの魔王も瞬間的に動いた。

 そこにオークの左腕が落ちていた。


「おい、魔人の王。魔人の王の癖になんで魔法を使わねえんだ」

「魔人だからと言って魔法に優れていると思うのは思い違いだぞオークの魔王よ」


 いつの間にかベスターの手には剣が握られている。

 それは何てことない、ただの、ごく普通の剣に見えた。


「ちなみにだな、私は元々勇者なのだ。貴様のような魔王を狩るな」

「こいつは見誤ったか……。魔力をかき消すマジックアイテムってのがあったから勝てると思ったんだけどな」

「降伏しろとは言わん。大人しく死ね」


 早かった。

 言った瞬間にはオークの魔王の首が飛んでいた。


「来るのが遅れて申し訳ない。少々問題が発生してな」

「シエルちゃんちょっと待ってね、グレーターヒール」


 あれだけ殴りつけられてて、グレーターヒールで治っちゃうシエルの頑丈さが羨ましい。


「問題って」

「言っていただろう、予想していたと。捕虜の隔離場所が移されていて部隊の移動の指示に手間取った。しかも軒並み足を潰されていて動かせないと来た。仕方ないのでオークを全滅させてから助ける他なくて戻って来たのだ」

「ん、今回は助かった」

「それにしても、まさかこいつが即座に動くとはな……」


 終わったと見えてトモヤがこっちに走ってきている。


「それにしてもチエとフウコよ。これで魔法だけではなく物理攻撃の重要性も理解できたであろう」

「咄嗟の事で動けなかったのは反省するわよ……」

「殴り合い怖い」


 フウコにしては珍しく端的に言うものだから、本当にそう言うのが怖いのだろう。


「おーい、助かったよベスター」

「何、構わんさ。それよりもトモヤ、これから私は王国のどこかに捕虜になった人間を纏めて連れ帰りたいのだが、どこならいい?」

「えーっと、この時間なら学校の近距離戦闘用のドームでいいかな。収容しきれる人数?」

「いや微妙だな。しきれなかったら魔法戦の方に飛ばす」

「じゃあそれで。楓子、悪いんだけど教会の人間を叩き起こし来て欲しいのと、回復してやって欲しいんだ」

「勿論だよ」

「千絵もそっちの手伝いでいいや」

「でいいやって何よ」

「察してやれチエよ。そいつはサウスルタンで余計な物を見ないで済むようにしたいだけだ」

「んー、わかったわよ」

「で、えーっと、ベスターには搬送をお願いして、魔人の方々には亜人の監視と残りのオーク狩りをしてもらって、シャルとシエルは休憩。シャルなんかもう魔力ギリギリだろ」

「ん、王都に帰るので精一杯」

「フローラさんは?」

「今はあっちで調査と護衛をやっているな」

「俺も調査に加わりたいから、後で混ぜて欲しいって伝えておいて」

「ああ。私も回収が終わったら行くから連れて行こう。その前にお前は王国に帰って各種連絡だろうな」

「うん」


 トモヤとベスターがテキパキと色々決めてしまった。

 むー。

 確かに荒事は範囲外ではあるけど、最近出番が減った気がする。



オーク編は当初色々考えていたのですが、結局当初の予定通りになった部分が一か所もありませんでした。

そもそも最初って、地脈調査に単独で行ったシャルが攫われる予定だったし。

つまりゴブリンなんてその瞬間まで出る予定も無く、コボルトと戦わすなんて完全に話の流れで、亜人と共同生活とか気が付いたらしてました。

と言う勢い任せな話の流れだったのですが、まぁ何とか形になった? かな? ん? みたいな感じ。

って言うか予定通りならもっと早くオーク出してもっと早く終わってる予定だったんだけどなー。

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