コボルト対ゴブリン
コボルトの進軍は早かった。
元々魔物の身体能力は高く、犬面だからか知らないが足も動物的な物だ。
素足でも爪を食い込ませて地面を踏みつけて走り、それが森の中であろうが早い。
俺達はフライで上空から見る事にしていたが、コボルトの魔王の忠告もあって女性陣は地上で待っててもらう事にした。
それでもフローラさんは当たり前のように来るし、シエルも魔物の戦闘を見たいと言って付いてきた。
まぁどんな戦いになってもシエルなら受け入れられそうだからいいけど。
「ベスターとしてはどう思う?」
「どうって、勝敗か?」
「それも含めて色々と」
「ふむ」
的を得んと言う顔をされたが、俺も何を聞いてるのか自分でよくわかっていなかった。
「まず勝敗についてはわからん。コボルトの魔王は自信があるようだったが、能力的にはいい勝負だろうな」
「いい勝負って言うと、ロードがいた時に?」
「いや、ゴブリン対コボルト全体がだ」
「魔王で強化されてるコボルトでも?」
「ああ。ゴブリンは子供でも凶悪で親くらいにしか懐かん。後は能力による優劣で序列が決まって縦社会になるわけだが、強化されたコボルトとは言えゴブリン十体に群がられたらひとたまりも無いだろう。戦力比は百六十対五百くらいだから単純計算ではコボルトの方が上なのだが、戦闘と言う物は必ず一対一で戦える物では無いし地の利がある方が有利だ」
「地の利とは言うけどゴブリンは急襲されてるわけだろ」
「奴等も馬鹿では無いさ。見た感じ集団が攻め込みにくいような立地に集落を作っている。そして奴等の中にも魔法に長けた者はいるであろう。となれば気付いているさ」
そう言うので集落を良く見てみると、さっきは散っていた魔力が集まっていた。
「が、コボルトもそれをわかっているだろう。トモヤよ、もしゴブリン側として攻撃を受けたとして、どうする?」
「戦略的な事はよくわからないけど、とりあえず入り口で待ち構えて遠距離攻撃で潰していくかな」
「うむ。それをわかっているコボルトはどうする?」
「盾でも持って――」
おう、合点が行った。
「これまではその有用性をコボルトの戦士達は理解しておらなかったろうが、一昨日の模擬戦で理解したのだろうな」
「でも、お世辞にも質のいい盾では無かったよな」
コボルトの武器は人間が作る物よりかはいい。
だが、それは人間が扱えない規格だからと言うのが正直なところで、刃の鋭さは確かにいいが強度は足らないらしい。
つまり鉄の質が悪いのだ。
どうやら鋳造で作ってるようだし、鉄の質自体が悪ければいくら鋭い刃を付けた所で簡単に刃こぼれをしてしまう。
ただ、そこは分厚く頑丈にする事で解決を図っていて、だからこそ人が扱うには重たすぎる物が出来てしまうのだ。
だが結局何度か使うと刃がダメになるので、結果として刃物よりかは鈍器的な扱いになっていくようだ。
「どうせゴブリンの扱う遠距離系の武器など弓か石礫、良くてその礫を投擲する為に何か使う程度だ」
「もし魔王が発生して育ってたら?」
「それでもゴブリンの技術力では大差無いだろうな。記録に残る奴等の魔王は武の魔王らしい。増えるだけ増えて物量で押し切るゴブリンに戦う技術が付いたらどうなる?」
「手が付けられないからまとめて吹っ飛ばすしかないな」
「うむ。最早勇者じゃなければ太刀打ち出来んだろう」
なるほど。
「だがそうだな、コボルトの魔王も今のように育っていたら、もしかしたらいい勝負になるのかもしれないな」
「なんでさ」
「奴らは道具を作れるし、魔王の影響で肉体強化とある程度の知能があるから集団戦も可能だ。万全な状態で戦うのであれば十倍までは何とかなるかもしれん。勿論ロードが発生していないのが前提だが」
「万全って装備面と戦場の立地もか」
「うむ。まぁ本来はそこまで数が増えないがな」
生態系ってのは上手い事バランスが取れてる物だけど、以前あったと言うゴブリンによる制圧は今回のようにコボルトが偶々いなかった等の異変があって大発生でもしたのだろうか。
今回は偶々気付けたけど、王都から離れた町の情報は数日後に入って来る物だ。
連絡があって通常通り兵が行った時には手遅れで、集落を見つけた時にはどれだけ増えているか。
どうも魔力量でホブやロードが生まれる可能性が上がるような話だから、魔力の高い人がいたら――。
「そう言えば魔王が発生したら先に潰されるって話だったけど、ホブやロードは?」
「ゴブリンはゴブリンとして産まれるのだ。ホブやロードは成長の過程でそうなるのであって、そもそも別種なら群れからはじき出されているだろうさ」
「そう言えばコボルトの魔王も、『上位種が産まれる』じゃなくて『上位種になる』って言ってた気がするな。で、ある程度成長しちゃえば一方的に殺される事も無いか。でも魔王はわかると」
「魔力量が明らかに違うはずだ。恐らくコボルトの魔王も自我を持った途端に自分が魔王だと理解できたはずだ」
そう言えば似たような事を言っていた気がする。
ゴブリンも仮に魔力の多い子が生まれて魔王じゃなかったとしても、いずれホブやロードになる可能性があれば殺せば自分の立場は守られる。
魔力量の多い子を殺しておけば、まず間違いは無い。
ゴブリンの社会が恐ろしすぎる。
「そろそろ接敵するぞ」
俺を飛ばしているのはベスターなので、ベスターが集落上空へ行けば自然と俺も連れて行かれる。
それを負ってフローラさんとシエルも来るが、ここに居る俺達四人も地上で待つ組も魔力探知を恐れて魔力を遮断するシールドで包まれているのだが、やはり目視されたら意味が無いので真上に居るのが一番見つかりにくいのだ。
「予想通りだな」
ゴブリンは門前に拳大の石を並べて待ち構えていた。
そこにコボルトは盾を持ったのを先頭にして突っ込んでいく。
殺傷能力としては対コボルトで考えると無いだろうが、盾が無かったら軽く足止めを食らっていた事だろう。
ゴブリンの投石部隊の後ろには弓を構えているのもいて、こいつらの方が殺傷能力は明らかに高い。
同じように矢を足元の樽から引っ張り出して番えているが、その樽は何かの液体が入っているようだ。
「毒?」
「恐らくはな。奴らは小柄な分攻撃力に乏しい。数で勝ろうとも最低限の攻撃力が無ければ押し勝てん」
即効性のある毒だとしたら、深く切りつけられなくても相手を倒す事は可能だろう。
しかし、ゴブリンの攻撃はコボルトの盾に全て弾かれた。
ギリギリ二列で走れる獣道をコボルトはゴブリンの集落に向かって一度もスピードを落とすことなく突き進み、投石部隊を薙ぎ倒して弓を射る十体程のゴブリンを真っ先に殺した。
先頭の盾のすぐ後ろにはコボルトの魔王が居て、次の標的をどんどん指示しているらしい。
次第に使い捨てとして前線に配置されたゴブリンは数を減らすが、すぐに第二部隊としてこん棒やナイフを持ったゴブリンが出て来る。
こん棒は普通だけど、ナイフに光沢が無く深緑と茶色を合わせたような色をしているので、多分こちらも毒仕様なのだろう。
「雑魚は本当に雑魚扱いなんだな」
「ゴブリンが段階ごとに兵を出す事自体に私は驚いているのだが、狭い環境で全投入しても無意味だからな。今にホブが――」
そう言ってる傍から二回り以上でかいゴブリンが出て来た。
明らかに特別扱いされている個体で、革製の鎧を身に纏ってボロボロの鉄の兜をかぶっていた。
多分兜は拾い物か人を襲って奪ったかのどちらかだろう、サイズが合っていない。
そんなホブゴブリンが一体と通常の雑魚ゴブリンが五十くらい湧いて来てコボルトに襲い掛かる。
流石にコボルト側も脱落者が出始めたが、肉体的にはホブと今のコボルトは大差無い。
差は装備だ。
コボルトのこん棒でホブは真上から叩き潰され、すぐに絶命した。
それを見た雑魚ゴブリンは、ホブの亡骸を踏みつけてコボルトに飛び掛かる。
「これだけ見てると、一匹だけ強いのが居ても弱いのが十匹いる方が厄介だってのが良くわかるよ」
「であろう。その上奴等は身軽だからな」
コボルトの脱落者は主に毒による物のようだが、すぐに村の出入り口に運び出されて戦線から離脱させられている。
毒自体は致死性の物ではないのか、一応動きは見られた。
「あの毒って死ぬような物じゃないのかな」
「人間にも使われる物だから致死性だと思うぞ。そもそも奴らがこん棒とナイフを持つのは、男はナイフで毒攻撃をして女はこん棒で痛めつけるか気絶させる為だろう。コボルトが動けているのは、恐らく長年の戦いで耐性を得ているのではないか」
「種族的に?」
「わからん。特性として種族が持っている物なのか、肉体的にそうなってしまっているのかまではな」
それもそうか。
しかし、正直な所一方的な虐殺になるかなと思っていたのだが、実際はいい勝負と言っていいと思う。
確かに雑魚コボルトは簡単に殺されるが、小柄な為にコボルトの武器では相手しにくいのだ。
結果的に武器を置いて素手で引きはがして殴り殺したりしている。
「ん、ホブがまとめて出て来たな。五百程の集落に追加で四体か」
「多いのかな」
「さぁ、わからん。元々世代交代の激しい種族だ。ホブやロードともなれば寿命も延びるだろうし、長年ある集落ならば居てもおかしくは無い。だが、先ほどチラッと聞いたが、以前はこの近くにコボルトの集落があったらしい」
「じゃあ、増えたのはここ最近なんだな」
「その最近で五百まで増えているのだ。だが、そうだな、もしかしたらこっそり女を誘拐して産ませてる可能性はあるやもしれぬ」
「やめてくれ胸糞悪い」
「あくまで可能性の話だ。そしてこれは調べる事も無い。知らなければ行方不明になったのが居ても、どこかで元気に暮らしていると解釈されるだろう」
それは既に攫われた女性が死んでると決めつけての言葉だ。
だが、実際この付近にそう言った人っぽい魔力は感じない。
昨日感じたベスターが殺したオーク達ですら残留魔力が感じられたので、ここ最近の話ならもしかしたらと思って良く見てみたが、やはりゴブリンとコボルトの物しか感じなかった。
だったらいなかったと言う事にしておこう。
その方が精神衛生上いい。
「ほう、コボルトの魔王も本気を出せば結構強いではないか」
見た目にはほかのコボルトとそう変わらないのに、魔力を感じてなのかホブはコボルトの魔王を四方から狙った。
しかし、コボルトの魔王は持っていた片手剣で軽々と四体を切り伏せて見せた。
武の才能は無いような感じだったのに、知識としてはあるのか決して動きは悪くない。
この時点で開始して二十分程で、ゴブリンはざっと二百くらいは転がってると思う。
まだあと三百程がスタンバってるが、その中で一際大きな魔力があるのだ。
ホブの中でも魔力にバラつきがあるからホブかと思ったが、これはどうやらロードのようだ。
「楽しくなって来たではないか」
「いやぁ、殺し合いを楽しいと思う感性は無いんだけど……」
そのロードらしき魔力は建物の影からコボルトの魔王に向かって飛び掛かった。
それを察知していたらしいコボルトの魔王は剣を振るうが、その剣を弾き落とされてしまった。
ロードの持つ武器は斧だ。
それも古代人が使っていたと言う石斧の巨大版で、ロードの背丈は二メートルを超えているようなのに尚石斧が大きく見える。
そりゃあんなのを剣で払おうとしたって負けるに決まっている。
剣を落としてもコボルトの魔王は冷静で、次いで振り下ろされた石斧を避けるとロードの後ろに回り込んだ。
そしてファイヤーボール。
そのファイヤーボールは意思を持つかの如く形を変えてロードの体に巻き付くように燃え盛る。
「精霊化してる」
「うむ。奴め、魔法の才能も魔王らしくしっかりあるではないか」
「でも精霊化が中途半端かなぁ」
「そこまでが精一杯なのだろう。ファイヤーボールは精霊化させなければ近距離範囲魔法として誘爆と延焼しなければ一発限りだが、精霊化すると注入した魔力が尽きるまで燃え盛る。注入する魔力量が少なければ形も中途半端になり維持も短くなるから、あと一歩と言う所だろうな」
その炎に巻かれてもロードは何食わぬ顔で石斧を地面から貫き、真後ろめがけて横に振った。
その時にはコボルトの魔王はロードの攻撃範囲から下がっていて、手を前に出している。
そして次弾がフレイムバーストで、ロードが十メートル程吹っ飛んだ。
「ロードもしぶとい、と言うかアレは多分炎耐性を持っているな」
「そんなのもあるのか」
「種族によってある場合がある程度だが、多分奇跡的にそう言う特性を持って産まれたのだろう。あれでは倒しきれんぞ」
「でもコボルトの魔王もそれくらいわかるよな」
「ああ。だから見ろ、奴め精霊化したファイヤーボールで口を塞いでおったわ」
この高度から良くそこまで細かく見えるな。
そう思って注視してたらロードを中心に砂埃が円形に巻き上がり始めた。
千絵が失敗させたサンドストームの竜巻版に似ている。
「炎を吸わせても駄目だったのだろうな、あの魔法は見た事が無いが――」
「前に千絵がサンドストームの失敗版で作ったのに似てるんだ。もしかしたらあれを見てたのかもしれない」
「ほう」
竜巻で閉じ込めたと思ったら、袋から何かを掴んで竜巻の中にばらまいた。
多分何かの破片だ。
竜巻は外に漏れる事無く内側だけで激しく渦巻いている。
次第にロードの体に切り傷が大量に発生し、血しぶきで竜巻が赤く染まって行った。
「えげつない魔法を使いよる」
「でもあまり効いてないよね」
「効果はあるが致命傷にはなりえないが……いやまて、あの竜巻は風属性だけではない」
そう言われて見たがよくわからない。
指向性としては魔力を高速回転させての竜巻なので自動的に風属性になるはずだ。
「凍っているのだ。竜巻を冷やしているのだろう」
変化はすぐ現れた。
藻掻いていたロードが急に動きが遅くなり、身動きを取らなくなったのだ。
それでも竜巻は消えず、次第にその体を削り取ってゆく。
削り取った分、赤い血や肉が細かな粒となって竜巻の中を回り、真っ赤になったそれは五分ほどで収まって地面に落ちた。
残ったのは地面に落ちたロードだった破片なのだろうか、凍った砂のような物だけだった。
「その場で魔法を改造するとは、奴め、知の魔王とされるだけあるな」
ロードが戦ってる間に他のゴブリンも粗方片付いたらしく、今は残党の掃討にコボルト達が集落を虱潰しに探している所だ。
コボルトの魔王は一通り終わったからか、それともそれだけ集中していたのか、その場でしばらく立ち尽くしていた。
「終わったな。蓋を開けて見ればコボルトの圧勝か」
「圧勝かなぁ……」
集落の入り口には五十以上のコボルトが運ばれている。
ゴブリンの死をも恐れない捨て身の攻撃で切り付けられたからだ。
最初の盾による足止めで弓を浴びていたら、コボルトの魔王がホブとロードを倒していなければ、恐らく勝っていたのはゴブリンの方だろう。
「シエル」
「はーい」
「シエルから見てどうだった?」
「コボルトの魔王が器用だったねー」
「……まぁそこに集約されるか」
ゴブリンの本当の怖さは数が多い事による捨て身の毒攻撃である。
そして本体も人間以上に強いホブやロードと言う存在も少数発生する。
今後数を増やす事があったら、今回のように被害が出ない内に対処する事は出来ないかもしれない。
各領地の巡回を公爵家にやってもらって、ゴブリンの把握をした方がいいのだろう。
現状はそう言った巡回は無く、街道や町村に現れたら報告が上がって来て対処するだけである。
それでは手遅れになるかもしれない。
「では行こう」
「ん、うん」
何かと思ったらコボルトの魔王の所に降りるつもりらしい。
「ご苦労であったな」
「お見苦しい戦いをしてしまいました」
「いや、見事であった。あの魔法の運用は中々出来ん」
「そう言った小手先の事は得意なのですが、いかんせん出力が足らずに中途半端なファイヤーボールになってしまうのです」
ベスターは満足そうに話すが、俺は辺りの状況に閉口していた。
戦いの跡だ。
自分達だってコボルトを虐殺したが、改めて魔物の死を見ると心に来るものがある。
「ベスター、あのコボルトを運んでやったら?」
「うむ、そうだな。あの数ではフローラの解毒も大変であろう、フウコに助けてもらうのが一番であろうな」
「なにからなにまで申し訳ありません」
何はともあれ生きている物を助けなければならない。
近くで毒にやられたコボルトを見ると、どうやらすぐに死にそうと言う事でも無いようだった。
ゴブリンが使っていた毒液を見ても良くわからないが、ちょっと匂いを嗅いだだけでも気持ち悪くなってくる。
「触らない方がいいよ、トモヤが触ったら多分即死だから」
「そう言えばシエルって毒耐性あったっけ」
「うーん、少しだけあるよ? ほら、ドワーフ王国があんなだし」
空気が淀んで毒性のガスが多少ある地中の国だ。
そのせいで肌も悪くなっちゃうとか言ってた癖に、シエルの肌はすべすべぷにぷにだ。
「そんなにヤバい毒なのか」
「切りつけられたら私でも死んじゃうかも」
頑丈が売りのドワーフがそれでは人間なんてひとたまりも無いか。
「多分この森で取れる毒草のブレンドだと思うよー」
「捨ててしまいなさい」
「捨てるにしても場所を選ばないと危ないよー」
そう言って辺りを見渡す。
「こんなの川に染み出したら、下流の人達全滅しちゃうかもだし」
「……そんなに強いの? それ」
「うん。だから私が切りつけられたら死んじゃうかもって」
俺の評価が誤っていたらしい。
シエルは多少の毒耐性じゃなくて、普通にしっかりとした毒耐性がありそうだ。
だから肌もキレイなのか。
「フローラさん、これの処理ってどうにかできませんか?」
「そうですね。……オークの件も有りますし、私が保管しておきましょう。何かに使えなければ、その時は何もない所に破棄します」
「じゃあそれでお願いします」
こんなの適当に置いといて、子供何かが探検に来たりしたら触るかもしれない。
いやそんな立地に無いのはわかっているけど、何があるかわからないのが世の中だ。
「フウコに任せて来た。集落の調査は終わったか?」
「ええ、残っていたゴブリンは全て産まれてすぐでして、既に処理済みです。他に特に何かあると言うわけでもありませんし、恐らくロードの発生は地脈が正常化した事が原因でしょう」
「え、どう言う事だ」
「つまりはそう言う事だトモヤよ。特に何かあるわけでも無いと言うのは、人間の村や町から持ち去った物があるわけでは無いと言う事で、ロードの発生は地脈が正常化して本来の世界樹の魔力を得る事が出来たからと言う事だろう」
じゃあ当初の予想通り、まだ村や町を襲っていない集落だったと言う事か。
「いえ、地脈の正常化で本来の世界樹の魔力を得られたと言うよりかは、本来の魔力にプラスしてベスター殿の魔力があって他の土地よりも魔力が濃いのです。元々地脈に流れる魔力量には限界がありますが、常にその限界が流れているのでゴブリン達の養分になったようですね」
「ふむ、では今回は私のせいでもあるのだな」
「……実は地脈の正常化をしない方が良かったのかなぁ」
「待てトモヤよ。私が遊べないではないか」
「まさか地脈の正常化でこんなにも問題が降って湧くとは思わなかったよ」
オークもそうだし弱い魔物が王国に侵入しつつあるような話もそうだし、今度はコボルトの上位種が発生する理由もとなれば頭も抱えたくなる。
「ですが、本来はどこの国もそう言ったリスクを背負っているのです。今回は偶々重なっただけで、この王国の地下にある地脈よりも太い地脈のある土地では魔物も強いですしね」
「そ、そうだぞトモヤ。何も私のせいだけと言うわけでも無い」
「うん、まぁわかってるから」
今後、ベスターの溢れる魔力の処理先をちょっと考えなければならない。
いや違う、魔法陣を壊してしまえばいいのか。
それも後日話し合いだな。
「では帰るとするか――と、トモヤよ。以前聖地に行かなきゃと話していただろう」
「ああ、王族の一員になるなら一度は言っておいた方がって言われた奴ね」
「この森を超えた先にあるのがそれだぞ」
「……時間があればなぁ」
「そうか、会議があったな」
でもそうか、今回コボルトが見つかってなければ、聖地も危なかったと言う事か。
って事はもしかしたらルーベルトの爺様も、街道から外れた森と聞いて可能性を考えていたんじゃないだろうか。
あの爺様にしては一瞬ではあるが顔に出すぎていた気もする。
後でそれとなく聞いてみよう。
「今回の件で、コボルトも魔人と同じように人間の仲間に成りえると公爵家に訴えて見ます」
「ありがとうございます。ですが、我々とは明白に種が違いますし、無理をなさらなくても結構です。平和に過ごす事が出来ればそれでいいのですから」
いい奴だなぁ本当に。
にしても無事終わって良かった良かった。
これでコボルトが負けるような場合、千絵に森ごと吹き飛ばしてもらうつもりだったしな。




