時間稼ぎの解決法
そのなんてこったな方法とは、ベスターの魔力を吸ってる転移門の出口を枯れた地脈の空洞にしてしまう事だ。
そうすれば王国南部の大半にベスターの魔力が行き渡る。
ここでミソなのが、地脈の魔力として使われていたわけだから、オークがそれを利用して来るのではという点だ。
「不可能だろうな」
「なんで?」
「そもそも、あれは城の地下にある魔法陣を通じて地脈に注入していたからだ。地脈を介す事によって魔力が変換されて大地に満ちる魔力となったが、私の純粋たる魔力を他の者が使えると思うか?」
「あー」
俺が楓子の魔力を扱えなかったのと同じことか。
「そして、私の魔力を満たす事によって、オークは魔人の王が王国を支配したと勘違いする事だろう。その場合人間に手を出すよりも戦力を増強しなければ手を出してこれないはずだ。地脈の侵攻路では狭すぎてそれも難しいし陸路でも海岸線を迂回する必要がある。となれば現実的に考えて攻め込むのを一時中止する他無かろう」
「上手く行くのかな」
「幸いにも私の魔力は随時クリスタルで集中して転移門で飛ばしている。遠くから魔力感知した所で、私がここに居ると気付けるのは知っている者位だろう」
「確かにそうだ。俺もさっき上空で、千絵の魔力を見つけてからベスターの魔力が見つけられたくらいだし」
って事は別の手段も考えられるのか。
「じゃあベスターには王国を支配したって事にしてもらって、手を出してきたオークに対してどういうつもりだと聞きに行って貰おう」
「ん、むう。なるほどではあるが、まるで私が暴君ではないか」
「一応王国を滅ぼした体だし」
「まぁそれも良かろう。では早速あの地点に魔力を――」
「魔力だまりになったら変な魔物とか出そうだし、南端の村の更に南でお願いします」
「注文の多い奴だ」
となると避難が無駄になるのではと言うとそうでも無かった。
なんせベスターの魔力が王国の南に充満する事になるのだ。
地脈に注入されてないからこそ、魔力は空洞に満ちてオークの掘った縦穴から噴き出し、辺りを染め上げてゆくだろう。
長期間ともなれば土地自体に魔力を帯びかねない。
それが濃ければ濃いほど生態系が変質する恐れがある。
地脈の魔力としての汎用性はないくせにな。
「私の魔力も旦那様と同じく放出先を変えますか?」
「どっちの方がいいんだろう。ベスター以外の魔力も混じっていた方が魔人の存在感を際立たせる?」
「どっちもどっちだろうな。私単体でも十分だろうし、そこにフローラの魔力が混じっても分離して知覚できる者がいるとも限らぬし、わかった所で『魔人の王以外にもヤバいのがいる』と多少思わせる程度だろう」
「じゃあいいか」
「うむ。やるのならフローラに限らず様々な魔人の魔力を混ぜた方がいいからな」
と言うわけで思いつき一つで先が見えた。
となると早い内に動きたいが、明日はコボルトとゴブリンの戦いがある。
今日の仕事に関しては予定したほぼ全てが消化されたのではないだろうか。
ほぼと言うのは細かな見落としが無いとも限らないのと、余計な問題が発生した事にある。
今頃南の街では不満を爆発させていそうだが、避難も終わったようなので一安心だ。
何なら各町村に数人隠れ潜んで残った人間がいる可能性も有るが、その場合住民が来てるかの把握をしているだろうから、何かあったら一発で疑われる事だろう。
と言う事で本日のお仕事終了、夕食も終わって各々部屋へ向かうのである。
「えへへ、やっぱり何かまだ恥ずかしいね」
天使や。
そりゃ面と向かってたら恥ずかしさはあるとも。
トラ子は今日が楓子だとわかると、物凄く不満そうな顔で通常の猫モードになってシャルの後を追った。
結局一番よく寝た相方の一人だから、寝る時は俺の所かシャルの所が落ち着くらしい。
正直な所、シャルが持ち回りで添い寝を画策してると言った時に、また何かしら悪戯が仕掛けられるんじゃと警戒もしたのだが――蓋を開けたら見事に何も無かった。
ほんのちょっとだが、結局引っ越しの時に持って来たエロ下着を期待したりなんかもしたけど、実際はアレよりも丈も長ければ生地も厚い物をお召しになられている。
そして当たり前のように人のベッドに入って来て、キングサイズのベッドなのにぴったり寄り添ってくる。
まぁ寮のベッドがセミダブルサイズだったので、シャルとトラ子と寝てる時よりかは圧が少ないのだけど。
「あ、あかん寝る……」
「えへへー」
本来なら何だかんだ一時間くらいダラダラと喋って、どちらか寝落ちして終了と言うのが大体のパターンだ。
そして二人でいる時間の少ない俺達夫婦にとって、それがある意味夫婦の時間だったりするのだが、昨日、今日と慌ただしくて横になった瞬間眠気が噴き出してきた。
がしかしだ、隣の楓子がこっちを向いて癒し最大発揮の笑顔で『えへへー』などと笑っているのだ。
期待されている。
期待されているのだ。
でも隣ではユニークスキルのせいでむやみやたらに肉体的にも精神的にも癒しを与えて来る楓子である。
これでシャルだったら気にせず寝るのだ。
なんせ今に始まった添い寝でも無いし。
翌朝の機嫌はよろしくないけど。
とりあえず楓子の顔を見てたら癒しパワーで寝そうなので仰向けで上を向くことにした。
「ね、智也君。明日はどうするの?」
どうもこうも事前にある程度説明しているのだが、これは話のとっかかりとしての会話だろう。
「起きて着替えてトイレ行って」
「もー」
うーん、ボケとしても弱い癖にふざけてんのかと怒られても仕方ない内容なのに、楓子は甘い。
そしてベタベタとしてくる。
普通ならそれだけで覚醒すると言うのに、あかん眠すぎる。
「えーっと朝一でベスターがコボルトをゴブリンの集落近くまで飛ばすから、余裕があったら様子を見て」
「うん」
「その後で昨日よりは小規模の会議で報告し合って」
「うん」
「多分シェーバー家の負担が大きすぎるからカンパしようって話になって」
「うん」
「うちの資産の五分の一くらい持ってかれる予定」
「……少ないよねぇ、資産」
公爵家と分家が気軽に出せる金額は俺達にとっては大金過ぎるのだ。
各々の領土の税収でどこの家も遊んで暮らせるくらいの金がある。
別段豊かな国では無いが、公爵家とその親戚筋の経営する会社関係の税収も全て入るのだ。
それ以外にも単純な利益が勿論ある。
そう言う意味ではシェーバー公爵家は少々不利だ。
土地が特に枯れていたエリアだったので畜産や農業での収入は少なく、南のサウスルタンからの行商人も少ないので関税も少なく。
その分、シェーバー公爵家と分家、そしてそれ以外のシェーバー領に住む親戚関係は各々様々な会社を興して成功させている。
だからこそ、シェーバー公爵家の資産は公爵家としての収益よりかはシェーバー家としての稼ぎである面が強く、それを知っているからこそ周りの公爵家からカンパが出るのだ。
今日の時点でそんな話が裏で囁かれているとマリーネからの密告があった。
廊下で話しているのを小耳に挟んだようだ。
その話が事前にこっちにされないと言う事は、そう言う話をしているのは分家の人間なのだろう。
公爵家の当主がそう言ったことを外でする事はあり得ないし、する位重要な事なら直接言ってくると思う。
「智也君は何か商売をしようとか考えないの?」
「俺にどんな商才があるって言うんだ……」
「えーっと、マーレンの町では町おこし出来たよ?」
偶々そう言う流れになっただけだ。
「なんかベスターさんとかコボルトの魔王にも仕事の斡旋しようとしてるんでしょ?」
「まぁ」
ベスターの所は希望があってだし、コボルトの魔王も人と共存を目指すなら何らかの形でやり取りを持った方がいい。
「うーんと、コンサルタントとか?」
「俺から遠すぎる世界だ……」
もっと現実味のある稼ぎ方はないだろうか。
どっかバイトするとか。
だって考えて見ろ、時期的には卒業してるんだろうけど高校生に毛が生えた程度だ。
「まぁ金はあれば嬉しいけど無くても何とかなる。うちの場合公爵家のが豊かな方がバランスがいいと思う」
どうせ王家の方が稼げて大きな権利があるとなれば利権争いが発生する。
それなら形式だけの王制でいた方が、この王国は上手く回ると思う。
まぁ、政治なんてろくに出来ないので王国を発展させることは無いと思うけど。
正直公爵家の当主が暴走しないのが救いで、これで暴走するのが出て来たらシャルがシェリールとして頑張っても負ける可能性が高いと思う。
所詮人間の国なのだからエルフを旗印にしようが人間の意見が強いのだ。
特に最近は『神のお告げ』も無いわけだし。
結局あれ以来クソジジイに会いに行っていないようだが、それからちょっとした事件は続いている物の、『何かあったら向こうから言いに来る』と言うのは果たされていない。
まぁ大したことないと思われているだけだろうけど。
「この世界じゃ贅沢と言ってもあまり無いしねー」
「元の世界の贅沢みたいなことが出来たら、金持ちの方がいいか?」
「興味はあるけど」
と言って少し悩んだ。
「ずっと贅沢してたらおかしくなっちゃいそう。それにパっと思い浮かんだ贅沢が人気のスウィーツを食べに行くだったし、私に贅沢って向いてないのかも」
「それでこそ楓子だ」
千絵はどちらかと言えば活動的で華やかな世界でも大丈夫そうだが、楓子はそう言う華やかな物を避ける風潮がある。
あまり目立ちたがらないと言うのもあるが、個人的な希望も含めて楓子にはひっそりと天使であって欲しい。
ついには女神様扱いをされるようになってしまったのだが。
「ちょっと智也君、どういう意味?」
「いや、我らの楓子が俗世に塗れなくて良かったと思って」
「智也君だけのでいいし、私だって少しは俗世に塗れたいよ」
「そのままの楓子でいてください」
なんて可愛い奴だ。
全てひっくるめて保存してしまいたい。
ヤバいな眠すぎて思考がサイコ寄りになって来る。
「楓子」
「うん?」
仰向けを楓子に向けてぎゅっと抱きしめた。
「ちょっ、と、ともやくん?」
「眠い、おやすみ」
「えーっ」
とりあえず可愛いので抱き枕決定。
尚、翌朝やっぱり文句を言われた。
しばらく寝れなかったと。
翌朝は予定通り、起きて着替えてトイレに行った。
トイレ自体は各部屋付いているから、どれだけ漏れそうでも大丈夫。
と思っていたのに先に楓子が入ってしまい、『ちょ、ちょっと時間置いて欲しいなー』なんて言うものだから朝から地獄を味わった。
まぁそれで目もばっちり覚めた事だし、漏らしもしなかったから良しとしよう。
で、リビングに行くとベスター夫婦を除いて一同既に起きてきていた。
いやそこにベスター夫婦を交えるのもどうかと思うけど、既に来てても不思議は無いなと思ってしまったのだから仕方ない。
「おはよう」
千絵は椅子に座ったシエルを後ろから抱きしめて揉みしだいているし、シャルは少し成長した少女姿で肩にトラ子を垂らしている。
朝から見た目にカオス一歩手前だなと思ったら、すぐ後ろから来た楓子が『じゃーんぷ』とか言いながらぴょんと飛んで背中に抱きついてきたので心の平穏は保たれた。
基本的に一夜を共にした後は、全員朝から甘々なのだ。
そして、他の面々はそれを胸焼けしたような目で見るのである。
俺は楓子を負ぶって楓子の席まで行くと降ろし、隣の普段自分が座ってる席へ。
すると部屋に隅に待機していたコレットが動くのだ。
「シャルロット様」
「持って来て」
「はい」
そこは俺じゃないのかいといつも思うのだが、これで朝食だ。
マリーネもいるのだが、みんなにお茶を出したりトラ子の尻尾を愛でたり忙しそうである。
一度触ればぶんぶんと一往復する尻尾は、二度三度と繰り返すと不機嫌にぶんぶんと振り回される。
マリーネはそれが面白く可愛いく思うのか、うっとりとした顔でトラ子の腰を撫でていた。
猫の好きな所らしく背筋がぞわぞわしている。
しかしやり過ぎれば嫌な物、シャルの肩から飛び降りて楓子の席をちょっとだけ迂回して俺の所にやって来た。
「にゃ」
俺を見上げ、椅子をちょっと引けと訴えて来る。
大人しく従うと膝の上に飛び乗り、ぐるぐるとその場で回ってから丸くなった。
そして見上げるのだ。
「にょ」
にょ、ってなんだよにょって。
頭を撫でてやると満足そうに眼を瞑ってゴロゴロ言い出す。
それを隣で見る楓子が羨ましそうにするのだ。
で、シエルの胸部をいじめていた千絵が俺の前の席に戻って来て仕方なそうな顔で言う。
「やっぱり楓子の方が上だわ」
「おい待て何の話だ」
「サイズとか弾力とか揉み応えとか?」
「聞く俺が馬鹿だった」
「散々弄られてた私に何の救いも無いんですけどー?」
「それ以前に無い私への当てつけ、許さない」
うん。
朝から平和である。
平和と言う事にしておこう。
朝食が終わって丁度下げ終わった所にベスターとフローラさんが来た。
こっちも朝食が終わってから来たようだ。
「ではトモヤよ、私はとりあえずゴブリンの件の対応に動く」
「俺も連れって欲しいんだよね」
「構わんが、トモヤだけか?」
そう言って周りを見る。
「行っていいなら全員で行くわよ? ねえ」
「ん、急を要する事は大体終わった。後はゴブリンだけ」
「では皆で行くか。トモヤもそれでいいな?」
「まぁ何かあった時の為に人は居た方がいいだろうけど、みんな休んでていいのに」
「みんな智也君分が足りないから」
何か、俺は養分か。
「支度が終わっているならもう行こう」
と言っても何か持って行くわけでも無いし、大抵の物は道具袋の中にある世界だ。
俺達はフローラさんの開く転移門に入る。
その先はコボルトの集落で、広場には完全武装のコボルト達が整列していた。
それがその、なんというか凄く物々しいのだ。
一昨日とは雰囲気が違う。
「これは皆さんでお越しとは」
「なにかあったら言ってください。元々王国の問題ですから」
「いえ、違うのです。やはりこれは我々コボルトとゴブリンの問題だと思うのです」
向こうは引く気が一切無いようだ。
そこまでゴブリンが嫌いなのか。
いや人間側としたって奴等は良き隣人にはならないと思うけど。
「では――三回に分けないと駄目そうだな」
少し多い気がするが、多分模擬戦の時のメンバーに追加で何人か増えたのだろう。
しかも装備が変わっていて、近衛兵団が持っていたようなタワーシールドを持っているのが数人いるのだ。
「あれ」
「気付きましたか」
多分にやっと笑ったのだと思う。
犬面であるところの長い口の片側をくっと上げて見せた。
「元々色々な装備は作っていたのですが、今回の件で盾を使いたいと言う者が出てきましてね」
「……次の模擬戦があったら負けるだろうなぁ」
組織だった動き、つまり役割を明確に作って動かれたら肉体的に強いコボルトに勝つのは至難の業になる。
それこそタイマン勝負で勝てる位強くないとしんどいだろう。
これは失敗したかもしれない。
コボルトとは是非良き隣人として付き合いたいものである。
コボルトはコボルトの魔王の誘導に従ってベスターの転移門に吸い込まれて行く。
結局三回転じゃ半端が出て、その半端をフローラさんが回収し、一番最後に再びフローラさんが戻って来て俺達を回収してくれた。
出た先は森の手前の草原である。
街道からも大分逸れた位置で、森の中には多くの魔力反応があった。
横方向に見ると重なってわかりにくいが、ベスターの言う通り確かに結構な数がいるようだ。
昨日は上空に上がりながらざっと見ただけだからわからなかったが、ゴブリン自体にも魔力の強弱が結構あるようで、小さい物は良く見ないとわからない程だ。
多分子供なのだろう。
「では私は彼らの指揮をして参ります。女性の方は、あまりご覧になられない方がいいと思われますが……」
前から思ってたけど、コボルトの魔王って紳士的なんだよなぁ。
オーク編なのに次回コボルトがゴブリンと戦います。
オーク編なのに。




