新たな問題
なんか週前半から風邪っぽいなー調子悪いなーと思いながら週末まで来ました。
日曜に三日分打ち込んでなかったら連続更新途絶えてたな、と思うと同時に、いっその事途絶えて数日おき更新にしてしまえと思う自分もいるのですが、多分数日おき更新だと一話が一万文字超えて読むのだるくなってくるやーつ。
いやそれで面白く読める内容と文章ならいいんだけどさ、文章って難しい。
本来なら10万文字~20万文字分書いて全体的な校正をして投稿する方が完成度は高いのですが、それってなろうのお手軽さから遠くかけ離れるじゃん?
情報を纏めて、文章複製の魔法を覚えている楓子の部屋へ行くと、トラ子は部屋に閉じ込められて不貞腐れて寝ていたようだ。
「もしもーし」
部屋に入った瞬間、楓子のベッドじゃなくて窓際のカーテンの所にトラ子(珍しく大猫モード)が丸くなってそっぽを向いていたので察したのだが、向こうからも察知されたらしく耳がこっちを向いている。
だが飛び掛かってこないのを見ると、俺に対してもヘソを曲げている様子。
ほら、ヘソどころか尻尾も先端をひん曲げて中空を漂ってるし。
「あれ、智也君どうしたの?」
「いやコピーして欲しくてさ。複製の魔法覚えたって言ってたろ」
「うん。教会で今後使うだろうからって」
本来はウィザードの本部が職員に最低限の食い扶持確保の為に覚えさせる魔法なのだが、楓子に覚えさせたと言う事は本気で上層部に引き込む気があるな。
一応学校でも、戦闘能力の無い事務向きの生徒が覚える魔法としてカリキュラムに入っているらしいけど。
これまではシャルが覚えていた、と言うかシャルが書類関係をやっていたから自分で作っていたのだが、今回はシャルも夕方に行う予定のオークに関する演説の原稿作りをしてるはずだし、それなら手の空いてる楓子にと思ったのだ。
勿論トラ子に絡まれる可能性も考慮して、何ならストレス発散に加担してやろうと思っていたのだが、ああ残念だヘソを曲げているとは。
「紙は持ってきた?」
「勿論」
こっそりドワーフ謹製の道具袋を手に入れたので、本来は丸めたり折ったりしなければならない紙みたいな物でもそのまま収納可能である。
問題はシエルみたいに刃物を入れたらズダズダに切り裂かれてしまう事だが。
願うはドワーフの道具袋と世界樹でシャルが貰ってた容量の上限が不明と言う袋のハイブリット品だ。
一度、このドワーフ製の袋の口にシャルの世界樹製の袋の口を覆って大型の物を移動できないか試したのだが、移動は出来たのだ。
その後、口が小さくて取り出せなくなっただけで。
おかげで部屋から椅子が一つ消えた。
「智也君凄いね、もうこんなにこっちの世界の文字書けるんだ」
「それ翻訳されてるからわからないけど、正直下手過ぎて外に出したくないぞ」
「ちゃんと翻訳されてるって事は、魔法では認識されてるって事だし最低限読めるって事だよ」
楓子の優しい慰めを受けつつも、それってつまりギリギリ読める最低ラインなんだろって言われてるんだろうなー、いや自分でも下手だって言ったけど。
「で、あの後どうだったんだ?」
楓子が、恐らくのんびりとコピーしてるのを見て、つまりのんびりして行けと言う事だなと察知して話題を振ってみた。
「『やー! ぱぱとじゃなきゃやー!』、って煩いから、とにかくここに連れて来ようとしたらおっきくなって抵抗したの。だから部屋の前まで引っ張って来て転移門で無理やり。ほら、見える範囲なら使えるから」
そう言えばそうだったが、巨大化して意地でも動かないと言うトラ子を力尽くで引っ張ってきた上に転移門まで使うとは、流石のトラ子もヘソを曲げる以外無かったのだろう。
「それからずっと?」
「ずっと」
しょうがない奴だな。
トラ子を見ていると、世の大人はこんな子育てをしているのかと尊敬してしまう。
いや勿論かなり特殊なケースだとは自覚してるけど。
そのトラ子、俺が喋る度に先端をひん曲げた尻尾をくねくねと動かしている。
見てると、意識して動かしていると言うよりかは反射的に動いてる感じで、『ん』とか『あ』とか適当に発声しても動く。
何度かやるとイラっとしてかぶんぶん振り回すけど。
「なんか申し訳ない」
「智也君が謝る事じゃないよー」
楓子が傷ついていないかと思ったけど、普段からトラ子に振られているからか、それとも何にも勝る猫好きパワーか、まったく気にしていないようだった。
サクラが正体バラしたら絶対今以上に仲良くなりそうだ。
「智也君はこれのコピー終わったらどうするの?」
「休憩か、ベスター達が上手いタイミングで帰ってきたらそっち見るか、上空からオーク探知か」
「シャルちゃんのフライじゃあんまり上行けないもんね」
それは魔力量とかの関係で仕方ない。
今回のサウスルタンの調査の件だって、本来ならシャルの転移門でパっと行って戻って来る事も考えていたが、場合によっては状況を悪化させかねない事をさっきベスターが言っていたし、やるとすればフライで山脈越えだ。
が、シャルのフライではそこまで高度が上がらないらしいのだ。
他の魔法がまともに使える面々は出来る。
シエルも出来ないし俺も出来ない。
となると調査班は決まってくるわけだが、しかしあんまり女性陣に行って欲しくないので、俺がベスターに連れて行って貰う形で見に行こうかと思っている。
「それじゃ私が飛ばすから探知する?」
「でも広範囲過ぎるから転移門が使えないと終わらないぞ」
「見える範囲なら使えるんだよ?」
そう言って、やたらいい笑顔を返してくるのだ。
もしやとは思うが、弓を持った事で勇者特性の補正が効いて、恐ろしく遠くまで見えるようになったとか言わないだろうな。
うーん、まぁ王都上空から見える範囲だけでも見ておくかなぁ。
「はい、終わり。忘れないうちにしまっておいてね」
「俺を何だと」
「たまに変な所で抜けてるから」
それは誰しもそう言うタイミングあると思うんだけどな。
「それで行くの?」
「行くかー」
「そっか、じゃあ行こ。じゃーねートラ子、パパと楓子ママはお出かけしてくるからねー」
ああなるほど。
納得した。
俺の探知云々ではなく、俺と出かける事によってトラ子に揺さぶりを掛けたいのだ。
実はショックを受けてるわけではなく、ぐずった子に少々お怒りのご様子。
それを聞いたトラ子の耳の動きたるや、良くもまぁそんな真後ろに向くものだと感心する。
楓子はわざと物音を立てるように立ち上がると、俺の手を引っ張って立たせて部屋の入口まで行った。
そして一回トラ子を見て、扉を開ける。
「じゃーねー」
「いーやぁぁぁぁぁっ! トラ子も行くのーっ!」
あっさり釣れた。
そりゃもうその巨体でぶっ飛んでくるから俺のシールドが反応し、バチっと弾くわけだ。
それにショックを受けたトラ子が少し離れた所でしょんぼりと座ってしまう。
ご丁寧に尻尾を前足の前に巻いて下を向いて。
にしても猫モードでも人語喋れるんだな。
通常サイズだと話しかけても猫の鳴き声だから、大きな時限定なのかもしれない。
そして体がでかいせいで声もでかい。
「ほらトラ子、小さくなっておいで」
「にゃー……」
普通に食らったら俺が死ぬレベルの勢いだから自動的に弾かれてしまっただけなのに、本人としては拒絶されたと思って凹んでいるようだ。
仕方ないから近寄って、自分の頭の十倍くらい大きな頭に付いてる鼻っ面を撫でる。
って言うか下手したら、身内で一番細見且つ小柄のシャルの頭と同じくらい大きな鼻だ。
しっとり濡れていてスンスンと匂いを嗅ぐよう動いた。
「ぱぱー……」
「小さくならないと出れないだろ」
「うんー」
しゅるしゅるっと通常の猫サイズになったのを抱きかかえて振り向くと、楓子が聖母か何かと見紛う程の慈愛の笑みを浮かべているのだ。
後光すら差して見えるから不思議。
「マリーネかコレットにお昼は簡単な物でって言っておいた方がいいよね」
「そうだな」
一応王族の一員への食事だからか、食事は豪華な上に品目がやたらと多いのだ。
朝食でも、日本の生活に比べれば豪華と言わんばかりにパンやらスープやらサラダやらと、所せましと出て来る事あるし。
昼もコース料理かとおやっさんに突っ込みそうになる物が出て来るのだが、おやっさんに聞いたら『調理室の連中の腕を磨く為にも作らせてやってくれ』との事なので拒否できなかった。
流石に朝食だけは質素にしてもらったけど、それでもやたらと手の込んだポテトサラダが出てきたりする。
「あ、丁度いいマリーネ」
楓子の部屋を出て少し歩いたら洗濯物を抱えたマリーネと鉢合わせた。
「はい、何でしょうトモヤ様」
「ちょっと昼過ぎくらいまでお空の上まで行ってくるから、昼は軽い物でって言っておいてくれないかな。シャルはここに残ってるはず。他は出てるから、後で摘まめるようにサンドウィッチみたいなのを用意しておいて貰えれば」
「ちょっとで死ぬとはトモヤ様も面白いお方ですよね」
「うーん、字面の通り受け取ってと言うべきか、受け取らないでと言うべきか」
ともあれ伝える事は伝えたので、一番近くのバルコニーに出た。
「行くよー」
「おう」
「にゃー」
俺に抱かれてご機嫌V字回復のトラ子さんだ。
まだ直接対決をした楓子の事は気まずくて見れないようだけど、そう言う仕草も子供っぽくて、口ではペットとして扱うようだけど我が子同然に思えて来る。
楓子のフライにより浮き上がった俺達は、そのまま上空へかっ飛んで行った。
これも楓子のシールドあっての力技で、風圧も気圧も気温も怖いもの無しだ。
今日は幸いにも快晴だったので、雲を突き抜ける事も無く王都が豆粒に見える位上昇して『いやいや上がりすぎだろ』とストップをかけた。
ここまで来ると王国全てが視界に収まりそうだ。
「ここからわかる?」
「ちょっと待ってな」
見下ろして集中する。
魔力探知は人の新しい感覚器みたいな物で、魔力を感じる器官があるわけでは無いけど見えるようになる事を言う。
人によって見え方は様々らしいのだが、俺の場合は通常の視界に重なってサーモグラフィーのように見えたり、集中するとサーモグラフィー単体で見た映像のように魔力を見る事が出来る。
最初は魔力が見えるとか意味わからん状態だったが、最初は何となく、次第に映像がダブって見えるようになり、今では視覚をスイッチで切り替えるイメージで切り替える事が出来る。
問題はある程度視力に左右される事で、それを補うのがそこの位置情報のイメージ化だ。
たとえ実際目に見えない隣の部屋でも、部屋の作りがわかればイメージの補正で誰がどこで立ってる座ってる踊ってると判別が出来る。
この世界の物は全てに魔力が含まれていると言われている。
だから、それらを全て辿って行けば知らない場所も立体的に知覚して見えるとは思うのだが、そこまで処理能力の高い脳みそはしていない。
「千絵発見。傍にシエルとベスターとフローラさん。この遠さでもわかるクリスタルの禍々しさ」
どちらかと言えば千絵の魔力の方が煌々として目立つのだが、その傍に異質な魔力の塊が二つ見えた。
多分あれを持っていなければ、ベスターの魔力で辺り一面覆われて判別なんか出来なくなってるだろう。
とは言えだ。
知らない土地に居るはずの千絵が見えて、そこから辿れば他の三人も簡単に見つかったんだから、多分考え方、捕らえ方次第だと思うのだ。
他に遠くで見知った魔力と言えばコボルトの魔王だ。
西の方角を見る。
どれくらい上がったか最早わからないが、地平線が弧を描いて見える位には高いせいで、西の山脈は薄っすら白っぽくもすぐに見つかった。
コボルトの魔王も魔力量だけなら結構な物に成長しているので、自分のログハウスの中に居るなと言うのがわかる。
でもそれは俺がコボルトの集落を知っていると言う面もあるだろう。
じゃあ視線を麓に移してベスターが凍らせたオークがいた辺りに意識を集中させる。
コボルトの集落から辿る様にイメージしたのだが、流石に一日経って――あったよ。
死体が片づけられていないだけのようだが、魔力の残滓として昨日散々感じた魔力を確かにそこに感じる。
と言う事は、感知自体は王国全域をカバーできそうだ。
問題は、やはり細かい部分がわからない事だ。
今この上空に居てもマリーネやコレットの動きは細かくわかるけど、王都周囲の四つの街の事を知らないので見た所で何が何だかわからない。それなりに魔力の強い人が多いから何となくわかるけど、街と言う規模なだけあって人や建物が多いから、実際本来の視覚で見える程度まで近づかないと細かくはわからない。
仕方ないので次に各町村を調べて見ると、遠くの村は魔力量の多い人がいない限りわからない。
ある程度王都に近づいて町の規模が大きくなってくると、そこそこ強い魔力を持つ人がいるので目印になる。
その人にとりあえず意識を固定し、そこを中心に探知を掛けるとある程度の人数が建物付近に居る事はわかった。
街のごちゃごちゃした情報に比べれば情報量が少ないから、むしろ街より離れた遠くの町の方がわかりやすいようだ。
勿論オークの魔力は感じないし、その町にはその人以外に強い魔力を持つ人がいなかったので他はわからない。
では帰投中の模擬戦用王国軍はと言えば、西の方の町に滞在しているようだった。
流石に魔力量の多い人が多いからわかりやすい。
「どう?」
「わかると言えばわかるけど、わからないと言えばわからない。地図が頭の中にあるから、町の方を注視して魔力の高い人を見つける事は出来るけど、オークを探す為に全方位を虱潰しに見てたら日が暮れるし俺の頭が持たない」
仮にオークがいたとしても人目を避けて地脈に入ろうとするだろう。
だとすれば縦穴のある王都中央を縦に走る太い地脈を目指すはずなので、まず地脈を探る。
地脈はほぼ真っすぐ北から王都の真下を通って王都と南端の中間あたりでぼやける。
そこから細かく分かれているのだ。
王都の北エリアで地脈の付近に怪しい魔力が無いか、もしくはそこに向かう魔力が無いかをざっと北から南へ視線を動かして見た。
――――。
「怪しい集団がいる」
「本当?」
「でも数が中途半端だしオークの魔力と違うな」
「見に行く?」
「ああ」
「じゃあ捕まって。えーっと、あっちだよね」
そう言って楓子が転移門を開いた。
……楓子の魔力だし魔人の国を通り越して極点まで行ったりしないかな。
まぁでも自信ありそうだったし、楓子に捕まって歪みに入った。
そして出てきて魔力探知で辺りを見回すと、さっきよりも多分三百キロくらい先に進んでいるんじゃないかと。
二回使えば王都から隣の国へ離脱できる移動距離だが、これが最大移動距離とも限らない。
これって単純な移動手段としては、実は凄い効率的じゃないか?
「凄いじゃないか」
「見える範囲までなんだけどね」
「……見えるのか」
「凄いよねぇ。なんか集中したら見えるようになったの。でも目標物があってじゃないから、何となく目の焦点が合う限界の所を目標にするんだけど。今回はさっき智也君が見下ろしてた辺りの上って感じ」
やっぱり自分の弓を持ったせいなんだろうな。
何となく適当に目標を定めたようだが、意外と正確で飛距離がちょっと足らなかっただけで方向はばっちりだ。
「怪しいのあってアレ?」
「そうそう」
まだもう少し北だが、楓子にも感知出来たようだ。
フライで高度を落としながらそっちに寄って行く。
下から気付かれて散り散りに逃げたら面倒だから、楓子に『魔力を漏らさないシールドで』と注文を付けて張り直してもらった。
これなら目視されない限り気付かないだろう。
こうして降下して行くと、地脈に沿って南下していた集団を目で見える所まで来た。
「なにあれ」
楓子が疑問に思うのも仕方ない。
「なんだろうな」
俺もわからないのだから。
オークでは無い。
コボルトよりも小柄だ。
そして百くらいの集団で一応武装している。
頭頂部がとんがってて目が大きく耳も上に長く、牙も発達している。
それだけで肉食の獰猛なタイプの魔物だろうなと言うのは想像ついた。
だが魔力量だけで見ると大したことが無いのと、なんか纏まりもそんなに無い。
「もしかしてゴブリンってやつなのかな?」
「俺もそれが浮かんだけど、ゴブリンって聞くところによるとオークの劣化版みたいな話なんだよな」
能力的にはコボルトより少し弱いが、狡賢く残忍で闇夜に村を襲って全滅させたりする魔物だと聞く。
厄介なのがコボルトよりも小さい、つまり二足歩行で走り回れる程度の幼児と同じくらいの体格なので物陰に隠れると見つけにくく、小柄な分、武装した村人でも倒せる強さらしい。
その武装した村人でも倒せる強さが厄介と言われる所以は、だからこそ撃退に向かうと集団で襲ってきて返り討ちにしてくるのだ。
もう一つ厄介なのがオークと同じく繁殖能力が高い事で、女性を誘拐する為だけに村を襲い、猫が獲物で遊ぶように玩具にした上で孕ませてしまうらしい。
だが、しかしだ。
この王国でゴブリンが村を襲ったと言う話は殆ど聞かない。
それもコボルトと生活圏が近いせいで、お互い潰しあいをするからだと言われている。
――つまり、コボルトの魔王の元に集まったせいで、ゴブリンが増えて来たと言う事か。
コボルトはそうでも無いようなのだが、特にゴブリンは縄張り意識が強いらしく、縄張りに入ってきたらオーガ相手にも食って掛かると言うのだから知能の低さが露呈もするが恐ろしさもある。
相手が上だろうが何だろうが、奴らは集団で襲うのだ。
これまではコボルトと潰し合いをする事で数の増加を押さえられていたが、増えればその分欲求も増して人間の町へ手を出そうと考えるようだ。
少なくとも少数では簡単に襲えないから夜襲だし、夜襲にしても少数過ぎたら失敗する可能性が高い。
逆に増えれば何でもありだ
歯止めも利かずやりたい放題し始める事だろう。
それが今回だったとしたら自分達にとってラッキーで奴らにとってはアンラッキーだ。
この集団が本当にゴブリンだったとして、直近でほかの村を襲ってる可能性も有ったが、オーク侵攻のおかげでベスターが見て回っていて、幸いにもその手の話を聞かなかったので今回が初だろう。
「もしかしたら厄介な事になったかもなぁ」
「また?」
「とりあえず楓子、あの集団の先頭に下してくれ」
「大丈夫?」
「怖いからシールドはフルパワーね。怖いから」
「はーい」
進行方向に小規模の町があるのだ。
地脈に沿った町なので恐らく転移門が設置されていると思う。
そこを根城にされたら厄介なので、会話が出来るとは思えないが攻撃の意志があるかどうかはわかるだろう。
「話の通じる者はいませんか」
降りた傍から囲まれた。
「ゲゲッ」
「ゲヘッ」
どう見ても言葉が通じそうには思えないし、何ならこれぞこん棒と言うサイズの木の棒と古びたナイフみたいなものを出してこっちに向けて来る。
奴等の視線は楓子に向かっている。
それも何か色めき立って騒いでいるのだ。
これはあかん奴や。
幸いにもコボルトのように強化された風ではないので、魔王は発生していないと思う。
「楓子、こいつらを一掃できる?」
「うん」
「じゃお願い」
「ファイヤーボール」
そう言い放つと火の玉が飛んでいき、それが千絵が撃った時のように精霊化してサラマンダーとなった。
サラマンダーは全身炎に包まれており、その体で突進したり火を吹いてゴブリンと思しき小さな魔物を一気に燃やし尽くした。
「いつの間に」
「込める魔力とイメージ力なんだよ」
「俺にはどっちも無いけどな」
トラ子は慌てもせず平然と俺の腕の中でゴロゴロ言っているので、何かあってもトラ子一匹で対応できる強さだったのだと思う。
そこら辺、動物は敏感だし。
「オークはいなかったけど奇しくも危険を回避したな」
「でも、まだいるって事だよね?」
「恐らく。あいつら北から来たから、あの辺りの森に集落がありそうだな」
遥か先の街道から外れた所に小高い山があり、そこの森の中ならゴブリンの集落があっても気づかないだろう。
「帰ろう。報告する事が増えちゃったな」
「でも、これで智也君も公爵家の御当主さん達から一目置かれるね」
「なんで?」
「だって西はコボルトの魔王と仲良くなったし、東はマーレンの町の町おこしをやったし、南は避難民の保護をしてる最中だし、北もゴブリンを見つけたでしょ?」
「……ああ、確かに公爵家にとって何かしらの面倒事だな」
でも会議で俺は弱い立場なんだよなぁ、若輩者だし。
ルーベルトの爺様が気を使ってくれてるから何とかなってるだけで。
「一回上に飛ぶね」
「うん」
グングンと上空へ上がる。
その間に怪しい森を見てみたが、小さな魔力反応が沢山あった。
これはビンゴと言う奴だろう。
こっちも早急に対応しておかないと、いつ被害が出るかわからない奴だな。
今倒してしまった以上、出て行った部隊が帰ってこないとなれば連中は騒ぐだろう。
またベスターに頼るか、今度はちゃんと俺達の手で何とかするか――、とりあえずコボルトの魔王に意見を聞きたい。
昨日の模擬戦の件も一応終えはしたが中途半端に解散しちゃったし。
「それじゃ王都に帰るんでいいの?」
「ああ、そろそろ会議だ。予定通り楓子も同席してくれよ」
「はーい。トラ子、今度はリビングで大人しくしなきゃ駄目だよ?」
「にゃ」
『にゃ』が『や』に聞こえた。
これはシャルの癖が移ってるな。
楓子もそう聞こえたようで、『もー』と仕方なさそうにしている。
これは諦めて会議室に連れて行かなきゃかなぁ。
この手の異世界物とかファンタジーって先行作品の設定に引っ張られがちorその印象が残るもので、ゴブリンを出すのも悩む所でした。
まぁそれで言ったらファンタジーなんて指輪物語の影響が色濃かったりするわけだから、どこもかしこもマネになってしまう部分は出て来るのですが。
この手の題材故に、「あー、こう言う部分ってパクリって思われるんだろうなー」と思う反面「やっぱゴブリンってこう言う設定っしょー」とめっちゃ影響されてたりするのですが。
でも違うんだ、モンスターの見た目なんかの脳内設定はゲームの影響が強いんだ……




