一晩明けて、これからの事
やっとこさオーク編に入ったって言うのに、サクサク話が進むわけでも無いんだなぁと書いてて思うのです。
話の流れとか構成とかが勢いで決まってくから難しい。
*前話を多少の加筆修正をしました。
本筋が変わらないと言うか、単にわかりにくい場所等の補完をしただけなので、特に読み返さなくとも話は繋がります。
ちょこっと成長して来た所悪いのだが、混乱を避けるためにさっきまでのちっこいシャルになってもらってエントランスホールに行った。
と言うのもシェリールモードじゃ無くシャルのまま行ったらしいからだ。
まずは避難民を南門の門前宿に届けなければならない。
「さっきはどうやって回収したんだ?」
「五人横に並んで後ろに十人くらいくっついて貰った。転んだら死ぬかもって脅して」
転んだら何処とも知らぬ場所へご招待はリスキーだが、整列して手を握ってしまえば意外と安定して行ける気もする。
にしても五十二人も一回に回収出来るんであれば、十分物流を担えると思うんだが。
まぁ今回はそんな無茶をする必要も無いので、三つに割って先頭集団に俺が混じり、今からチェックインを始めてくれと言いに行く。
最初に話を付けておいた事もあって向こうも準備をしていてくれたので、従業員総出でチェックイン作業をやってくれた。
問題点は辺境の村ともなれば読み書きができる人の割合の方が少なく、殆ど従業員の代筆だったので余計に時間が掛かった事だ。
それでも三十分ちょっとで終わると、閑散とした受付で俺とシャルだけポツンと残った。
「終わったな」
「ん」
「帰るか」
「ん」
はい、と手を出してきたのを握る。
うーんいつも通り。
そして帰って来ると、今日はさっさと寝て明日に備えようとなるのだが、各公爵家に充てて出した手紙の返信が続々と届いていた。
それをリビングでマリーネから受け取るとざっと目を通した。
どの家も宿を押さえておくとの事で安心した。
後はどうやって南側の町や村の住民を連れて来るのかだが、転移門の魔法を使えるアークウィザードを王国中から集めたとしても、参った事に一般的な転移門の魔法は良くて四人か五人くらいまでしか一緒に連れて来れない。
となると転移門に関してはチートクラスのシャルと、これは要請しなければならないがフローラさんだ。
フローラさんでも恐らくギリギリ十人が限界だろう。
シャルで今回五十二人と言う無茶を実現したが、それ以上を期待しても危険なだけだ。
シャルで一日十回程度飛べるが、かと言って無茶をしているので十回、五往復を絶対出来るとも限らない。
となると各町村の人口までは頭に入っていないが、全部回収するのにシャルだけで四日か五日かかるだろう。
フローラさんに協力してもらって三日程度だろうか。
だが転移門の魔法も最悪一往復分は残しておかないともしもの時がある。
オークの残党の調査もしなければならない。
西側は模擬戦に行っていた王国軍が様子を見て帰る事になっているが、あの地脈の掘られ具合からまず大丈夫だろう。
北側も王国中央を通る太い地脈に空気穴用の縦穴が開いている程度で、付近に町村は無いし西と同じように大丈夫だと思う。
南側のように陸路で攻め込む可能性が否定は出来ないが、メインの南北を走る地脈が五十メートル弱あって、その上地脈があるのが七十メートルから百メートル程地下なのだから、大勢でそれをよじ登るとなると現実味が無いと思うのだ。
そこから分かれた二十メートル程度の根でも同じで、西のコボルトの集落の麓の地脈が偶々地上近かっただけで、条件の合う場所が何か所もあるとは思えない。
と言うわけで個人的に西と北は無いと思うし、東もトラ子の気付きがあった後に細かく見て回ったので見逃しは無いと思う。
あくまで状況的にそう判断しただけだが、かと言って全て見て回るとなると――。
そうだ、そこは王国の転移門の魔法を使える人間を雇って見てきて貰えばいいんだ。
転移門の魔法を使える人間は、結局一度は行かないと飛べないので、王国中一通り見てきてるはずである。
それならばちょっと見て帰って来る事は出来るだろう。
仮にそれでオークが制圧している町村があったとして警戒されても、こっちの最大戦力で奪還してしまえばいい。
「トモヤ、寝る」
「……そうだった」
今日はシャルの番だった。
リビングであーでもないこーでもないと考えながらメモを取って行き、今考えられるのはこれくらいだなと言う所で一区切りつけた。
「今日は一人で寝るかな」
「何言ってるの」
逃がしてくれはしないらしい。
まぁ幼女が少女になったくらいじゃ俺の鋼の心は揺るがないし、疲れたからさっさと寝てしまおう。
――と思ったら、既にトラ子が人のベッドの中心で丸くなって寝ており、それはもうシャルが大層ご不満な顔でそれを見るのだった。
朝起きたらシャルとトラ子の位置が変わってて、今度はトラ子が不満げな顔で起こしてくる。
トラ子が変わったとはいえ、この三人で寝る事が一番多かったので、シャルもトラ子の扱いは心得ているし、トラ子もシャルが何をしてくるかわかっているらしい。
さて、仕事だ。
ほんのちょっとだがシャルが成長した事で『大丈夫よね?』『大丈夫かな?』『シャルがオッケーなら私もー』と言う三人組がリビングで待っていて、なんかもう朝から突っ込む気も無くてスルーした。
何だろう、俺に信頼が無いのだろうか。
この嫁ーずの力関係と言うか何と言うか、一応本妻はシャルと言う事にはなっているので、なんかどことなくシャル以外の三人の遠慮が垣間見えるのだ。
おかげ様でまだ一方的に襲われる事も無いのだが、それに関しては持ち回りで一緒に寝るようになって、俺もそろそろ心に整理がついたと言うか女の子と一緒に寝る事に慣れたと言うか、ただ単にヘタレなだけなのでいっその事誰か襲って来ればと思わなくもない。
そんな俺でも、シャルが普通に千絵や楓子みたいな見た目年齢なら、と思う事はあるのだ。
そこが唯一の歯止めでもあるとは思う。
そこで手を出したが最後、きっと爛れた生活になると思う。
だって智也、思春期の男の子だもん。
草食系を飛び越えたヘタレだって切っ掛けさえあればだ。
「おはよう」
「うむ、おはよう」
「……朝早いなー。おはようございますフローラさん」
「おはようございます、トモヤさん」
既にベスターとフローラさんも来ていた。
と言うかベスターに関しては、さっさと動きたいと言わんばかりに元気と言うか気合みたいなものが感じられる。
「さて、トモヤが起きて来る前に昨日書いたらしいメモをざっと読んだが、町村の調査に関しては昨日帰る前に北側はやっておいたので東と中央付近のいくつかだな」
「うわマジか、見てくれたのか」
「ざっと探知もしたが付近にオーク規模の魔力を持つモノはいなかった。残りの数か所に関してはこれからフローラと見て来よう」
「そうだ、フローラさんに避難民回収の手伝いをお願いしたいんですけど」
「何故私を頼らない」
「……いやほら、行った事無い所には行けないわけだし?」
フローラさんはこの付近の国々を見て回ってるからなぁ。
「フローラに送ってもらえさえすれば解決するであろう。私なら五十人は安定して回収できる」
「そっか。そうだよな。疲れてて頭回ってなかったなぁ」
と言うか、ベスターがちょっと拗ねてるのが面白いんだが。
シャルと同じ規模をベスターの魔力なら数十回行けるだろうし、避難命令と荷物をまとめる時間を考えても二日か三日で終わると思いたい。
「まぁとりあえず見て来よう。それとオークの残党調査なのだが、トモヤ、お前が上空から本気を出して見ればわかるのではないか?」
「俺の魔力探知と捜査って行った事があってイメージできる場所なら細かくわかるけど、そうじゃなかったらそこまで細かくわからないんだよなぁ。ただ、オークに隠蔽する力が無ければ、王国を何か所かにブロック分けして、そのエリアを上空から見るってやればわからなくはないかも」
「まぁ不確かではあれど、奴等は個でいる場合、集団に帰ろうとするだろうから特に問題は無いと思うが」
「なんでわかるのさ」
「よく訓練された兵なれば、一人で出来る事が限られている事は承知だ。本来の目的が自らの命を賭しての虐殺でなければ孤立した状態で何かしようとはせんだろう」
言われてみれば確かに。
あの四百人規模がいたとしても、恐らく奴らはフローラさん達みたいに何らかの方法で情報の伝達をしあっているから、王国内のオークがほぼ全滅してるとわかれば逃げ帰るだろう。
なんで情報の伝達をしてると思うのかは単純な話で、周囲から攻めて王都へ一気に攻め入ろうとしているのであれば、何らかの連絡手段が無ければ無理だからだ。
今回は地脈が移動手段になっているので、音響魔法の号砲辺りを使えば合図くらいは簡単に送れるし、それを地上の人間が察知するのはほぼ不可能だ。
「それとシャルロットよ。どうせなら大人の姿まで成長してしまえば、トモヤも思い切りが付くだろうに」
ベスターはそれだけ言ってフローラさんと共に消えた。
後に残るのは気まずさである。
「……それなら少し考える」
「朝からやめてくれ。さーメシだメシだ」
傍で控えていたコレットが朝食を運び込んでくれる。
そのコレット、昨日は慌ただしくてシャルと会えていなかったのだが、もうさっきからすっごい顔で見てる。
今のシャルの風貌は、外人のジュニアモデルでこんな子いたら大騒ぎだよね、と言う美形が多いエルフに相応しい眉目秀麗な完璧少女だ。
口を開かなければだが。
あのコレットが黙っているわけも無いが、取り合えず配膳だけはしてくれた。
すんごいうっとりした目で見てるけど。
「えーっと、コレット?」
「なんですか」
俺に対してだけすげー刺々しいのは何とかしてください。
「朝食後、シャルの支度は全て任せる。服もサイズ合わないはずだし、何か調達してほしい」
「お任せくださいトモヤ様」
にっこにこである。
「トモヤ」
「諦めろ。どうせハナから逃げられない」
「むー……」
そうだな、アンリさんの所に行ってシャルの服も新調しないとな。
「それで智也、今日はどうするの?」
「王国南側の住人を避難させる。ぶっちゃけうちの最大戦力でサウスルタンの状況を見に行って、場合によっては奪還しちゃった方が話は早いかなと思うけど、相手の出方がわからないのと、もし何かあった時に国民を蔑ろにしたって言われると面倒な事になる」
「実際問題、オークがその南の国を制圧してたとして、奪還できると思う?」
「千絵と楓子なら出来ると信じてる。とは言え血なまぐさい話だし、あっちの国民がどう言う扱いにあるかもわからないから、そう簡単ではないとも思ってる」
「血なまぐさいのはねぇ、それが私たちの仕事だってわかっているから」
「うん、私達が出来る事はやるよ。これで人対人の戦争だったら嫌だけど、魔物だから少しは気楽だよ」
千絵の男らしさも楓子の気丈さも大変ありがたいし嬉しいのだが、決して歓迎してない事は承知の上なので俺は強く言えない。
にしても、奴らは人間を家畜として扱うようなので、もしサウスルタンが制圧され切ってた場合は救出作業がどえらい作業になりかねない。
恐らく何か所かに隔離されているので、それの調査。
実際どのような状況にあるかも同時に調べなければ、何時ごろ救出するかの予定も立てられない。
ベスターの話だと胸糞悪い状況もあり得るから、これは女性陣を排してやるべきだろう。
後はオークの分布。
最悪向こうの都市を壊滅させるつもりで攻撃しちゃっていいと思う。
その方がこっちが被害を被る可能性も減るし、オーク側にもまともに相手したら損だと思わせた方がいい。
その場合は千絵のフルパワーサンバーストか楓子の弓だが、武道としてやってる弓を拠点攻撃用の兵器みたいに扱うのは楓子も嫌がるだろうし、これはちょっと考えなければならない。
仮に楓子がいいと言っても、千絵のサンバーストで処理しきれる範囲ならそっちの方が気分的にいいだろう。
とは言え千絵だって好き好んで大量破壊、大量殺戮をしたいわけでも無いしな。
そう言うメンタル面でのケアをするのが俺の役目のはずなのに、その俺が仕事として振ろうとしてるんだから申し訳ない。
つーかお義父さん、あんたこの国の王様なんだから何かしてくれ。
どうも『自分には出来る事が無い』と部屋に引きこもってるらしいのだ。
実際そうだとは思うけど、せめて矢面に立つくらいはだな。
「まぁ色々考えとく。それによって嫌な事をしてもらう事になると思う。ごめん」
「別にいいわよ。智也の嫁になった時点で覚悟してるから」
「智也君のと言うよりかは、勇者の自覚を持った時点でだけどね……」
「違うわよ楓子、そこは智也のって言っておいて恩を着せとかないと」
「よーし千絵、とりあえず千絵は昨日南側の町を回ってたわけだから、今日も避難の説明と付き添いで行ってくれ。知ってる顔が居た方が向こうも安心するだろ」
「はいはい」
「楓子は俺の癒し要員」
「そうやって楓子を贔屓するんだから」
なんか画策してる千絵より楓子を贔屓して何が悪いか。
「私はー?」
「シエルも千絵と行動かな。俺は対策会議に出て状況説明とか諸々があるから、楓子が同席しといてくれると回復もするし相手が変に威圧的になる事も無いから助かるんだ」
「はーい」
「そう言う事なら智也君と居るね」
「ん、私は?」
「そりゃもう、シェリール王女様のやる事と言ったらある程度限られるわけだが」
「……国民への報告?」
「お願いします」
俺がやるより絶対落ち着いて聞いてくれるし理解も得やすいはずだ。
「夕方辺りに緊急の告知があるって呼びかけて集まってもらおう。対策会議の方でも話に出すけど、既に殆ど対応が終わってるからオークの事を言っても大きな混乱にはならないし、南側からの物流が止まる事も言っておかないと変な疑惑を囁かれても困る。ああ、それまでに上空から探知掛けとかないとだな……なんで一日が四十八時間無いんだか」
特に南はシュバインシュタイガー関連があるし。
噂の伝達速度は異常な程早いから、多分昼過ぎには門前宿発でそれなりの範囲にオークの噂が飛んでるはずだ。
それを隠して数日間置いておく方が国民の不安を煽るから、このタイミングで言ってしまった方が無難だと思う。
どうしても時間的に間に合わなそうなら明日でもいいのだが、こっちをさっさと整えてオークの侵攻ルート潰しとサウスルタンの調査をしないと。
最悪を想定して動くのならば、とにかく行動は早い方がいい。
「わかった。確かに私の仕事」
「全部終わったら、各々何かお願いを一つ聞くんで頑張りましょう。なおエロいの禁止」
「なっ」
言いながらシャルの顔が色めき立つんだから注釈を付けないわけにもだな。
朝食後は予定通りシャルがコレットのおもちゃになり、各々支度してリビングに集まる。
ベスターとフローラさんは 朝食が終わる頃には戻っていて、『平和な物だった』とつまらなそうにベスターが言っていた。
いやオーク居る方が不味いから。
「では行動開始と言う事でいいのだな。トモヤは今日は一日中城か」
「多分ね。ベスターもフローラさんも、今回の件に関しては本当に助かる。ありがとうございます」
「昨日も言ったが我々魔人も看過しておけない状況だからな。能力面ではオークなど大したことは無いが、数の暴力と言う物は時に状況をひっくり返す。そして放置すればするだけ奴らは増えるだろう。ならばやるしかあるまい」
「ちなみにサウスルタンを見に行ったりは?」
「仮に制圧されていたとして、我々を感知できる者がいたら防備を固められ、邪魔な捕虜を処分する事も考えられるからな。万全の準備が整うまでは覗きには行かぬよ」
「わかった」
チラッと見とこうかなと思ったけどやめた。
「ではフローラよ、案内を頼む」
「わかりました。ではチエさん、シエルさん、行きましょう」
「いってらっしゃい」
フローラさんがベスターと千絵とシエルを連れて行った。
さて、残るは楓子とシャルだが、こっちは王城内での仕事がメインとなる。
差し当たっては昼までに情報を纏めておいて、昼食後から行われる対策会議で何をどう話そうか考えておかねば。
シャルもシェリールとしての仕事で色々考えたり纏める事もあるだろう。
そうなると楓子が少し暇になるのだが、今現在トラ子に遊んでとせがまれると面倒なのでトラ子の相手をお願いした。
やや嫌がるトラ子ではあるが、人型になる事によって楓子と言葉が交わせるので前程すれ違いの悲しい結末にはならない。
「やーっ! ぱぱとあそぶー!」
「トラ子ー、パパは忙しいから楓子ママと遊ぶよー」
「にゃーっ!」
かと言って理解を得れるとも限らないのだが。
まぁトラ子の事は任せよう。




