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オーク掃討 千絵編



 智也達と別れ、私達は私達で地脈の中を飛び回る事になった。

 フローラさんが先導して魔力探知もしながら飛んでくれるし、曲がった先の目印やオークを見つけた後の攻撃まで驚くほどスムーズにやってくれるので、正直私達の存在意義を疑う程だったりして。


「ねぇシエル。私達いらなくない?」

「う、うんー……フローラさんって一人でも一国を制圧出来そうだよね……」

「出来なくはないですが、無駄な争いをしてどうするのです?」


 マジレスが来ると思ってなくてシエルと二人で苦笑いを浮かべるだけになってしまった。

 ベスターさんが魔法攻撃特化のチエを、と言ってくれたのは認められた感じがして謎のうれしさがあったけど、蓋を開けてみればこれだ。

 うーん、能力面では私の方が上と言われているけど、どう考えてもフローラさんの方が格上だ。


「こちらは既に旦那様が通っていますね」

「私達も結構なペースで回ってると思うんですけど、向こう早いですね」

「あのはしゃぎっぷりですからね」


 少々不謹慎ではあれど、そのベスターさんの力があってこそなので追及はしない。

 あの人はどこか他の場所で色々な事が出来る事に喜びを感じているらしく、その上で智也と行動を共に出来ると歯止めが利かないくらいにテンションが上がってるように見える。

 これまで同性の友人と言えば私や楓子目当ての延長戦上か、逆に私や楓子が気になってしまって智也とギクシャクするかのどちらかだったから、既に妻帯者のベスターさんだからこそ智也の友人となれてる部分はあると思う。

 こう言うと自分達が世の男を誘惑する悪女みたいに聞こえてしまうけど、事実そうやって智也の交友関係が軒並み破綻したのだから仕方ない。

 でもあの人の場合、仮に未婚でも飄々としてそうか。


「この先縦穴があります。その先の集落にいるようです」

「この辺りに町なんかあったっけ?」

「えっと、町や村としては無かった気がするよー?」


 シエルと二人で顔を見合わせて王国の地図を頭の中で開く。

 それほど地理に詳しいわけでは無いし方向感覚が悪い自覚はあるけど、知識の上ではそれなりに頑張って覚えている自負がある。

 あれから南側に向かってあちこち寄り道をしたけど、結果南に向かっているらしい。

 だが集落と言う規模となると国境に近いくらいでないと無いはずだ。

 フローラさんの後に付いて穴を飛び出した先には、森の中で確かに集落が広がっていた。

 建物は簡素だし敷地面積も百メートル四方と言った感じで、何となく先住民族の集落を彷彿とさせるものだった。


「いますね」


 その言葉に魔法の発動手前まで意識を集中する。

 集落の上空に着くと、広場にはオークに囲まれた人たちがいた。

 いや人ではない。


「あれはリザードマンですね。なるほど、魔物の集落でしたか」


 そうだ、コボルトの前例があったじゃないか。

 オークにとってリザードマンは人間ほど価値が無いのか、足蹴にして憂さ晴らしをしてるようにも見える。

 広場のすぐそばでは、リザードマンの戦士と思しき個体がオークと一騎打ちをさせられているけど、これが実力差があり過ぎてただの蹂躙だった。


「チエさんどうしますか? 彼等は放っておいても王国にとって損ではありませんが」

「オーク自体は倒さなきゃ行けないわけだし、リザードマンが今のところ何か悪さしたって聞かないから助けます」


 この辺りは森があるおかげか空気中の水分は多めなので、体の周りに大量の氷の(つぶて)を作り出す。

 氷の(つぶて)はフローラさんの石の(つぶて)程大きさは無いけど、そこは魔力の強さのおかげか特性のおかげか威力の上乗せがあるようで、簡単にオークの頭蓋を砕いていく。

 この場に居たオークは集落が小さい事もあって二十体だったから一瞬で片付いた。

 一瞬の出来事にリザードマンがポカンとしているけど、それが上からの攻撃だったので私達を発見するのはすぐで、次は自分達の番じゃないかと怯えているように見えた。

 言葉が通じないと言うのは本当に困る。

 やや低空飛行で先ほど蹂躙されていたリザードマンの上に行くと、楓子みたいには出来ないけど魔力量で効果は高いエキストラヒールをかける。

 ボコボコにされていた程度なら十分回復するはずだし、それによって自分達が危害を加える気が無いと理解してくれれば助かるなと思ったけど、思った通りこちらに敵意が無い事を察してくれて空気が緩んだ。


「では次へ行きましょう。場所は覚えていますので、後で旦那様とトモヤさんに来ていただきましょう」

「はい」

「ねぇチエ、チエなんかよりも私の方がやる事無くて居る意味無い気がするんだけど……」

「シエルはガチンコ勝負が必要な時に役立ってもらうからいいのよ」

「あるかなぁ、そんな機会」


 わからないけど、オークの攻撃力が一定以上で囲まれた場合、いくら私と言えど身の危険を感じて魔法の発動が上手く行かなくなる事くらいある。

 殴り合いの戦いで強いシエルがいる事で、確かに私は安心感を得ているのだ。

 フローラさんだって今後多くのオークが現れたら、こっちのフォローをしていられなくなる可能性もあるわけだし。


 来た道を戻って穴を塞いで地脈を行く。

 どうやらオークは南から来たらしいから、むしろ南にはもう殆ど残っていないのではないか。

 でなければ、この付近の町が全て占拠されてしまっている可能性も有る。


「フローラさん、この間処置したって言う地脈の辺りまで南下していなかったら、上空から直接町を見に行きませんか?」

「そうですね。チエさんの考えは何となく理解できます」


 と言うのも、南に行けば行くほど分岐が少なく枝分かれが少ない。

 これは最近の南の地の魔力量回復が、伸びたての細い地脈によるものだからで、それが太くて数十センチだからだ。

 どうやらオークはある程度太さがある地脈沿いを行くようで、それに関してはフローラさん曰く『魔力供給の関係でしょう。穿孔魔法の魔力供給もそうですし、彼等も魔物である以上、ある程度の魔力を得れなければこのような環境で長時間活動できません』との事で、それなら南下すればするほど地中を探す意味が無い。

 もう既に結構飛び回っているけど新たな分岐も無く、行き止まりには縦穴も無ければオークもいない何てことも出て来た。

 一回戻って右に行って、その先で数百体のオークを一気に倒して戻り、他のルートへ。

 縦穴は一番太い地脈沿いに一定間隔である。

 でもそれは空気穴としての縦穴で、付近に町なんか無かった。

 となると、南側エリアに関しては地脈を伝って行くよりも陸路の方が効率的と考えて外に出ている可能性もある。

 虱潰しにやって、もうここで最後と言うルートでオークの一行を見つけて倒した。

 これで多分三千ちょっとだと思う。

 智也達がどの程度倒しているかはわからないけど、多分地脈内だけなら北側を探す智也達の方が多く倒しているはずだ。


「それでは一回戻って、地上から探しましょう」

「はい」

「うー、やっぱ私いらない子……」


 大丈夫よシエル。

 あなたはいるだけで私が心強いから。

 そうやって困ってる顔もちょっとかわいいなと思っちゃうし。


 王城のリビングに戻ってくると、シャルが死にそうな顔でゼリーを口に流し込んでいた。


「新手の拷問?」

「うー……強制魔力補給。あと少しで世界樹に飛べる魔力が戻る……」

「でも王国内のオークの排除って粗方終わったわよ多分」

「なっ」

「まぁでも南側の町の人達は避難させておいた方がいいかも」

「チエのせいで食べる気失せた。ふて寝する」

「はいシャルロットー、食べないと食べさせるわよー」


 セシールさんがテーブルに突っ伏したシャルの頭を持ち上げて上を向かせると、その口にゼリーを流し込んだ。

 なんだかフォアグラの製造現場みたい。


「では行きますよ。各町の上空に飛びますのでそのつもりでいてください」

「そんな事できるんですか?」

「私は旦那様がいずれ外に出れるようになった時を考え、各地の町を一度は見ておりますので」


 愛が深い。

 あの縛りから解放されると本気で信じていたのかは知らないけど、それでも自分が出来る事を精一杯すると言う姿勢は憧れる。


「流石に彼女みたいに細かく転移地点を変える事は出来ませんけどね」

「うー……私からしたら何十回も転移門を使えるフローラさんの方が羨ましい……」


 そう、もう今日で十回は使っている。

 シャルは転移門の細かな設定をする事に特化した空間魔法使いで、フローラさんは回数特化の空間魔法使いらしい。

 元々魔人と言う事で体内での魔力精製が人の何十倍も多いらしいけど。


「南側から順番に行きましょう。南端の辺境の村は先ほど行ったようですので、そこから一個王都寄りですね」

「わかりました」

「はーい」


 転移した先が上空だと言うので、フライを使ってから転移門に入る。


 出た先はアヤメさんのいた村よりも若干大きな村だったけど、案の定と言うかオークに占拠されていた。

 厄介な事に横長の村で、村人も横に長く集められているので若干魔法の有効範囲的に厳しい。

 そこに人がいなければ強めに撃てばいいけど、被害を広げないようにするとどうしても射程範囲が落ちてしまうのだ。

 単発だったら遠く離れた場所でも魔法を発動させて攻撃出来るけど、今回はざっと見た感じ三十弱のオークを一斉に倒す必要がある。


「チエさんは中央から向こうを。私はこっち側をやります。シエルさんは村の周りで警戒してるオークをお願いします」

「やった、私にも出番来たよ」


 やっぱりこの子可愛い。

 元々小さい物は好きだったけど、小柄で愛らしく、いつもニコニコとしてるシエルは、実は私の好みの割と真ん中寄りを行くタイプだ。

 その大きな胸がうらやまけしからんと常々思っているけど。


「シエル、相手が少数だからって油断しないでね。コボルトじゃないんだから」

「わかってるよー、本気で相手しちゃうもんねー」


 シエルを外周部に居るオークの上空に配置して私とフローラさんは魔法の準備をする。


「行きますよ」

「はい」


 特に今と言う合図は無かったが、何となく感じた魔力の流れに合わせると大体同時くらいタイミングで魔法が発動し、一斉にオーク達を打ち抜いていく。

 フローラさんはウィンドカッターで真っ二つ。

 私はさっきと同じくアイスの魔法。

 オークにとっては低級魔法で簡単に殺されてしまう事に不満を感じるかもしれないけど、これでファイヤーアローなんて使った日には着弾地点の炎で半径五メートルは確実に火傷をしてしまう。

 楓子がいたらシールドで包んでから攻撃も出来ただろうけど。

 シエルもタイミングに合わせて落下させたら、上手い事真上から一撃をお見舞いして真っ二つにしていた。

 その後で敵襲に気づいたオークが三体駆け寄って来たけど、それを一刀両断にしていく。

 やっぱり強い。


「助けに来ました。この村の代表の方はいらっしゃいませんか?」


 広場で簡単な状況説明をするべく声を上げると、どうやら代表者はいないらしい。


「いない?」

「あの野郎、オークが攻めて来たって言って逃げちまったよ」


 村人の一人が忌々し気に吐き捨てるように言うと、その負の感情は他に人へも伝播していったようで一気に空気が悪くなってしまった。

 それを見てフローラさんは少しため息をつく。


「いいですか皆さん。命はあってこその物です。自分達を置いて逃げたと怒りを感じる事は当然の事ですが、危険が迫ったら逃げると言うのは生物として当たり前の行動なのです。そう、彼は代表者としての器が無かっただけで生物としては優秀なのです」


 何を言うのかと思ったら擁護ですらなかった。


「その代表の方が戻って来ても迫害はしないでください。いいですか?」


 と思ったら擁護だった。


「フローラさん、意外と人間にやさしいですよね」

「私達サキュバスは愛を司ります。それは他種族であろうと、同性であろうと異性であろうと。友愛であろうと親愛であろうと。このような事でいがみ合って争いに発展して欲しくは無いのです」


 それを聞いたシエルが、にぱーっと笑って言うのだ。


「そうじゃなかったら私達なんかとっくに絶滅してるしねっ」

「あのねシエル、それ冗談じゃ済まないから」

「そうですよシエルさん。あなた方ドワーフは、私達に未来永劫真綿で首を絞められるかのようにゆっくりじっくり搾取されるのです。ふふふ」


 冗談で言ってるのはわかっているんだけど、事実その通りの部分もあるから笑えないのよねぇ。


「それで一時的に王都へ避難していただく事も出来るのですが、どうしますか?」

「と言っても代表がいないんじゃ話がまとまらない。少し待って欲しい」

「こちらもすぐに運べるわけでは無いのですが、可能な限り早くしようとは思っています」

「とりあえずオークはもういないんだろ?」

「この村付近には居ないと思いますが、他の村はまだ占拠されている所もあるでしょう。いずれはぐれオークも出て来る可能性も有りますし、落ち着くまでは安全な王都に居た方がいいと思います」

「わかった、とにかくこれから話し合いをする。ちなみに嫌がるジジババは置いて行ってもいいか?」

「そうなったら強制連行でいいと思いますけど。放っておけませんし。駄目?」


 首をかしげながらシエルを見ると、同じ角度でかしげていた。


「自分の住処から離れたくないって気持ちはわかるけど一時的な物だから。後で文句を言われるのは王様やシェリールやトモヤだからいいんじゃない?」

「じゃあ最悪強制で」

「わかった」


 では次へ。

 フローラさんの転移門の魔法に入ると、やはり次も上空だった。

 今度は更に北寄りの設置式の転移門がある町だ。

 ここを押さえられると不味いけど、幸いにも王都に直通の転移門は無いし、魔力の関係で一度に移動できる人はそれほど多く無い。

 上空から観察すると、やはりここもオークにやられていた。

 でも転移門が置かれてる分、他よりも整備されている町だからこそやりやすいと言う物で、フローラさんと私の二人のウィンドカッターで手当たり次第切り裂いていく。

 シエルには先ほどと同じく中央広場付近に居ないオークを担当してもらった。

 王都に限らず大体の人が暮らす場所は、人が集まれるように中央が広場になっている。

 だからこそオークもそこに人を集めて監視するし、おかげでこっちも上空から奇襲をかけやすい。

 こうして一方的にだけど攻撃してて思うのは、オークは前衛型しか見ない事。

 地脈の中では穿孔魔法を使ってるウィザードが居たけど、地上では前衛型しか見られなかった。


「やっぱりウィザードが少ないって事ですか?」

「そうだと思いますよ。魔物だけなく魔人もそうですが、種族によって特性に偏りが出やすいんです。例えば私達魔人は魔力による変質の成れの果てですので、どの種族も大抵魔法に長けています。しかし神に見放されているのでプリーストは滅多に誕生しません。その点コボルトも似ていてプリーストがいません。オークの場合は肉体能力に秀でている事も有って前衛型が特に多く、ウィザード等の後衛型は極少数なのでしょうね」

「弓を使うタイプも居ませんよね」

「恐らくですが数で制圧するスタイルで、遠距離攻撃を必要としないのでしょう。数百から数千からなる数の暴力で一気に制圧する場合、下手に矢なんて打ってたら味方に当たりますし」

「なんか極端ですね」

「ですが特化してると言う事は強味と言う事です。同時にこうして上空からの攻撃に対抗する術が無いのですが」


 地上での市街地戦だった場合、私たちは恐らく数の暴力に負けはしなくとも大きな被害を出すはずだ。

 数で押し寄せられたら建物ごと吹き飛ばすつもりで魔法を使わないと排除しきれないのと、各個撃破を狙っていたら囲まれていずれ自分がやられてしまう可能性があるから。


「アークウィザードの勇者で良かったと今更ながら思いました」

「あなた達はバランスがいいですからね。これでトモヤさんが旦那様みたいに万能型だったら良かったのですけど」

「前に出すと死にそうになるから、本当は出て欲しく無いんですけどね……」

「ですが、彼はいくら自分が弱かろうと、あなた達が傷ついて欲しくないし、何だったら前に出て庇おうとするでしょう」

「それが困るんですよね。嬉しいんですけど」


 でしょう、と視線でフローラさんは言う。


「さ、説明をして次に行きますよ」

「はい」


 こうして私達は、探索方法を切り替えて一時間で五つの町を開放する事に成功した。

 その後も見て回ったけど、南側は全てオークが制圧していたのに、少し離れると途端に平和そのものの町ばかりになる。

 地脈の細かな分布がわからないけど、恐らく南側からの地脈で繋がっているアクセスのいいルートだと、南西、南東辺りのエリアはオークの侵攻ルートから外れたようだ。

 一通り調べ、オークが現れた町にもう一回戻って付近の地脈の反応を探してみたけど、穴が発見できたのは一か所だけだった。

 となると残りは陸路で攻め込んだことになる。

 集団行動をするようだからはぐれオークと言うのも恐らく可能性は低いだろうけど、今後しばらく様子を見る必要がある。

 一回王城のリビングに戻ると、テーブルの皿は綺麗に無くなっていてシャルはその場にいなった。

 多分世界樹に飛んで魔力の回復に努めている事だろう。


「智也達と合流しますか? それとも探しますか?」

「地上の町や村は大体が片付きましたので、後は旦那様達の報告を待ちましょうか。闇雲にやっても効率が悪いですし」

「わかりました」

「それにしても、とんでもない一日になってしまいましたね……」

「フローラさんでもそう思いますか?」

「ええ、恐らくサウスルタンは堕ちているでしょうから、今後オークの侵攻を止めるのは王国の役目になってしまいます。むしろサウスルタンに攻め込んでオークを討伐しなければならないでしょう」

「……そっか、隣国が魔物の手に堕ちてるんだ」

「ええ。これからしばらく大変ですよ」


 折角持ち回りとは言え、トラ子と言う邪魔が入る事があるとは言え、智也と二人で寝るなんて事が出来るようになったと言うのに。

 この平和を脅かすオーク、許すまじ。


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