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王国の一大事


 魔力探知で地脈の魔力が噴き出している所に到着したら、これは見事にだった。


「ぽっかり空いてるではないか」


 ベスターがそう言うように、地表には大きな穴が開けられていた。

 その穴の表面を見ると固まっているので、恐らく穿孔魔法によるものだろう。

 じっと見ても地脈以外の魔力を感じないので、そのまま中に降りてゆく。

 各々のライトの魔法である程度辺りが見えるが、ここにある地脈は直径二十メートル程らしい。

 それくらいわかる程度には地脈の周りが穿孔魔法で掘られていた。

 だが決して綺麗な堀跡では無いので、何人かのウィザードが進みながらあちこち適当に掘った感じだ。


「ここより西にはほどんと伸びてないな。と言う事は出やすい場所があったから出てみたと言う所だろう」

「じゃあ反対側か。さっきの四百くらいを一つの部隊として考えるべきか、あれが全部と考えるべきか」

「さっきはあれで統率が取れた動きをしていたから、恐らく一つの部隊だろうな。オークの生態は良く知らんが繁殖能力は高いと聞く。それも人や亜人とでも子を成せると言うから、ある程度の年月があれば一国を築ける程に増えるだろう」

「じゃあ地脈で枝分かれするごとに分かれて行っての四百だとしたら、下手したら万規模のオークがいる可能性もあるんだな……」

「可能性と言うか、ほぼそれくらいはいると考えていいと思うぞ」


 楓子が大きめのシールドで空気を包んできてくれているが、酸素量の心配はある。

 それに関しては危なくなったらベスタ―が転移門の魔法で飛ばしてくれるだろうけど。

 俺達は魔力感知をしながらフライで東に高速で飛ぶ。

 さっきの四百で済みますようにと願いながら。

 しばらくは何も無いが、地脈の分岐点に当たって道がある方へグングン進む。

 今のところ一本道だが、あの集団が穿孔魔法を使って進んできたのだ。

 魔物と言えど酸素が無ければ呼吸も出来ないだろうし、もっと近い距離で地上に繋がる縦穴でもあると思ったのだが、これが一向にそう言った物が見つからないのだ。


「何か呼吸の補助が出来るアイテムでも持ってるのかな」

「奴らの持ち物を調べておくべきだったな。別段特別な道具ではなく、ある種の鉱物とある種の液体を混ぜると酸素が発生すると言う物はある。それに気付かないかトモヤよ。地脈の力が働いているのだ」

「ん」


 そう言われて地脈を観察するがよくわからない。


「奴等は魔物だ。魔物は質のいい魔力さえあれば多少の事は何とかなる。よって酸欠状態でもある程度は無理が利くだろう」

「なんか聞いてると魔物って羨ましいよなぁ」


 五つ目の地脈の分岐で二つに分かれた。


「トモヤ、方向感覚は大丈夫か?」

「えーっと、あっちが北でこっちが南」

「うむ、その通り」


 何となく感じた通りに言ったら正解だったらしい。


「智也君、方向感覚は良かったよね」

「は、って言われると悲しいなぁ」

「あ、ごめんね」


 それだけ何も出来ない奴なので過剰反応してしまった。


「多分この右を行けば南側に向かうだろうから、俺達が来た方と左に進んだオークがいるって事だよな」

「そうだろう。まずはそっちを叩くとしようか」


 再び高速で左に飛んだ。

 方向としては、ほぼ真東に飛んでいた物を北に進路を変えた形だ。

 多分公爵領の街の近くまで来てると思う。

 そう思うのは、割と近くの上方に多くの魔力を感じるからだ。

 そこから十分くらい飛んだ所でオークの末尾が見えた。


「ふん、消え去れ」

「地脈は痛めないで欲しい」

「おっと、そうだったな」


 慌ててシャルの言葉を真似ると、一気に薙ぎ払おうとしていたベスターが動きを止めた。

 そして少し悩んで、手を前に突き出す。


「これならばいいだろう」


 そう言って発生したのは爆風だ。

 ベスターを起点に、とんでもない風圧の風がオークに襲い掛かる。

 ある程度広く掘られてはいるが、こんな狭い空間でこんな空気の流れを作ったら後ろ側の空気も持って行かれる。

 つまり、俺達も吸われて爆風に乗ってしまいそうになるのだ。

 むしろベスターはそれを望んでか、爆風に乗ってるのかフライで飛んでるのかわからないがオークに向かって飛んで行く。

 そのオークも爆風で吹き飛ばされるので、結果として追い付けない状態でしばらく飛ぶ事になるのだ。

 少ししてようやく終点に到着すると、オークの殆どは掘り進めていた壁に押し付けられ横に潰され圧死していた。

 最前で押し潰されていないオークも、その爆風で何も出来ずに藻掻いていたが、フローラさんが発した石の礫で頭蓋を砕かれて絶命した。


「ここも約四百と言った所だな」

「そろそろ一回上に上がらないと酸素が薄くなってきた」

「そうか。では一旦王城へ戻ろう」


 そう言うとフローラさんが転移門を開いてくれたので、俺達はそれに入って王城に出たのだった。

 酸素云々ももちろんあったが、あまりにも凄惨な現場だったので楓子を思っての事でもある。


 王城ではシェリールの報告があったからか、既に誰もが大騒ぎで動き回っていた。

 何事だと右往左往していたお義父さんに一応の報告だけ済ますと、どこかで働いてるであろうシェリールを探す。

 魔力探知で会議室に居るのが分かったので行ってみると、公爵家の当主と一部の有力な伯爵家の当主が緊急招集されているようで、まだ集まりはまばらだが異常事態と聞いて何事かとそわそわしている。


「トモヤ、南端の村が襲撃されてた」

「南端って言うとアヤメさんの所が? 大丈夫だったのかよ」

「噴水広場前に集められていたから、チエとシエルとトラ子がオークを一掃して全員王城に連れて来たわ。今はエントランスにいる」


 あの町の人口は少なかったが、それでも全員連れて来ると言うのは相当無茶な転移門の魔法の使い方をしたな。


「既に制圧したからだと思うけど、敵は三十くらいしかいなかった」

「侵攻の経路はわからなかった?」

「付近の地脈を見たけどわからない。話によると今朝急に襲ってきたらしいわ」


 南端の村で今朝急に襲ってきたってのに、一部は西の国境の山脈付近まで来ていたのだ。

 これはある程度隠れ進んで一斉に攻めるパターンだろう。

 だとしたら他に何か所も襲撃を受けているはずだ。


「転移門は後何回使える?」

「今日はもう無理。世界樹に行ければ半日で回復するけど。――トラ子が食べてた子供用の世界樹の樹液ゼリー、あれ食べればある程度回復するわ」

「じゃあそれで」

「……私にとってあまり好ましくないけど、今回は緊急時に備えておかないとだものね。仕方ないわね、お母さんに言っておいて。トラ子用に山ほど持って来てるはずだから」

「山ほど? お義母さんってそんなトラ子可愛がってたっけ」

「あれで実は。それ以外にも狙いがあってだけど――」


 よくわからないが、後で探しておこう。


「俺達はまた潜って来る」

「ん、気を付けて」


 その前に一回エントランスに顔を出そう。

 慌ただしく会議室を出てエントランスに向かうと、『明らかに田舎の人間がなんでこんなところに居るんだ』と警備に詰め寄ってる貴族すらいた。


「皆さん!」


 エントランスホールは元々音が良く響くように出来ているから助かる。

 いったい大声で誰だと見上げれば俺がいるから聞かないわけにも行かないだろう。


「緊急を要する問題が発生しています。その方々はシェリールが連れて来た避難民ですので詰め寄らないでください。いいですか、緊急事態です。従えないようなら即刻家を取り潰しますのでその気でいてください」


 上から大声で言うと、その緊急事態とは何事だと問うのも出て来たが、それに構ってる余裕はない。

 従えないなら家を取り潰すと言うのだから、田舎者を追い出せと騒いでいた貴族は顔を青くしている。

 俺は上からざっと見まわしてアヤメさんを見つけると、降りて行ってアヤメさんに声を掛けた。


「無事でしたか」

「おかげさまで。しかも王都にまで連れて来るなんて本気ね」

「それは俺の嫁の独断でしたけど、避難民は王都へって方針は作ってあったので。それで奴らがどこから来たかはわからないんですよね?」

「どこから来たかはわからないけど、監視の為のいくらかを置いて南側から出てったわ」


 と言う事は穴は南だ。


「ありがとうございます。住居の手配なんかがすぐ出来ないんですけど、極力急いで対応するんで皆さんの説得をお願いします」

「あの死ぬかもしれない状況から生きながらえてるんだから文句言う奴なんていないでしょ。ほら、村長だってこっち拝んでるじゃない」

「へ?」


 アヤメさんの見る方を向いたら、あの最初に声を掛けてくれたジニーさんが手を合わせて拝んでいた。


「トモヤ君、本当に申し訳なかった」

「あいや、全然かまいませんけど。一応王族の端くれとして国民を守るのは義務ですし」

「まずそこだよ。それならそうと言ってくれれば良かったのに」

「そう扱われるよりかは、前みたいに雑な方がありがたかったんですけどね……。今アヤメさんにも話しましたが、ちょっと住居の手配がすぐ出来そうにないんで、しばらくここで待ってもらう事になると思います。流石に空いてる部屋に通すくらいは出来ると思うのですが、まだ何とも言えないので」

「了解した。説明しておくから」

「では失礼します」


 エントランスの上で待っていたベスター達と合流して、セシールさんの魔力を探す。

 どうやらお義父さんの部屋らしい。

 王城ではそこで寝泊まりしているようなので、普段通りなのだろう。

 ダッシュでお義父さんの部屋まで行くと、セシールさんにお願いをする。


「お義母さん、お願いがあります」

「はいはい、何ですか?」

「世界樹の樹液のゼリー、沢山あるんですよね?」

「ええ、ありますよ?」

「シャルに山ほど食わせてください」

「あら、いいんですか?」

「ええ、是非。じゃないと困った事になるんで」

「そうですか。ではある限り食べさせましょう。ある限りね……」


 ヤバいスイッチが入った顔だった。

 あれ、俺なんか変な事言ったっけ?

 ともかく急ぎで千絵とシエルを探す。

 こっちは家族で使ってるリビングにいるようだったので、そこへ向かった。


「おかえり、どうだった?」

「まだ片付いてないから大急ぎ。どうも王都の地脈の結構広い範囲にオークが散ってるみたいなんだ。まずはそれを排除しなきゃならない」

「どうするの?」

「えっと……」


 転移門が使える人が一人はいるのが必須条件だ。

 だがシャルはすぐには使えない。


「ベスターとフローラさんを分けて、そこに俺達が付いて二班作る。後は地脈沿いに飛んでオークがいたら殲滅。いいかな、ベスター」

「妥当であろうな。ならばフローラの方には攻撃魔法特化のチエであろう。むしろ私は一人で構わんのだが」

「それもそうか。でも多すぎてもあの空間じゃ邪魔だしなぁ。ベスター側に無茶しても大丈夫なように楓子を入れよう。それと俺もそっち行く。千絵とシエルはフローラさんの方で。これならスピード優先でやってもゴリ押しできるだろ」

「うむ。トモヤの嫁達がフウコを睨んでる事を除けばな」

「え、えへへ」


 楓子がはにかんでいた。

 癒しや。


「トラ子は留守番って言うとうるさいから俺と来るか」

「にゃー」


 人型になってたトラ子が嬉しそうにこっちに来た。


「トラ子凄かったのよ」


 千絵がそんなトラ子を見て言う。


「私がどうやって倒そうか考えてる間に、ほとんどのオークを殴り倒しちゃったんだから。どういう腕力してんのかしら」


 千絵が考えてる間にって、大体どの魔法を使おうかなと考える数秒間だ。

 その間に突っ込んでって軒並み殴り倒すってすげえなおい。


「にゃ」


 そう鳴くトラ子の手が人型なのに猫だった。

 それも巨大猫版くらいのサイズ。

 そして爪がうにょーっとこんにちはしている。

 魔王化しててこれで殴られたら、そりゃ一撃で沈むわ。


「よし、じゃあ行こう。さっきの最後の分岐の所からでいいよな」

「ああ。次に分岐したら分かれよう。そうだな左ルートから潰して行こう。これを決めておかないとどのルートを片付けたかわからないからな。それと分岐後に進んだ道には目印を付ける事を忘れるな」

「なんか迷路の攻略法みたいになって来たな……」

「地脈沿いのダンジョン攻略だな」


 フローラさんが開いた転移門の歪みに全員で入ると、分岐点をさっきは左に行ったので今度は右へ進む。

 今度は少し進むと分岐していたので、ベスター班が左へ行く事になった。

 ここでフローラ班とは別れるが、あのメンツならオークの魔王がいたとしても最悪逃げ帰る事は出来るだろう。

 恐らくだが、オークの魔王は地下に潜らず南方かサウスルタンを占拠して、そこに居座っているんじゃないかと思っている。

 ベスターが聞いた感じでは上下関係がハッキリしている社会のようだったし。

 しばらく進んでも何もなく、今度は明らかにこれまでで一番太い地脈に当たった。


「これが王都の下を通る一番太い地脈だろう」

「ここまで来てるのかよ……」


 幸いにも北上はしていないようだ。

 魔力探知ではここより北上してしばらく行くと王都がある。

 細かい根を伝って遠くへ向かったようだが、これも王都をいきなり攻めると逆襲される可能性があるからではないかと思う。

 本来なら魔力探知でわかりやすい場所へ向かいそうなものだが、それをしないならそれなりの理由があるはずだ。

 この世界の状伝達の遅さを逆手に取って、王都や公爵領の街以外全てを抑えて国民を人質に取ってしまえば、本来ならこっちが気付かぬうちに万全の状態で王都へ攻め込む事が出来ただろう。

 そうすれば公爵家の私兵と王都の近衛兵団や魔法師団や一般師団が束になった所で、こちらからは非常に攻撃がし辛くなる。

 何なら犠牲を前提にしなければならない可能性も有る。

 そう考えると、早いうちに偶々気付けたのは僥倖だ。


 太い地脈を道なりに南下すると、今度は太い地脈を外れて左右に道が出来ていた。

 定めたルール通りに左へ向かう。

 このまま真っすぐ行くとマーレンの方向だが、それよりも前に再び分岐して今度は北上した。

 スズウキ家の本家がある街の真下を通り、更に北上すると再び枝分かれする。

 頭の中で何となくマッピングしているが、王都周囲は細かい地脈で輪のようになっているようだった。

 その下をあえて進んでいるようなので、今後攻め込む事を考えての事だろう。

 左に行って王都の北辺りに来ると、また太い地脈にぶつかった。

 それをずっと北上していくとようやくオークを発見した。

 ベスターは発見にしばらく時間が掛かった事で多少イラついていたらしく、周囲に石の礫を作って高速で飛びながら放つ。

 それらは全てオークに直撃して殆どが頭部を貫通させていた。

 どうやら北上してきた残りの部隊の集まりだったようで、数は千以上いたと思う。

 それらを全てベスターが倒しきり、行き止まりにぶつかると倒したオークを振り返る。


「このオークの死体ってどうなるんだ?」

「淀んだ魔力でもあればアンデット化する事もあるが、そう言った地は少ない。しかもここは地脈沿いだからな。数日で地脈の栄養として消費されるだろう」


 オークの死体を養分にするのかと思うと少し気持ち悪いが、こうなってしまった以上仕方ないのだろう。


「最初の分岐まで戻るか。いや一回地上に戻った方がいいか」

「うん」


 酸素の補給もある。

 さっき潜ってから三十分くらいしか経っていないが、一旦王城のリビングに戻った。

 魔力探知では会議室に粗方人が集まったようで、既に会議をしているのかはわからないが近いうちに終わるだろう。

 で、ちょっとした異常があった。

 お義母さんが笑顔でテーブル皿を敷き詰めているのだ。

 そう、並べるではなく敷き詰めているのだ。

 そこに手持ちの袋から直にゼリーを出して盛り付けている。

 そう、敷き詰めた皿全てに。

 ……見なかった事にしよう。


「よし行くか」

「トモヤよ、……いいのか?」

「いい」

「そ、そうか」


 ベスターも異様な光景で言葉に困っていた。

 とりあえずさっきの分岐点に戻って再び飛ぶ。


「ねぇ智也君、あれ全部シャルちゃん食べてお腹壊さないかな?」

「と言うか全部食べれるわけ無いと思うんだが……」


 あのリビングにあったテーブルは、十人で使ってもまだまだ余る程に大きいのだ。

 シャルよ生きてくれ。


「ぱぱー、さっきの奴らの匂いするー」

「匂い?」


 トラ子が指す先には壁しかなった。

 高速移動し過ぎて行き過ぎたかなと思ってちょっと戻ったが、やはり何もない。


「匂いってどこから?」

「ここー」


 やはりさっき指していた壁だ。


「ふむ、奴等意外と巧妙だぞ」


 ベスターがそう言って壁を蹴ると、その先に空洞が出来ていた。

 その先に人の背丈サイズの地脈が並走していた。


「このサイズだと中々気づけまい。そこを塞いでしまえば見落とすわけだ」

「この先は――」


 王都南東の町があった気がする。


「行くしかあるまい」


 ベスターを先頭にその空洞を行くと、五分ほど飛んだ所で穴が上に向いていた。

 魔力探知ではその穴付近に何かいる気配はない。

 一応気を付けながら外を観察して出ると、そこは平原にある丘と丘の合間の谷になっている所だった。

 こうやって実は地脈が地表に近い部分と言うのは多々あるようだ。


「あそこだろうな」


 飛びあがって丘の先を見渡すと、街と言う規模では無いが町にしては大きい町が広がっていた。

 数キロ先なので様子はわからないが、他に目ぼしい何かがあるわけでも無い。

 オークから察知されないように二百メートル程上空から町の真上に向かう。

 そこは既に事が終えている状態だった。

 人々は中央広場に集められ、その周りをオークが囲んでいる。

 大き目の町なので広場には収まりきらないらしく、広場以外にもあちこちでオークが監視してる集団があった。


「智也、隠れている人間はいないか」

「ちょっと待って」


 本気出す。

 魔力捜査に切り替えて、小さな魔力でも見逃さない。

 見回るオークはあちこちにいるが、どこかに隠れている人間はどこにもいないようだった。


「全員集められてる」

「よし、ならば魔力操作の最高峰をお見せしよう」


 そう言うと単純な魔力球と呼ばれる魔力の塊を、超高密度にピンポン玉サイズにまで圧縮してベスターが見えなくなるくらいの数を発生させた。

 それらはふよふよとベスターの周りを回るが、ベスターがしばらく地上を観察して指を下に向けると飛んでいく。

 その後が圧巻だった。

 恐らく制圧したばかりで穴に戻った個体が居なかったであろう、約四百のオークがその魔力球で一斉に貫かれて爆散したのだ。

 それは広場に居ても、道に居ても、屋内を捜索していても。


「奴らが利口で統率が取れてる分楽なものだな。これで暴走して女を襲ってるのがいたら制御が面倒だったのだが」

「そんなん見つけたら逆さづりにして晒し物にしながらじっくり殺してやる」

「意外と恐ろしい事を言うのだな。少なくとも奴らは人間を家畜にする気らしいから、今すぐに危害を加える事は無いと思うぞ」

「そうなのか?」

「ああ。制圧時は何事も無く無傷で捕えて見せ、いかに自分達が利口で統率が取れている事を知らしめるのだ。そして反抗を起こそうとする者は容赦なく殺し、大人しくしている者には一定の安全を保証して見せる。するとどうなる」

「とりあえずは反抗をせず大人しくする」

「その方が楽に家畜を扱えるだろう?」

「……その後は?」

「王国を制圧した後で食うか作業で使うか孕ませるかだろうな」

「ベスター、後で大体の頼みは聞くから意地でも開放してくれ。全部の町を」

「これは大仕事になったな」


 とりあえずの事情説明に俺達は広場に降りると、この町の代表を探した。

 既に八十近いお爺さんが代表者のようだが、今回の事で取り乱してしまっているので五十くらいの息子にオークの事を説明する。

 虱潰しに倒して回っている事と、地脈を伝っているからそこを塞いでおく事、すぐ行かなければならないのでオークの爆散した死体の処理はそちらでお願いしますと頼んで、もし不安なようなら王都まで避難して来れば、何かしらの対応をする事も伝えた。

 この町は比較的内陸なので、地脈の穴さえ埋めてしまえば危険性はそんな高く無いと思う。

 説明を終えた後で辺りを見回すと、ベスターの言う通り、怪我らしい怪我をしている人は居ないようだった。

 これでは楓子が特に癒して回る事も無いだろう。

 全員を転移門の魔法で連れて行こうにもフローラさんですら無理がある人数だし、付近一帯にオークの魔力は見当たらないし、とりあえずこの町はこのままで大丈夫だとは思う。


「よし、次だ」

「いやはや魔人使いの荒い奴だ」


 そんなん言われても知らん。

 来た道を戻って、隠蔽されていたところを完全に塞いだ。

 トラ子が気付かなければしばらく放置されてしまった事だろうし、その先の町も危なかっただろう。

 お手柄のトラ子を頭を撫でて地脈を進む。

 この辺りを進んでいてわかったのだが、太い地脈の辺りは風の流れがあるのだ。

 どこか遠くに何か所か地上へ向かう縦穴が開いているはずである。

 そう思って飛び回ってると確かに穴は開いているのだが、その付近にオークの気配も無ければ町も村も無い。

 完全に空気を取り入れる為の穴だ。

 奴らの活動を妨げる効果も期待して、その穴を適当に塞いでいく。

 こうして王都周辺の公爵領の街の地下は制覇し、そこから枝分かれする何本かを進んでオークを倒して回った。

 先ほどのような隠し通路みたいなものはあれ以来無いが、フローラさん達の方はわからないし、何ならコボルトの集落からこっちに向かってきた道中にあった可能性はある。

 だが、そっちは王都へ向けて戻って来るツヴァイ達に任せればいいだろう。

 実戦装備も行軍中の魔物対策に持っているし、あの人数なら監視程度のオークを倒す事は可能だと思うし、もし何かあればブライアンも居たから転移門の魔法で伝令に来るだろう。


 恐らく王国の中央から北半分は片づけ終わったはずだ。

 地脈は高低差があって幾重にも重なっている部分があるから正確にはわからないが、魔力探知をしながら付近の町の位置と地脈の位置を考えながら進んでいるので、頭の中のマッピングはそれなりに正確だと思う。

 大体五千体は倒したはずだが、一万くらいはいると考えた場合、残りは南方向に進んだフローラさん組だ。

 一回戻って、満面の笑顔で元の姿に戻ったシャルにゼリーを食べさせるセシールさんに、他の人達の事を聞いてみた。


「何度か戻ってきましたけど、すぐどこかへ行きましたよ? 先ほども、そう三十分くらい前にも戻ってきましたし」


 との事なので、攻略は進んでいるのだろう。


「う……トモヤ……助けて……」


 空になった皿がパっと見で三十は超えている。

 それでも無くなりはしない。

 と言うか、食べ終えた皿に追加で足している。


「あの、お義母さん? 食べきれないと無駄になりますし程々で……」

「そうですよね、うん、じゃあこれだけ頑張りなさい」


 そう言ってテーブルを指さす。

 シャルよ生きてくれ。



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