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寄り道の終わり


 帰ってくるなり千絵が弄られまくっていた。

 それはもう、見ようによってはいじめられっ子の立ち位置と言わんばかりに、自分より頭三つ位小さいシャルとシエルに寄って集られて。


「津波来たけど」

「あれー? チエが抑えるんじゃなかったっけ? あれー?」

「魔獣も来たけど」

「私が一発で綺麗に切ってあげたんだからね」

「後、トラ子が猫パンチで叩き落として遊んでた」

「にゃー?」


 ほぼ無傷で転がる魔獣の周りを、人型のまま四つん這いでお尻と尻尾を上げながらぐるぐる回ってるトラ子は、これをおもちゃか何かと勘違いしているようだ。

 一応警戒と言うか獲物と言う意識はあるっぽいのだが、どこか楽しそうなのだ。


「悪かったわよぉ、出来ると思ってたけど範囲が広すぎたのよー」

「ふふん、珍しくチエに言い勝った」

「ちっこい同盟の勝利」


 いや言い勝つとかじゃないと思うんだが。

 そしてちっこい同盟と言ったシエルだが、シャルが睨みつけるように胸をガン見してる事を気づいてやってくれ。

 単純に千絵が抑えきれなかっただけで、元々予想してた事だからそれをとやかく言うのもどうかと思うが、まぁ千絵も千絵で大きく出た部分もあったし、今回は特に口も挟まず放っておこう。

 しおらしい千絵もそれはそれで可愛いな、なんて思って無いんだからね絶対。


「トモヤ様」

「あ、どうも。なんか結局一杯になっちゃったんですけど」

「調理できる者を集めています。今日はこれから魔獣の試食で、町を挙げての祭りとする事にしました」

「あ、そうなんですか。でも食べれるかもわからないのに」

「マルコが毒判別のスキルを持っているので大丈夫でしょう」


 なにそれ欲しい。


「それでマルコから、出来ればそちらの方にも手伝ってもらえないかと言う話があったのですが」


 そう言って見た目に怖いおやっさんを見る。


「俺も興味あるから構わんが、どうするよ智也」

「むしろ俺も興味あるんで混ざっていいですか」

「え、いや、その、トモヤ様がですか……?」


 流石にびっくりな提案だったらしく、クリスティアーノが驚きとか混乱とかではなく狼狽した。

 まぁまさか次期国王とか言われてる人間が魔獣を捌きたいなんて言い出すとは思わないか。


「ええ、噂には聞いているでしょうけど、特性が遊び人と主夫なものですから、料理も嗜むのですよ」

「しかし不特定多数の人間が入り混じる中、トモヤ様の安全を保障できなくなってしまいます」

「それについては基本的に常時シールドが展開されていますのでお気になさらず」


 そう言っておやっさんを見ると、拳を作って軽くぶん殴って来た。

 それがガチィーンと硬質な音を立てて体から十センチくらい離れた所で止められる。


「そう言う事でしたら……」

「よーし、それじゃやるか。とりあえずでっかいのはシエルの嬢ちゃんにでもぶった切ってもらって」

「その前に千絵、海水を細かいブロック状に凍らせてくれないか。それも一杯。そこの魔獣が埋もれるくらいに」

「私としては地べたに置きっぱなしってのが耐えらんないから、こうさせてもらうわ」


 そう言うと千絵は海に向かって手を伸ばす。

 そして何か招くような仕草をすると、海中から巨大な氷の桶が出て来た。

 それは学校の二十五メートルプールより少し小さいくらいで、氷の厚さは五十センチくらいは有りそうだ。

 フライの魔法でそれを道路に持って来くると、再びフライの魔法で魔獣を無造作に放り込み、その上から海水で作った氷をぶちまける。

 正直な所、魔力で海水を凍らせるよりも、フライの魔法で大質量を運んだり細かい制御で魔獣を放り込む方が難易度が高い。

 なんせ凍らせるだけなら魔力さえあれば何とかなるのだから。

 クリスティアーノを始め町の人達や観光客はそれを歓声を浴びせつつ見守り、全て終わると一同拍手で千絵を称えた。

 何気なくやっている作業でも、ここまでの事が出来るのは多分千絵と楓子くらいな物だろう。

 魔法師団の上位陣でも魔力が足らないと思う。

 まず小さなプールくらいの氷って時点で魔力切れを起こして断念する。

 仮に一般的なウィザードがそれくらい出来てしまったら、とっくに王都全域に氷漬けにされた海産物が届けられている事だろう。


「ああ、それでクリスティアーノさんとホークさん、それとシャル」


 前者二人は傍にいるので後ろで魔獣を観察してるシャルを呼んだ。


「何」

「あのタコ、どうも海底に地脈が露出してる部分があるみたいで、そこの魔力を吸って大きくなっちゃったみたいなんだ」

「普通は考えられない。世界樹と言えど基本は植物、海水は苦手だから海底は深い所を通りがち」


 台風の後に街路樹の葉が変な枯れ方をして落ちたりするが、ああ言うのも海水によるダメージだと言う。

 世界樹なので海に浸かるくらいじゃ枯れそうに無いが、それでも基本的に植物だから良くは無いみたいだ。


「この辺りの海は急に深くなったり浅くなったりする部分があるようなので、そこに当たったのでは?」

「で、あのタコ自体は別段魔獣を退けたりしてるわけじゃないみたいだから、いなくても問題は無さそうなんだ」

「それじゃあ倒せばいい」

「あのサイズの処分をどうすればいいと思う?」

「うー……チエの魔法で丸焼き」


 誰が食べるんだ。

 いや食べる人は居たとしても食べきれるわけが無い。

 大体高さ五十メートルくらいと言われているが、水中には本来八本のはずの足が飛んでも無い数あるのだ。

 それを食べきるだけでも近隣の村々の人達を呼んでこなければ無理だろう。

 むしろ一匹食べるなら王都の住民を全員連れて来るくらいしないと無理じゃないか。

 食べずに捨てるのであれば、魚の餌になるように細かく刻んで沖にばら撒かないとならないが、千絵や楓子の魔法があったとしても手間がかかりそうだ。


「その地脈自体はずっと東から海底を走ってるみたいだから、ずっと沖の地脈を露出させてそこに運んでしまったらどうかと思うんだけど」

「地脈を大事にしないと駄目」

「でも既に太くなりきった地脈なら、多少の海水じゃ枯れないだろ?」

「うー……」

「タコをどかして埋めれば地脈の末端がもっとこっちに延びて来るかもしれないし、そうすればこの辺りの魔力量が増えて豊かになるかもしれない」

「……それはそうかもしれない」


 シャルとしては渋々ながらも了承のようだ。

 今の会話を聞いて、クリスティアーノさんとホークさんも町にとってはいい事なので特に否定もされない。

 結局タコに関しては魔獣に対する抑止力としての可能性があったから黙認してるだけで、実際はそうでも無さそうならいない方がいいのだ。


「ただ、タコがいなくなる事で魔獣が湾の中に入ってくる可能性はあり得ます」

「それに関してはギルドの支部が出来さえすれば、そして今夜の祭りが成功さえすれば解決するでしょう」

「観光客への被害の可能性もありますけど」


 どうやら海水浴と言ったレジャーはこの世界に無いようだが、浅瀬で水遊びくらいはするらしいし。


「さっきは衝撃波のせいか作動しなかったが、元々湾の入り口には魔獣用の感知魔法が設置されています。それに反応があれば漁港でわかるから問題無いでしょう」

「それじゃあ、諸々の事が運んだら湾の主の引っ越し作戦を決行すると言う事で」

「しかしトモヤ様。あなたはまだ王になられても居らず、扱い的には義理の王子と言いますか正式に王国の運営をされているわけではありません。となると我々は税と言う形以外でお礼を差し上げねばならないのですが……」


 面倒な話が出た。

 そんなのどうでもいいと言ってしまってもいいが、かと言って何も無しでは今後全てにおいてタダ働きもあり得る。


「じゃあ個人的に漁業権を頂ければ」

「そもそも王家に連なる方でしたら全てご自由になさって問題有りません」

「えーっと、んー……」


 辺りを見渡す。


「じゃあクリスティアーノさんの屋敷と町を挟んで正反対のあの辺りの森をください」

「土地と言う事ですか? それも極論を言えば王家の物ですが――」

「報酬として観光地、と言うか今後の発展も望める地に好きに出来る土地を領主から貰ったと言う事にすれば、王家に連なる者とは言え遊び人で主夫の俺には行き過ぎた報酬でしょう」

「ですがどうなさるおつもりで?」

「いや、別荘でも作ろうかって話があったんで、丁度いいかなと。このまま話が進まないと魔人の国に勝手に用意されそうな気もするんで」


 『トモヤ、作ったから好きに使えばいい』

 そんなベスターの声がとてもリアルに頭の中で再生される。

 ただ、この辺りでは話に出てたログハウスは気候に合わないだろう。

 湿気の多い土地よりも少ない土地、主に寒い地方で発達した建築物のようだし。


「わかりました。ではそう言う事にしましょう」


 よし、話はまとまった。

 既におやっさんは道具袋の中から刃物セットを取り出してニタァとヤバい顔で待っている。

 他にも色々な人が集まって魔獣を観察したり、料理人らしき人達は巨大な魔獣をどう裁こうかと思案しているようだ。


「それじゃあクリスティアーノさんに進行してもらって、始めましょうか」

「私でいいのですか?」

「この町の事ですから。部外者がやるわけにも行かないでしょう。巨大な魔獣はうちのセシルが人間が捌けるサイズに大まかに切りますんで」

「わかりました」


 こうして祭りの準備が始まった。

 と言うか、既に祭りだった。

 氷の巨大な桶からカチ割り氷に埋まった魔獣を適当にフライで引き揚げ、それをシエルが適当にぶった切る。

 それをマルコさんが見て毒が無いか、可食部位はどこかを判別して周りの料理人に指示をし、皆が思い思いの料理を始めるのだ。

 俺もスペースを確保しておやっさんと色々と作った。

 とりあえず刺身。

 焼き。

 煮付け。

 フライ。

 つみれ。

 酒蒸し。

 昼過ぎで暇な時間だった事もあって、町の飲食店の人間は全員この場に来てしまっているらしい。

 すごい勢いで出来上がって行く料理を前に、町の人や観光客は並び、試食していく。

 そして一匹捌き切ったら次だ。

 そんな感じに夜まで調理は行われ、結果として基本的に魔獣は大型の魚類と同じような扱いで大体が食べられる事が判明した。

 一部毒だらけの魔獣も存在したが、捌いたついでに胃の中を確認したら貝類を食べるタイプだったようなので、元の世界で言うフグのように毒を貯め込んだ餌を食べて毒にまみれてしまったのではないかと思われる。

 と言う事は一部毒を貯め込んだ貝がいる可能性があるわけで、今後沖で漁をする事になった場合、とりあえずマルコさんに毒の有無を確認してもらう事になった。

 湾内で取れる物と同じ種類だったとしても摂取する餌や季節なんかで有毒になる可能性もあるからだ。

 ちなみにこの祭り、今後年一回以上催す可能性があるとの事。

 是非ご参加をと言われたが、恐らく魔獣の捕獲要員と言うのも一面にあると思われる。


 こうして新婚旅行と銘打った四日間が終わった。

 最も大変だったのはトラ子の一件だろう。

 まさかだったし、魔獣化と言うか魔人化と言うか魔王化と言うかと結局何が正解なのかもわからない。

 人間への変化が出来る時点で、前提として魔人では無い。

 そもそも魔人化したのであれば、デフォルトが魔人であって猫にのみ変身と言うのは少し違うからだ。

 だとすれば魔獣化は魔獣化だけど、魔王化でもあって人間に変身出来るようになったと考える方が自然だ。

 何はともあれ、猫の姿で連れ帰ったらマリーネとコレットまでもがトラ子が生きていた事に喜び涙し、変身させて見せたらリアル猫娘に二人とも胸キュンしたらしく悶絶していた。

 コレットは明らかに可愛い物好きなんだなとシャルを見る目で予想付いていたが、マリーネまでも猫可愛がりである。

 トラ子の部屋を作るかについての議論もあったが、当人が『ぱぱのところ』と明言した事によって、とりあえず俺の部屋にトラ子用の寝床もこさえた。

 猫の姿用に作った事に不満は無いようなのだが、一緒に寝るとなると人型なので結局殆ど使われない。

 それとトラ子のせいで女性陣に一つ問題が発生したらしい。

 それがなんなのかハッキリとしないから、問い詰めやすいシャルとシエルを捕まえて吐かせた所、『今後持ち回りでトモヤと添い寝する計画を立てていた。トラ子がいると邪魔』と言い出し、いやしかし立場上拒否も出来ないし、スキンシップをもっと増やそうと思ってたし、ああくそうと散々悩んだ結果、トラ子に部屋を用意する事で一応の解決を図る。

 勿論トラ子には拗ねられたし何なら泣かれた。

 『やぁーだぁー! ぱぱと寝るのーっ! ぎゃーっ! ふにゃーっ! にゃーっ! にゃーっ!』

 とシエルがカギを掛けるものだから王城を揺るがす程の大騒ぎをし、結局折れたシエルによって解錠され、俺とシエルの間でしばらくの間文句を垂れながらも満足気に寝るのだった。

 この一件以降、『泣く子と地頭には勝てない』となり、トラ子が寝床に乱入してきた時は持ち回りの順序を無視し二日連続とか女性陣の間で色々話し合いやら調整があったようなのだが、楓子の時だけはトラ子が乱入してこなかったので非常に悲しそう且つ喜ぼうにも喜べない微妙な顔をするのである。

 一応毎晩、俺と一緒に寝る予定じゃない人がトラ子を捕まえて一緒に寝るようにしているようだが、週の半分は気が付くと俺のベッドに潜り込んでいる。


 次いで上げるとすれば、王であるお義父さんが良く働くようになった事だろう。

 全てはお義母さんのおかげである。

 なので俺とシャルの自由時間が増え、前よりも余裕をもって事に当たれるようになった。

 差し当たってはコボルトとの模擬戦だが、もっと慌ただしく準備するはずが気楽なものだ。

 まぁ主な公務は公共事業系の承認や王都へ上がって来る各方面の陳情書等の処理なので、それほど大変な物でも無い。

 それでも時間としては結構割かれてしまうので助かるのだ。


 余談として、トラ子の表向きの扱いとしては大人しく公表する事にした。

 うちの猫が魔獣化しました。ついでに人型になって人間のように振舞えるようになりました。

 トラ子自身が聞き分けは良くても割とフリーダムに変身するので隠しきれないのだ。

 最初に学校のクラスで公表したら驚かれはしたものの受け入れられた。

 この時心底思った。

 かわいいは正義だと。

 そしてサクラだ。

 トラ子はサクラに懐いていたので、王城にサクラが来た時にすぐさま察知して透明化してるサクラに抱き着いていた。

 こればかりは不味いので、サクラの事を内緒にしなければならない事、透明化してる時はいない事にする事等を言って聞かせたが、サクラはサクラでトラ子が無事で済んだ事や、結局猫大好きで透明化してる時に抱き着かれても許せるらしく、猫耳幼女を愛でに王城に遊びに来るようになってしまった。

 偶に猫の姿になってもらって撫でまわしてるようだけど。

 いつかバレても知らないからな。


 そしてマーレンの町だが、ギルド支部新設を急いでもらって早々に主の引っ越し作戦が行われる事になるのだが、これはまた別の話。

 そして新料理開発とか銘打って半年に一回ペースで祭りをやるとか言い出したので、流石に手が回らないので全ておやっさんに丸投げしたのも別の話。

 海の魔獣料理と言う事で大半の貴族は興味を持ち、聖地の観光客が落ち込む程に集客してしまう事になる。

 今後マーレンの町は拡張に拡張を重ね、一大都市に成長する事だろう。

 少なくともクリスティアーノさんの頭の中では流れが一通り見えているようで、今の内からしなければならない事をリストアップして、『今後に向けてこのような事をしたいので支援をお願いします』みたいな陳情書が俺の元に届くようになる。

 ベスターが街を創るのが楽しいと言っていたが、クリスティアーノさんの陳情書を見るに今後こうしたいんだなと言うのが見て取れてる部分もあり、正直ちょっと楽しそうだなと思うのだった。

 なお、今回の一件でスズウキ家からは非常に感謝される事になって色々融通聞きやすくなった。

 ラッキー。


結局世界樹観光よりも文章量多くなりましたとさ。

あっち日程三日、こっち一日の話なのに。

こう、話の練り方と言うかイメージの膨らませ方と言うか、もうちょっと考えて計画的に出来ればいいのになぁ。

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