異世界寒村生活(その3)
その日の勉強はこの世界の地理だったが、どうも女子二人がぐったりしているのが気になり、どうしたのかと聞いたら洗濯が思いのほか疲れたと言う。
やっぱ俺がやろうかと言うと、どちらかと言えば恥ずかしがるよりも怒る千絵までもが、顔を赤くして楓子と一緒に『えっち』などと言うのだ。
いやでも、俺って両親共働きで中学入学頃までは結構二人の家で夕食をご馳走になっていたけど、両家ともトイレが脱衣所の先にあるものだから、二人の洗濯物――下着とか――は割と見慣れてるんですよねー。
それお母さんのだからとか誤魔化されそうだが、千絵なんかは下着の上にブラウスを直で着てる事が多いから夏場なんか透けて見えるし、実の母より大きい楓子なんて見た目でわかってしまう。まぁ俺の安全の為にもそこら辺を白状する気は無いけども。マジで消されそう。
「ってわけで、王国の中でも南エリアがここシェーバー領で、さらにその中でも南端にあるこの村は辺境の村と呼ばれてるわけ。ここから南に一日くらい馬を走らせると隣国堺の山脈だけど、その前にオーガ族がテリトリーにしてる森があるから、もし突破するんなら王国の軍隊を持ってこないと死ぬわよ」
「大丈夫です。行かないんで」
「そう、それが正解。この世界において魔物の強さはゲームのソレじゃないから。村人が武装した所で同数のオーガじゃなくてオークと戦っても確実に全滅する上に、向こうには大した被害を出せないわよ」
「やったみたいな事言いますね」
「近隣にオークが繁殖して、ある村がそれで無くなったのよね。たまにオークからの被害があるからって、勝てない戦いを挑んじゃダメよね。向こうもそれなりに知性があるから、報復なのか一斉に村に乗り込んできたって噂よ。オーガはオーク十体よりも強いから言わずもがなよね」
ゲーム脳で考えるとオークくらいなら倒せそうな気がするけど、そんなに違う物だろうか。
ま、俺みたいな一般人以下の遊び人じゃ確実に死ぬって事か。
「一応一番弱いのはコボルトみたいな小人系の魔物とされてるけど、それなら魔力で変質して魔物化した狼とか猪を数人で狩った方が食料にもなるしいいわよ」
「魔物を食うんですか」
「モノによっては美味しいらしいわよ? この村からちょっと離れた森には魔狼がいるから偶に食べるけど、もっと豊かな土地とか王都だとゲテモノ扱いをされてはいるけど魔物料理もあるしね」
「まさかオークとかも食べないですよね」
「普通は食べないけど、一部で亜人系の魔物の食用化実験をやってるのもいるって言うわね。他にも昆虫とか食用に出来れば、ここみたいな村の食糧事情も良くなるだろうって動きはあるけど、流石に私も虫は無理だわー。でもオークは豚の亜人とも見えるし、実際豚肉っぽいって話は聞くわね。怖くて食べれないけど」
それに関しては俺達三人首を縦に振る。
「ちなみに一番繁殖力の高い虫系モンスターってどんなのだと思う?」
「まぁ一般的には小さな奴ですよね。蟻とか。いるんならですけど」
「そ。一番はジャイアントアントで次いでフォレストコックローチ」
フォレストは森だからいいとして、コックローチってなんか聞き覚えあるなーと思ったら千絵と楓子が真っ青な顔をしていた。
あ、森の黒い奴か。
そんなんと相対したらショック死する自身ある。
「まさか奴等もこの世界に」
「しかも人間より大きいサイズらしいわよ」
やべえ。
しかも繁殖力高いって、そんなん無理ですやん。
「後はポイズンキラービーってそのまんまの名前の巨大蜂もいて、蜂自体は私達の世界でも食べられてたから、幼虫は食用の可能性高いって言われてるみたいね」
まぁそれならわからんでもない。
「捕獲が命がけな上に養蜂の規模となれば実用化は無理でしょうけどね。ハンター職の目でも追いきれないから、駆除依頼が来たら夜中に罠張って捕獲して焼き尽くすらしいわ」
焼き尽くしたら食用無理だから実用化も無理なのか。
「焼いても毒は消えないから、対魔物用に抽出するらしいんだけど、年間何人か事故って死んじゃう人いるらしいわね。一応人と魔物は不可侵でいる限り特に被害は無いけど、街道に出るからとか収穫物荒らすからとか色々討伐系の依頼があって、それで討伐したら魔物が怒って大騒ぎになるとかもあるらしいし。魔物だって生きてるんだからわからなくはないけどね」
と、地理の話がいつの間にか魔物の話に切り替わったりもしたが、ざっとまとめると大した内容でも無かった。
王国のほぼ中央の盆地に王都があり、王都は城壁に囲まれていて、北を抜いた東と西と南に門がある。
王都から東西南北に延びる街道を行けば盆地の端っこの山脈にぶつかるが、そこに関所があり山脈が自然の城壁となっているらしい。
関所を抜けると大体どこも二日から三日馬を走らせれば四方を固める公爵家の街にぶつかり、その先には大小さまざまな町や村があるらしい、
大体が何かしらの特産品があり、それを王都に売り込んで生計を立てているようだ。
例えば大人しくて飼育可能な蛾のモンスターが出す糸を使っての織物とか、普通に野菜とか家畜の肉や乳なんかもあるらしく、王都に近い程そう言った特産品で稼ぐらしい。
逆に離れれば離れる程流通の関係で村対町の取引がメインで収入は落ちると言う。
そう言った村や町、果ては王都生活に関してもある程度金さえあれば居心地よく生活できるとの事。
それなら必然的に王都に人が集まるのではと思ったが、実際王都は大きく莫大な人数の王国民が暮らしているらしい。
四方を固める公爵家の街も人気らしいが、既に多くの人が住まうので新しい移住は認められていないらしく、結果として異世界人でなければその村や町で生まれたら死ぬまでそこで暮らす事になるようだ。
盆地の西側にはこの世界でも有数の山脈があるとかで、頂上付近に降った雪は真夏にようやく解けるので一番水の需要が高まる夏でも水に困る事は無いと言う。
となれば西側の公爵領へは山脈を貫いた長い洞窟を行かねばならないので流通に支障があるらしいが、豊富な水資源で作物の栽培が盛んなので、西の公爵領が王都に次いで人気が高いらしい。
「でも、アヤメさんはこの村に来たんですよね」
「特に能力があるわけでも無いし、物珍しさで貴族に飼われておもちゃにされるのも我慢ならないし、それなら辺境で質素にでも静かで穏やかに暮らすわ。数年に一回か二回はあなた達みたいなのが来るけど、おかげで報奨金として国から出るから生活にも困らないし」
「それ、貴族のどうたらって昨日ジニーさんも言ってましたけど、所謂そう言う貴族の腐敗みたいなのってやっぱりあるんですか?」
「そりゃ人間権力を持てば余計な欲も出るでしょ。私達異世界人って、基本的に学校で勉強してるからこの世界の貴族なんかよりも頭もいいし、集団生活の中で最低限のマナーとか良識が身に付くから、貴族側としても物珍しさを置いといても人材として欲しいらしいわね。ただ、そう言う貴族に飼われる人って大体が戦闘系の能力が無いとか心が弱くて順応できない人で、必然的に下に見られて慰み者になりやすい傾向にあるのよ。私もシェーバー領内で二十人弱は迎えて送り出したけど、半数は貴族に飼われてるし残りは王都でバイトしながら必死に生活してるか、行商人や冒険者として小さな依頼をこなして日銭を稼いでるかね。だから、そんな生活するなら僻地行きを推奨してるんだけど、現代人にとって王都の生活レベルと僻地の生活レベルなら、何が何でも王都に残ってやるって思わせる物らしいわ。私の場合は元の世界の環境が悪かったから、別に王都じゃなくてもいいやって簡単に割り切れたけど」
「シェーバー領内って事は、近くの町にも異世界人って来るんですね」
「そこら辺はランダムじゃないかしら。来たって聞けばその町か近くの町にいる私みたいなのが対応するんだけど、この辺りだと寂れ過ぎてて私くらいしか対応するのいないのよね」
それだけ南部は人気が無いと言う事らしい。
「異世界人の扱われ方ですけど、やっぱ俺達もヤバいんですかね」
「大丈夫、勇者適正持ちの扱いはいいらしいから。それこそ功績を上げれば爵位を貰って貴族に成り上がれるらしいわよ。と言っても過去そう言う事があった事実があるだけで、貴族になれるくらいの功績を上げたって話はここしばらく聞かないけどね。そもそも一番平和なのはお互いに何となく不可侵を守る事で、蜂の巣をつつけば大騒ぎする人間と魔物の関係性を考えると戦争でも起きない限り無理だと思うけどね」
「戦争って魔物と?」
「人間ともあったらしいわよ? そりゃ国が存在すれば争いも生まれるだろうけど、千五百年くらい前にあったらしい大戦でこの国の王族が滅んで、調停に来たエルフ族が王位に就いて以来、この国の王ってエルフ族なのよ」
「まさにファンタジーの象徴」
「そ。んで実際長命らしくて、長い事生きてると争いごととか馬鹿らしくてやる気起きないんだって。って事で一応平和って事みたいよ」
「何ですか一応って」
「エルフって地脈の大本である世界樹の眷属と呼ばれているから、なんせ敵に回すに回せない種族なのよ。そんなのが王位についているのにまともに戦争するのは馬鹿らしいし、やるにしたってエルフ族って温和を通り越して平和ボケしてるから相手が強硬に開戦しない限り戦争なんて起こらないわ。仮に起きたとしても、冒険者養成学校なんて作ってるうちの国ですもの。そこの生徒の戦闘力が低いわけも無くて、そういう子達は兵士になる事が多いから有事の際に編成される王国軍の派遣で大体すぐ片付く位の戦力はあるらしいわ」
「はー、何か異世界でファンタジーばっかりかと思えば、人間臭い部分は人間臭いまんまなんですね。んでも有事の際じゃない限り王国軍ってないって事ですか」
「普段は兵団って形であるわよ。表立って軍としない事で、我が王国は平和路線を行きますよって事みたい」
「なんか日本の自衛隊みたいな感じですか」
「この世界がどういう意図で作られて何処へ向かうのかなんて知らないけど、人間が人間として生きてる以上、私達の世界と大差なくても不思議じゃないわよね」
あれ、俺はあの神とか言うオッサンに、神々の戯れで作ったとか何とか聞いた覚えが。
そう言えばアヤメさん自身はあのオッサンと会話した記憶が殆ど無いと言うし、そういう人が大半だと言うから、あまりこの話は知られていないのかもしれない。
まぁ実際、自分の今いる世界が遊びの産物だと言われたらいい気はしないし、そもそも自分達の世界も実は遊びで作りましたとか言われないとも限らないので、変に突っ込んではいけない部分なのかもしれない。
「って事は勇者適正のある二人って、下手しなくてもそう言う戦いがあったら駆り出されるんじゃ」
「基本的に冒険者として自立してない学生は免除よ。そもそも対人なら人材豊富な王国軍に負ける要素無いし駆り出されないでしょ」
「魔物の場合は?」
「対魔王ならあるかもしれないけど、人じゃなく殺意むき出しの魔物な分、人を殺すって言う私たちにとってのタブーからは除外されるし気楽なもんでしょ」
と言う事は、何か起きたら千絵も楓子も戦わなければならないと言う事か。
いやしかし実際この世界で冒険者をするんなら戦わないわけにはいかないわけで。
どうすればいいんだ。
「ちなみに、これまで出た勇者ってどうしてるんですか?」
「言わなかったかしら。勇者適正を持つ人間は、全員魔王討伐する事になるわ。中には怪我をして帰ってきたりもするけど、再起不能にならない限りは延々魔王のケツを追いかける事になるわね。ただ、魔王も昨日言った通り種族ごとに大体いるか、数十年周期で発生するわ。弱い種族でも魔王になると普通の勇者じゃほぼ勝てないくらい強いらしいから、結果的に王国に残ってる勇者なんていないわ。果たして死んだのか、その境遇に耐えかねて僻地で畑でも耕してるのか。ただ、数年前に冒険者養成学校が出来た事で、最低でもそこを卒業しない限りは魔王討伐に放り出さないって方針らしいわよ」
「数十年周期って事は倒されてるんですよね」
「コボルトの魔王に関しては、発生する度に王国に攻めてくるらしくて、その度に勇者か多大な犠牲を払って倒してるらしいわ」
って事は何か。
俺以上に、千絵と楓子の境遇はヤバいのではないだろうか。
「少なくとも学校にいる限りは保護されるから、その間に貴族に媚び売って助けてもらうか、じゃなければ魔王討伐に出ると見せかけて王国の隅っこで何事も無く暮らすかね」
「ちなみに貴族に媚び売るってのは?」
「貴族ってのは一夫多妻制だから目ぼしいのがいれば簡単に結婚するのよ。嫁げば決定権が旦那に移るから討伐とかしないで主婦として生きれるわね。ただ、王族に口出しできて他の貴族を黙らせられるくらいは有力な貴族じゃないとダメだと思うけど」
そんなんお父さん許しませんよ。
何か功績を上げれば貴族になれる可能性があるんなら、俺が貴族になればいい――死ぬ気しかしないけど――、そして二人を娶ってだな、えーっと、千絵と楓子が嫁になるとか妄想したことが無いとは言わないが、うーん、何か変なモヤモヤした気分だ。
二人を守ろうとする場合、最も綺麗な解決法は俺が功績を上げて貴族に取り立ててもらう事だろうけど、そもそも俺に戦闘力が無い事と、よっぽどの事じゃないと貴族になんて取り立てて貰えないと言うんだから、これは計画段階で詰んでる。
「一応、過去の勇者にはコボルトの魔王を倒して貴族に取り上げられてたけど。これも、普通の魔王を倒したところで数十年後には新しく魔王が誕生するからイタチごっこで、王国としても頭の痛い問題みたい。それでも勇者ならば国の為に魔王を倒してこいと言うのだから酷いわよね。一応そう言った魔王の他に、魔人を統べる魔王、便宜上大魔王って呼ばれてる存在もいて、王国としてはそっちを倒してもらいたいらしいんだけど、そっち狙いの勇者は誰一人して帰ってきてないわ」
「魔物じゃなくて魔人ですか」
「その名の通り人の形をしてるとか色々噂はあるけど、魔人の森で見られる種類があんまりにも多岐に渡るからよくわからないわ。ただ、適正に恵まれなかった弱い勇者は瞬殺されるくらい強いらしいわよ。って言っても誰一人帰って来て無いから、一体誰が流した噂かは知らないけど、少なくとも過去百年や二百年では王国に帰還した勇者はいないみたいね」
ここまで俺が代表して色々聞いてきたが、最後の方なんか千絵も楓子も意気消沈を通り越していっそ死のうかなんて呟く始末だ。
「ってわけで、これから残りの日数は、私としてはこういう僻地で生きる術を身に着けるために使おうと思うんだけど」
「よろしくお願いします」
是が非でも無い。
即答した俺に二人は驚いていたけど、普通に考えたら勇者なんてやってらんないんだから、どうやって無事に平和に生きるか考えないと。
実際問題、この村にいると食料や衛生に問題があるので非常に困るのだが、実際王都に行ってダメそうなら何とかして脱しなければならない。
逆に王都で上手くやって行けそうならそれでいいけど、何事も最悪を想定して動かないとダメだと思うんだ。
ただでさえ俺は遊び人で大した力も無いんだから。
こうして、残りの日数はこの世界の事や生きる術について色々勉強する事になったのだが、流石にあんな話をすると二人とも贅沢なんて言ってられないと思ったらしく、美味しくない芋を黙って食べ、シャワーについては何も言わず体を拭く程度で我慢し、何なら近所の人の農作業を手伝ったりと、少なくとも女子高生の生活とは真逆を行った。
この現状には正直悲観してるようだが、一度死の辛さと恐怖を経験してるからか、意地でも生きてやろうと言う風に考え方が変わっているらしい。
にしても、遊び人の俺よりも待遇は良くとも未来が無いのは予想外だった。
アヤメさんの話では、特筆すべき何かがあれば王都への居残りもあり得るらしいが、現状ではわからない。
ただ、楓子はアークプリーストで回復系に特化してるらしいので、王都で引き取り手は多いだろうとの事だったが。
そうして一週間が経ち、ついに王都からの迎えが来た。
なんか長く感じたけど、そもそも一日の時間が長いんだから当然か。
王都から来たアークメイジは、俺達と同じく異世界人でアメリカ出身らしい。
噴水前に現れたとの事で行ってみれば、ガタイのいい金髪の白人男性が白いローブを着て杖なんか持って待っているのだ。
「やあ諸君。アニメの国から来たそうじゃないか。誰か忍者適正を持ったのはいないのかい」
そしてオタクだった。
「おっと失礼、ボクはブライアンだ。一応デービスってファミリーネームもあるけどね。元々はアメリカはユタ州出身なんだけど来た事ある? あ、無い。そっか残念。さ、お嬢さん達、ボクの手を取って。転移門の魔法は術者に触れていないと変な所へ飛ばされるから、途中で放しちゃ駄目だよ?」
この白人野郎は二十歳そこそこのイケメンで、千絵と楓子を見ると「おーうジャパニーズジョシコーセー」と喜びやがったので、俺の中で危険人物認定だ。
二人もいきなりアメリカンなノリについて行けないようで、言われるがままブライアンの手を取りはするが、何か凄く心配そうに俺を見る。
「俺は何処掴めばいいんですか」
「ユー、遊び人はいらないからお留守番だよ。さ、君たち行くよー」
え、と反応する前に、二人が慌てて暴れた時には姿が半透明くらいになっていた。
ヤバい。
藁をもつかむ気持ちと言うのはこう言う事か。
咄嗟に手を伸ばして魔法の範囲内に割り込み、何とかブライアンのローブを指先で摘まんだ。
暗転し、ドサッと床に転がったショックで目を開ける。
そこには闇しかなかった。
アヤメさんにお礼を言うとか、咄嗟の事で智也君の伸ばす手を掴めなかったとか一瞬で色々頭の中に考えがよぎったけど、もう次の瞬間には暗闇の中だ。
転移門とか言う魔法の影響か、頭がぐらぐらする。
自分、佐久間楓子の存在は確かにここにあるよね、と手で体中をぺたぺたと触って確かめ、目の前に同じく挙動不審になってる千絵を見つけ、じゃあ智也君はと辺りを探したけどいなかった。
先ほどのブライアンと言うアメリカ人は目の前にいるのに。
置いていかれた。
「ちーちゃん!」
「楓子、智也は?」
「来てないみたい。ねぇブライアンさん、何とかならないんですか?」
「ボクは上司の命令通りにしか動けないからねー。ギリギリ彼が範囲内に来たからついてきちゃうかと思ったけどセーフだったみたいでよかったよー。下手したら腕だけ一緒に来るとかありえるから怖いよねー」
そんなホラーな事が起きたら数日間気絶する自身があった。
「いや、もしかしたら変な場所に飛ばされてる可能性もあるけどね。そうなったら生き残っててくれる事を祈るしかないねー。ただ、転移門の魔法ではぐれた場合は移動方向に必ず飛ばされてるから、シェーバー領から王都までの間に落ちてる可能性もあるけどねー。低い可能性だけど王都を飛び越えて他国に飛んじゃってるかもだけど」
頭が真っ白になった。
この世界で、たった一人じゃないだけまだマシとは言え、智也がいてくれないと自分は何も出来ない。
「ちーちゃん、どうしよう……」
「ちょっとそこのスカタン! どうでもいいから智也を迎えに行ってよ!」
「仮に上司からの命令があっても無理だよー。転移門の呪文には一日分のマナを使うからね」
「あんたね……もし智也に何かあったら、いつか殺してやるから」
「もしかしてボーイフレンド? 報告書にはそう言った事が書かれていなかったですよー?」
「ぼ、ぼーいふれんどでは無いけど……。でも家族みたいなものだから……」
「そうでしたかー。では上司と相談してみましょうかー。そう言う事なら明日にでももう一発飛べると思いますよー?」
「ほんとですか? お願いします、智也君がいなかったら私達、ほんとどうしよう……」
「もしどこかに放り出されて死んでたら、あんたも同じ目に遭わせるからね」
「おー、ジャパニーズジョシコーセー怖いでーす」
この人の変に伸ばす喋り方に少なからずイラっとしたけど、それ以前に智也がこの場にいない事の不安感に押しつぶされそうで、千絵にしがみつくしかなかった。
その後は役人が何人か来て案内され、初日みたいに水鏡に移して自分の情報を読み取ったりして、自分と千絵が勇者適正持ちと言う事でその日は王城内に泊まらせてもらう事になって好待遇だったり、明日もう一回転移門の魔法を使って智也を迎えに行ける事になったと言うけど、もうストレスで疲れ切ってしまい、心配で訪ねて来た千絵と一緒に寝て翌日を迎えた。
そして、迎えに行ったブライアンがすぐに戻って来たけど智也はいなくて、どうやらどこかへ放り出されたようだと告げられ、楓子はその場で崩れ落ちたのだった。




