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寄り道ついでに

寄り道のつもりだから早々に切り上げる予定が雲行きが



 こうして漁港から離れ、ホークさんが言っていた赤レンガの店を目指した。

 漁港から平地をぺたぺたと歩く事十分程、遠目に見ても赤レンガだなとわかる店構えはこの辺りの店と一線を画している。

 建物は赤レンガを積んで作られ、扉は木製の分厚い重厚なタイプで窓はレンガにはめておらず分厚い装飾された木枠に囲まれていた。

 何と言うか貴族の屋敷の一部を切り取って来た感じである。

 俺は少しビビりながらもおやっさんに付いて中に入ると、店内には赤絨毯が敷かれ艶のある木製のテーブルと椅子が並び、天井にはシャンデリア風の明かりがぶら下がっている。

 壁も施工されたままのレンガでは無く化粧板っぽいのを打ち付けてある。

 一目に貴族御用達の店とわかる外観だったが、店内もガチに貴族仕様だった。


「いらっしゃいませ。ご予約はしておられますでしょうか?」

「いや無い。店主を呼んでもらおうか。王都で会ってると思うんだが」

「さようでございますか、少々お待ちください」


 フローラさんっぽい恰好をしたこの町の人だと思うのだが、貴族の令嬢が給仕をしてると言っても信じられるくらい綺麗な人だった。

 ただ貴族にありがちな金髪では無く町娘に多いウェーブが掛かった茶髪のセミロングの子で、立ち居振る舞いから教育をしっかり受けている事が窺い知れる。


「お待たせしました――。これはマスターではないですか」

「お前か。いや、この町に生徒の誰かがいるとは知っていたんだが、お前だったとはな」


 そう言っておやっさんは凶悪な顔を歪ませる。

 それが悪い方では無いので、生徒として優秀だったようだ。


「まさかいらっしゃるとは。どうぞ、午前中は予約もありませんので、そちらの一番大きなテーブルをお使いください」

「すまないな急に来て。いや、正直を言うと俺も今朝急に拉致られたもんだからな」


 そう言って今更こっちを見て睨まれても。

 俺達は案内された席に座ると、何となくメニューは無いものかとテーブルを見る。

 無いので後から持ってくるスタイルかコース料理なのか。


「紹介しよう。この前シェリール王女を始めドワーフの王女や勇者二人と結婚したトモヤだ」

「――お噂はかねがね、お会いできて光栄ですトモヤ様。ご結婚おめでとうございます」

「いやほんとそう言う畏まったのはいいんで、そこらの貴族のボンボンくらいの扱いでいいんで」

「そうはいかんだろう。今のうちに慣れておかないと心労で倒れるぞ」


 四公爵家の当主との会議ですらしんどいのに、畏まった扱いを受けるとか考えてくも無い。が逃げられる問題でも無いのはわかっている。

 ほら、身の丈以上の事になってるのは重々承知だし?

 出来る事なら気楽で居れる環境作りをしたいのだが。


「新婚旅行に世界樹へ行ってたらしいんだが、この町にも来たいって話が前々からあったらしくてな、一日空いたから来たらしい」

「そうですか。しかし王家に連なる方々でしたら、この町よりも聖地へ赴くものかと思っておりましたが」

「なんせ誰一人として王都の人間族じゃないからな」

「そう言えばそうですね。しかし、でしたら猶の事一度は赴いた方がいいでしょう。王国民のみならず近隣諸国のほぼ全ての人々はジャポニー教徒です。国のトップに立とうとされている方が聖地巡礼をされていないとなると、後々問題視される可能性もございます」

「だそうだが」

「時間が出来たら……」


 としか答えようが無い。


「私が飛べる。何なら教皇猊下を拉致って案内してもらってもいい」

「お前、一応相手は教皇な上に滅茶苦茶年上なんだからな」

「ん、あの一件で株は落ちた」


 若返りの時の事だろう。

 それに関してはわかるにはわかるが、乗ってしまった俺が否定するのも申し訳ないと言うか何と言うか。


「まぁともかくそれは置いといて、だ。何か作れるか?」

「実は今日は夜に一件予約が入っているだけで、仕入れが少ないのです。ですので一品か二品でしたら、と言う所なのですが……」

「なるほど」


 これは買ってきてよかった奴だったな。


「今何か買って来たらそれで作れるか」

「勿論です」

「では行って来るか……」


 そう言っておやっさんはチラッとシャルを見た。

 それを見て察したらしいシャルは立ち上がる。


「仕方ない、行ってくる」


 そう言って転移門を開くとおやっさんと共に消えた。

 うーん、高々徒歩十分程度の距離、されど往復二十分の距離。


「驚きました。転移門の使い手とは羨ましい」

「便利は便利なんですけど、慣れると頼り過ぎてしまうので考え物だとは思います」

「なるほど。私も転移門の魔法なんて使えたら、この町では無く王都で店を持ちたかったのですが……」

「やはり仕入れの問題ですか」

「ええ。転移門使いを雇うとなるとそれだけで一月分の利益が飛んでしまいます。こんな見た目の店ですが、貴族を対象にした完全予約制なので稼ぎとしては少ないのですよ」


 それでもやっているのだから、やはり調理が好きなんだろうし魚介類も好きなのだろう。


「先ほどの店員の方は凄く指導が行き届いているように見えましたが、この町の方なんですか?」

「この町の領主であるサルヴァドール伯爵家の関係者でして、今では一般貴族に落ちた家なので、将来を見据え貴族と関わりの持てるこの店で働きたいと言って来たのですよ。ただ見ての通り美しくはあるのですが町娘の風貌なので……」


 貴族は一般的に金髪である。

 これは遺伝によるもので貴族の血が濃ければ金髪だ、と言われているのだそうだ。

 遺伝は遺伝でも濃さ云々ではなく優性遺伝か劣性遺伝かの差だと思うが、恐らく貴族の血が薄まった中で平民と結婚したとかじゃなかろうか。

 この世界に於いて金髪が優性なのか劣性なのかは知らないが、一般的に貴族は金髪と言われている以上優性だと思うのだが。


「だからあんなに貴族然とした立ち居振る舞いだったのですね」

「おかげ様でお客様からの評価も高いのですが、嫁にと言うよりも給仕として雇いたいと言う申し出ばかりでして」


 給仕で貴族の家に行った所で、そこから行きつく先は良くて妾だ。

 そこの家の子がいい年齢でタイミングが良ければ可能性が無くはないが、見た目二十歳を超えていたので、その年齢になると貴族は一般的に結婚しているか婚約者がいる。

 町娘の風貌からも貴族は正妻には迎え難いし、妾にしても子が出来ても認知されるかどうか微妙な所だろう。

 これは本人には申し訳ないが、将来を見据えても今のままでは微妙な立ち位置が精一杯に思える。


「何とも大変なようですね」

「私としても彼女が辞めてしまうと大変なので、辞める前に新しい給仕を育てて貰わなければなりませんし、その分の給金も発生しますし、商売とは難しいですね」

「見習いにも給料を出すのですか」

「ええ、働いた分の対価は見習いであっても必要だと言うのがマスターの教えですから」


 流石法律に縛られた日本人である。

 この世界では見習いは大体衣食住保証で給料無しが普通と聞く。

 何か手はあるかなと考えたが、うちで雇おうにもマリーネとコレットがいるしなぁ。


「ちなみに調理の手伝いも出来ますので、一般家庭の嫁としては最高なんですけどね……」


 おやっさんの嫁になればいいのになー、とかちょっと思ってしまったが無いだろうな。

 あの人、さっき自分でも言っていたがでっかいのが好きだ。

 さっきの子はぺったんだったし。

 そうやって少し話してると黒い歪みが発生してシャルとおやっさんが戻って来た。

 おやっさんの手には長さ五十センチ、横三十センチ、高さ二十センチ位の木箱が抱えられていて、そこに山盛りに海産物が入っていた。


「適当に買って来た。これで頼む。そうだな、刺身で美味いのがあったら刺身で頼む」

「わかりました。では少々お待ちください。ちなみにですが苦手な物とかはございますか?」


 そう言って全員を見渡す。

 俺達は特に無い事を知っているが、セシールさんはどうだろう。


「お義母さんはどうですか?」

「たまに王国に遊びに行く事があっても魚介を食べる機会は無かったの。だからわからないわ」

「じゃあとりあえず無いと言う事で――」


 店主がセシールさんを驚愕の眼で見て跪いた。


「王妃様とは知らずご無礼を」

「ああ、なるほど」


 そうだった。

 何ならこの場に居る全員がそう思ったと思う。

 だってあの王様、王様らしい事してないんだもんな。


「気にしないでいいんですよ。私は王国に関係してないから、王妃だなんて言われても何も知りませんし」


 そう言われると店主は立ち上がり、再び礼をして厨房へ下がった。


「あのさっきの給仕の人、今は一般貴族らしくて貴族との出会いを求めてここで働いてるらしいんですよ」

「ほう、なんでそれを俺に言う」

「おやっさんの部下として雇うんであれば王城に上がれるなーと思って。調理補佐も出来るらしいし」

「多少魅力的な話だが、そんなん連れて行ったら調理室の面々が殺気立つぞ。ただでさえ競争激しい現場だからな」


 それもそうか。

 ついでにおやっさんが娶れば、と言おうとも思ったが辞めておこう。巨乳じゃないから無理だろうし。


 一杯買って来た二人だったが、この場に居るのは俺とおやっさんの男二人と、嫁四人にお義母さん一人にペット一匹だ。

 総勢八人もいるのだから、出て来た料理も結構な量と思いきやぺろりと食べきってしまった。

 前菜にカルパッチョっぽい物が出てきて、それ以外でもメインディッシュに煮付けと刺身の二つが出て来たので、刺身恋しい俺もおやっさんもシャルも満足である。

 お義母さんに関しては生魚と言う物が何かわからず食べていたが、鮮度がいい分生臭さも無かったので問題なく食べられたようだ。

 後で刺身を説明したら軽く引いていたが。

 シエルに関しては美味ければなんでもオッケーと言う安易さで本当に助かる。食べ過ぎは困るけど。

 魚だけではなく貝類もあったが、刺身では無く煮物として出て来たので一般的には火を通すのだろうか。

 食べ方は一通りでは無いだろうし、この地の魚介はどうすれば食べれるのかをちょっと知りたいなーと思いつつ早めの昼食が終わった。


「如何でしたか?」

「上手い奴だとは思ってたが良く出来てた。なんか今後王都で魚を仕入れようみたいな話もあるんだが、こっちに戻ってくる気があるなら呼ぶかもな」

「もし実現されるのでしたら喜んで、と言いたいですが店を持った身ですので」

「だろうな。何か困った事があったら相談してくれ。今なら王家の力も使えなくは無いぞ」


 そう言っておやっさんはこっちを見るのだ。


「そうですね……。困った事では無いのですが海の魔獣料理と言うのを作ってみたいのですが……」

「一回作ったとしても、その後が続かないだろう。誰が倒すんだ」

「ですのであくまで好奇心です。その噂に貴族が群がる可能性はありますが、実際無い物はお出しできませんし」

「ふむ、と言っているが?」


 俺も興味が無いわけじゃない、と言うかバリバリ興味あるし、おやっさんも興味あるからこっちに振ってきているのだ。

 だが俺一人で何か出来るわけでも無いし、チラッと周りを見る。


「別にいいわよ?」

「うん、料理もおいしかったし、私もちょっと興味あるよー」


 協力的な嫁で助かります。


「でも海の中だろ。どうやって獲るんだ」


 そう言うとシャルが楓子を指した。


「どうせ沖は魔獣だらけ。楓子が一発矢を射ればまとめて倒せて浮かんでくる」

「私を大量虐殺兵器みたいに言わないで欲しいなぁ」

「でも、タコの魔獣だかがいるんですよね?」


 と店主に聞くと頷いた。


「実は冒険者ギルドを誘致して海の魔獣討伐をしてもらおうと言う動きがあるんです。もし食用に出来るのならば買い取って報酬を払えますし、魔獣が減れば沖で漁も出来ます。もし全て上手く行きそうなら、あの主も倒す方向で考える事になるのですが……。とりあえず一度試したいと思っていたのです」

「裏があるじゃねえか。ちゃんと話さないと後で突っ込まれるところだったぞ」

「いえ、私は完全に好奇心なのです。漁師側からすれば魔獣の影響なく安全に漁がしたいと言う当たり前の願いですので、後の事はそっちに丸投げするつもりでして」

「まぁいい、じゃあそう言う事でいいんだな、嬢ちゃん達」

「何だかんだ次期国王の妃の一人になっちゃったんだもの。王国の為になるかもしれないなら、少しくらい働くわよ。ねぇ?」

「うん。なにかで漁師さんが魔獣の被害に遭うのも可哀そうだし、何とかなるならそれに越したことは無いし」

 千絵と楓子がやる気なのは助かる。


「シャルとシエルはどうするんだ?」

「私は特にやれることが無い。あるとすれば倒した魔獣の回収くらい」

「私何てもっとやる事ないよー。自分でフライも使えないし」

「じゃあシエルはセシールさんとトラ子と留守番だな」

「俺もな」

「あれ、責任者として来ないんですか? 責任者として」

「お前俺に押し付ける気だな……」

「ただでさえ公務をナチュラルに押し付けられてる上に、公務以外や未満の事まで山積みなんですから」

「仕方ない。食に関する事なら俺が面倒見よう」


 と言うわけで決まった。

 俺達は食材を抜いた分でいいと言うので、思いのほか少ない支払を済ませて外に出る。

 そろそろ正午になろうと言う頃で、遠目に何やら大きくて丸い影が見えた。


「あれがタコのお化けですか」

「お化けだなぁ」


 多分一キロくらいは離れていると思うのだが、日光を浴びて海中から出て来たようだ。


「今回はフウコが攻撃側。チエが広範囲にシールドを張って、フウコの攻撃で出来る津波を抑える必要がある」

「うっわ苦手分野来たわね」

「今回は昨日と違ってフウコが手加減して射ればいい。そこまで大きな津波にはならないはず」

「うーん、手加減難しいよ……」


 ただでさえ勇者補正付きの弓は昨日が初だ。

 弓術部でのアレを数に入れてもいいが、それでも二回である。

 昨日のだって思い切り射った風でも無かったので、当人にもどうなるかわからないようだ。

 そもそも通常は弓の引き方で威力の調節をする物でも無いだろうし。

 にしても、やるんならさっき話題に出ていたサルヴァドール家に話を通しておかねばならないだろう。

 勝手にやって事後報告じゃ反発が出かねないし、領主としての意見も聞いておかなければならない。


「サルヴァドール家ってどこにあるんだ?」

「あれ」


 シャルが指す先は町から少し離れた斜面の中腹にある屋敷だった。

 聞くまでも無く見ればわかるってくらいにわかりやすい。


「あ、はい……。とりあえず諸々の許可を取りに行こうか……」


 見た感じ徒歩十五分って感じだろう。

 食後の運動には丁度いいかもしれない。


「ぱぱー」

「自分で歩きなさい」


 手を広げてぴょーんぴょーんなんて小さくジャンプするものだから、何こいつ可愛いと思ったが心は鬼だ。

 甘やかしてばかりではいかんと思うのです。


「えー」

「私の所においでー」

「ママはやー」

「えっ……」


 楓子がガチで凹んだ。

 俺が駄目だとわかったらシエルの所に行って背中に飛び乗っていた。

 飛び乗っちゃいけませんって言っているのに、シエルがどんと来いな性格な上に頑丈なので飛び乗っても余裕なのだ。

 それを見る楓子の顔と言ったらもう、俺と千絵で見合わせた上で憐みの視線を投げかける程だ。


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