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引っ越し

白状すると、特に話の山も作れずダラダラと長文を作成するのが得意分野だったりします。

気が付けば50万文字オーバー。

それでも市販の文庫本の厚めの2冊程度の文字数なので、商業作家ってすげーなー

それと細々と1万PV超えていました。ありがとうございます。


 引っ越し自体の作業はぶっちゃけて言うと大したことなかった。

 荷物が多いわけでも無く、シェリールの転移門の魔法である程度の物はサクサク運べるからだ。

 大きな物と言っても家具を運ぶわけでもないし、今の所は転移門の魔法のみで片付く予定である。


「うなー」


 人間の何やら物々しい動きにトラ子がソワソワしているが、安心しろ、お前はちゃんと連れて行く。

 俺が持って行く物は勉強道具と着替えくらいな物で、女性陣はそれにプラスして化粧品とかだ。

 なのでサクッと終わらせ――


「それは却下」


 楓子が両手でつまんで持ち上げていたのは、人を驚かすのに使ったベビードールだ。


「本当にいらないの?」

「逆に聞くけど持って行っていつ使うんだ……」

「いつでも……いいよ?」


 良くない。


 さて、引っ越しに当たって色々とあった。

 まず、学生である以上寮生活をするべきだと思っていたし、一部からはそう言う声もあった。

 だが、ちょっと考えている事もあったのと、王族の分家となった以上、セキュリティーの観点からも寮生活と言うのは少々不味いのではと言う意見も多かったので、この際引っ越してしまう事にしたのだ。

 その考えている事と言うのは、学校運営に大きな転換期を迎える事になるであろう。

 この冒険者育成学校、何が問題かって貴族の学校と化してる事が問題なのだ。

 そして実質冒険者として活動する人は少ない。少しでもいるだけ救われるのだが。

 それを何とかする為には一般の入学枠を増やす事だが、これまでの貴族の枠を変に減らす事は出来ない。絶対反発大きいし。

 ただ、これに関しては、次年度から三男三女までで、それ以降は厳密な入学試験をクリアーしないと駄目、とか決まりを作ってしまっていいと思っている。

 もしくは家から何人までと区切って、特性を見て入学者を選択してもらおう。

 爵位の威光が使える分家システムのせいで貴族は子沢山だが、そのせいで無駄に貴族が増えてる事実もあるのだ。

 この学校が創立して以来、入学する事が一種のステータスであり、入学しないとその後の就職にも影響すると言われるようになってきているのだが、実際に能力がある人は入学試験を設けても通過出来てしまう。

 俺が問題に思っているのは、公爵家だから伯爵家だから、その分家だからと家の威光のみで本人がそこまで特性に恵まれてない場合だ。

 そう言った生徒は卒業しても結局は一族の誰かが経営してる会社なんかに就職してしまい、学校での経験が殆ど生かせていない。

 あるとすれば学校で得た人脈だが、これは社交界で十分事足りる。

 そう言う人を入学させるよりかは、平民や貧民の中からそれなりの能力の高い人を入学させて教育した方が国力の底上げに繋がるし、そう言う人達の方が冒険者を生業に出来る。

 一口に冒険者と言っても何をするのかが問題だが、大抵は誰かから依頼を受けて何かをする一般的な物だ。

 例えば貴族の依頼でこの素材が欲しいから取って来て欲しいとか、どこどこの街の誰に荷物を届けて欲しいとか。

 一応散発的にではあるが魔物や魔獣との遭遇戦はあるし、それをクリアーして他の街に行くのはそれなりにハードルが高い。

 行商人は安全度の高い街道を行くけど、それでも年に何件かは魔物や魔獣の襲撃を受けて討伐隊が編成されるのだ。

 他にも公爵家の私兵が動かないような小さな討伐系の依頼とか。

 普段王都でしか生活してないせいでわからないが、冒険者だからこそ依頼できる事と言うのもあるらしい。

 それら冒険者の窓口となる冒険者ギルドも各国にあるが、王国はあまり盛んでは無いようだ。

 一般的に冒険者は王都から離れた土地に住まう若者が、その町や村から出る為に選ぶ職業だと言う。

 行商人と言う手もあるにはあるらしいが、むしろ行商人が実は冒険者と兼業してる事もあるようで、今は飽和状態で新たに行商人としてやろうとしても行商人の協会が新規登録を認めていないようだ。

 なので、俺は王国の全地域から冒険者になりたい若者を募り、正しく冒険者育成学校として機能させたいのだ。

 今は貴族の特性に恵まれた人達が牛耳る学校だが、特性に恵まれていなくても冒険者として生きていける術を学べる学校にすべきなのだ。

 本来はシャルもそうしたかったようだが、シェリールとして活動する手前、貴族には強く出れない部分もあって結果こうなってしまった。

 それを正すのが旦那の仕事と言えば聞こえがいいが、エルフの治める国から人間の治める国へ変わろうとしてる中で、これまでと同じようでは生き残れないと思うのだ。

 冒険者と言うのは他の国での活動も当たり前にしているので、どこの国の冒険者が活躍しているかによって国力の強弱の判断が出来ると言う側面もあるらしい。

 そこら辺を取りまとめて資料にし、近い内に議題に上げて公爵家の当主や有識者にぶっ叩かれる予定だ。

 あー、絶対文句言われるなぁ。

 これまでそれで上手く回って来たとか、後に産まれた子には不平等じゃないかとか。

 そもそも貴族優位で一般市民の入学が少なすぎるのを問題に上げるんだから仕方ないと思うのだが。

 とは言え国力の問題は、これまでエルフの治世だからこそ無視出来た問題である。

 それを踏まえて将来に向けた改革をしていかないと、このまま俺が王位になんて就いたら外的要因で簡単に崩れる事も考えられる。

 武力闘争云々ではドワーフ王国との国交や、裏ではベスターと友達だから多少の助力を願えると思うけど、国を潰せるのは武力だけに限った話ではない。

 経済的に困窮したら、うちみたいな国はそれほど蓄えも無いし長続きしないだろう。

 最近でこそ南の地脈が復活して生産性のアップが見込まれるようになったが、それでも国の規模が大きいわけでも無ければ国民の数が多いわけでも無い。

 この王国は、他の国に誇れる物がエルフ関係しか無かったのだ。

 厳密にはジャポニー教とか言う怪しいオッサンを神と崇める宗教の聖地はあるが、宗教と国は別物であって、仮に侵略されても宗教自体は揺るがないのだ。

 なんかもう考えれば考えるだけ問題が出て来るので、頭に浮かんだ問題をひたすら書きまくって『今後の議題』置き場に置いてあるのだが、その厚みが日々増え続けていて見るだけで嫌になる。

 正直、ドワーフと魔人関連が解決すれば、それほど大きな問題も無く平穏無事に生活出来るんじゃと思っていたのだが、そうは問屋が卸してくれなかったのだ。


「智也、手が止まってるけど何? やっぱりこれ持ってく?」


 千絵までスケスケなのを指で持ち上げてひらひらと見せつけて来る。

 目に毒だ。


「いやなんかもう、過労死する気がしてきて」

「こっちに仕事ほん投げればいいじゃない。私も楓子もそれなりに動けるわよ?」

「私はあまり数に入れて欲しくないかなぁ……」


 元より楓子はあまり表立って動けないタイプなので、俺の癒し要員である。


「何かあったら不味いから、皆にはベスターが選抜した魔人の付き添いとかお願いするつもりなんだよな」

「大丈夫でしょ?」

「大丈夫だろうけど、それは俺達が元々魔人に対して大きな敵対心や恐怖心を持っていないからであって、他の人達からしたら魔人の一挙手一投足に過敏に反応して何かしないとも限らない。それに魔人が反応して攻撃しちゃう事も考えれるし、少なくともシールドで付近の全員を守って何かあったら回復出来る楓子は確定だな。種族の壁を取っ払う為にはシエルが適任だし。シェリールは別件でいくらでも働いてもらわなきゃいけないから、そう考えると千絵くらいしか俺の補佐に付けられないんだよなぁ」

「何よ不満?」

「不満は無いけど不安はある。会議で俺がボコボコにされると凄むのやめてくれ」

「それはしょうがないと思うの。だってあの人達、自分の言いたい事しか言わないじゃない」

「貴族としては正常だから……」


 まぁ確かに千絵がいてくれると向こうからの圧が減るので気楽ではあるが、議論が正常に進まない部分もあるので難しい所なのだ。


「そう言えば、後でシェリールが何かあるって言ってたわね」

「引っ越し終わったら軽く打ち上げな。引っ越し祝いで」


 一時間もすれば一通り終わると思うけど。


 と思っていたら、引っ越し先で結局文句を言うのが出て来るのだ。

 四人も。


「やっぱり一緒で良くない?」

「そうだよー。ねー、ともやくーん」


 そう言って荷物片手に来て人のベッドに座る千絵と楓子だが、それ以前にシェリールとシエルも人の部屋のソファーでくつろいでいるのだ。


「あのなぁ、話し合いで決めた事だろ? 部屋は別々にするって」

「そうだけど」

「もうずっと一緒だったから寂しいよ。寂しくない?」

「寂しいとは思うけど、俺にも一人の時間をください」


 切実にだ。

 サクラが来る来ないに限らずベランダで黄昏るくらいには、俺も一人の時間を欲しているのだ。


「夫婦であっても部屋は別の方がいいって言うのは、俺達の世界でもあった話だからな」

「そうだけど」

「私は寂しいけど……」


 俺も楓子と言う癒しならいつでもウェルカムなんですが、それにしたって一人の時間は必要だと思うんだ。

 千絵なんか珍しく拗ねた顔で『そうだけど』と言うだけになってしまっている。


「まぁいいじゃない二人とも。部屋は別でも行き来は可能なんだから」


 全員分の部屋の鍵は渡っているし、何なら俺以外の四人は魔法で簡単な鍵なら解錠出来てしまうらしい。

 セキュリティー云々の話はどこに行ったと言うのか。

 今はこうして平静ぶってるシェリールだが、千絵と楓子が来るその瞬間までシエルと二人で文句を言っていたのだ。

 シエルはその切り替わりが思いのほかツボったようで、さっきから口を押えて笑いを堪えている。


「で、片づけはもう終わったのか?」

「後これだけ」

「私も」


 二人とも片づけてる最中に来たようだ。

 それだけ好かれているんだなと思えば幸せいっぱいなんだけどなぁ、なんて思いもするが、公務未満のちょっとした雑務に最近は追われているので、一人でぐだーっと休みたいと思う事が増えているのだ。


「じゃあ片づけてきなさい」

「はーい」

「また後でねー」


 二人とも不満はあるようだが、大人しく引き下がってくれた。

 で、だ。


「シェリールもまだ文句ある?」

「ああ言った手前我慢するわよ……。そこ、シエル、笑わない」

「だ、だってーっ、シェリールったらほんと一瞬で切り替えるんだもん、笑わないわけないじゃない」


 ノックも無しに千絵と楓子が入って来たその瞬間、ソファーに座って済ました顔で二人を観察していた。

 それまでは千絵と楓子が言っていた殆どそのままの文句が口から垂れ流されていたのだ。

 ちなみにシエルもシェリールと同時にやって来て同じような事を言っていたが、シエルはまだ冷静だったようで途中からシェリールに代弁させて自分は見てるだけになっていた。


「それよりトモヤ、この後の予定だけど」

「おやっさんに用意してもらってる」

「そう。はー、なんか疲れたわねー」

「何度も転移門を使わせて悪かったよ」

「それはいいのよ。でも、私も結構働いているんだから、後でご褒美の一つくらい欲しいわよね」

「後三年くらい世界樹で日向ぼっこしてから言うんだな」

「むー」


 シエルは意味が分からないと言う顔だが、意味が分かられても困るので特に説明はしない。


「それにしてもトモヤ。やっていけそう?」

「無理ならほん投げて僻地で暮らす」

「それもいいわね」

「私も連れてってよー」

「当たり前じゃない。あなたもトモヤの妻なんだから」


 そう言って二人してにやけるんだから、いつまでたっても新婚の気分が抜けないなぁと呆れるのだ。

 まぁ俺自身、結婚した事実は理解してるし四人からストレートに好意を受けるから実感もあるのだが、やはり人生経験の少なさか、学生故の甘さか、現実味があるようで無い。

 その辺りに関しては時間が解決するだろうと考える事を辞めているし、幸せの絶頂である事には変わりないので細かい事はいいやーと思ってしまっている。

 俺もベスターの事を奥手だなんだと言えないんだよなぁ。


 一通り片付いた後は、近くの部屋にお茶会のセッティングをしてもらって、今回正式に王城の料理人をする事になったおやっさん作のスウィーツ類を用意してもらった。

 何ならと緑茶とそれに合う和菓子的な物まで作ってくれたのだから、本当におやっさんすげえと思う。

 和菓子となると牛皮やら餡子やらが必要になってくるが、牛皮に関しては米粉を使って何とか再現し、餡子に関しては普通に小豆っぽい物の流通があったので手間暇だけの問題だったらしい。

 特に女性陣は今か今かとスタートを心待ちにしているようで、俺の音頭はまだかと視線がこっちに集中してくる。


「えー、引っ越しお疲れ様です。特にシェリールにはご褒美として後でいい子いい子してあげるので勘弁してくれ。あんま喋る事も無いし以上」


 では、とスズウキ家の五女でシェリールの王城での世話をしているコレットがお茶を入れる。

 こっちで仕事したりしてる内に名前を聞けたが、もう会う度会う度滅茶苦茶睨まれるので生きた心地がしない。

 今回もそんなだからマリーネに一任しようと思ったのだが、『是非私が。私にやらせないなら覚悟してください』と声に抑揚無く言われたので、俺も死にたくないしお願いする事にした。

 勿論マリーネも異世界人組の世話係として引き続きお願いしているし、今も傍に控えていている。

 これには多少だがルーベルトの爺様へのお礼も含まれている。

 正直な所、俺達は一人で大抵の事を出来るので世話係みたいなものは必要ないのだが、立場上誰かしら置いておかなければならない。

 そうなると、これまでの交流からマリーネが妥当なのと、マリーネを使う事によってハイリッヒ家に多少の箔は付く。

 最近はルーベルトの爺様を頼ってる部分が結構あるので、そのまま引き続きお願いする事にしたのだ。


「あ、当初話してたように、寝る時以外はあんまり部屋に入ってこないように」

『はーい』


 どちらかと言えば意識は全員スウィーツに向いている。

 寝る時以外となったのは、夫婦である以上それを拒否するわけにも行かないのと、どうせシャルが潜り込んでくるのがわかっているからだ。

 俺自身拒否する気は無い。

 勇気も無いけど。

 幸いな事に千絵と楓子は恥ずかしさやら気まずさやらで寝込みを襲って来る事は無いし、シャルは夜になると活動限界でぐっすりおねんね、シエルは俺がそう言う事に壁を作ってる事を察してか強硬して来ない。

 その分、日中は四人共ベタベタしてくるのが当たり前になってしまったのだけど。

 でも既に『ご子息を』と言う話は聞こえてくるし、避けては通れない道だし、俺自身興味が無いわけでも無いと言うかめっちゃあるのですがチキンですし。ですし。くそう。


「おーしお前ら良く聞け、これがいわゆる元の世界の日本では一般的だったショートケーキに似せた物だ。ちなみにイチゴが無いから果実のシロップ漬けを入れてある」


 説明をするために待機していたおやっさんが一つ一つ指をさす。


「日本では一般的って他では違うんですか?」


 楓子はそこが気になったようだが、確かヨーロッパでは違うはずだ。


「菓子職人的には、そんな技術もへったくれも無いケーキをメインには置けないんだとよ。で、こっちがモンブランなんだが、こっちの栗が紫色してるせいで紫芋っぽい見た目になってる。そっちはミルフィーユとアップルパイだが見ればわかるな。後は――」


 おやっさんとしては元の世界のスウィーツの再現で結構楽しめたらしい。

 この王国のスウィーツは、生地に砂糖漬けの果物を練りこんだり挟んだりする物が多い。

 そもそも生クリームだっておやっさんが何とか再現した物なので、この世界には存在していなかったのだ。

 よって必然的にシュトーレンみたいな果実やナッツの入ったパンがこの王国では一般的なスウィーツだった。

 砂糖の流通は多かったのでこれでもかと言う程砂糖を入れて、とにかく甘い物が正義だと言わんばかりの物が主流だった時期もあったようだが、丁度シャルが王国に来た時に食べて衝撃だったらしく、そんなん体壊すから方向転換しなさいと御触れを出したらしい。

 それでも、まだそんな激甘スイーツを好む貴族はいるようだ。


「で、紅茶は魔人とこの奴な。緑茶はコボルトのとこのだ」


 ベスターにお願いして紅茶に加工する前の葉っぱを分けてもらったのだが、おやっさんの見立てでは悪くはないけど緑茶向きではないらしい。

 どうやら土壌からして紅茶向きだとか、北の方で寒暖差が激しいのが紅茶向きだとか色々言っていたが全ては頭に入ってこなかった。

 植物自体はほぼ同じ茶の樹らしく、生育条件の差が大きいのだそうだ。


「説明は以上だ。では失礼する」

「おやっさんも一緒にどうですか?」

「馬鹿言え。夫婦水入らずに俺みたいなオッサンはいない方がいいだろう」


 そう言う意味ではコレットとマリーネも部外者ではあるのだけど。

 まぁ辞退すると言うのなら止める気も無いし、そもそもおやっさんは忙しい人なので引き留めるのも悪い。

 おやっさんは、その大きな体でのっしのっしと歩いて部屋を出て行った。


「コレット、アップルパイを切り分けて頂戴」

「はい、シェリール様」


 シェリールの言う事には嬉しそうに動くんだけどなぁ。

 一応女性陣同士で交流は持っているようで、ドワーフであるシエルともそれなりに打ち解けてはいるようだ。

 なので敵視されているのは俺だけである。

 多分彼女の部屋の中には、どこからか採取した俺の髪の毛入り藁人形が山ほど打ち付けられている事だろう。なんて冗談半分で思い浮かべたけど実際有りそうで震えた。


「さーて、誰がトモヤにあーんするかだけどー」


 急にシエルがそんな事を言い出して、一瞬、ほんの一瞬だが空気が引き締まった気がした。


「そう言うのはいいから好きに食べなさい」

「えー、少しくらいの遊び心、欲しくない?」

「どうせ面白がって俺にガンガン食わせるだけになるんだろ。俺も甘いものは好きだけど、そんな量食べられないからな」

「なんだー、残念だよ」


 最初はひな鳥にでも餌をやる気持ちでいたのが、終いにはフォアグラを作るべく口に突っ込むような状況にならんとも限らない。

 何となくだが、この四人だと競争だとかヒートアップしたら手に負えない事になりそうだ。

 大抵は誰かがどこかでブレーキを掛けてくれるんだけど。


「にしてもついにお城生活よねー、これから毎日シェリールが送ってくれるんでしょ?」

「ええ」

「大変じゃない?」

「千絵か楓子がそろそろ転移門の魔法を使えるようになってくれればいいのだけど」

「私は適性が無いのか、全然理解できないのよねぇ。感知とかイメージは出来るんだけど」

「私も駄目かも。空間を繋げるイメージが良くわからなくて」

「そんなのなんちゃらドアみたいなものよ」


 イメージして開けたら繋がってるアレか。


「うーん、えいっ」


 楓子が中空に魔力を小さく使って転移門の黒い歪みを作る。

 そこまで出来ているなら出来そうな気がするんだけどな。

 それに指を突っ込んで何やら動かしているらしい。

 何やってんのかと思ったらなんか耳がくすぐったくて、手で掃ったら楓子が指を手で押さえてこっちを見ていた。


「痛いよ智也君」

「……いやそこまで出来るなら、転移門の魔法使えてるじゃん……」


 いたずらで使うなと。


「目に見える範囲なら出来るんだけど、イメージ力の問題なのか離れた場所だと上手く出来ないんだよねぇ」

「私としては、シェリールがどこぞの不可思議ドアを知ってる事のが驚きだけど」

「これでも知識は貯めこんでるもの」


 そう言えばあったなぁ、琴美の部屋に漫画で。

 結構ブラックな笑いがあって、こんなん子供に読ませていいんだろうかと思ったものだし、本人もアニメから入って漫画本を買ってもらった物の、差の激しさに混乱しながら読んでいた。


「そうだ智也君、結局シャルちゃんどうするの?」

「あいつもこっちに引っ越しだよ」


 部屋を空けなければならないので、とりあえずそう言う事にしておいた。


「トラ子も普段は俺の部屋だろうけど、もし学校の方がいいようなら扱いを考えなきゃな」

「うーん、シャルちゃんは呼ばないの?」


 この場にか。

 俺はシェリールを見る。


「フウコ、シャルは大丈夫」

「大丈夫って?」


 シェリールが立ち上がって俺の所まで来た。


「ほら」


 一瞬シェリールが靄がかる。


「私はここにいる」


 むん、と胸を張って言うシャルでした。

 ここで言うかー、と俺は内心慌てるわ対応をどうしようか悩んだが、どうしようもないので思考を放棄した。もう知らん。


「えっと……そう言う冗談はいいかな?」


 そして全く信じられていなかった。

 まぁ俺もあの時は割とショックを受けるくらい信じがたかったしなぁ。


「ちょ、フウコ、私がシャルロットでシェリールだから」

「ダメだよシェリールちゃん。シャルちゃんをのけ者にしたら」

「だから、ちょっと、トモヤー、助けてー、トモヤー」


 なるほど、シェイプチェンジが得意なシェリールがやると、シャルを騙ってるように見えてしまうのは必然なのかもしれない。


「あー、あのな楓子」

「智也君もグル?」

「まぁグルはグルなんだけど、シェリールがシャルなのは事実だ。今まで二人が一緒に居た事無いだろ」

「えっと……そうだっけ?」

「こんなちっこい体で王女やっても真実味無いからシェリールを作ったんだと」

「うーん……」


 まだ信じてないな。

 でも、信じて貰おうにも何かあるかな。


「シェリールが知っててシャルが知らない事って何かあるか?」

「むしろシャルの時に見聞きした事の方が多い」

「それでもいいけど」

「トモヤがいないとき、フウコこっそりトモヤのベッドに飛び込んでた。後、洗濯物持ってニヤニヤしてた」

「その洗濯物は洗濯前か後かで俺の今後の対応が変わる」

「ノーコメント」

「ちょ、し、信じるから待ってー! それ洗濯後だから!」


 半分脅しじゃないのかこれ。

 信じなかったら楓子の秘密暴露しますって言う。


「でもさー智也、仮にシェリールがシャルだった場合、その子何歳なの?」

「八歳だそうだ。一歳半で自我に目覚めて三歳くらいにはシェイプチェンジと転移門の魔法を覚え、同族に王都まで連れてきてもらったんだと」

「……八歳と結婚したの?」

「だああああああっ! だから俺は嫌だったんだーっ!」


 頭を抱える他無いじゃないか。


「いつから知ってたのよ」

「……シェリールが俺を婿にするって言った一週間後くらい。朝起きたらシャルが隣で寝てて、起きたと思ったら寝ぼけてシェイプチェンジでシェリールになった」

「じゃあ知ってて結婚したわけね」


 このロリコンが、と言う顔に見えなくもない。

 違うんだー、俺は違うんだよー。


「トモヤは問題ない。私の年齢が低い事を気にして何もして来ないから」


 シャルが天使に見えた。

 いやまぁ実際天使みたいな子ではあるんだけど。


「なんで私達に黙ってたの?」

「いずれ言うつもりだった。でもトモヤとの結婚が最優先だったから後回しにした」

「そう、それ。この間もそんな事言ってたけど」


 多分神託でどうたら以前に俺が好きとかって言ってた奴だろう。


「正直、私はシェリールがシャルって言われて、ああそうかって思う部分はあるのよ。これまでの事を考えるとね」

「えー、私は全然気づかなかったけど……」

「私は気付いてたんでパス」


 なんかシエルがあっさり白状しやがった。


「気付いてたのか。何で」

「だってトモヤを見る目が一緒だから」


 それを聞いた千絵が『あー』とどこか納得した風だ。


「私達は元々シャルが智也に懐いてると思ってたけど、何処かでちらっとでもそう思ってたらシェリールと同一人物説を考えてたわ」

「黙ってるみたいだったから何も言わなかったけど、なんかあんまり黙ってた意味も無さそう?」

「それほど意味は無い。結婚した以上言わない方が大変だから、引っ越して来たら話すつもりでトモヤとも相談してた」

「でよ、その結婚が最優先ってのが引っかかるんだけど――」


 そう言った千絵が俺の隣に目が釘付けになっていた。


「私、桑原琴美。智也お兄ちゃんの従妹です」


 隣を見ると銀髪に緑を少し加えたシャルの髪色が真っ黒になっていた。

 勿論顔も日本人に。

 それも言うのかー、それは打ち合わせになかったぞー。俺はもうほんと知らんからなー。

 なんて言った所で、千絵の視線は俺をロックオンなのだ。


「えっ、ちょっ、智也智也、説明」


 今まで冷静に話をしてた千絵までも度肝を抜かれたし、楓子なんて固まってるし、シエルも流石にそこまでは予想出来なかったようで大きな瞳を更に大きくしている。


「えーっと、千絵も楓子もご存知のように、むかーし亡くなった俺の従妹の琴美らしい……」

「はー?」

「その気持ち良くわかる。俺も結婚の直前に約束を守れって言われて、何かと思ったらそれでどうしようもなくなった」

「私、転生者だから。そうじゃなきゃ王都をこんな改造出来ない」


 そうなんだよなぁ。

 元の世界から来た人に聞いて作りました、じゃ説明しきれない所まで合理的に作ってるから、知れば知る程納得なんだよなぁ。


「死ぬ前に智也お兄ちゃんと約束したの。元気になったら結婚してくれるって」

「はぁ……。そう言う事もあるのねぇ……」


 何と納得しやがった。

 シャルは琴美から本来のシャルの姿に戻ってぷくーっと鼻を膨らませる。

 どーだ参ったかと言わんばかりだが、今更結婚についての正当性を語った所でしょうがないと思うんだけどなぁ。


「道理でよね。シャルもシェリールも妙に私たちの世界の事に詳しいし、何だったら拙い日本語喋れるし」

「日本語はこっちで殆ど喋らなかったから流石に忘れてきた」

「それじゃ何、トモヤが来たと知って意地でも結婚してやろうと?」

「正確には違う。私の事を知った神がトモヤを連れて来た。だからトモヤやチエやフウコがここに来たのは私のせい」


 そう言ってしまうと全てシャルのせいに聞こえてしまうから不味い。


「一応言っておくけど死んだのは確かに事故だから、むしろコレのおかげで二度目の人生やってるからな」

「そこは大丈夫。うん、じゃあ私も楓子も勇者だなんだって持てはやされてるけど、実際はトモヤのオマケだったわけね」

「それは違う。トモヤが二人を大事にしてるから一緒に連れて来ただけ。誰もオマケなんかいない」

「それで、こうして結婚までこぎつけたのね……。根性あるわねー」

「ふふん」


 振り回されてる人間がすぐ隣に座っている事を理解してもらっているだろうか。


「オッケーわかったわ。正直、シェリールが良くわからなかったんだけど、そう言う事なら私達が仲間で同じ智也の嫁だって思えるもの」

「むしろシェリールを良くわからん奴って思ってたのか」

「なんでか知らないけどトモヤの事が好きなエルフって思ってたけど」


 そのまんまだけどさ。


「これでスッキリした。コレット、マリーネ、この事を外に漏らしたら家が根こそぎ消えるから黙ってて」

「脅すな脅すな。簡単な話で、今この姿の奴が王女として何年も前から王国を陰で動かしてたって知られたら、絶対反発するのが出て来るだろ。それは面倒だから黙ってて欲しいんだ」

「私はシェリール様――シャルロット様の言う事でしたら喜んで従います。その、出来れば抱っこしてもいいですか……?」


 そこは抑えるべきだと思うんだが、シャルの愛玩性は高いので仕方ないと思う俺もいる。

 コレットはエルフ信仰のガチ勢のようだし、元々シェリールを慕っていたようなのでシャルが本来の姿だと知ってどう反応するのか気にはなっていたが、自分の心のままシャルを愛でる事にしたようだ。


「はい」


 コレットに向けて両手を伸ばすシャルと、それを蕩けそうな顔で抱き上げるコレット。

 コレットは俺達より少し年上で身長も俺と同じくらいあるせいか、シャルを抱えると何となくサイズ感的にしっくり来る。

 シャルもしょっちゅう俺にへばりついているので、感覚としては近いのかもしれない。

 にしてもやべえ主従関係が出来上がったな。

 マリーネはいつもの済ました顔で何事も無く言うのだ。


「私は元より王城内での出来事は死ぬまで口外する気はございません」

「ちなみに何か欲しい物とかあったら今のうちだけど」

「でしたら、将来嫁の貰い手がいなかったらトモヤ様の側室にでも迎えて頂ければ」

「それは要相談」

「話し合い」


 シャルと千絵がすぐさま食いついたが、マリーネが嫁げないなんてあるのかな。


「ですが、どこの公爵家も側室に迎えて欲しいと言ってくるはずです」


 それは既に家族内での議論がされていた。


「とりあえずは断る事にしてるんだ。俺が一杯一杯だし、変に貴族を入れるより独立していた方が身動きが取れるから」

「でしたら私のさっきの言葉は忘れて頂いて結構です。代わりに私が辞めると言うまでお世話係を続けさせていただければ」

「それはこちらからもよろしくお願いしますだけど」


 そう言うと、何とも嬉しそうな顔で小さく頭を下げるのだ。

 いい子なんだよなぁ。


「それはそうとシャル」

「ん」

「予定外の事を相談も無くしたから、今日から一週間俺の部屋入室禁止」

「なっ」


 ほら、どうせいつもみたいに一緒に寝に来るつもりだったんだよ。

 引っ越し後にそれやって問題視されないわけ無いと思うんだが、いやシャルだったらセーフなのか?

 シャルは口を半開きに微妙な顔で解せぬと表情で語っているが、元々は今晩俺の部屋に集まって説明をするつもりだったのだ。

 コレットの腕の中から出てきてこっちに来ると無言で『むー』と睨んでくるが俺は折れません。

 折れない代わりに、さっきの約束通り頭は撫でてやるけど。

 それで機嫌がある程度良くなる辺りシャルだよなぁと思うし、そんな俺達を見ていつもの光景だと安心する千絵と楓子だ。

 シエルもシャルが転生者と言って納得行ったようで、こっちの話を聞きながらもひたすら食べている。

 うーん、結局俺達ってこんな感じなんだろうな。



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