第一回夫婦会議と今後の事
「それで、二人は乱入してきたわけだけど、本当に俺と結婚して……よかったんだよな?」
最後は自信なさ過ぎて尻すぼみだった。
「私達とじゃ嫌?」
「智也君、私達の事嫌い?」
いやいや、あの場で大好きだーって叫びましたから。
「えっと、その、そうじゃなくて、ほら、結婚って好きな人同士がする事であって……」
言ってて恥ずかしさと自信の無さで死にたくなってくる。
あの場では俺の事好きでいてくれたんだと感動したが、冷静になると自信が無くなってくるのだ。
「それなのよねぇ」
「ねー」
千絵と楓子が顔を見合わせて微妙な表情をされている。
嗚呼、死のう。
「ほら、私達ってこう言うのもなんだけど、好きで当然じゃない?」
「そうなんだよね。好きで当然だけど、普段の生活も好きだから変えたくないし」
「だから将来、私か楓子か、もしくは知らない誰かが智也と何となく結婚はするけど、関係としてはずっとこんな風かなーって」
「特にちーちゃんと話し合うとか無かったけど、私も何となくそんな感じ。もし私達以外と結婚しちゃうんだったら、その相手には私たちの事を認めてもらうつもりだったけど」
「だからなんて言えばいいのかしらね。ナチュラルに一緒にいて当然、でも重婚になるから私と楓子一緒には無理、だったら自然の流れに任せようって感じ?」
「うんー。私もちーちゃんも他の人と付き合うって考えが無かったから、なっちゃったらそれでいいかな? って感じだったねー」
えーと、それはつまり俺の事を好きでいてくれたって事でいいよな? 俺、喜んでいいんだよな?
「そこに来て異世界に飛ばされました、貴族なら一夫多妻制ですでしょ? これはもしかしたら上手く収まるかなーって期待はあったけど、なんせ智也遊び人じゃない」
「私たちが魔王討伐とか頑張って爵位を貰えたら、それでどっちかと結婚しちゃえば智也君が当主になるから一緒になれるかもって思ってたんだけど、シェリールちゃんがあんな発表するから」
その発表した当人、涼しい顔をしてシエルとケーキを食べている。
このケーキはあの元の世界の料理を作ってるおやっさん作で、この世界の牛っぽい動物の乳が生クリームを作るのに適してないとかで、色々試行錯誤してようやく出来上がった生クリーム系のケーキだった。
どうやらおいしいらしく、俺達が話してる横で全部食べそうな勢いなので、とりあえず三つは確保してこっちに避けておく。
「あの後どういうつもりか問いただしたのよ。でもちゃんと説明しようとしないし、そろそろ頭に来て魔法でぶっ飛ばしてやろうかと思ったら『私は種族的な問題で子供が出来にくいから、二人も一緒に結婚してしまえばいい』って言いだしたのよね」
「結婚ってだけでもよく考えたらドキドキなのに子供とかハードル高くて、私とちーちゃんで顔真っ赤にしちゃって、その日はそこでおしまい」
「次の日に少し話して、私と楓子は内緒で結婚の準備進めるって事になったのよ」
「そーしたら今度はシエルちゃんでしょ? 智也君、どうなってるの?」
「それに関しては成り行きとか情勢とか諸々ありまして」
あの時は千絵と楓子にそっぽ向かれてると思っていた事もあって、シャルと言うかシェリールと結婚するならついでにシエルと結婚しちゃってもいいや、と軽く自暴自棄になっていた部分もある。
でも、さっき二人が言ったように貴族以上じゃないと一夫多妻が実現できないので、シェリールと結婚して王族の分家扱いになり、王族の直系と言うわけでは無いが誤魔化せる状態にしてしまう必要があった。
ここで、それなら俺があっちに婿に行く案は無かったのかと言うと、人間に王位を明け渡すと宣言した以上、家名も人間の物にしておきたいらしい。
「えっと、それじゃ二人ともちゃんと俺の事を好きでいてくれたって事で……いいんですよね?」
言いながら恥ずかしくて、やっぱり尻すぼみになってしまう。
「正直ね、あんまり考えないようにはしてたのよ。意識すると関係が変わっちゃいそうだから」
「でも意識せざるを得ないもんねー。こうして三人で異世界に来ちゃうと」
「ま、智也の部屋で三人で普通に雑魚寝してた仲じゃない。今更でしょ」
「私はちゃんと智也君の事好きだよ? これでどこかの公爵家に嫁げって言われてたら怒ってたもん」
「怒るって言うか智也諸共、嫁ぎ先も吹き飛ばしてたかもしれないわね」
うーん、嬉しいやら怖いやら、とりあえずホッとはしたけど。
「それよりもよ。シェリールとシエルは智也の事ちゃんと好きなの?」
「ええ」
「好きだよー」
あんまりにもストレートに認めるものだから、『そ、そう……』と千絵がたじろいだ。
「でもシェリールちゃんってそこまで智也君と一緒の時間無かったと思うんだけど……」
「時間なんて関係ないわ」
「そうだけど……」
ハッキリ言われて楓子が言葉に詰まっていた。
時間なんて関係ないとか言いながら、出会いの順番では多分千絵や楓子よりも琴美の方が先だと思う。
「そうなのよね、最初は神託があったからだって言ってた癖に、智也の事好きだって言うじゃない。結局何なのよ」
「元々好きなだけで神託なんて関係ないもの。あんなのおまけよ」
「神託の巫女とか言われてるのにおまけって……」
『元々』とか言っちゃってるけど、うーん、シェリールにあんまり突っ込むと琴美の事があるので、俺としては掘り下げられても面倒だなぁと思ってしまう。
二人は琴美の事を何となく知ってる程度なので、それがまさか異世界転生して目の前にいますと言ってもなぁ。
正直、結婚した以上シャルがシェリールだと言う事を隠し通すのが更に困難にと言うか実質無理だと思うので、あんまり触れずに『実は……シャルなんだ』くらいのニュアンスで行きたいなと画策していた。
多分それならさほど交流の無かったはずなのにと言う部分も理解されるだろう。
だから最後に残るのは俺のロリコン問題、いや俺はロリコンじゃない。だからこそロリコンと呼ばれたり思われたりしたくないのだ。
ぬーん。
「シエルは地脈の件で?」
「ううん、もっと前からだよ。トモヤったら自分が弱い癖に私の心配して色々助けてくれたから、この人だったら信用できるしいいなーって思ってたの。多分止めはあの時だけど……」
「あの時って?」
「えっとね、みんなで買い物に行ったときに、みんなが採寸してる間私達が外にいたでしょ?」
ヤバい。
「その、シエル」
「あ」
そして流れる不穏な空気である。
「智也」
「智也君」
「トモヤ」
名前だけ呼んで見つめられても恥ずかしいじゃないか。あと超怖い。
「そのだな、あの後実はドワーフへの嫌がらせと多分俺の事も気に食わない連中だったと思うんだけど、軽く絡まれてな……」
「私が少しでも手を出したら、私もシェリールも立場が悪くなるからって必死に逃げてくれたの」
「聞いてない」
シェリールがシャルっぽく拗ねてらっしゃいますが、本当にお前隠す気あるのかな。
「まぁ裏に誰か絡んでたかもしれないけど、そこでシェリールが動いて一般市民を取り調べたとなったら別の火種が出来そうだし、この件に関しては許して欲しい」
「むー……仕方ないわね。トモヤが考えなしにやってたわけじゃないならいいわ」
「その時に、やっぱりトモヤ好きーってなったけど、シェリールの婚約者でしょ? だから、結婚した後で私も混ぜてーって行こうと思ってたんだけど、地脈の事もあってすっかりトモヤにいいようにされちゃって、私もうトモヤじゃなきゃ駄目だなーって」
シエルさん言い方がちょっと抽象的過ぎて怪しいです。
「え、えっとだな、とりあえず、みんなちゃんと俺の事が好きで結婚したって事がわかって一安心です」
「仕方ないわね……。でも智也、ちゃんと私達を平等に愛せるの?」
愛するって言われるとドキッとする。
「善処いたします……」
白状するまでも無くちぇりーぼーいな俺がいきなり嫁四人とか、手に余ると言うと贅沢過ぎるのは重々承知なのだけど。
って言うか、シェリールはシャルだから却下、シエルは攻めてきそうだからとりあえず保留、千絵と楓子はなんか今さら畏まって今晩よろしくお願いしますみたいなのは多分無理。
うん、その場の流れに流されよう。
どうせずっと流されて来たんだしいいや。
その後、後日ドワーフ王国でやる披露宴をどうしようかと言う話になり、まずシエルだけ行くのか全員で行くのかを話し合ったのだが、居住区と言えど一日いれば俺の体は毒に侵されるので、楓子がいてくれないとちょっと辛いなと言う事になり、楓子が行くなら全員でとなった。
披露宴のプログラムはどうやら向こうで考えているらしいのだが、事前に知らないと対応できないのでシェリールにドワーフ王国まで行って貰って対応しよう。
国交が始まってすぐに、シャルがシェリールを連れて行った体でシェリールが正式にドワーフ王と会談をしているので、シェリールとして居住区に飛ぶ分には何も不思議は無い。
披露宴用のドレスと言うのも無いので、服装は本番の時と同じ。
そんな風に確認と、向こうの提案以外で自分達がどうしたいかの意見を出してまとめておく。
場所が場所なので多分シェリールへの風当たりは強いだろうし、向こうの屈強なドワーフ戦士達からしたら王に勝ったら貰えたはずの商品を人間がかっさらって行ったので、俺も下手したらすげー恨まれているはずだ。
この世界って胃薬あんのかなぁ、いや魔法でいいのか。楓子にお願いしよう。
「どうしたトモヤ。何か渋い顔をしているが」
「いやさ、結婚当初の事とかを思い出して」
城内を練り歩き、ようやく目的地のバルコニーに到着した。
王城でも高い位置にあるので、ここからだと王都を一望できる。
王都自体も何気に結構な広さなので遠くの方は霞んで見えるが、とは言え巨大国家でも無く四方の公爵領に国民が分散している事もあってギリギリ視界に収まる程度の広さである。
王都に住まう人は大体三万人前後とされているが、公爵家の本家がある四方の街も大体それくらいはいるらしいので、もし四公爵家が王都に侵攻して来たら一瞬で終わるなんて話もあったりする。
それは仮に公爵家が敵に回ったらと度々冗談半分にされる話なのだが、実際そう言った事が起こりえるのかで言うと、四公爵家の関係上どこかが王位に就くと言うのは現状考えられない。
昔の共和国時代は持ち回りで代表を務めて来たらしいが、やはり野心を持つものはいるし王制に切り替わるような事件も起きたので全く考えない人がいないわけでは無いだろうけど、現在の平和且つ実質四公爵家で国を支えている状況が一番バランスがいいとされていた。
ここで新たに火種が起きてどこかが王位に就きますとなったら、むしろ他の三家が潰しにかかるとすら言われている。
なので、今のエルフの治世と同じく、贅沢をせず国家の運営に努めている分には安泰だと言う事になっている。
まぁそんなのがいつまで続くか知らないし、人間に国家運営が移ったら色々起こるとは思っているけど。
「ああ、あのドワーフ王国での披露宴は中々面白いものがあったな」
「面白いねぇ……」
結局シエルと俺が主役となっての披露宴で、他の三人がおまけみたいな扱いになってしまうのは仕方ない部分があったとは思うのだが、それを受けてシエルが怒って担当者が総出で謝罪をすると言う一幕があった。
民は凄くシエルを愛していて、逆にシェリールに対しては物凄く辛辣で、千絵や楓子には一定の祝福を送るが路傍の花程度の扱いである。
ここで難しいのが、事情を知るドワーフ王国上層部はシエルが半ば人質のような物だと解釈していて、逆に普通のドワーフ達は今回の顛末を知らないのでシエルさえ祝えればいいやみたいな感じで、所々に意思疎通の出来ない部分が発生して、当初聞いていた予定と違う事が多発したのだ。
嫁四人で行うとされていた事が全てシエルと俺で行うとか。
事前にシェリールが駆けずり回って問題が無いようにとやっていたのにこれだから、シエルが披露宴中に怒って担当者全員を呼び出し、『私は本妻じゃないのにこれは何なんだ』と至極真っ当な怒り方で担当を凍り付かせていた。
なんか噂によると、そもそもシエルが本妻だと思ってた人のが多いと言うくらいだ。
俺としては四人とも同列のつもりではあるのだが、シェリールが王女と言う立場から、どうしてもシェリールを本妻として据える必要があり、後の三人は側室ではなく第二夫人、第三夫人、第四夫人と言った形になっている。
その場にはベスターとフローラさんも招待されていて、二人とも表向きは友好路線ではあるがそれぞれ思う所もあるので、そう言ったトラブルを実に楽しそうにニコニコと見ていたのである。
特にフローラさんの笑みは何とも幸せそうでした。
その後で二人してドワーフ王に、あの混乱は一体どう言う事だと圧と言う名のちょっかいを掛けに行ったらしい。
「それでベスターは、この後どうするんだ?」
「とりあえずは魔人の森の開発だな。建物の設計に詳しい人間がいたら紹介してほしい」
「それは――多分大丈夫かな? 異世界人の設計士がいるって話だったから」
「後はそうだな、人間に混ざっても問題の無い魔人の選出と教育だろうな。先ほどの貴族側が駄目だと言っても、何人か送り込みたいのだ」
「まぁ俺達も知らなかったって事にすればいいから、中央の仕事に関しては見れないけど普通の人間の暮らしは体験できるんじゃないかな」
「恐らく開発だけでしばらく時間が必要になるので、それが一通り落ち着いたら次を考えよう。まずはこちら側の準備を万全にしなければ話にならん」
「開発って言っても、そっちって豪雪地帯らしいから今の間は出来ないだろ?」
「ああ。なのでドワーフ王国で建材の準備をしてもらっている。雪が解けたら一気に進めるつもりだ」
「そう言えばあったなぁそんなの」
建材と言っても、ドワーフ王国で作られているのは元の世界の現代建築風ではなく、中世ヨーロッパ系の物だ。
それもドワーフの技術をふんだんに使った細工とか入ってるやつ。
他にも壁材や床材の加工もしてはいるだろうけど、街を一から開発するとなったらドワーフ王国で作られる建材だけじゃ圧倒的に足らないと思う。
まぁ魔人の森って木材だけは山ほどあるから、それを使うのが前提ならわからないでも無いが。
「そう言うトモヤはこれからどうするとかあるのか?」
「平穏無事」
「で済むとは思わんのだが」
そうなのだ。
やはり貴族との関わりは山ほどあって、正式に王位に就いたわけでも無いし何なら扱いは分家なのだが、毎日のように面会があって辟易している。
貴族側としてみれば次期国王と目されていた俺が、結婚によって真実味を増した事でコネを作らねばならない。
それも出来るだけ覚えを良くしなければならない。
なので、面会ついでに結婚祝いも含め献上品が山ほど届くのだが、いい加減城の倉庫も圧迫しているし、これが食べ物だった場合は処理が追い付かなくてほとほと困っている。
仕方ないので食材系は寮に料理人のおやっさんを呼んで生徒に盛大に振舞ったり、食品系は王城中央で働く子達や寮内、更には一般兵団と魔法師団の方でも配りまくった。
貴金属や芸術品と言った物に関しては保管はしておくが、それが国宝級の物だったりする事もあるので、将来的にどこかに博物館でも作って寄贈してしまおうかなんて話をしている。
何にしても王城内、と言うか俺に富が集まった所でどうしようも無いし、これで贅沢に慣れて税収で生きるようになったらクーデターを起こされてあっさり政権交代とかになるんじゃと言う恐怖もあり、なんとしても慎ましく生活したいのだ。
結局貴族連中は自分達の最低限の地位の確保と、ちょっとした優遇が欲しいのだ。
シェリールとシエル曰く、『貴族の顔と名前をちゃんと覚えて、会う度にちゃんと名前を呼んで親しいアピールをするだけで最低限はクリアー』らしいので、受験勉強もかくやと言った気持ちで暗記に臨むのである。
「まぁ色々やらなきゃいけない事はあると思うよ。エルフから人間に王位が移るんなら、これまでエルフ
だから戦争を仕掛けてこなかった国も仕掛けてくる可能性がある。と言うか将来的に起こると思ってる。その為に軍と言う形で整備しておかなきゃなとか、各地に防衛拠点を作って、仮に戦争が起きた時に王都まで民衆が逃げて来れるような避難マニュアルを作らないととか」
「それを最初に出すくらいに重要視しているのか?」
「と言うか時間が掛かりそうだから。特に西側は早めに動いておかないと、王位継承のすぐ後にちょっかい出される可能性もあるし」
「まぁそれはそうだろうな」
「なので、この間ドワーフ王国に行ったときに、ロイヤルガードで使ってる装備をこっちにもくれって言っておいた」
「あの王の困った顔が目に浮かぶわ」
シエルの話では、ロイヤルガードの装備はドワーフ王国でも一級品に当たる物らしい。
実際に魔人との戦闘を見てわかったが、魔人の力で攻撃されても凹みやひしゃげはするが、一般的な装備に比べれば遥かに頑丈なのだ。
武器に関しても重量バランスが良くて滅茶苦茶頑丈で切れ味の持続性も高いとかで、杖は世界樹を原料とした物が作れるうちに軍配が上がるが、金属製品に関しては全ての面でドワーフ王国が勝っている。
なお、俺には重すぎて扱えませんでした。
ちなみに長年付き合いのある国に対しても、ロイヤルガードの使う装備類は供給していないとの事。
まぁうちの場合、商売上の取引としてドワーフ王国と国交を結んだわけでは無く、正式に同盟を組婿とになったので、優遇されても他国から文句を言われる筋合いは無いのだ。
なんせ王女が嫁いでるわけだし。
これまでは種族の違いもあって、他所の国家とは深い付き合いは無かったらしい。
勿論商売上、数千年単位で付き合いのある国もあるらしいが、そう言った国ともあくまで商売上の付き合いでしかなく、正式な国交と言う形は今回が初らしかった。
よって、俺は弱味も握ってる事だし最大限利用しようと思っているのである。げへへ。
とは言えシエルが嫁である以上、ドワーフ王のクリストフ・グランドは俺の義父の一人である。
なので礼儀は尽くすし無茶な事を言う気も無いし、将来的に断裂したり争いに発展するような事にはなりたくない。
だからお願いするのだ。
『一年以内にうちの近衛兵団全員分と公爵家の私兵二十人分のフルプレートを』と。
大体五十人と四公爵家に二十人分ずつなので八十人の計百三十人分である。
ドワーフ王にも、『エルフから人間に王位が継承されるに当たり、戦争を仕掛けられる可能性は大いにある。なのでお願いします』と伝えてある。
正直な話、戦争を仕掛けられる可能性は大いにあるが、同時にドワーフ王国と深い仲になった事で、エルフの治世とはまた違う恩恵が生まれるのではと予想もしていた。
つまり、『うちに喧嘩しかける以上、おたくドワーフ王国と取引できなくなるよ?』と言う事である。
特にこの近辺の国々は、鉄製品に関してはドワーフ王国を頼り過ぎていると言っても過言では無い。
それは鉄鉱石の産出と加工の八割以上がドワーフ王国で行われている事にあり、ドワーフ王国もそれを強味に各国と上手くやって来たのだ。
ドワーフ王国自体も地下にあって防衛戦に特化してるのと、居住区から離れると毒が結構しんどいので、その辺りで人間側がドワーフ王国を制圧するのは現実的では無い。
まぁ、だからこそ注意すべきは西の国だけかなと思っているのだが。
でも西側だけ強化した事が知られたら、逆に侵攻してくるんじゃないかと思われても仕方ないので、やるなら全体を強化するのだ。
「ベスターやフローラさんには思うところもあるだろうけど、もうあの人も俺の義理の父だから、程々にしておいてくれるとありがたいんだけどなぁ」
「うむ。決して害する気は無い。まぁ程々に弄るくらいは許してくれ」
多分ベスターが、と言うよりもフローラさんが完全に許して無いからこその言葉だと思う。
しかし、あのクリスタルは実に良く出来ていて、流石の二人もあのアイテム一つでかなりドワーフへの印象を変えたと思う。
当初は小型化が難しいとされていたのだが、むしろ収束一本での運用なら小さい方が収束率が上がるから効率的である事がわかり、魔力を受けて強化されるクリスタルだったので案外簡単に実用化された。
とは言えフローラさんの魔力はいいのだが、ベスターの魔力が膨大過ぎるので、恐らく年一回交換しておいた方が無難ではと言われている。
フローラさんの魔力自体は千絵と比べればむしろ少ない方なのだが、王都に張られているエルフの結界をパスできるほどに抑えられないだけの話で、こちらに関しては数年に一回ペースで一応交換しておいた方がいいかな程度だとか。
そう考えるとエルフの結界と言われている王都を覆う物が優秀である事がわかるのだが、これは単純に魔族の、人やエルフやドワーフと違う波長の魔力に反応すると言う物で、仕組み自体は決して難しいものでは無いらしい。
それをプログラムされた魔法陣が王城地下の地脈の上にある部屋にあり、人に害を及ぼす程度の魔人がわかるようになっているのだとか。
まぁサクラを見ればわかるように、若い魔人で魔力が成長しきってなければ全然入れてしまうようだが、どちらかと言えばそう言った魔人は排除しようと思えば何とかなる範囲なので、フローラさんみたいにヤバいのを感知出来ればそれでいいのだ。
「ベスターの作ろうとしてる魔人の社会って言うのかな、やっぱり王制みたいな感じ?」
「結局魔人は力が全て、強い者に従う傾向が強い。なので頂点を決めて、その者が統治する方が上手くいくと思うのだ」
「じゃあ、名実ともに魔人の王って事か」
「そう言う事だな」
多分この王国なんかよりもよっぽど安定して栄えると思う。
結局貴族が蔓延る以上、利権やら保身やらでがんじがらめになっているので、ある程度で立ち行かない部分が出てきてしまうと思うのだ。
かと言って貴族制度を撤廃できるかと言うと難しく、多分それを提案した時点で俺は刺客に消されると思う。
そう考えると、エルフが治めて来た今までのように、大部分を四公爵家に任せた方が無難なのだ。
まぁ格差社会である以上不満は出るし、そこらへんの調整を考えると頭が痛いのだけど。




